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ヤキモチ

ようやくうな丼にありつけたセイ。もう復活してきたサカキ。


「消えたらどうしてくれんだっ」


「あれくらいで天下の酒呑童子様が消えるかよ」


フンッとしてうな丼を食べるセイ。


ビビデ達もうなぎに興味があるようで、砂婆はそれぞれにタレと白焼きを焼いて渡した。


「おー、旨いっ。砂婆さんは料理上手じゃの。こんなに美味いものは初めて食ったぞ」


「そうかいそうかい」


砂婆も嬉しそうだ。この世界の人達も甘醤油タレの味が好きみたいだ。ウェンディとヘスティアも焼きガニより気に入ってしまったみたいだ。今度煮穴子を作ってもらおう。


サカキ達は白焼きにワサビを付けた物をつまみに日本酒を飲んでいる。


日本酒はドワーフの酒よりずっとアルコール度数は低いが、たいそう旨いようだ。つまみと酒の相性は重要らしい。


砂婆も日本酒のつまみになるような小鉢をいくつか作って持ってきた。ウェンディとヘスティアも旨そうに食い飲んでいる。


しかし、皆旨そうに飲み食いしてやがんな。俺もちょっと飲んでみるかな?いや、お酒とタバコは二十歳になってからだったな。しかしこの世界なら問題ないからなぁ。ちょっと一口だけ・・・。


サカキ達の酒を少し盗み飲んでみる。カハッ カハッ。何だよこれ?こんなのが旨いのか?


