宝石を売る
黒のワイバーンフル装備姿のセイは目立つが脱ぐと寒いのでそのままだ。
宝石店に到着すると警備員が緊張した様子をみせた。
「以前、宝石採取の依頼を受けてお断りしてしまったものです。宝石を手に入れたので、もしお入用ならと思って来てみたんですが」
アネモスの二の舞いは踏むまい。ここから指名依頼を受けていた事を先に告げると警備員が中に入って確認してくれた。
「冒険者のセイさんでいらっしゃいますか?」
「そうです。これが冒険者証です」
身分を証明すると中に入れてくれた。ウェンディはなんか色々見てるけど買わないからな。ヘスティアはメラウス鉱を取りに行ってくれたのでここにはいない。
「これはこれは。以前はお断りされてしまって残念に思っておりました」
別室に案内してセイにお茶を出してくれる宝石店。
「指名頂いていたのにスイマセン。ちょっとアネモスに帰らないといけなかったもので」
「いえいえ、依頼を覚えてて下さっててなによりでございます。この度はどのような宝石を手に入れられたのでございましょうか」
「いくつかあるんだけどね」
ザラザラザラと無造作に出すセイ。
「こんなにあるんなら頂戴よっ」
「うるさい。黙ってろ」
それを見たウェンディが大声で叫ぶ。恥ずかしいったらありゃしない。
「むむむっ むむむむむむむむっ」
あまり価値がないのだろうか?
「これは困りました」
「あまり良くない?」
「いえ、これらを買い取る程の資金がですね・・・」
「あ、全部買ってくれなくてもいいんです」
「いやはや、どうしましょう」
「一つだけとかでもいいですよ」
「いえ、全て欲しいのです。欲しいのですが・・・」
「余ったのはアネモスのオークションに出すつもりなんで」
「なんとっ。アネモスのオークションに出されるのですか。そうなればボッケーノからこの見事な宝石が流出することに・・・」
「あの・・・」
「くそっ!」
ダンッ
ビクッ
いきなり机を叩く宝石店の人。
「も、申し訳ございません。これほどの逸品を目の前にして逃してしまう自分の不甲斐なさにイラ立ちが抑え切れず・・・」
この人、宝石のことが物凄く好きなんだろうな。
「来年早々にまたボッケーノに来ますからその時にまたここに来ますよ。今回無理だったのもオークションに出しませんから」
「本当ですかっ」
近い近い近いっ
鼻先が当たるぐらい顔を近付けてくる宝石店の人。
「え、ええ。本当です。アネモスの宝石店とは一悶着ありましたし」
「もめられたのですか?」
「ネックレスに加工してもらおうと訪ねたら盗賊扱いされましてね。まぁ、誤解は解けたからいいんですけど」
「確かに宝石は盗品の持ち込みがございます。が、どのような人が持ち込みされたか雰囲気でわかるものなのですよ」
「雰囲気?」
「はい。欲にまみれたもの、悪事を働くものには特有の雰囲気がございます。宝石もそれがわかるので濁るのですよ」
この人もスキル持ちなのだろうか?宝石って持つ人によって濁るとかないと思うんだけど。
「その点、セイ様が贈られたネックレスを付けておられる奥様の宝石がより輝きを増しておられます。さぞ高潔な方なのでしょう。宝石も喜んでいますからね」
ウェンディは奥様という言葉はスルーして高潔と言われてご機嫌だ。
「いや、こいつが奥さんとかありえませんので」
「これは失礼。お嬢様であられましたか」
それは俺にもっと失礼だ。なぜこの歳でこんな娘がおらにゃならんのだ。
「こいつは冒険者パーティのメンバーですよ」
「パーティメンバーにこの宝石を?」
「欲しがってたからね。それだけ」
そういうと呆れられた。王室に献上してもおかしくない代物らしい。そういやジョルジオも家宝で手に入らんとか幽霊に言ってたな。あれより大きいからそういうものなのかもしれん。
しかし、俺が照れて誤魔化したかのように受け取った店の人。
「セイ様。今回はこの3点を買い取らせて下さい。あと残りは来年本当にお持ち頂けますか?」
「1月後半から2月後半の間になると思うけど。それまで売らずに持ってますよ」
「ありがとうございます。それまでに資金を用意しておまちしておりますので」
「では宜しくお願いいたします」
さて、3つの買い取り金額はどれくらいになるのだろうか?
「こちらが買い取り金額となります。オークションに出されたらもっと高値が付くかもしれませんがこちらでご了承頂ければ幸いにございます」
どんどんどんっと金貨の入った袋が置かれた。全部で5つ。
「金貨500枚でございます」
ブッ。
「こんなに?」
「はい。あと、これは手付と言ってはなんですが、来年宝石をお持ち下さる時のお約束という事で。お嬢様、お手を拝借してよろしいですか」
とウェンディの手を取りサイズを見て指輪とイヤリングを出してきた。
「これなに?」
「ネックレスと同じ宝石の物でございます。これはセイ様からのプレゼントというこで」
ウェンディは揃いの青い宝石の付いた指輪とイヤリングを渡されて小躍りする。なんの舞だそれは?
「いいの?」
「はい。必ずお越し頂けると信じておりますので」
「なら、残りの宝石渡しておくよ。次来たときに支払ってくれればいいから」
「えっ?」
「売らないから持ってても仕方がないし」
「よ、宜しいのですか?」
「いいですよ」
ということで預り証を発行してくれた。まぁ、金貨500枚ももらっちゃったからあげてもいいんだけど。
「おい、左手の薬指にはめんな」
「だって、この指に合わせてくれたんでしょっ。反対の指だとキツイんだもん」
またなんか言われるだろうがと思いながら言うことをきかないウェンディ。もう今更だ。
ーセイ達が去った後の宝石店ー
「旦那様、お嬢様お喜びでしたね」
「はい。セイ様は照れてああ言われていましたが、あの見事な宝石を意中以外の方に贈る訳がありませんからね」
他のネックレスも全部ウェンディに贈ったと勘違いした宝石店の店主であった。
不器用なウェンディはイヤリングをなかなか付ける事が出来ない。
「付けてよ」
「俺も付け方知らんぞ」
タマモもいないしな。それでも早く付けろというウェンディにイヤリングを渡されて仕組みを見ていく。これを開けて耳たぶを挟むのか。
「ほら、耳出せ」
バチン
「痛ーーーーっ」
セイは調節ネジをそのままにはめた。
「あれ?」
「何すんのよっ」
「こう付けるんじゃないの?」
痛がるウェンディからイヤリングを外してもう一度仕組みを見る。なるほど、ここを緩めて調節するのか。付けながらした方がいいな。
ネジを一番緩めてイヤリングを付けて調整する。
「クフフフッ キャッハッハッハ」
「何笑ってんだよ?」
「くすぐったいのよっ。早くしなさいよ」
こいつ・・・
道端でそんな事をしているセイ達はバカップルに見られている事に気付かない。
「ほら、出来たぞ。落とすなよ」
「そんな理由ないでしょっ」
ポトン。
どうやら緩すぎたようなので少し強めに締めて痛いのは慣れろと言っておいた。
人目を引いたセイ達の噂が冒険者ギルドに届く。
「何?セイがボッケーノに来ているだと?いいところに来やがったぜ。おいっ連れて来い。お前に指名依頼出してやる」
「ありがてぇっ」
ギルドからセイ連行の指名依頼を受けたジールは目撃情報のあったところに走っていったのであった。