思わず本音を言ってしまう
「え?これから結婚式までリタがここに住むの?」
「音楽に合わせて完璧に舞えないとダメだからね。仕事が終わってここに来て貰うのが一番さね。毎晩送って行くのも大変だろ?」
「リタは了解したの?」
「二つ返事さね。あと、宴会の時の服を買ってやりな。結婚式の時の衣装は里で作るけど、宴会の時のはここで買わなきゃだめだろ?あの娘がアクセサリーに合わせた服なんて自分で買えると思うかい?」
確かに普段着ならまだしもドレスとかめちゃくちゃ高いよな。
ということでリタの休みの日にタマモと一緒にリタの服を買いに行くことになった。そしてそのまま連れて帰るらしい。
そして、ギルドと屋敷の送り迎えをグリンディルがやってくれるそうで、グリンディルもそれまでここに住むことになるのだそうだ。もう好きにしてくれ。
そして服屋にもグリンディルが来た。
「グリンディルさん、宴会用の服持ってる?」
「一応あるけど、あたしも作ろうかな」
ドレス二人分か。いくらぐらいになるんだろ?まぁ、足りないってことはないだろうけど。
「わたしねー、これ」
君は何を嬉しそうに服を持ってきているのだウェンディ?
「お前にはもう買っただろうが。前にボッケーノで買った服を着てから言えっ」
別にウェンディの服を買うのが嫌なわけではない。買ったのに着ないのが腹立つのだ。前にボッケーノで買った服を着てるの見たことがないからな。バビデのポンチョとブーツは気に入って毎日着て毎回ブーツを脱がす役目をさせられるのは解せぬのだ。
「これにしようかな。高いけど後でマモンに払わせるからいいか」
なるほど。俺が人妻の服を買うのは宜しくないだろうからここは素直にマモンに払ってもらおう。グリンディルが選んだ服は高いからご愁傷様。
グリンディルはオークモードとボン・キュッ・ボンモードの服しかないみたいで、今はなんとかボン・キュッ・ボンモードの服を来ているがパツパツだ。ボン・ボ・ボンくらいだからな。
「セイさん、ここの服って物凄く高いんですけど・・・」
「好きなの選んでくれていいよ。タマモ見てやって」
「リタ、値段は見ずに選びな。あと靴も必要だねぇ。ヒールは履いたことあるかい?」
とタマモがコーディネートモードに入った。まだまだ時間がかかりそうなのでここは任せてギルマスにおしえてもらった冒険者御用達の店に行ってみることに。何か面白い物があるか見たいのだ。
「へぇ、魔法瓶みたいな水筒があるんだ」
店の人に聞くと魔導具らしく、水を冷たいまま保ってくれる代物。冷えるだけの物なら銀貨10枚、浄化機能付なら銀貨50枚。どちらも1リットルぐらい入るみたいだ。これ買おう。テントもここで買えば良かったな。拡張機能付きとかあるじゃん。これが一番性能が良くて一人用テントの大きさで10人入れて金貨2枚。ぬーちゃんが入るならこれも必要だな。ドラゴン討伐の時にあると便利だろう。
ライト関係は不要だな。
あとはアイテムボックスを買うか迷うな。ヒョウタンにいくらでも入るけど毎回ぬーちゃんに頼んでるからな。金貨とか入れておくのにいいか。
一番たくさん入る奴高いな。金貨50枚って5千万円だぞ?でも買っちゃえ。
およそ100万円がコインという異世界の仕組みに金銭感覚が麻痺したセイは爆買いして服屋に戻った。服屋のお支払いは金貨3枚とちょっと。
「ん?ウェンディ、お前ヒール買うの?」
「これでヘスティアより背が高くなるのよ」
ヘスティアのり背が高くなるとかどうでもいい。どんぐりの背比べといか、目くそ鼻くそというか・・・。
「別に買うのはいいけどそのヒール10センチくらいないか?大丈夫か?」
「セイ、これはサイズが合わないから特注になるよ。ほらウェンディ、それ返しな。大きくてダメだったろ?セイが特注でもいいって言ってるから離んすんだよっ」
と、ヒールを取り上げる。特注で良いとか一言も言ってないぞ。タマモもぐったりしてるからウェンディの奴相当しつこかったんだろうな。
特注と特急料金銀貨20枚。これだけで20万円・・・。いや、円に換算するのやめよう。これはコインだ。
「グリンディルさん、取り敢えず一緒に払おうか?」
「大丈夫よ。マモンに払わせるから。サイズ直し入ったからその時に払うわよ」
「セイさん、本当にいいんですか?この服、私の年収より高いんですけど・・・」
「気にしないで。舞も踊ってもらうからそのお礼ということで」
リタは年収を軽く超えるドレス代に喜ぶというより恐縮していた。アクセサリーの値段を知ったら腰を抜かすかもしれない。
「グリンディルさん、アクセサリーはこっちで用意してるからね」
「あら、ほんと?うれしっ。あと名前はディルでいいわよ」
姉御口調はオークモードの時なのかな?今は若い女の子みたいな話し方だ。今いくつなんだろか?いや、本当の年齢は千とかで済まなさそうだからな。想像するだけ無駄だ。
屋敷に戻るとリタは舞の稽古。演奏は誰がするのか?と思ってたら雅楽の九十九神達だった。神とついてるが古い物が妖怪化したものだ。うん、雅楽の音色っていいな。
リタの稽古は見せて貰えない。リタに恥ずかしいからと言われたのだ。
翌日から皆に任せてオーガ島へいき、人間が近くで漁をする旨を伝える。そして人魚たちと海坊主にこの旗を掲げている船は大丈夫だと教えておいた。
「そいつらは島に上陸したりするのか?」
