頭に過る
毒から回復したウェンディ。
「朝ごはんは?」
「もう終わった。お前が起きてこないからだ」
「お腹すいた お腹すいたっ」
ぬーちゃんの上で暴れるウェンディにぬーちゃんは尻尾でシャーッとすると黙って不貞腐れたウェンディ。
「ヘスティアはどうしたのよっ」
「さぁ、起きたら来るだろ。あいつ俺の居場所わかるみたいだし」
半日ほど掛けて黒い者が飛んでいった方向を駆けていく。一応道が付いているのでそれに沿って飛んでいるのだ。もう随分と長い間使われていないのか獣道みたいになってる道。時々降りてぬーちゃんが臭いを確認すると人が通った臭いが残っているらしい。
少し開けた場所で昼飯にする。
「新しい焚き火をした跡が残ってるからこの道を冒険者達が通ったのは間違いないね」
「知らないわよそんなこと」
お前には言ってない。
「おや、ヘスティアはおらんのか?」
飯を持ってきてくれた砂婆がそう聞く。
「寝て起きてこないから置いてきたんだけどまだ寝てるのかな?」
ガツガツ食ってるウェンディはヘスティアの分まで食った。
ここからは調査を兼ねて下道を駆けることに。所々争ったような跡があるから魔物も出るのだろう。
おっと
なんか見たことがないゴブリンの登場だ。武器まで持ってるから上位種なのかな?
が、無視だ。ぬーちゃんの方がスピードが早い。倒したら何になるかちょっと興味はあるけどそれは後でもいい。
スピードを上げつつヒョイと空中に上がるぬーちゃん。何も言わなくてもわかってくれている。
「セイー、あっちの方が臭いー」
アンデット臭だろうか?なんとなく大きな木が密集していて昼間なのに暗い空気を纏っているような感じがする。
「ぬーちゃん、あの大きな木が集まっている近く降りて」
降りると腐敗臭が漂っているのが俺にも分かる。
「何よここ、臭っいわね」
「敵が来るぞ。お前はこれを羽織ってろ」
ウェンディにマントを着せるとサカキも出てきた。
「サカキ、相手を殴ると手に臭いが染み付くぞ」
「そいつぁ、勘弁だな」
と言いながら石を拾うサカキ。そして茂みにビッと投げた。
ぐぉぉっ
「お、ビンゴだ。来るぜ」
それを皮切りに骨にジャーキみたいな肉がへばり付いた魔物が一斉に襲ってきた。ゾンビと比べて動きが段違いに早いのでグールかもしれない。
「サカキ、物理攻撃では死なないらしいぞ」
「そうか、なら焼いてみるか」
ボンボンボンボンっと鬼火を出して燃やすサカキ。
「おっ、効いちゃいるみてぇだが耐えやがるぜ」
火が効かないのはグールもか。
グールは死にはしないが鬼火で動きが止まった。
「ウェンディ、あれを幽霊だと思って吹き飛ばしてみてくれ。あっちの大きな木の所には人がいるかもしれんからそれは避けろ」
ウェンディに指示をしたあとにセイは式神と護符を用意する。
「喰らえっ、地獄のトルネードっ」
だからなんで地獄なんだよ?
ごウッと竜巻が出てグールを吹き飛ばしたが浄化はされずに物理的に吹っ飛んだだけだ。風を止めるとボタボタと落ちてくる。
「お前、自分の能力を自由に扱えないのか?」
「使えてるわよっ」
嘘だね。幽霊にたかられた時は浄化出来てたじゃないか。
ボタボタ落ちて来たグールをセイが祓うと崩れて死んでいく。良かった。グールには陰陽術が効くようだ。
「サカキ、こいつらは俺がやるわ」
「なら俺と鵺はあっちだな」
グール以外にもさっきのゴブリンや変わったオーク、ミノタウロス、猪かなんかわからない獣の魔物が襲ってくる。アネモスのアイアン達がCランクだったけど、この量の魔物に襲われたら無理だろうな。先行した冒険者は全滅しているかもしれん。
「おいセイ、ゴブリンは死にやがるが他のは復活してきやがるぞ」
「焼いてみて」
と鬼火で焼いてもらうと復活しなかった。色々なタイプがいるみたいだな。
今後の為に種類別で物理攻撃をしてから復活した奴を焼き、それでも復活するやつはセイが祓う。
「全部お前がやりゃいいだろうがよ。いちいち面倒臭ぇ」
「情報収集も依頼の一つなんだよ。聞いてた情報と違うとこもあるから、ちゃんと調べないと」
セイはウェンディを背中に庇い、物理攻撃はぬーちゃん、鬼火はサカキと攻撃方法を分担して討伐していく。わかったのは物理攻撃で死ぬやつしか何かに変わらないという事。所謂アンデットは倒すのにも苦労するし、何も出さないから冒険者にとっては嫌過ぎる相手だな。討伐証明すら取れない。
「もういいだろ?本命の場所に向かうぞ」
セイ達は大きな木が生い茂る場所に向かうと廃墟のような大きな建物があった。ここに来るまでも建物だったのかな?みたいな場所がいくつもあったので大昔は街だったのかもしれない。
ボロいドアを開けて中に入ると意外と原型を保っている建物内部。装飾品も立派な物があるので有力者の建物であったことは間違いないだろう。
