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漁師ギルドと和解

翌早朝、暗いうちから起きて身体がコンクリートかと思うぐらい硬直していたセイ。リタに足を乗せられたりして寝られなかったのだ。


下手に屈伸したら折れたりしないだろうな?


ロボットのような動きでアリマ温泉に行き、海水で冷ましたお湯をかけていくと徐々にほぐれてきた。海水をガバガバ入れて足湯にしながらかけ湯でなんとか復活。


戻って来るとぬーちゃんが起きている。


「セイー、もう動いていい?」


「いいよ。ペシペシしてあげて」


リタにペシペシ。

ヘスティアにベシベシ。

ウェンディにベシンベシン。


ぬーちゃんなりの区別なのだろう。


日が登り人魚達はお食事に行き、こちらも砂婆が焼魚の朝定食を作ってくれた。



「ヒョウエ、鬼のお嬢さん。世話になった」


ギルマスはヒョウエとラームにそう挨拶をして皆で帰ることになった。


モーターボート並みに飛ばすクラマ。俺達を送り届けたらまた船を返しに行ってくれるようだ。


「リタ、ギルドには漁師ギルドに行ってから向かうと伝えておいてくれ。グリンディル、リタを送ってやってくれ」


お仕事モードのギルマスはそう指示していた。



ギルマスと一緒に漁師ギルドに向う。


「おう、ロブスタいるか?」


ギルドの人達は俺を見るなり頭を下げた。以前と全然違う対応だ。


そして漁師ギルドのロブスタの部屋に入るといきなり土下座をされた。


「ちょっとちょっと」


「以前はすまなかった。ワシらが全面的に悪かった」


「頭をあげて下さいよ。一体どうしちゃったのさ?」


「ロブスタ、ちゃんと話せ」


「マモン、セイを連れてきてくれた事に感謝する」


3人で座って話をすることに。


「セイ、お前達はこれを読んだか?」


と、目の前に出されたのは日記のようだ。


「いや、俺は見ていないよ」


「そうか。事の顛末と風の件はマモンに聞いた。まさかあの暴風が神の加護だとは思ってもみなかった」


「まぁ、そうかもしれないね。この国の人は暴風被害が酷かったみたいだから」


「あの船を発見した経緯を詳しく教えてくれないか」


と言われたので、第一発見者はオーガ島の住人だと伝えた。


「あそこに人が住んでおるのか?」


「正確には人ではないよ。鬼という種族。皆から見たら異形の者として見えるだろうから魔物と思われるかもしれない。見た目も怖いし力もあってかなり強い。普通の人間だとまず勝ち目はないよ。でも人語も理解するし知能も高い。そして何よりいい奴らなんだ。それを証拠に船は大切な物だからと難破した船をここまで届けに来たんだ」


「なんと・・・」


「そこで魔物と間違われて人間と戦闘になってしまってね、船ごとオーガ島に引き上げたんだ。で、俺がオーガ島に行った時に知り合いになって代わりに返してきてくれと頼まれたんだよ」


「そうだったのか・・・。セイ、良かったらこの日記を読んでやってはくれないか」


そう言われたのでセイは読んだ。


ボロボロボロボロ


涙が止まらないセイ。


「残された家族の人はどうなったの?」


「船の借金はギルドが立て替えた。あとわずかばかりだが生活費も渡している。が、それも限界に来ちまってな」


「魚が取れないから?」


「そうだ。かなり遠くまで行ってなんとか捕れるぐらいだが、この日記にあるように日に日に大きな魔魚が近くに寄って来ている」


人魚達もそう言ってたな。


「それでまともに漁が出来なくなってきている」


自業自得といっちゃそうなんだけど、生活に苦しむ人達を目の当たりにするとなんとも言えない気持ちになるセイ。


「ロブスタ、俺はさっきまでオーガ島にいた」


「え?」


「年越しをオーガ島でしてきたんだ。そこでは魚がたくさん料理として出された」


「なんだとっ?」


「オーガ島の周りは豊かな海に戻っているそうだ。朝日に照らされた海面にたくさん魚が跳ねていたしな」


「セイ、前にオーガ島に近付くなと言っていたな?」


「そう。オーガ島周辺だけウェンディに加護の暴風を吹かせて海をかき混ぜて貰った。お陰でオーガ島の木々は全部なくなって、一旦魔物もいなくなったよ。しばらくは海に吹き飛ばされた木々で埋め尽くされてたけど、それが流されたあとに魚達が戻ってきたんだよ」


