降格させられた理由
「どうした?この国って風の神を信仰してる国なんでしょ?」
「そりゃそうだが・・・」
「なんかあったの?」
「こっちの世界の事はどこまで知ってるんだ?」
「全く知らない。来たばっかりだし、いきなり連れて来られたし」
「こっちはな、様々な国がそれぞれ魔物から守ってくれている神様を信仰してるんだ。信仰されてるのは大きく分けると4柱の神様だな」
「4柱?」
「この国はアネモス国/風の神様ウェンディの加護を受けた国だ。他はボッケーノ国/火の神様ヘスティア、アクア国/水の神様アーパス、ガイア国/土の神様テルウス。加護を受けていると言われている大国と呼ばれるのはこのあたりだ。他にも国はたくさんるが大体この4つの神様の誰かを信仰しているんだ。神を信仰しない神無し国もあって、いま信仰を辞めたアネモスも神無し国ってとこだな。それと魔族の国は魔神というのがいるらしい」
「神無し国?」
「あぁ。神の加護が無い分武力を高めてる帝国とかだな。そういう神無し国が戦争をおこしやがるんだ」
「へぇ。あと魔族って?魔物の親分?」
「いや、魔物は魔物だ。魔族は人間の中の種族の一つだな」
「種族って何?」
「この世界には人族、魔族、エルフ族、獣人族とか色々いるぞ」
「それは見ただけでわかる?」
「だいたいな。街の中は見て回ってないのか?」
「まだ良く見てないや」
「そっか、まぁ、人族が圧倒的に多いがそのうち出くわすだろ」
「へぇ、俺のいた世界と全く違うわ。で、話を戻すけどウェンディへの信仰を集めるのは大変なの?」
「まぁ、この国が強い魔物に襲われた事はないから加護があったのはたしかになんだろうが・・・」
「何か問題が?」
「今までの歴史上、魔物にやられるより風の被害の方が多いんだ。暴風で家やらなんやらめちゃくちゃになることが多くてな。この街の建物は全部石造りだろ」
「風対策ってこと?」
「あまりにも風の被害が多いから木造から石作りに変わっていったんだ。それでも窓やら屋根やらが吹き飛ばされたりとかが続いてな、その度に風の神様への恨みが募っていったんだ」
ウェンディの大雑把な性格みてたらなんとなく想像つくわ。それで信仰心が減って降格させられたのか。
「それで誰も教会にお祈りしにいかなくなったらピタっと暴風が収まったから余計にだな」
「どうすれば信仰心が戻るかな?」
「風の神様の加護を感じてもらうしかねぇだろうな。実はちょっと嫌な予感がしてんだ」
「嫌な予感?」
「あぁ。暴風が吹かなくなってから魔物の数が増えてんだ。今の所は冒険者共の仕事が増えて喜んでるやつもいるがそのうちとんでもねぇ化物クラスの魔物が街を襲ってくるんじゃねぇかと思ってたんだ。お前の話を聞いてそれがますます強くなった」
「ウェンディが見習いになって加護が無くなったってこと?」
「だろうな。もしかしたらあの暴風は魔物避けのものだったのかもしれん」
まだ気絶しているウェンディを見てギルマスはそう言った。
「じゃあそれを説明したら信仰心が戻るんじゃない?」
「いや、人の感情なんていい加減なものだからな。化物にぐちゃぐちゃに襲われて初めてこの話を信じるだろうよ。そん時ゃ手遅れだ」
「そうかもね」
セイは人が神頼みをするときの事を思い返していた。日頃は神に感謝なんてすることはないが、何か成し遂げたい時やピンチの時だけ神に頼み事をするのだ。
「だからよ、お前らは風の神様の加護を受けた冒険者として活躍しろ。噂は俺が流してやる」
「ウェンディはすでに自分が風の神様だって言いまくってるぞ」
「それについては大丈夫だ。可哀想な娘だと噂に足しておいてやる」
ひでぇ噂だな。
コンコンっ
「ギルマス、数え終わりました」
リタが書類を持ってやってきた。魔石の数を数え終わったらしい。
書類を見てゴニョゴニョとリタに指示するギルマス。
「お前、借金あったんだってな。今日の報酬でチャラにしてやる。巣の情報料と討伐報酬込でな」
「えっ?マジで」
「ああ、十分な働きだ。ギルマス権限でランクもCに上げといてやるからほとんどの依頼受けられるぞ」
「そいつは助かるよ。安宿がボロっちくてさ。風呂付きの家とか借りれるかな?」
「風呂付きの家か。そいつはちと高いぞ」
「どれぐらい?」
「月に銀貨50枚からだろうな。ま、信仰心を集めながらせいぜい稼いでくれや。今日の飯は俺が奢ってやるから下に行くか」
ペシペシとウェンディを起こして下の飯屋に行くとすでにサカキ達が飲んでいた。いつの間にひょうたんから出てたんだ?
