イフリートは物知り
結界を強めて更にメラウスの剣でプスッと刺して痛みを与える。
「引くわー、セイってそんな事をするの?引くわー」
確かにこれは拷問だからな。
「嫌なら見るなよ」
引いてるウェンディを無視して続ける。
「領主の娘がいるはずなんだけどどこだ?」
取り敢えずこれだけは吐かせないといけない。
「誰が言う・・・」
「セイーっ。ここにまだ誰がいるー」
ぬーちゃんが人間の臭いを嗅いで、もう一つの階段を発見。そこの地下室にドレス姿の女の子が眠っていた。
「ぬーちゃんでかした。じゃ、もうお前には用がなくなったわ」
「殺してやるぅ。血を吸うだけでは気が済まん。必ず貴様を殺してやるぅ」
「うるせえっ」
ドゴンっ
サカキは何度も空振りさせられた腹いせにぶん殴った。
痛めつけても吐かなさそうだし、サカキがぶん殴っても死なない。祓うと消滅しそうだけどこいつは持って帰ろう。
「セイ、さっさと祓え」
「いや、持って帰る」
「は?封印で済ますつもりか?」
「いや、ちょっと試してから無理だったら祓うよ。それにギルドに見せて記録を残してもらった方がいい。またバンパイアが出た時の参考になるだろ」
呻くバンパイアをそのままにして他に人間がいないか確かめる。
そしてあと二人棺から発見した。
冒険者達はボーとして動かないのでサカキが闘魂注入していく。
何日か放置するのもなんだし、強い衝撃で魅了から覚ますのだ。
サカキのビンタを食らった冒険者達はそのまま伸びてしまったのでウェンディに治癒の息を掛けてもらった。冒険者と思われる者が14人と領主の娘が一人の計15人。
さすがに領主の娘をビンタするのも気が引けたので起こしていない。
「ヘスティア、来なかったね」
「まだ寝てんじゃねーのか?」
「来てるぜ」
飯を食うのに肉を焼いているとヘスティアが現れた。
「来てたなら手伝えよ」
「うるせぇな。お前らだけで十分だろうが。俺様はちょっと調べごとをしてたんだよっ。セイ、付いてこい。お前の力ならなんとかなるかもしれん」
と、ヘスティアに連れていかれる。みな肉を食ってて付いてきてくれなかった。
外に出て一つの廃墟に連れていくヘスティア。
「何ここ?」
「知らん。が、これを見てくれ」
何やら薄っすらと複雑な模様が描かれた物がある。
「何これ?」
「召喚の魔法陣だ」
「魔法陣?」
「俺様も良くは知らない。大神の知識の一つにこういうのがあった。俺様が本気で燃やしたら消えるかもしれんがそれをしたら辺り一帯が消し炭になるからな」
どうやらある程度燃やすのは試したらしい。
「これ調べてたのか?」
「なんか嫌な感じがしてな。それでイフリートにバンパイアが何か聞きに言ってたんだ」
そうか、ヘスティアより外界に長く居るイフリートの方が詳しいのかもしれん。
「バンパイアは元々この世界の者ではないらしいぞ」
「え?」
「異世界というか魔界の住人だそうだ」
「じゃ、これはその魔界からの出入口ってこと?ヤバいじゃん。なんでこんなのがあるんだよ?」
「これを描いたのは人間だ」
「は?」
「イフリート、来い」
「ハッ」
素晴らしい。ヘスティアが呼んだらこんなにすぐに来れるんだ。
「詳しい話はお前からしろ」
そう言ったヘスティアは肉を食いに行った。
イフリートによるとどうやらヘスティアは途中で聞くのが面倒臭くなったとのこと。それに置いていかれてとても機嫌が悪くて思いっきり八つ当たりされたらしい。
「そりゃ悪かったね。でもヘスティアは瞬間移動で俺の所まで来れるじゃん」
「いや、あの、ウェンディ様はおぶってでも連れて行くくせにと」
「あいつは瞬間移動も出来ないし、置いとくと何やらかすかわからんからな」
「それはそうかもしれませんが、後でご機嫌を取って頂けると有り難く・・・」
「解ったよ。で、話を聞かせてくれるか?」
「ハイ。まだヘスティア様が来られる前の話となります」
随分と昔の話しだな。
「天魔大戦というのがございまして、この世界にやって来た悪魔と大神が戦われたのです」
「悪魔?」
「ハイ。バンパイアは悪魔の一種です。悪魔の中ではかなり下の存在ですが」
「で、天魔大戦ってどうなったの?」
「結果的には大神様がこの世界から退けられました。大神様の力を持ってしても滅ぼしたのではなく追い払っただけなのです」
「悪魔はどうやって来たの?」
「転送ゲートです。大神様は他の世界から転送ゲートを繋げられないようにされましたが、何故か転送ゲートを知っている人間がおり、こうして召喚の魔法陣として開いてしまう事があるそうなのです。これもそのうちの一つです」
「なるほど。で、これはバンパイアしか出て来れないの?」
「こちらは不完全というか力が足りないゲートでしてバンパイアクラスまでしか出入りが不可能なようです。セイ様が捕縛した者以外にもすでにこの世界に放たれている可能性があります」