「そ、それはこの近海でも同じ事が出来るのか?」


「俺も海だけ出来ると思ってたんだけど、どうしても街にも被害が出そうなんだ。やってみないとわかんないけど、広範囲になるから豪雨をもたらして洪水被害が出るかもしれない」


「そ、それでは・・・」


「街の人達の理解が無いとやれない。またウェンディが恨まれるからね。それに暴風が来ると警告しても誰も信じないだろうから人的被害が出る。それはしたくないんだよ」


「そうか、無理か」


「セイ、ロブスタ達にオーガ島周辺で漁をする許可をやっちゃくれないか?」


「俺が許可するようなものじゃないよ。俺のものじゃないし」


「そうだよな」


「一応、ヒョウエ達に聞いてみるよ。だけどヒョウエ達は人間を警戒してるし、あとあの娘達がね」


「ロブスタ、俺と約束をしろ」


「なんの約束だ?」


「俺が今から命令することを約束するなら俺からもセイに頼んでやる」


「聞ける命令か?」


「お前ら次第だ」


「解った。今の俺達はにっちもさっちもいかんからな。なんでも言ってくれ」


「条件は絶対に人魚に手を出すな」


「は?」


「オーガ島周辺には人魚達がいる。人魚はセイや鬼たち達の仲間だ。もし人魚達が網に掛かったら丁寧にはずしてケガすらさせるな。あと人魚がいることは漁師以外には秘密だ。これを守れ」


「人魚が帰って来ているのか」


「そうだ。俺達はさっきまで人魚達とも飯を食っていた。彼女らは人間を物凄く警戒している。人間に狙われた事があるからだ。もし人魚達に手を出したら神罰が下るぞ」


「漁師で人魚に手を出す馬鹿はおらん。人魚は海の守り神とも、大漁の神とも言われているぐらいだ」


「そうなのか?」


「うちのギルド旗を見てみろ。人魚がいるだろ?」


そう言われて飾ってある旗を見ると確かに人魚がモチーフとなっていた。


「大昔に人魚が狙われた話は聞いた事がある。どこぞの馬鹿貴族がやりやがってな、漁師達と対立して最終的にお取り潰しになったらしい。当時は漁師の立場も強かったってのもあるが」


大昔は肉をより魚をの方がメインだったようで、アネモスの食料事情を大きく担っていたらしい。それが肉食へと変わり、漁師達の立場も弱くなっていったそうだ。


「わかった。人魚を大切にしてくれるなら鬼たちに人間が近くで漁をすることを伝えるよ。でも島に上陸しないでね。魔物に襲われる可能性もあるし、鬼たちに襲撃と間違われる可能性もあるから。あと、その旗を1枚もらえる?鬼たちに渡して、これを掲げている船は敵じゃないと言っておくから」


「わかった。約束する」


「了解。近々ロブスタさんを鬼たちに紹介するよ」


「わかった。宜しく頼む」


「あとさ、あの船は残された家族が使うの?」


「いや、奥さんは操船できねぇし、子供もまだ小さいから無理だ」


「船はどうしてるの?」


「中古で売ることになるが今の状況じゃ買い手はつかんだろうな」


「まだ新しかったよね?」


「あぁ。借金して買った所だったからな」


「新しい船っていくらぐらいするものなの?」


「あの船で金貨30枚って所だ」


「わかった。俺があの船を金貨30枚で買うよ」


「え?」


「仲間が船で釣りしたいみたいだしね。子供達がもし漁師したいとかになったら中古船として買い戻してくれていいよ」


「新しいといったってすでに中古なんだぞ?それを新造船の価格で買うのか?」


「それで奥さん達に少し残る?」


「あ、ああ。すでに払ってあった分があるからな」


「じゃあそれで。これ金貨30枚」


「本当にいいのか?」


「子供達に伝えておいて。買い戻したいなら早くしないとボロ船になるよって。うちの仲間は船の扱いが荒いからね」


「す、すまん。俺達はお前をあんな扱いをしたというのに」


「いや、ウェンディの風を欲してくれたならそれで十分。俺達はそのために働いてるから」


「セイ、こいつらな、あれからずっと教会にお祈りしに行ってるんだぞ」


「えっ?本当?」


「あぁ。漁師達は家族とともに行かせて貰ってる」


「ありがとう。ウェンディが喜ぶよ」


「良かったなロブスタ。早速ご利益があったじゃねぇか」


「本当だな。これからも感謝の祈りを捧げに行かせて貰う」


きっとギルマスが裏で動いてくれていたんだな。ありがたいことだ。


船はしばらく預かって貰い、後日クラマと取りに来ることにしたセイであった。





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