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結婚式

「ランチュウ?」


「いや、ワガママボディって言ってもいいかな」


「なんだいそれ?」


「魅力的ということだよ」


セイはドツボにハマらない内に誤魔化した。



そして当日、ラームの両親達が来たので執事さんに護衛は俺達でするからと他の人達には帰ってもらった。



「こんな船で行くのか?」


リーゼロイ家の当主は鬼達の作った無骨そのものの船を見て不満そうに言う。


「スピードはどの船より速いですよ」


と、荷物を預かり奥さんの手を取って乗せた。オッサンは自分で乗れ。


クラマは飛ばした。それはもう飛ばしたのだ。最終リハーサルが残っているらしく早く戻りたいらしい。


「うおっ 何だこれはっ」


「風の神の加護を受けた船です。しっかり掴まってて下さいね」


あまり波がないのに水面を跳ねる船。クラマにあの漁船を勝手に使わせるのやめておこう。こんな飛ばし方をされたら、残された子供達が買い戻す時まで持たないのは確実だ



「あらぁ、こんな所から入れますのねぇ」


隠れているようなところから入江に入り、オーガ島に到着。


「ようこそオーガ島へ。姉御の親御様」


少し足を開き、中腰で両膝に手を置き頭を下げるスタイルで出迎える鬼達。似合い過ぎているからやめろ。


「さ、お荷物をお預かりいたしやす」


「ご母堂様、お気をつけなすってくんねぇ」


そんなのいつ覚えたのだ?


鬼達にとってラームの母親も美しいらしく、とてもちやほやされて控室に案内されていった。



「オーガ島とはこのようになっているのか」


キョロキョロと見渡すお父さん。


「見知らぬ世界を見るのもいいでしょ。さ、控室にどうぞ。我々も着替えますので」 


鬼達に後は任せてセイも着替えることにしたのであった。


神殿に行くとまだ始まってないけど雅楽の音色が聞こえてくる。さすが九十九神達、とても心地の良い音色だ。


先に着替えて神殿の中に入ると両親も鬼達に案内されて入ってきた。


「セイ様、ここは教会ですの?」


「鬼達の教会ですよ。なかなか趣があっていいでしょ」


「えぇ、素敵です。建築様式も初めて見るものですし、音楽も聞いた事のない音色で素晴らしいわ」


とても感心する奥さん。セイはふと奥さんが身に着けているアクセサリーを見た。


しまったなぁ、奥さんも着飾っているけどアクセサリーはこちらの方が上等そうだけど今更どうしようもない。


お父さんはなんかバッヂみたいなのをたくさん付けた服だから正装してくれたのだろう。



神殿正面の御簾みすの後ろにはウェンディがいるみたいだが大丈夫だろうか?特別料金を払ってまで作ったヒールで何回も足をくじいてキィーーーしてたからな。あれで式の間中立ち続けられるか心配だ。


雅楽の音色が止むとクラマが先導してリタとヒョウエ、ラームが入ってきた。


「かしこみぃ かしこみぃ」


御簾の前でクラマが喋り始めると御簾が上がってウェンディが登場した。


ん?


ウェンディの奴、泣きそうな顔で震えているけど大丈夫か?特にすることをがないはずなのにめっちゃ緊張してんじゃん。


(見るな、いいからこっち見んな)


すがるような目でセイをみるウェンディをしっしっとするセイ。ちゃんと前をむいてろ。


「風の神ウェンディ様」


クラマがそう呼びかける。


「なんだってぇ」


クラマはイラッとしてもう一度言う。


「風の神ウェンディ様」


「とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ」


コントやってんじゃねえぞ・・・


今にも泣き出しそうなウェンディはパニックになっているようだ。昨日からリハーサルしてたよね?


ヒョウエとラームはちゃんと進行していく。


「真心をもって信じ合える伴侶に出会えましたことを心から喜び、良い家庭を築いていきます」


「今後は神の訓えを守り、愛情と信頼をもって助け合い励まし合いながら、明るく温かい家庭を築いていきたいと存じます」


ヒョウエとラームがそう誓うと奥さんは涙を流していた。お父さんもプルプルしてるから泣いているのかもしれない。


玉串奉納ならぬ串肉を奉納するとそれをじっとみるウェンディ。


(よだれ、よだれっ)


「ウェンディ様、何卒なにとぞ幾久いくひさしくお守りください」


「いいわよっ」


(しゃべんなっ)