「なんかいやがるな」
ぬーちゃんの毛もなんとなく逆だっているような感じだ。
「ちょっとぉっ。なんか気持ち悪いんですけどぉっ」
先に進んでみると上に登る階段と下に降りる階段がある。どちらを先に見るか悩んでるとウェンディがぶつくさ言い出した。
「ここで待ってるか?」
「嫌よっ」
「なら文句を言うな」
ぬぉ〜ん
その時に天井からいくつも幽霊が飛んで来た。いつもなら無視するが話を聞いたら何かわかるかもしれん。
「おい、話を聞いて」
「いやーっ」
ブッホォォオンッ
一瞬にして幽霊に集られそうになったウェンディが建物の天井ごと吹き飛ばしやがった。
「何やってんだテメーはっ。上に生きてる人がいたらどうすんだよっ。それに幽霊に何か情報を聞けたかもしれないのにっ」
「だってぇぇっ」
「だってもへったくれもねぇっ」
「おい、崩れるぞ」
サカキがそう言った瞬間にガラガラっと崩れ落ちてくる。
ヤバいヤバいヤバいっ
セイは慌ててボーッと崩れてくる瓦礫を見ているウェンディを横腹に抱えて外に飛び出る。ぬーちゃんもさっと逃げ、サカキは落ちてくる瓦礫を粉砕しながらセイの後を追った。
「お前は危機管理能力が欠如してんのかっ。いっつもいっつも危ないのをボーッと見てやがって」
崩れてしまった建物の横でウェンディを横腹に抱えたまま怒鳴り付けるセイ。
「いつまで触ってんのよ。スケベ」
ムカっ
抱えた反対の手でペシペシとチョップをかましておいた。
「セイ、どうするよ手掛かり無くなっちまったぞ」
「それより誰か死んでないか?」
もし上に生きた人がいたら殺したのは俺達ということになる。恐る恐る瓦礫の中を捜してみるが死体は無かったのでホッと胸を撫で下ろす。
「セイ、降りる方の階段は無事みてぇだぞ」
セイは崩れませんようにと祈りながら地下へと降りていく。ふと誰に祈ったか気になるがウェンディでないことは確かだ。
「何だこりゃ?」
セイ達が目にしたものは多くの黒い箱。
「多分、棺だね。開けてみようか?」
「嫌よっ。棺って死体が入ってるんでしょ」
「お前に開けろとは言ってない」
セイは一つずつ箱を開けていく。空、空、空・・・。
「わっ」
いくつもの空箱が続いた後に人が入っていて驚くセイ。次も空箱だろうと油断したのだ。
「これ、生きてるよね?」
青白い顔をしてはいるが暖かいし寝息を立てている。格好からすると冒険者だろう。若い女の子だ。
「セイー、こっちにも入ってるよー」
「こいつも当りだ」
次々と当たりを引いていくセイ達。
5体引き当ててたらおもちゃの缶詰を貰えたりしないだろうか?と余計な事が頭によぎるセイ。頭を振ってそのイメージを取り去った。
「この人達は帰って来てない冒険者達かもしれないね」
ほっぺたをぺしぺしと叩いてもゆさっぶっても起きない。
「どうするよ?」
「何してもウェンディみたいに起きないしねぇ」
「わたしは起きるわよっ」
嘘を付くな。
と、その時に何をしても起きなかった人達が一斉にムクッと起き上がった。
「大丈夫か・・・?うわっ」
起きたかと思ったらいきなり攻撃してきた。
「待て待て待て待てっ。俺たちはお前らを救出に・・・」
まるでこちらの話は聞こえてないみたいだ。しかも目の光が・・・
起き上がった者達の目に光は無く、自分の意志で動いているようには見えない。
「セイ、コイツら殺っちまっていいのか?」
「ダメだ。気絶するぐらいで頼むっ」
そうサカキに伝えると腹をボンッと殴る。本当に手加減してんのかテメーは?
ドカッとふっ飛ばされた冒険者であろう人。が、また立ち上がってくる。
「タフだなお前」
ぐるぐると腕を回すサカキ。
「待てサカキ。それ以上攻撃すんな」
通常なら死んでもおかしくないほどのサカキの腹パンを食らって立ち上がれる訳がない。
「じゃ、どうすんだよ?」
「ぬーちゃん、死なない程度に麻痺毒を吐いてっ」
ハァーーーーっ
ぬーちゃんはしびれ毒の息を吐いた。セイとサカキは口を抑えてその息を吸わないようにした。
ドサドサと倒れていく冒険者であろう人達。
そしてウェンディ。
「だからボーッと見てんなと注意したんだよっ」
ピクピクと倒れているウェンディに叱るセイ。
まぁ、耐性あるだろうから大丈夫だろ。
「おや、何やら騒がしいと思えばここまで自力で来れる人がいるとは驚きですわね。わざわざ来て下さるとはありがたいですこと」
倒れたウェンディを見ている時に声をかけられそっちを見たセイ。
「バンパイアとは目を合わせたらいかんのじゃ」
「どんな強いやつらでもダメな時があるからな」
しまった・・・。セイは意識が何処かに持って行かれながらビビデとカントの忠告が薄っすらと頭を過ぎったのだった。
「セイっ、おいセイッ」
「セイーっ」