足を見られるのは恥ずかしいらしい
ぬーちゃんに空を駈けてもらってると寒いので野宿した時にワイバーン装備に着替えた。
「ヘスティアって寒くないの?」
「寒いなんてことあるかよ」
熱の塊だから寒さなんて感じないらしい。ギルマスの言った半裸でもへっちゃらみたいだ。
やはりアネモスは暖かいのかもうこの辺は寒い。ウェンディも寒いのか鼻を垂らしている。
「セイ、晩飯は豚汁にしてやったぞ」
砂婆が豚汁とホカホカご飯。それに穴子の天ぷらを出してくれた。
寒空に熱い豚汁が染み渡る。
「ふぁー、温まるねぇ」
一味も追加してポカポカだ。ワイバーンのマントは風も通さないし。
「寒いんですけど」
「お前には服買ってやったろうが?」
「置いてきたわよ」
こいつ・・・。そういや買っただけで着ているのを見たことがない。
仕方がないのでワイバーンマントを羽織らせる。風を通さないだけでもマシだろう。
豚汁効果も薄れて来た頃にぬーちゃんに包まる。快適なぬーちゃんの温もり。
そうするとウェンディも潜りこんで来た。
「そんなにくっついてくるなよ。またぬーちゃんにウェンディ臭いとか言われるだろうが」
「くっ、臭くなんてないわよっ。寒いんだからしょうがないでしょ」
「お前ら軟弱だな。しょーがねぇ、これぐらいでいいかよ?」
ヘスティアが目の前に来て熱を発してくれる。素晴らしい、ストーブみたいだ。
「おいっ。なんか今失礼な事を考えたろ?」
「いや、その・・・」
なぜ解ったのだ?
「ヘスティアは天照大御神みたいだなと思っただけだよ」
「アマテラス?」
「そう。元の世界の神様でね。太陽をはじめ光や慈愛を象徴する神様だ」
「な、なんだよ。お前の所にはそんな神がいるのかよ」
「俺は会った事ないけどね。ヘスティアも世に光を届ける神様だから似ているかもね」
「な、何だよっ。慈愛とか世に光を届けるとか照れるじゃねーかよっ」
誤魔化すのに褒めたら照れるヘスティア。
「熱い熱い熱いっ」
照れたヘスティアはめちゃくちゃ熱を出しやがった。危うく炙られるところだったわ。
ぬーちゃんの毛、焦げてないよね?
熱を下げたヘスティアもぬーちゃんに潜りこんで来た。狭くてかなわんなこれ。
「だからくっつくなよ」
「しょーがないでしょっ。そんなに文句を言うならあんたが離れなさいよっ」
こいつ・・・
「ヨーシヨシヨシ」
ビクッ
セイに身動が取れなくなるまで抱きつかれ一晩中ヨシヨシされたトラウマがウェンディを襲う。
ヨシヨシの言葉だけで離れるウェンディ。チョップやほっぺたをつねるより効果があるな。
セイはヨシヨシと言いながらウェンディに近付くと少しずつ離れるので快適になるまで遠ざけてから寝たのであった。
ぐっ、重い・・・
また夜明け前にウェンディとヘスティアに乗られていたセイ。人をマットレス代わりにすんなっ。
バッキバキになった身体をキンッと冷えた夜明け前の森で伸ばして屈伸する。
ピクッ
ぬーちゃんの耳が動いた。
「いいよ。俺がやってくるから」
魔物の気配が近寄って来たのでぬーちゃんはそのまま待機してもらってセイが討伐に出向く。
なんだこいつは?
なんか異臭を放つと思ったら鎧を着た死体みたいなのが数体。前にリタが言ってたアンデットというやつだろうか?
臭いから早くやっつけよう。
メラウスの剣を抜き鎧をごと叩き斬る。
が、斬ったというのにまた繋がって襲ってくる。これ、キリがなさそうだな。
剣ではなく陰陽術で祓ってみるとなにやらうめき声と共にその場で死体は崩れさった。なんか実体のある幽霊みたいな感じだな。冒険者の鎧とも違うから元は兵士だったのかもしれん。
アンデットと思われる物を倒している間に日が登る。
「セイ、なんか臭いよー」
「死体みたいな魔物でね。臭かったんだよ。臭いが移ったのかな?」
自分ではよくわからないけどぬーちゃんに臭いと言われた。
尻尾でペシペシされて起きるウェンディとヘスティア。
「くっさっ!セイ、あんたから腐った臭いするわよっ」
「魔物が来てたんだよ。そんなに臭いか?」
ウェンディが犬のようにスンスンしてきやがる。
「セイ、メラウスの剣から臭うぞ」
とヘスティアに言われた。なるほど、初めに剣で切ったからな。
ヘスティアが剣を熱で焼き、消毒を兼ねて臭いを飛ばしてくれた。
またぬーちゃんに乗ってようやくボッケーノに到着。まずはビビデの所へ。
「おっ、セイどうしたんだ?」
「ちょっとボッケーノに用事が出来てね。ぬーちゃん、カニ持ってきて」
と、いくつか凍ったカニを出してお土産に渡す。
「おぉ、すまんな」
「あとさ、鬼殺しとドワーフの酒って交換してくれる?」
「いや、お前が欲しいならいくらでもやるぞ」
「サカキが飲みたがってね。貰うばっかりじゃ悪いから鬼殺しも貰って来たんだよ」
と、交換してもらった。バビデにも持っていくと伝えたら忙しくしとるぞとのこと。どうやらワイバーンの防具をせっせと作っているらしい。
差し入れだけして帰るか、とバビデの所へ。
「よぉっ。よく来たな」
「忙しいんだって?」
「ほれ、ワイバーンの巣にギルドの出張所が出来てな、そこで常駐する奴らからの発注で大忙しだ。まぁ、兄貴がつくったメラウスのハサミとナイフがあるからワイバーンの皮を切るのも楽になったけどな」
と鈍い光を放つハサミとナイフを見せてくれた。
「へえっ。これいいね」
「あぁ、メチャクチャ切れるから疲れ方が全然違う。お前の漆黒の剣ほどじゃないけどな」
確かにヘスティアが熱を入れたら使えない人の方が多くなるからこちらの方がいいだろうな。
「これ包丁とかも作ってくれるかな?」
「お前が頼みゃ作ってくれるだろ」
「セイ、靴買ってよ」
は?
