バンパイアと対峙
「す、すずちゃん?なんでここにいるの?」
「おい、どうしたんだよセイ?すずって誰だ」
「セイーっ、セイーっしっかりしてー」
ついバンパイアと目を合わせてしまったセイ。
一定時間目を合わせてはいけないという情報は不確かなものであり、一瞬目を合わせただけのセイは魅了されたのだ。
魅了に掛かった者はバンパイアが好きな人に見える魔法であった。幼すぎたセイにとっては恋心とは呼べない物ではあるが、母親に怯えられる前に一番仲良くしていた女の子、それが座敷わらしのすずちゃんだった。
「どうしてるか心配してたんだよ。さよならも言えずに突然いなくなってごめんね」
セイは一緒に遊んでくれていたすずちゃんと突然別れてしまったのがずっと心残りだった。いつか探しに行こうと思っている間に修業にあけくれて月日は過ぎ、この世界に来てしまったのだ。元の世界に戻らないといけないと思っている理由の一つでもある。
「ごめんねすずちゃん」
「それより悪い奴が私を狙ってるの。助けて」
バンパイアはニヤニヤしながらセイにそう言ってサカキ達を指差す。
「あいつらがすずちゃんを狙ってるだと?許さん・・・」
セイはサカキ達を敵と認識して剣を抜く。
「やべぇな。あいつ俺達の事が分かってねぇぞ。鵺っ、さっきの毒を吐け。俺はあいつを殺る」
ぬーちゃんは痺れ毒をセイに向かって吐くがセイはメラウスの剣でそれを振り払う。
「こんのクソ野郎がっ。セイに何しやがったっ」
幸いにもセイは剣に妖力を込めていない。物理攻撃だけで鵺の毒を払っている。しかし鵺の本体には攻撃をしてないところをみると完全に意識を奪われただけじゃなさそうだ。
そうサカキはそう確信しバンパイアに攻撃を仕掛けていった。
「ホホホホッ。そんな攻撃無駄も無駄。何やら人でもなさそうだけど美味しそうな血を持ってるわね貴方」
バンパイアは長い牙を出して笑った。
「ならこいつぁどうだっ」
サカキのパンチやキックは当たったかと思えばそこが霧のようになって空振りをする。そこでサカキはキックをフェイントにして鬼火をぶつけた。
「ギャァァァァっ」
「ザマァみやがれっ」
「なーんて、言ってみたりして」
「こんの野郎っ」
「野郎じゃないわよっ。ほら、どうしたの?鬼さんこちら」
さっと空を飛びサカキをからかうバンパイア。野郎じゃないと言った通りバンパイアは女の姿をしていた。セイが油断して目を合わせてしまったのも相手が女だからかもしれんとサカキは思って殴る蹴る鬼火を繰り返す。
「セイーっ セイーっ」
ぬーちゃんは毒を吐きながらもセイに必死に呼びかける。
「鵺っ、交代しろ。こいつに俺の攻撃は効かん」
サカキは対戦相手をぬーちゃんと交代し、セイと対峙した。
「ようセイ、こうやってやり合うのは修行以来だな」
「お前がすずちゃんをいじめてんのか?」
「いいから掛かって来いよ。あっさりと敵に飲み込まれやがって。修行つけ直してやんぜ」
そう言われたセイはメラウスの剣でスパパパパっとサカキに斬りつける。
「うわっ!鵺には攻撃しやがらなかったくせに俺には手加減なしかよっ」
サカキはセイが自分を攻撃してくるとは思ってなかったのだ。
セイの剣はこんなに速くなってたのかよ、舐めてたぜ。
避けきれなくなったサカキは身体を強化して腕で剣を受け止めようとした。
スパンっ
「ゲッ」
腕を斬り落とされたサカキ。元の世界でセイが使っていた神通丸だと妖力を込めてなければナマクラ刀。てっきりメラウスの剣も同じようなものかと思っていたら腕を斬り落とされた。
「なんつう剣を打ちやがったんだあのビビデの野郎はっ」
落ちた腕を拾って繋げるサカキは逃げるだけになる。セイに攻撃を当てる事は可能。しかし手加減してて当てられるものではない。生身のセイにまともに当てたら死んでしまうかもしれん。それに自分が元の姿に戻ったらそれにつられてセイが妖力を出し始めたらそれこそどうしようもなくなる。
「やっかいだぜまったくよっ」
サカキは鵺の方をみるとバンパイアには毒がほとんど効いていないようだ。鵺も本気の毒をここで出すのはまずいのが分かっているみてぇだし手の打ちようがねぇ。
その時にウェンディがピクピク状態から復活しかけているのが見えた。
しめたっ!
「おい、セイ。ほら犬だ。あのすずってのは偽物だ。こんなところにいるわけねぇだろ。それよりあいつが犬を奪おうとしてやがったぜ」
ウェンディを持ち上げてセイに見せるサカキ。
「お前、こんなとこまで来たら危ないじゃないか」
よしっ掛かった!
