領主街のギルドへ
朝飯を食いながらビビデ達にバンパイアとグールの事を何か知っているか聞いてみる。
「バンパイアか。奴らは魔物でもなく、人でもない特殊な奴らだ。アンデットと一括りにされておるが別物じゃな」
「ヘスティアはなんか知ってる?」
「いや、知らねぇな。そんなに細かく外界の事を見てねぇからな」
そうだよな。
ウェンディには聞かない。知ってる訳がないからな。マモンかグリンディルなら何か知ってるかもしれないな。
そう思ってると
「バンパイアってね、血を吸うのよ」
ウェンディが無い胸をそらして誇らしげに言う。
あんたそれボッケーノのギルマスから聞いた話だよね?
「何だ、蚊みてぇな奴らだな」
違うぞサカキ。
「攻撃は見てみないとわかんないけど、チャームって魔法を使うらしいんだよね。なんか防ぐ方法ある?」
「チャームは一定時間目と目を合せる必要があるんじゃ。じゃからバンパイアとは目を合わしてはいかんのじゃ」
それは難しいな。不意打ちを食らわせることが出来たら可能だけど、対峙したときに目をそらしたりつぶったりしたら命取りだ。
「なら、目を閉じて戦えばいいんだな。楽勝じゃねーか」
確かにサカキは寝ながらイワトカゲとか倒してたな。
「もしチャームに掛かったら解く方法ある?」
「何日か経つか強い衝撃を与えれば解けると聞いた事がある。より強く掛かっていれば解けるのに時間がかかったりするらしいがな」
ビビデ達はさすが亀の甲より年の功だな。よく知ってるわ。
「わかった。ありがとうね。今日、そこの調査に行ってみるよ」
「おいっ、俺様の指輪とイヤリングどうすんだよっ」
また我がまま発動かよ。
「わかったよ。先に宝石屋に寄るよ」
ということで宝石屋の開店を待って中に入る。
「どうされました?」
「これのお揃いの指輪とイヤリングってあるかな?あれば買いたいんだけど」
黄色のネックレス渡して確認してもらう。
「申し訳ございません。こちらも貴重な宝石でございまして入手困難な物でございますから」
「黄色の宝石のアクセサリーが色々あるけどまた違うの?」
「こちらはイエローダイヤモンドと申しまして、色の薄いものはそうでもないのですが、これほど発色が良い物は見たことがないぐらいです。おそらく当店では手に入らないかと・・・」
そんな特殊な奴なのか。
「ヘスティア、同じのないみたいだから似たのでいいか?」
「ヤダ」
本当に我がままだなぁ。
「ちょっと探して来ます」
「は?」
「もしかしたら手に入るかもしれないので」
キョトン顔の宝石屋。セイ達はすぐさまダンジョンに向かった。
「やっぱり閉じてるな」
なんとなくビクビクしている気がする。
「今日はお願いがあって来たんだけど、これと同じ奴を分けてくんない?小さめのを3つくらいでいいんだけど。その代わりといっちゃなんだけどこれあげるから」
と、ノーマルオークの肉の塊をドンドンと出した。
ざらざらざらざら
「こんなにいいっていいって」
要求した以上に宝石を出したダンジョン。しかも黄色だけでなく色とりどりだ。
「もう少し小さいの。これぐらいのが欲しいんだよ」
ざらざらざらざら
だからこんなにいらんっ。
お礼に肉の塊をぽいぽいと入れていき、宝石を返そうと思ったら口を閉じた。
「返さなくていいってこと?」
入り口が少しパクパクする。
「わかった。ありがたく貰っておく。今度来るときはもっと肉とか持ってきてやるからな」
そう言うと入り口を開けたダンジョン。まさかダンジョンと意思疎通が出来るとは思わなかった。これはアネモスのダンジョンとも意思疎通が出来るかもしれん。
宝石店に戻り、黄色の小さな宝石を渡して加工してもらう事に。
「ど、どこでこれを・・・」
「ダンジョンなんだけどね。他にもあるからいる?」
ざらざらと見せるとフリーズする宝石店の人。
「む、無理でございます。昨日お預かりした宝石の資金調達で手一杯でございます」
そう言ってとても悔しそうな顔をする。
「じゃ、加工賃としてこれあげる」
と、一つの宝石を手渡した。一番食い入るように見ていた透明で大きな奴だ。
「は?」
「支払いはお金の方がいい?」
「こんな貴重な宝石を加工賃に頂く訳には参りません」
「いや、色々教えてくれたし親切にしてもらったからお礼も兼ねてね。残りのも取っておくから資金貯めておいてね」
「ハハァッ」
いや、ひれ伏さないで。ビー玉あげるみたいな感覚だから。
指のサイズはどうしようか。ヘスティアのサイズを見てもらおうにも宝石店の人には見えてないからな。