突然ウェンディが靴を買えと言ってきた。
「靴?何でまた?」
「足先が冷たいのっ」
「そうか。なら街で買うか」
「嬢ちゃん、靴が欲しいのか?火吹きウサギの毛皮で作ってやろうか?今冬毛の奴があるからよ」
「忙しいのに悪いよ」
「いや、靴だけならそんなに手間が掛からんからな。ほれ、足出してみろ」
なんの遠慮もせずに足を出すウェンディ。
「随分と小さい足だな。こりゃ子供用で作らにゃならんから足型から取るか。いつまでここにいる?」
「すぐに帰ろうと思ってるんだけど」
「3日くれ。それに包丁も作ってもらうならそれぐらい掛かるぞ」
「まぁ、別にいいけど、本当にいいの?」
「構わん構わん。ワイバーン防具ばっかり作ってて飽きてたところだ。ほれ、嬢ちゃん。ここに足を入れてくれ型を取るから」
冷たくてウニュウニュしたのがくすぐったいのかゲラゲラ笑って動くので何回も型を取り直す羽目になった。
「デザインは希望があるか?」
「ヘスティアみたいなの」
「お前、ロングブーツなんか脱ぎ履きしにくいだろうが」
「だってヘスティアは履いてるじゃない」
「ヘスティア、それ脱ぎ履きどうしてる?」
「これか?こんなの簡単だぞ」
とぱっと消してセイに足をにゅっと出してくる。神の装具ってやつか。普通のブーツとは仕組みが違うから参考にならん。しかし、女の子の足って小さいんだな。
そう思いマジマジとヘスティアの足を見るセイ。
「そ、そんなにジロジロ見るなよっ。恥ずかしいじゃねーかっ」
そう言ったヘスティアはぱっとブーツ姿に戻った。
足なんて見られて恥ずかしいものなのだろうか?
「お前まさかフェチなんじゃねーだろうなっ?」
「フェチってなに?」
「うっ、うるせえっ」
何を怒られているのかさっぱりわからない。
「セイ、もしかしてヘスティア様もここに来られてるのか?」
「そう。ヘスティアが履いているようなロングブーツがいいというんだけどウェンディには無理だと思うんだよね。ショートブーツにしてくれる?」
とセイはくるぶしぐらいまでのブーツを指定すると長いのがいいと駄々をこねるウェンディ。最終的にふくらはぎの真ん中ぐらいまでの長さでお互いに妥協した。
(セイ、ヘスティア様のブーツってどんなのだ?)
(え?ちょっと待って。絵に描くから)
ヘスティアのブーツをマジマジと見ながら描き写していく。ヘスティアはなんか恥ずかしそうだ。
「そうか、神様はこんなデザインのブーツを履いてんのか。まさかスカートをめくって見たんじゃないよな?」
「ヘスティアは足丸出しだよ。こんな短いパンツというかスボンみたいなのをはいてるから」
「そんな短いのかっ」
「上半身は半裸だよ」
「エロい目で見んなっ」
「見るかっ。嫌ならちゃんとした服着ろよ」
「熱いだろうが」
それはあんたが熱いのだ。
その後、ビビデの元にもう一度行き、砂婆用の包丁を2つ、三徳包丁と刺し身包丁を頼んだ。俺のナイフも頼むとお前のは俺が手伝うとヘスティアが熱を入れるらしい。漆黒のナイフでなくてもいいんだけど。
あっ、そうだ。
「メラウス鉱ってまだある?」
「あるぞ」
「剣を一本お願い出来ないかな?」
「誰が使う?」
「アモネスのギルマス。世話になっててね。ビビデの事もメラウスの事も知ってたんだよ」
「そうか。アネモスの奴がのう。体格はどれぐらいじゃ?」
ギルマスのサイズを伝える。
「わかった。作ってやる。お前が認めてるならいいじゃろ」
「あとさ、斧は作ったりする?」
「作れん事もないがバトルアックスか?」
「バトルアックス?」
「戦闘用の斧じゃ」
「いや、木こりなんだけどね。ヨーサクって言ってボッケーノ出身だって言ってた。この人もビビデの事を知ってた。というかボッケーノのドワーフでビビデとバビデの事を知らぬ奴はおらんと言ってたよ」
「そうか。ドワーフ族の木こりか。わかった。体格はワシと同じぐらいか?」
「そう。同じぐらい」
なんかたくさんメラウスを使わせる事になってしまったのでヘスティアに頼むと後で持ってきてくれると言ってくれた。結構な数をお願いしたので一週間はボッケーノに滞在することになりそうだ。
「今日はバビデの所に泊まれ。サカキは来ておるか?」
「来てるよ。里で寝てるんじゃない?」
「よし、飲むぞと言っておいてくれ」
ビビデもサカキの事をお気に入りだな。酒飲み達特有の連帯感みたいなものだろうか?
ビビデもバビデもお金の事を言わないからまた請求しないかもしれないな。宝石売ったらちゃんと支払わなくては。
ここでの用事は取り敢えず済んだのでセイは宝石店に向かったのであった。