「ちょっ ちょっ ちょっ 離してよーっ」
サカキはウェンディの首根っこを摘んでヒョイとセイに渡す。
「お前が奪い返してくれたのか?」
「そうだ。あのすずは偽物だ。お前の犬を奪おうとしてお前を騙してるんだよっ」
「偽物・・・?すずちゃんが?」
「そうだよく見てみろっ」
バンパイアは解けかけている魅了をセイに更にかけようと試みる。
「お前・・・ あの時の・・・」
ウェンディを抱きかかえたセイは記憶から飛んでいるはずの光景がフラッシュバックする。
ウェンディはまだ完全に痺れ毒から完全に回復していないため、全身に力が入らずダランとしていた。それがセイの犬が動かなかった時の記憶と一致した。
「きさまっ・・・」
セイからどんどん妖力が湧いてくる。それを感じ取ったサカキ。
「鵺っ、そこらの冒険者共を咥えて外に出せっ」
サカキとぬーちゃんは冒険者達を担ぎあげその場から救出を行う。サカキはセイの意識を取り戻すためにやったがここまでになるとは思っていなかったのだ。
「サカキ。セイはどうするのっ」
「ウェンディに任せろっ。セイがウェンディを巻き込む訳がねぇ。信じろっ」
サカキとぬーちゃんは気を失っている冒険者達をバケツリレーのようにぽいぽいと階段の上に放り投げていく。
「ちょっと、セイっ。やめてよっ。何するつもりよっ」
ダランとしながらもそう叫ぶウェンディ。
「なんだよぉ、お前生きてるじゃないかぁ」
セイは涙を流してウェンディに頰ずりした。
「ちょっ、やめっ やめっ。しないでっ。私にチューしようとしないでっ」
セイは嬉しさのあまりウェンディにチューしようとする。必死で顔を背けるウェンディ。
「ちっ、魅了が効かなくなるとはね。他の奴らにも効かないし。まだ力が戻りきってないうちにあんな奴らが来るとはツイてないわ」
「お、お前胸(から下)がないじゃないかっ」
セイは半分食われてしまった犬の記憶が戻る。
「誰が胸無しなのよっ」
「許さんっ」
「その娘に胸がないのは私のせいじゃないわよ」
「キィーーーっ」
「じゃ、今度会うときは必ず貴方の血を吸わせてもらうわね」
「逃がすと思ってんのかよ。こいつの胸(から下)をこんな目に合わせやがって」
「こんな目ってどういう意味よーーっ」
バンパイアはさっと霧になりかけた時に
「捕縛」
セイは捕縛の結界術を使った。
「えっ?なんなのよこれ。身体が言うことをきかな・・・」
宙に浮いていたバンパイアは結界の捕縛術に捕われ霧になって逃げる事も出来ずにその場に落ちた。
「ふぅ、ヤバかったぜ。セイの野郎暴走せずに止まりやがった」
「大丈夫か可哀想に胸(から下)がなくなっちゃって」
「誰が可哀想な胸なのよっ」
ようやく痺れ毒が消えたウェンディはセイをグーでいった。
「痛って、何すんだテメーはっ」
「早く降ろしなさいよっ。いつまでわたしの事を抱き締めてんのよっ」
「あれ?犬は?」
キョロキョロとしながらドサっとウェンディを落とすセイ。
「なんで落とすのよーっ」
「お前が離せって言ったじゃん」
「降ろしてって言ったのっ」
ふと見ると異形の者が捕縛にかかって転がっている。
「こいつなに?」
「何ってバンパイアだろうが。どこまで記憶がある?」
ぬーちゃんは猫サイズになってセイに纏わりつくのでヨシヨシしてやる。
「確か声をかけられて、しまったとおもったんだよね」
「それから?」
「すずちゃんがいて」
「そのすずってのがバンパイアだ。お前は魅了って魔法にかかったんだよ」
「そうだったんだ。ぬーちゃんとサカキがすずちゃんをいじめるとか言われたんだよね」
「お前、俺達の事はわかってたのか?」
「なんとなく」
「で、鵺には攻撃せず、俺にはしたわけだ?」
「お前死なないじゃん」
「この野郎・・・」
しかしサカキはセイが妖力を込めた攻撃をして来なかったのはそういうわけかと理解した。
「で、ウェンディの事はどう見えてた?」
「犬」
「キィーーーっ」
「猿かもしれん」
そうセイが言うともっと怒るウェンディ。
セイはサカキに言われて記憶を手繰ったときになんとなく犬がウェンディだとわかって誤魔化した。チューしようとした事も思い出してしまったのだ。
「で、こいつはどうするんだ?祓うのか?」
初めは顔立ちの綺麗なバンパイアだったが、今はすべての能力を抑え込まれ醜悪なコウモリのような顔になっている。
「許さん、許さんぞお前ら。我をこんな目にあわせやがって。我は死なぬ。そのうちまた力を貯めて人間どもの血を吸い尽くしてやる」
「一応聞くけど、反省して二度と悪さしないと誓える?」
「ふざけるなっ」
「セイ、こいつは無理だろ。知能が高くてこれだけ醜悪だと更生する余地は無いと思うぞ」
「そうだね。もう一度聞くけどごめんなさいする気はある?」
「ベッ。人間共に我らを滅ぼせるものかつ」
「分かった。じゃ、今からいくつか質問するら答えてね」
「誰がお前のいうことなどっ。こんな拘束など抜け出して・・・」
セイはぎゅうと捕縛の式神を狭くしていく。
「かっ、ウグッ。や、やめろっ」
「それは神ですら抜け出せない結界なのよ」
と、無い胸を反らせたウェンディ。それ、あんまりお前が自慢することじゃないからな。と、ウェンディに心の中で突っ込みながらバンパイアに拷問をしていくことにした。