「ウェンディ、ヘスティア。手を出して」
と二人の指をにぎにぎして違いを確かめる。ややヘスティアの方が太いか。それでも細いけど。
「指輪は一回り大きめにしてもらえるかな?」
「かしこまりましたっ」
これでここの用事は終わったので領主街のギルドへと向かった。
ぬーちゃんで空を駆ける事半日。そこそこの距離だな。到着した街は王都ほど大きくはないが十分大きな街だ。ここも外壁があるから並ぶの面倒だよな・・・
こそっと空から入ってズルをする。
歩いている人に冒険者ギルドの場所を聞いて探した。
「スイマセン」
「依頼ですか?」
「いや、ボッケーノ王都ギルドから派遣されてきたんですけど」
と、ギルマスからの紹介状と冒険者証を渡す。
「お、お待ち下さい」
紹介状を読んだ受付嬢は慌てて走って行き、そしてこちらへどうぞと案内された。
「今回の依頼を受けてくれるそうだな?女と二人だけで大丈夫か?それにお前アネモスの冒険者だろ?」
今のぬーちゃんは猫サイズ、サカキはひょうたんの中だ。
「別件でボッケーノに来ていたら拉致されて無理矢理押し付けられたんですよ。不要なら帰りますけど」
「いや、そういう意味で取るな。今回の依頼はかなり危険でな。本来Aランク指定案件なんだ。2組Aの奴らを送ったが誰も帰って来ねぇ」
「らしいですね。だから離れた王都ギルドに応援依頼が来たと聞いてます」
「応援依頼を出したのはつい先日だ。えらく早く来てくれたがどうやって来た?早馬でもこんなに早く来れんだろ?」
「この首に巻き付いてるのはぬーちゃんという仲間でして、本当はもっと大きいんです。大きくなれば空を駆ける事が出来ますので王都からここまで半日ですよ」
「そいつは凄ぇな。それにその装備と嬢ちゃんが身に付けてる宝石もすげぇ。本当にCランクか?」
「Cランクなら大抵の依頼が受けられると聞いたのでランクはこれで十分です」
ギルマスはもう一度冒険者証と紹介状をマジマジと見る。
「俺はカントという。今日はもう日が暮れるからちょっと付き合え」
「どこに?」
「家で飯を食いながら話そう。色々と聞きたい」
ということでギルマスのカントの家に連れて行かれた。結構大きな家で奥さんと子供達がいた。
「おい、客人を連れて来た。飯を頼む」
「あらぁ若いお客様ねぇ、ようこそ我が家へ」
出迎えてくれたのはおっとりした感じの髪の毛ふわふわの可愛らしい奥さんだ。よくこんなイカツイ人の奥さんになったな。
「突然すいません、俺はセイと言います。こいつはウェンディです」
「ご夫婦?」
「違いますよ。パーティメンバーです」
「あらぁ、そうだったの。指輪をしてるからてっきりそうかとぉ。婚約者?」
「違います」
だからその指にはめんなと言ったのだ。
会う人、会う人がウェンディを嫁か?と聞いてくるのだ。解せぬ。
「にーちゃん誰だ?」
10歳くらいの男の子ともう少し幼い妹だ。良かったねお父さんに似なくて。二人共お母さん似で可愛らしい。
「俺はアネモスの冒険者のセイだよ。こっちはウェンディ。僕たちの名前は?」
「ケビン。こいつは妹のラーラ」
「かっこいい名前と可愛い名前だね」
「真っ黒の服を着てるからバンパイアかと思ったぜ」
小粋なジョークを言う子供だな。
「これワイバーンの皮で造って貰った防具なんだよ」
「ワイバーンの?すっげぇ」国ですが出る!
「だろ?軽くて丈夫なんだぜ?」
「こら、先に席について貰え。すまんなウチの子らが」
「いえいえ、奥様似でとても可愛らしいですよ」
「あらぁ、若いのにお口が上手ねぇ。さ、さ、座って座って」
仕事の話は後にして先にご飯をご馳走になることに。シチューとパン、それにワインだ。俺は子供達と同じくジュースにしてもらった。
「おい、俺様の分はどうなるんだよ?」
ヘスティアが拗ねている。どうするか・・・
(膝に座れ。俺のをやるから)
(ワインは?)
(ジュースで我慢しろ)
(チェッ)
ヘスティア、君は小声で話す必要はないんだぞ?
ヘスティアを膝の上におっちんさせ、自分は食べるふりをしてヘスティアが食べる。
「あっつうっ!」
あ、忘れてた。
子供達と同じようにフーフーしてから食べるふりをする。
「お前、子供みたいだな?猫舌か?」
「まぁ、そんな所です」
結局、ほとんど食べられなかったセイ。ぬーちゃんも首に巻き付いたままだから食べていない。
奥さんや子供達とアネモスはこんな所だよとかたわいも無い話をして夕食は終わり。
「ほら、ごちそうさましたら寝に行きましょ」
と奥さんが子供達を寝室に連れていったのであった。