そして雅楽に合わせたリタの祝いの舞だ。


おー、美しい。祝い用の巫女衣装がとてもよく似合っている。洋風顔でも巫女の舞は良いもんだなぁ。


シャンっ シャンっと鈴を鳴らしながら優雅に舞うリタ。練習を見ずに本番で初めて見て良かったと思う。


そしてなんとか式が終わり宴会場のコウヨウカクへ。


料理は砂婆監修の元鬼達が作ったようだ。鬼達全員参加は無理なので代表者が宴会に参加している。宴会場内の水路にはマーメイ達もスタンバっていた。


「おー、二人共似合ってんじゃん」


人魚のマーメイとマーリンにはタマモから追加のアクセサリーを渡してもらっている。それをちゃんと付けているのだ。


「あっ、当たり前なわけ」

「ありがとうお義兄ちゃん」


微笑みながらお礼を言ってくれるマーリン、照れてそっぽを向いているマーメイ。そこに若い人魚達がやってきてセイに向かって口をパクパクする。おぉ、餌をねだる池の鯉のようだ。


「もうちょっと待っててね、料理は皆んな揃ったら出てくるから」


上手く言葉が理解出来ない若い人魚達はずっとパクパクし続けていた。


食事はビッフェスタイル。好みがあるだろうからと好きな物を好きなだけ食べてもらうことになっている。それに鬼達には細やかな配膳は無理だろ?とタマモのアドバイスがあったからだ。


皆が好きな席に付く前に、ギルマスとグリンディルをリーゼロイ夫妻に紹介しておいた。


「マモンと申します。これは妻のグリンディルです」


「うむ」


ギルマスに対して失礼だなとか思ったけど、貴族が庶民に対する対応はこんなものらしい。奥さんの方はグリンディルが身につけているアクセサリーに釘付けになり、どこで手に入れたかそれとなく聞いている。


「これはセイからのプレゼントです。他の者達もそうだと伺っております」


あっさり俺からの物だとゲロるグリンディル。


そこにリタがドレス姿で登場し、ウェンディもやって来た。皆フルセットのアクセサリーを身に付けている。


目を見張るご主人と奥さん。


「セイ様、これらはどこ・・・」


どこで手に入れたと聞こうとしたときにヒョウエとラームが入場してきた。


ヒョウエは紋付袴のままだが、ラームは真っ白のドレスにきらびやかなダイヤのティアラを含むアクセサリーを付けている。


「おぉ、ラーム。なんと美しい・・・」


ご主人もその姿に目を奪われた。確かに幸せそうなラームはとても綺麗に見えた。


まずはシャンパンで乾杯し宴会がスタートする。


ヒョウエとラームは挨拶に皆の所に回っていく。セイは式神と共に若い人魚達に餌付けしていた。


「セイ、人間も生で魚を食べるわけ?」


「俺達の国では刺身といって、醤油とワサビで食べるんだ」


とマーメイに教える。ウェンディとヘスティアはサビ抜きで食べているのでセイも刺身からいく。


お、ヒラメの刺身旨っ。


「セイ、砂婆には自分で渡しな」


と、べっ甲にネックレスと同じ宝石があしらわれた櫛を砂婆に渡す。


「いつもありがとうね。装飾品より実代品の方がいいってタマモが教えてくれたから」


「セイ、ありがとうよ」


と、涙を浮かべて抱きしめてくれた。砂婆は出会って里に住むことになってからずっと優しい。本当のおばぁちゃんみたいな存在だ。


向こうのテーブルではヒョウエとラームがお父さんお母さん来てくれてありがとうと泣きながら抱き合ってた。良かったねラーム。


一通り落ち着いた所でヒョウエとラーム、リーゼロイ夫妻がセイの所にやってきた。


「セイ、改めて礼を言わせてもらいたい」

「セイ様、本当に何から何までお世話になりましてありがとうございます。セイ様がいらっしゃらなければこの幸せはございませんでした。それにこんな王家でも手に入らないような装飾品まで・・・」


