ギルマスにはお見通し
それを見計らったギルマスはもう一度シチューとパンを持ってくる。しかも2セット。食べたりなかったのだろうか?
「その首の使い魔の分とお前の分だ」
「え?」
ぬーちゃんのはわかる。
「俺の分?」
「お前、食ってないだろ?何がそこにいる?」
「バレてたの?」
「違和感ありまくりだ。お前の口に入る前に消えてたからな」
「凄いね。初めて気付かれたよ」
「ギルマスをバカにすんなよ。それぐらい気付くわ」
「ここにヘスティアがいるんだよ」
「ヘスティア?ヘスティア・・・。まさか火の神様ヘスティア様か?」
「そう。そしてこいつは風の神様ゴニョゴニョウェンディ」
「何だとっ」
「ウェンディは訳あって力が落ちてて皆に見えるけどヘスティアは見えないんだ」
「本当の話か?」
「俺達のパーティ名見ただろ?俺達はウェンディの加護を受けたパーティでね、こいつの力を取り戻す手伝いをしてるんだ。ヘスティアは遊びに来ているだけ」
「それでファインの奴がお前達を寄越したのか」
「ファイン?」
「王都のギルマスだ」
あの人ファインというのか。
「紹介状に何も聞かずセイに任せておけと書いてあったから何があるかと思いきやそんな信じられんことだったのか」
「今回、フルメンバーじゃないからまずは様子を見るだけのつもりだけどね。倒せなさそうなら一旦アネモスに帰って皆で来るよ」
「あとはどんな奴がいるんだ?」
「いま来てるのは・・・、サカキ出て来いよ」
「まだ早ぇだろうが」
「うわっ」
「こいつはサカキ。同じメンバーだよ。あとクラマとタマモがいるんだけどその二人はアネモスに残ってる」
ヒョウタンを見せて、これは他の国と繋がっていると説明すると勝手に神具だと思ってくれた。
「まさか、サカキとぬーちゃんは神獣か?」
「俺様を魔物扱いしやがるとはよ。まぁ、似たようなもんだがウェンディとは関係ねぇ」
「アンタ達はセイの下僕なんだから私の下僕同然でしょっ」
いらぬ事を言ったウェンディはサカキチョップを食らって悶絶する。
「ぬーちゃんも普通の大きさに戻っていいよ」
「はーい」
「ぬおっ」
この世界のギルマスはみなリアクションが素晴らしい。
そこへ奥さんが戻って来た。
「あらあらあら、お客様はもっといらしたのね。お食事出さなきゃ」
動じない奥さんだな。
「いや、もうお構いなく。サカキとぬーちゃんは肉の方がいいだろ?」
「おう、黒豚持ってくるわ」
と、サカキはヒョウタンから黒豚を持って来て鬼火で焼き出す。そんな強火で焼くから部屋の中煙だらけだろうが。
サカキは爪でシャシャっと焼けた所をスライスして空いたシチュー皿にのせていく。お前らも食うだろ?との優しさだ。残りをぬーちゃんと分けて引きちぎって食ってた。
「まぁ、美味しそう」
その様子をパクパク口を開けて見ているギルマスに比べて本当に動じない奥さんだ。
そしてサカキはドワーフの酒を飲む。
「飲むか?」
「あらぁ、いいのかしら?」
「これ、ドワーフの酒だから物凄く強いみたいですよ。大丈夫ですか?」
「そんな珍しいお酒なの?嬉しいわぁ」
何事にも動じない。アンタ素敵だよ奥さん。
ウェンディとヘスティア用に水を貰って薄めるが、ギルマスと奥さんはそのまま飲むらしい。
セイはギルマスが出してくれたシチューとパンを二人分頂いた。
「本当に強ぇ酒だなこいつ。酔っちまう前に今回の事を話しておくか」
「そうしてくれると助かるよ」
サカキ達はクピクピと飲んで平気な奥さんと楽しそうに飲んでるから先に話を聞いておく。
「初めは街の若い女と男が行方不明になってな。駆け落ちか?とか言われてたんだよ。だが行方不明になった奴らに接点がなかった事から調査依頼が来た」
「それで?」
「何もわからないうちに領主の娘がいなくなりやがった。部屋に寝ていたはずの娘が突然消えて大騒ぎになったみたいだ」
「そりゃ騒ぎになるね」
「そこで出て来たのが目撃証言だ。領主の娘がいなくなった時に黒い塊が空を飛んでと言う話でな、飛んで行った方角へ冒険者を派遣した」
「で、帰って来なかったわけね」
「そうだ。その後にAの奴らにギルドから指名依頼をかけたがそいつらも帰って来ねぇ」
「それで王都に応援要請を出した訳だ」
「そうだ。状況から考えるとバンパイアが一番怪しい。大昔に倒されたはずなんだがな」
「バンパイアってアンデットと聞いてるけど?倒されたの?」
「記述では力を持った聖魔法使いのいる英雄パーティが倒したとはなっているんだが本当に倒したのかどうかまではわからん」
元の世界でもそうだったな。歴史書が正しいとは限らないのはここも同じだろう。
「今、そこまで聖魔法の使い手がいるパーティはおらんのだ」
「聖魔法って何?」
「アンデットを浄化する魔法だ。バンパイアにはそれが一番効くと言われている」
「火魔法とかは?」
「あまり効かないかもしれん。今回派遣したパーティには火魔法の使い手もいたからな」
「浄化か・・・」
あのゾンビ達には陰陽術が効いたけどバンパイアにも効くかな?