「いや、上陸はするなと言ってある。近々、漁師の責任者をヒョウエに紹介するよ」
「そうだな。敵対しない人間なら付き合いがあったほうがいいかもしれん」
「そうだね。もし嫌じゃなければ交流してもいいかもね」
「俺達は襲われない限り攻撃しないぞ」
「わかってるよ。ただ人間は鬼を知らない。警戒して先に攻撃する可能性があるから鬼を知ってもらうのが先決だろうな」
「俺達を知ってもらうか・・・」
「ま、その一歩が漁師達との繋がりだと思ってくれ。お前達が難破した船を届けてくれたの感謝してたからな。ついでにその船はしばらく使われそうにないみたいだから買っておいた。日頃俺達は使わないからここにおいておく。必要なら勝手に使ってくれていいぞ」
ヒョウエ達への連絡はこれで終わり。
結婚式まであまりウロチョロしないでおこう。面倒事に巻き込まれたら結婚式に出席出来なくなるからな。
その後グリンディルはリタの送り迎え以外はサカキ達とここで飲み食いをしてギルマスの所に戻らないので、ギルマスも毎晩ここに来るというか住んでる状態になった。
朝晩、ギルマスとグリンディルがリタとギルドを往復。なんか親子みたいだな。
セイはぬーちゃんと黒豚と角有り狩りをして宴会用の肉を貯めていく。しかしサカキ達の消費も早い。この時期数が少ないから自重しろ。
結婚式の日が近づくと、またグリンディルのオーク化が進んでいるような気がする。それ本当に魔力過多か?食い過ぎなんじゃなかろうな。毎晩毎晩肉延々と食って飲んでをしているからな。
1月末になったのでボッケーノに移動してアクセサリーの受け取りに行く。店に入るなり。
「申し訳ございませんっ」
「え?間に合ってないの?」
「それは大丈夫でございます。こちらに」
それぞれのケースを開けて中を確認する。
「いい出来だねぇ」
タマモは感心していた。そして自分用の簪を手に取ると髪をアップにして刺した。
「おぉ、なんとお美しい」
それは俺でも解る。タマモの大人の女性らしい美しさが尚上がったのだ。
「セイ、ありがとうね」
「よく似合ってるよタマモ」
「わたしのもっ」
「俺様のもっ」
ウェンディのは結婚式の神としての装飾っぽいから綺麗なんだけども奴が着けるとおままごと感が抜けない。
ヘスティアのは額に付けるようなタイプだから踊り子みたいだな。
「どう?どう?」
「お姫様(ごっこ)みたいだ」
そういうとボッと赤くなって後ろを向くウェンディ。
「ど、どうだよっ?」
「よく似合ってるよ。太陽みたいだね」
「よっ、よせよ」
ちゃんと褒めておかないとイフリートが可愛いがられるからな。
すべての商品を受け取り、先程の詫びはなんだったのか聞いてみる。
「実は、ボッケーノの姫様が当店の品をお気に召されまして」
この通りを通った王家の姫様がショーケースに飾られていたヘスティアセットを見てたいそう気に入り店に入って来たそうだ。通常王家の者が店に来ることはなく、御用達店が持って見せにいくものらしい。
「ヘスティアセットが売れたの?」
「他のピンクゴールドのアクセサリーもお気に召されまして、ヘスティア様のセットをピンクゴールドで作れと言われました」
「良かったじゃん」
「はい。ですが問題は他の宝石店との軋轢でございます。御用達店がここの店だけなぜあのような物を仕入れられるのかおかしいと王家にクレームを入れました。同業が仕入先を聞くのはご法度なのですが、姫様がこのような珍しい物をどこで手に入れた?と興味を持たれまして・・・」
「あー、それで俺の事を話さざるを得なくなったんだね?」
「申し訳ございませんっ」
「仕方がないよ。姫様に聞かれたら言わざるを得ないのはわかるから」
「お怒りになられませんので?」
「仕方がないからいいよ。あとなんか要求された?」
「いえ、要求ではございませんが、姫様からご注文を頂いたセットは献上品になる予定でございます」
「なら、その分仕入れ支払いしなくていいよ」
「え?」
「姫様からお金貰えないんでしょ?俺は売れたら仕入れ代金を支払ってと言ったからね。売れてないからいいよ」
「そ、そんな訳には参りません」
「いいよいいよ。ここも加工賃すら貰えないんだから。気に入ったら取り上げるみたいな事をするんだね王家って」
「取り上げるとはそんなに無礼な言い方を聞かれてはまずいです」
「俺はボッケーノの住民じゃないから平気。それよりあんまり姫様にたかられないうちに次からは支払いするように言いなよ。こういうのは一度甘い顔したら図に乗るから。あんまりしつこくされるならヘスティアにバチ当てて貰うように言うよ」
階級社会をあまり知らないセイは姫様を輩扱いしたのであった。
今回のボッケーノでの用事はこれだけ。ややこしい事に巻き込まれない内にどこにも顔を出さずに帰ったのであった。
結婚式前日になり、タマモ達はオーガ島でリハーサルをする為に先に出発。
今、グリンディルが先日届いた服を試着している。
「マモンどうだい?素敵だろ?」
姉御口調のグリンディル。
ギルマスはなんとも言えない顔をしていた。
「人魚達も出席すると聞いたからさ、わたしも人魚スタイルにしてみたんだよ。あんたこういうの好きだろ?」
「えっ、あぁ、似合ってるよ・・・」
そして赤いマーメイドスタイルのドレスを着たグリンディルに似合うだろ?と聞かれたセイ。
・・・
・・・・
・・・・・・
「うん、ランチュウみたいだね」
と思わず本音を答えたのであった。