「ラームさんよく似合ってますよ。とても綺麗です。ヒョウエは本当にいい人をお嫁さんにしたと羨ましいですね」


「まぁ」


セイはお世話ではなく本心からそう言っていた。


「セイ殿、今までの数々の無礼をお詫び申し上げる。娘のこんな幸せそうな顔を・・・」


お父さんはそこまでいって声を詰まらせまた泣き出した。


「セイ様。本当にありがとうございます。あの時にセイ様を信じて良かったです」


とお母さんも涙ぐむ。


「自分は少しお手伝いをしましたけど、全てはヒョウエの男気と優しさがもたらしたものです。これからもヒョウエ達を宜しくお願いします」


「セイ、お前・・・」


「良かったなヒョウエ。こうしてご両親と仲良くなれて。時々招待しろよ」


「あぁ、そのつもりだ」


「さ、今日の料理はアネモスではあまり食べられない料理ですから色々と試してみてください。うちの仲間が教えて鬼達が作ったそうですから」


同じテーブルに着くとタマモが色々と盛り合わせて持ってきてくれる。


「どうぞお召し上がり下さいね」


「あ、あぁ、ありがとう・・・」


お父さん、奥さんの前でタマモに見とれないように。


そこにウェンディがやってくる。


ヒョイパクヒョイパク


「お前なぁ、自分で取ってこいよ」


「たくさんあるからいいじゃない」


そしてヘスティアもやってきてここで食べる。君ら・・・



そして少し話をしたあとに、お母さんがラームの装飾をほぅっという感じで眺めた。他にも綺麗な宝石を身に着けているものばかり。


「セイ様、ラームの宝石はセイ様からのプレゼントだと伺いました」


「オーガ島では宝石が手に入りませんからね。ヒョウエからの依頼ですよ」


「ちなみにどちらでこれを?」


「ボッケーノのダンジョン産です。加工もボッケーノの職人ですよ。他の者達のもそうです」


「アネモスではありませんの?」


「アネモスの宝石店とはちょっと色々とありまして。それにボッケーノの宝石店の方がセンスがいいとタマモが教えてくれましてね」


とタマモを指差す。


「タマモさんの髪飾りはどうなってらっしゃるのかしら?」


「これかい?単純に髪に挿すだけさね」


かんざしを取るとアップの髪の毛がファサッと落ちる。その仕草がお父さんにはたまらないようで唾を飲んだ。


「これもボッケーノの?」


「そうさね。あの店はセンスがいいし腕もいいからオススメだよ」


と簪を見せたあとにまたアップにして髪に挿す。お父さんがメロメロだ。


「セイ様、ボッケーノにはよく行かれますの?」


「そうですね。武器、防具、宝石関係は全部ボッケーノの物です。いい職人がいるんですよ。これからも時々行くとは思います」


「その時に私からの依頼を受けて下さるかしら?」


「どんな依頼ですか?」


「その宝石店で私もアクセサリーを新調したいですのよ。ね、あなた宜しいわよね?」


「あ、う、うむ」


「結構な値段しますよ?ウェンディ達の大きめの宝石が数個で金貨500枚とかの仕入れですから商品になったらどれぐらいになるか想像が付きません。皆のは宝石持ち込みで加工してもらったので詳しく値段しらないんですよ」


「まぁ、あの見事な宝石がそれぐらいで手に入りますの?」


それぐらいって・・・


「宝石だけで良ければお分けします。加工はお取引のある宝石店でされてもいいのではないですかね?ご希望の色はありますか?」


「え?」


「ラームのお母さんからの依頼ですし、宝石だけなら別に報酬無くていいですよ。今手持ちの宝石は全部その店に預けてあるので近々ご希望の色のお持ちします」


「報酬がいらない?」


「はい。そんなにたくさん持ってても使い道ありませんし」


「そ、そういう訳には参りません」


「では、魚の消費促進とかして頂けませんか?漁師達が困ってるんですよね。今は不漁ですけどそのうち増えますので。アネモスは魚離れが進んでるみたいなので捕れても消費がないとダメなんです」


「今日のお魚料理はとても美味しいですし、すぐに需要は高まるのではないですか?特にこの甘辛いタレの魚がとても美味しくて」


「あー、これ特別な調味料でしてね数が作れないんですよ」


「あら、そうですの。残念ですわ」


「セイ、刺身は無理だろうから、天ぷらがいいんじゃないかねぇ。これなら受け入れてくれる人が多いだろうさ」


と天ぷらを持ってくる。白身魚の大葉巻の天ぷらとか旨いのだ。


宝石をプレゼントする代わりに、リーゼロイ家の社交会や取引のある料理屋に魚料理を増やすようにしてくれると約束してもらった。


後の事は漁師ギルドと直接やり取りしてもらおう。

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