「この近くになんか見たことがない魔物がいてね、そいつらもそうなの?」
「恐らく。バンパイアが眷属として連れて来たのではと」
「解った。こんなゲートは他にもありそう?」
「あるかもしれませんがなかなか見つける事が出来ません」
「解った。これを祓ってみればいいんだね?」
「はい、このゲートは人間が命に代えて描いた物のようで、セイ様のおっしゃる怨念のようなものです」
「解った。今からやってみるよ」
セイは怨念と言われたので結界を張ってから浄化していく。今回は正式に手印を組み手刀で魔を祓ってから術式を唱えた。
そうすることでスゥッと消えていく転送ゲートの魔法陣。
「お見事にございます。さすがはセイ様」
イフリートがどんどん俺の太鼓持ちになっていく。
「ヘスティアは周りに影響を与えないようにしただけで本当は消せたでしょ?」
「ハイ、中々消えなかったので感情に任せて浄化されそうになりました」
なんだ。イフリートが止めてくれたのか。
「お前、苦労してんな」
「いえ、最近はセイ様に押し付けゲフンゲフン、ご一緒して頂けているので」
今押し付けたと言いかけたなこいつ。
「まぁ、しばらくは一緒にいるけど、アクアとか他の国に行くときはお留守番だからな。他の神がいたら行っちゃダメだなんだろ?」
「いつ頃ですか?」
「春だよ。その前に1月末から2月末くらいの間にボッケーノには行くけど」
「了解致しました。ではヘスティア様を宜しくお願い致します。出来ればおぶってでも・・・」
「解った解った」
そう言うとイフリートは消えて行った。
皆の元に戻るとヘスティアは機嫌良さげに肉を食って酒を飲んでいた。
「終わったのかよ?」
「あぁ。消えたよ」
「そりゃご苦労」
さっきまで機嫌良さげに飲んで食ってしてたのにセイが話しかけるとぶっきらぼうに答えるヘスティア。
「サカキ、俺にもくれ」
ジャっと爪で切ってぽいとよこす。
「アチアチ」
素手で肉を持たすな。持ってしまった物は仕方がないので手掴みで食べる。
「セイ、こいつどうやって持って帰るんだ?」
「他の冒険者達もいるし歩いて帰らないとダメだね。ぬーちゃん、こいつ引きずって帰ることになるけど宜しくね」
「乗せないならいいよー」
翌日、冒険者達が目を覚ましたので何があったか説明して、逆に何があったのかを聞く。
14名中12名がAランクパーティの冒険者。2名が初めに行方不明になった男女だった。
記憶が一番はっきりしている奴の情報では初めの男女と領主の娘は撒き餌みたいなものらしい。それを探しに来た人間を餌として飼うと。
死なない程度に血を飲み、それを探しに来た人間を飼って更に血を飲む。領主の娘をさらったのはより強い人間の血を求めたからだそうだ。
「先行していた冒険者達はどうなったか知ってる?」
「ここにたどり付けてないと思う。俺達が来た時にはいなかったからな」
起きたみんなにも肉と水を与えて帰ることに。
ぬーちゃんにバンパイアを式神の鎖で繋ぎ引きずらせ、セイはあちこちに伝言の式神を飛ばした。
ギルマスのカントにはバンパイア討伐完了報告と被害者救出完了、Aクラスのやつは無事だが先行した冒険者が全滅したこと。他には徒歩で帰るので予定より大幅に戻るのが遅くなるとメッセージを込めた。
帰り道、また幽霊がウェンディに集ってくるので俺が祓うから風を出すなと命令する。今寄ってきている幽霊達は新しいのだ。
「お前の死体はどこにある?」
一人ずつ話を聞いて死体を見付け、目印に何を誰に持って帰って欲しいか聞いてやる。そしてバンパイアは討伐、領主の娘は救出したと教えるとみな成仏していった。
「お前、どうして死んだ奴らがどこにいるのかわかるんだ?」
「みな依頼を達成出来ずに心残りでこの世にとどまってたんだよ。そいつらが教えてくれたから成仏させているだけだ」
「お前、神官みたいだな?」
「そうだな」
ウェンディと領主の娘はぬーちゃんに乗っている。サカキは歩くの面倒臭えとヒョウタンに。出てくる魔物はAランク達が倒していく。サカキたち程じゃないけど鮮やかに倒していくのは素晴らしい。
で、ヘスティアは?というとセイにおんぶしてもらっていた。見える人から見たら取り憑かれているみたいだろうな。
死体を確認して遺品を取り記録を取り終わると背中からヘスティアがその死体を一瞬で燃やし尽くす。その光景はセイが物凄い魔法使いに見えたらしく、晩飯の時に魔法使い達にどんなやり方なのかしつこく聞かれていた。
「セイが人間とヘスティア臭い」
人間臭いのは自分でもわかる。もうずっとみんな風呂に入ってないのだ。そんな魔法使い達に連夜しつこくくっつかれて魔法に付いて追求されている。自分も風呂に入ってないしな。
そして冒険者飯の鍋も食わされた。まっず。
ようやく領主の娘さんが目を覚まし頃にはぬーちゃんも領主の娘臭くなっていた。