「グールってのは?」
「それは剣とかとの物理攻撃が効く。物凄く強くて早いゾンビだと思えばいい」
って事はグールも臭いんだろうな。
陰陽術が効かなくても浄化の風だと効く可能性が高い。ウェンディが意図して浄化の風を出せたらいいんだけどな。やっぱりクラマを連れて来た方がいいかな?
酒飲んで変な舞を踊ってるウェンディを見てそう思う。
ヘスティアも来てくれるなら焼き尽くせるだろうし、クラマ抜きでやってみるか。
「依頼内容を確認しておくけど、優先順位は領主の娘の救出、次に行方不明者の救出、冒険者達の救出、最後にバンパイア討伐の順でいい?」
「それで構わん。冒険者達は一番最後で構わんし、無理なら見捨てて構わん。アイツらは被害者じゃねーからな」
ギルマスのカントは唇を噛みながらそう言った。
「まぁ、やれるだけ今回やってみるよ。ダメだったら仕切り直すから」
「それでも構わん。もし無理そうなら情報だけでも持って帰ってくれ」
「了解」
人様の家で盛り上がるサカキ達。動じず楽しそうにドワーフの酒を飲む奥さん。ヘスティアの事も見えてるんじゃないかと思うぐらい馴染んでいる。人は見かけによらないものだ。
翌朝、案の定起きて来ないウェンディとヘスティア。
「あらあら、お寝坊さんかしら?」
結構飲んでたと思うけどケロッと朝ごはんを作ってくれた奥さん。二日酔いのギルマス。実に面白い。
「にーちゃん達は今日は仕事か?」
「そうだよ。敵をやっつけに行くんだ」
「つおいてきー?」
「そうだろうねぇ。でもお兄ちゃん達も強いんだよ」
「俺ももう少ししたら冒険者になるんだ」
「やめろ。冒険者なんてろくなもんじゃねぇからな。ちゃんと勉強して普通の仕事をしろ」
確かに冒険者になるには銀貨1枚あれば誰でもなれるみたいだからな。この世界には生活保障制度とかなさそうだし、稼げない冒険者の老後は不安定だろう。
「父ちゃんも冒険者じゃないか」
「だから言ってるんだ。冒険者として成功するやつはそうはおらん」
「ギルマスは少ない成功者の一人だよね?こんな可愛い奥さん貰って子供もいるんだから」
「あらぁっ。可愛いいなんてっ」
ドスっ
ぐふっ
強い、この奥さん強いぞ。まさか元精霊じゃないだろうな?
「俺は運が良かっただけだ。お前らも自分達の力を過信するんじゃねーぞ。どんなに強い奴らでもダメな時があるからな」
「わかってる。まぁ、俺以外は死なないから安心して」
「馬鹿野郎。仲間を失う奴の気持ちも理解しやがれ」
少し冗談めいてそう行ったら叱られてしまった。今のは俺が悪かった。
「ごめん、気を付けるよ」
「おう、無理なら本当にすぐに引けよ。そんときゃまた他の対策を考えるからよ」
恐らく対策なんてないから応援要請を出しただろうに。
「ありがとうね。そう言って貰えたら気が楽だよ」
「おう、気を付けていけよ」
ぬーちゃんが普通サイズに戻ると驚きながらも喜ぶ子供達。
「すっげー、かっこいい!」
「へんなしっぽー」
あっ
妹のラーラがぬーちゃんの尻尾を掴んだ。
しかし、ぬーちゃんは我慢した。
「ぬーちゃん、偉いね」
「早く離してー」
「ラーラ、ぬーちゃんは尻尾触られるの嫌いだから離してあげてね」
「はーい」
お寝坊さんしていたウェンディがやっと起きてきてその様子を見ていた。
「なんでよーっ。わたしが触ったら噛むのにーっ」
カプ
朝っぱらから騒ぐウェンディをぬーちゃんは噛んだ。ラーラに我慢したストレスをウェンディで発散したのだ。
「お、おい。泡拭いて倒れたぞ」
「ぬーちゃんの尻尾は毒蛇でね。ウェンディは耐性あるから大丈夫だよ」
ぬーちゃんはまた尻尾で噛んで背中に乗せたので出発することに。
「じゃ、戻って来たらギルドに行きますね。奥さん、お騒がせしてすみませんでした。あとごちそうさまでした。シチュー美味しかったです」
「こちらこそ。また来て下さいねぇ」
子供達にも手を振って出発したセイであった。