しかし、酒はつまみとの相性と言ってるしな。ナスの甘辛い煮付けを食べて飲んでみるか。


おっ、旨い。なるほど、じゃ鶏とダイコンの煮しめと・・・。これも旨いじゃん。


日本酒のみで飲んだ時と小鉢のつまみを食べて飲んだ時と別物だ。こりゃいいかも。


密かに小鉢の物を食い、クピクピと日本酒を飲むセイ。


「うははははっ」


ビクっ


いきなり笑い出したセイに驚くサカキ達。


「あーっ、セイの野郎いつの間にか飲んでやがる。やめろっ。お前は飲むなっ」


「なんでだよぉっ。この世界じゃ合法だろっ」


「法云々の話しじゃねえっ。お前酔ったら何しでかすかわかんねぇから言ってんだっ」


「はーん?また護符で殴られたいのかよ?」


「やっ、やめろ。な、その護符をしまえ。ほ、ほら犬だ。セイ、犬だぞ」


「ちょっと ちょっとぉっ。やめてよっ。わたしを生贄にしないでぇぇっ」


サカキはウェンディの首を掴んでホイとセイに差し出した。


「なんだよ、お前こんなところまで付いて来たのかよ。寂しがり屋だなぁ。ほーれ、ヨシヨシヨシヨシっ」


「いやーっ。もうヨシヨシされるのいやーっ」


「サカキ、助かったぜ。危うく俺様まで巻き添え食らうとこだったからな」


「おぅ、危ねぇ危ねぇ。セイの野郎護符掴んでやがったからな」


「護符ってなんじゃ?」 


「セイが使う武器みたいなもんだ。さっき俺の腹を殴ったやつは妖力込めて殴ってなかったからあんなもんだがよ。本気でやられたらヤバいんだよ」


「いやーーっ!助けてよぉ」


「ほーれ、ヨシヨシヨシヨシ」


「あやつは何をやっておるんじゃ?」


「ウェンディを犬と思ってやがるんだよ。寝るか酔いが覚めるまでウェンディは生贄として捧げておこう」


サカキ達は尊い犠牲となったウェンディに合掌をしたのだった。



「またセイは飲んだのかえ?」


「なんかこっそり飲んでやがってよ。もう寝たから心配ねぇ」


「砂婆、助けてよぉ」


「仕方がな・・・こりゃ、取られまいとガッチリとホールドしておるの。ワシらには無理じゃて。ヘスティアなら・・・」


ふるふると横に首を振るヘスティア。身代わりにされそうで怖いのだ。


寝てもウェンディをガッチリとホールドして髪の毛を撫ででしながら頰ずりするセイ。誰も助けてくれないウェンディは抵抗虚しく屍と化した。



夜明け前にぬーちゃんが出てきてセイをスンスンする。


「またウェンディ臭い」


ぬーちゃんのスンスンで目が覚めたセイ。隣にウェンディが寝ている。そしてなんとなく日本酒を飲んだ記憶が残っていた。


「俺またやった?」


「やってた。セイからウェンディの臭いがプンプンするー」


まずいな記憶が無いことにしておこう。それよりぬーちゃんにウェンディ臭いと言われるの嫌だな。


「ヘスティア、ヘスティア」


みな雑魚寝で転がっているのでヘスティアを起こす。


ビクッ


「お、俺様にヨシヨシする気かよっ」


「違うっ。ここから温泉って遠いか?」


「近いのもあるぞ」


「ならそこに連れてってくれ。俺はウェンディ臭いらしいんだよ」


「そうか?俺様にはわからんけどよ」


「ぬーちゃんに言われんだよ。風呂に入りたいから案内して」


と、1番近い温泉に案内してもらった。辺りはまだ真っ暗だが湯気が出ているのがわかる。お湯を触って温度を確かめるとやや熱めだけどいい感じだ。岩場の温泉ってやつだな。


「見るなよ?」


「うるせぇ。さっさと入りやがれ」


全部脱ぎ捨てて温泉に浸かる。


声にならない声が出る。水を持ってきて正解だ。ごくごくと温泉に浸かって飲む水は最高だ。


「メチャクチャ気持ち良さそうだな?」


「ばっか、見るなっていっただろっ」


「こんなに暗いのに見えるかってんだ」


嘘つけ、暗闇のなかここまでまっすぐ来ただろうが。


「俺様も浸かってやんぜ」


「入ってくんなっ。入るなら岩の向こう側で入れっ」


「何だよ?女神と風呂入る機会なんて滅多にねぇぞ」


「そんな機会いらんっ。俺は一人で入りたいんだっ」


あっちいけシッシッしたらぶつくさ言いながら岩の向こうに行ったヘスティア。いきなりドボンと音がしたけど服のまま浸かったんじゃないだろうな?



「おーい、水をくれよ」


「水筒投げるから受け取れよ」


と岩の向こうに投げるセイ。まるで神田川の世界だ。


「かーっ。水ってこんなに旨く感じるもんなんだな」


「だろ?俺、風呂に浸かって水を飲むの好きなんだよね」


「おぅ、わかるぜ。これから水持ってから風呂に入るわ」


温泉を堪能した所で着替える。着替えはぬーちゃんがひょうたんから洗った奴を持ってきてくれてある。洗濯は砂婆がしてくれているのだ。


「セイー、この服がウェンディ臭い」


「ワイバーンの防具か。これ洗えるのかな?」


セイも防具をスンスンしてみるけどやっぱりわからない。ぬーちゃんにとってウェンディってそんなに臭いのだろうか?


「ぬーちゃん、ウェンディは臭いのか?」


「ウェンディの臭い」


「タマモ達は?」


「タマモ達の臭い」


「ヘスティアは?」


「何もしない」


ヘスティアは神だからか何も臭いがしないのか。


「ぬーちゃんはウェンディの臭いは嫌いなのか?」


「別にー。でもセイからするのはいやー」


そういう事か。


「ぬーちゃん、次に俺が酔ったらさ、ウェンディをヨシヨシする前に出て来てくんない?」


「あの犬の代わりー?」


少し嫌そうな顔をするぬーちゃん。


ぬーちゃんは元々はあの大きな姿だった。そして悪さをしないと誓った時に今のサイズに変化した。そして犬事件があった後に猫サイズまで小さくなって纏わりつく付くようになったのだ。


「ぬーちゃん、ごめんね」


「なにがー?」


俺がウェンディを犬代わりにヨシヨシしたあとウェンディ臭いと言ったのはぬーちゃんのヤキモチだったのだ。


「ぬーちゃんが一番可愛いよ」


そう言ってぬーちゃんをヨシヨシしてやるととても嬉しそうにしたのであった。


ようやくヘスティアが温泉から出て来たのは日が登ってからだった。温泉で温まった身体がすっかり冷えたセイ。洗い髪が芯まで冷えるのは男の方じゃないぞと思いながらぬーちゃんに乗る。


「寒いのかよ?」


「お前が長い間待たせたからだろ?」


「しょうがねぇな」


と、ヘスティアが俺の後ろに乗り、ワイバーンマントの中に入って熱を放出。とても暖かい。


「ヘスティア。暖かくて気持ちいいんだけど、そんなにべったりくっつかないでくれる?」


背中に胸が当たっているのがわかるのだ。ウェンディだとこんなことはない。


「なんでぇ。寒いんだろ?」


「そうなんだけどさぁ」


胸が当たってますよとも言えないセイはそのまま皆の元に戻ったのであった。



帰るなりウェンディがべしべし叩いてくる。よっぽどヨシヨシが嫌だったようだ。


「悪かった。なんとなく覚えてるからな。でももうやらないと思うから許せ」


「どこ行ってたのよ?」


「温泉。ぬーちゃんがウェンディ臭いっていうから洗ってきたんだ」


「くっ、臭くなんてないわよっ」


「ヘスティアは?」


「ここにいるぞ」


と、マントをめくるとヘスティアがセイに抱きついたまま寝ていた。ねぼすけ女神が早くから起きたから二度寝したのだろう。


「セイー」


「何、ぬーちゃん?」


「セイがヘスティア臭い」


ヘスティアのことは何も臭いがしないと言ったぬーちゃんが今度はセイに抱きついているヘスティアの事を臭いと言ったのだった。

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