「セイ、話は終わったのか?」
「もうこんなに飲んだのかよ?」
「酒は飲むもんだろうが」
サカキがガバガバ飲む横でガーハッハッハと上機嫌なクラマ。どうやら今日のゴブリン討伐の話がすでに冒険者達に広まったらしく、他の冒険者達からヤンヤヤンヤともてはやされていた。
クラマのじっちゃんは沸点が低いがおだてにも弱い。
タマモはむさ苦しい冒険者野郎にモテモテだし、猫サイズのぬーちゃんは何かの肉を貰って嬉しそうに食っていた。
「お、可哀想な嬢ちゃんも来たぞ」
ん?
「何よ可哀想な嬢ちゃんって?」
「お前、風の神様と同じ名前なんだってな。親も酷ぇ名前付けたもんだぜ」
「なっ、何よそれっ」
「だってよぉ、風の神様ウェンディったら酷いもんだぜ。暴風で山はハゲ山になるわ、家の屋根は吹き飛ばすわ、海は大荒れで漁に出てた船は沈むわ、ロクでもねぇやつじゃねーか。そんなのとおんなじ名前付けられるなんてよぉ」
「そっ、そんなことしてないわよっ」
「うわーはっはっはっ。いいっていいって、嬢ちゃんがやったわけじゃねえんだからよっ」
いや、こいつがやったのだ。
「あんたら神を馬鹿にしてたらバチを当てるわよっ」
半泣きになって言い返すウェンディ。
「ガーハッハッハっ。神は神でも疫病神ってやつじゃな」
酷いことをいうクラマ。
やめたれ。もう泣くぞこいつ。
「誰が疫病神なのよーーーっ」
「バカッやめろっ」
泣きながら暴風を出したウェンディ。
「やめんか未熟者がぁっ」
ブアヮッサブアヮッサとクラマ参戦。
「ギャァァァァァ」
またギルド酒場がグチャグチャになってしまった。
「よう、新人。こいつは請求書だ」
ヒクヒクした笑顔で酒場のマスターから請求書を渡されたセイ。
「ま、ギルドが立替ておいてやるからせいぜい稼いでくれや」
ポンっとそう言って肩を叩いたギルマス。借金が無くなった日に新たな借金を背負ったセイなのであった。
ウェンディは疫病神とういうより貧乏神なんじゃなかろうな?
「お前らなぁ、いい加減にしろよ全く。また借金になったじゃないかっ」
安宿に戻ったセイはウェンディとクラマに説教をしていた。
「だって、だって」
「コヤツがやったんじゃろがっ。なぜワシまで怒られなきゃならんのだっ」
「うるさいっ。せっかく借金無くなったのにっ」
「なに?借金が一度なくなったじゃと?」
「そうだよ。今日のゴブリン退治でチャラになった瞬間にまた借金させやがって」
「あれしきの事で借金が一度チャラになったのか?」
「そうだよ」
「なら楽勝じゃないっ」
こいつら・・・
「ちなみに冒険者のランクも上げて貰ったからほとんどの依頼受けられるようになったから明日から稼ぐぞ。風呂付きの家借りたいし」
「えっ?家借りるのっ。私お城がいいっ」
「アホかっ!風呂付きの家ですら月に最低銀貨50枚もするんだぞっ。城なんて借りられるかっ」
月に銀貨50枚といったら50万相当だ。家賃50万とかどんなセレブなんだよ。
「余裕よ余裕っ。ゴブリン程度で借金無くなるくらいなんだからっ」
「またお前らが暴れて借金増やさなかったらな」
大丈夫大丈夫とキャッキャしながらどこに住むかベラベラと希望を述べて全く反省してないウェンディ。こいつを本当に神に戻していいのだろうか?
とりあえず調子に乗るウェンディにチョップして、これからウェンディーズは風の神様の加護を受けた冒険者として活躍して信仰心を集めると皆に説明したのであった。