ムツゴロウばり
屋敷に戻って泥のように寝たセイ。寝ようとした横で昼飯昼飯とうるさいウェンディとヘスティアを捕縛の術で大人しくさせて寝たのであった。
あーよく寝た。
セイが目覚めたのは日が暮れてからだった。
ふと横をみると結界に縛られたまま同じベッドで寝ているウェンディとヘスティア。そういや捕縛したままだったなと解除した。
起きぬけに水をごくごくと飲み一息付くとカンカンに怒ったヘスティアがやってきた。
「やいっ!神を縛り付けるとはいい度胸してんじゃねーかよっ」
「人が寝ようとしてんのに邪魔するからだろっ」
「うるさいっ」
と、燃え上がるように熱を発するヘスティア。
「外に飯食いに行こうか?」
「行くっ」
うん、やはりウェンディと同類だ。実に扱いやすい。
ウェンディはまだ寝ているが放置すると何をしでかすかわからないのでおぶって連れて行くことに。
「お前、ウェンディの事をよく面倒みてるよな」
「寝たら起きないし、食いながら寝るし、置いておくと何をしでかすかわからないし、こいつは本当に元神様か?」
「いや、俺様も自信がなくなってきたわ」
手の掛かる親戚の子供を預かったらこんな感じなのだろうか?と思うセイ。
その時にギュッとウェンディに首を締められる。
「やめろっ。起きてるなら歩け」
「いいわよこのままで」
何がいいわよだ。
手を離しても「イヤーーっ」と言ってしがみ付かれるので仕方がなくそのままおぶって歩くセイ。
子泣き爺かお前は?
「ほら、店に着いたぞ。いい加減に降りろ」
「席まで連れてってよ。靴履いてないんだから」
しまった。そういや靴を履かせてないわ。
「お、お二人様ですか?」
「はい。なんかスイマセン。こいつ足を痛めてまして」
なんだこいつら?という目の店員に嘘で誤魔化すセイ。
そこそこ混んでいて二人席に案内されてしまったのでヘスティアはなんの疑問もなくセイの膝におっちんする。
まぁ、どうせ食べるふりをしないといけないからいいけど。
適当に注文すると二人共ビールを飲むと言うので自分用に水も頂戴と言っておく。
ケーキと違って自分が食べるのとヘスティアが食べる時のふりの両方をしないといけないので物凄い勢いで食ってる奴だと思われてんだろうな。ウェンディもガツガツ食ってるから異常なスピードで料理が片付いていく。
そこにヘスティアがいたずらをした。自分がビールを飲むふりしてセイに飲ませたのだ。
「ばっ、バカやめっ ごくごく。やめろって ごくごく」
あの人は一体何をやっているのだろう?と周りから見られる。
「お前、飲める歳なのに飲まないからだよ。どうだ?旨ぇだろ?」
ヒック
「おかわりだっ」
「おっ、いいじゃねーかよ」
初めてまともにビールを飲んだセイは旨いと思ってしまったのとすぐにアルコールが回りおかわりを注文した。
「はっはっはっ。いいぞ飲め飲めっ」
調子に乗ってセイに飲ませるヘスティア。
セイはビールをジョッキ3杯飲み干した。
「あーっはっはっはっは」
いきなり大声で笑い出すセイ。
「ちょっと、大きな声を出さないでよっ」
「いいじゃん別に。お前らいつもこんなんなんだぞっ。おかわりっ」
セイはまた追加でビールを飲む。
「ヘスティア、これ熱いからな。フーフーしてやろう」
シチューの肉をフーフーしてヘスティアに食べさせる。酔ったセイはかまいたがりになっていた。
「はっ、恥ずかしいだろっ」
「どうせ誰にも見えてないって。ほら、今度はジャガイモだっ」
周りから酔って一人芝居を始めたように見えるセイ。こいつはヤバい奴だと思われたのか、近くのテーブルにいた人達はお勘定をして消えていく。
「セイが騒ぐからみんな離れていくわよっ」
「空いてていいじゃん。ほら、ウェンディにも食べさせてやろう。給食のパン食べるか?」
「給食のパンってなんなのよ?」
「ほら、家では飼ってやれないからここでたくさん食べろ。ほーらヨシヨシヨシっ」
「やっ、やめてよっ」
酔ったセイには子供時代に給食のパンをあげていた犬とウェンディがごっちゃになっている。頭をヨシヨシヨして顎やら耳もヨシヨシヨしまくる。
離れたテーブルの人達からは人目を憚らずイチャつくバカップルのように映っていた。
「やっ、やめっ、やめっ」
ウェンディはあちこちを触られてどうしていいかわからない。
「おい、セイ。いくらウェンディが従者だからってそんなに触ってやるなよ」
「おー、もう一匹いたのか。欲しがり屋さんだなお前ら。ほーらヨシヨシヨシヨシっ」
「やっ、やめろっ やめっ やめっ」
膝の上にいるヘスティアはヨシヨシされながら顔をくっつけられてグリグリされる。恥ずかしくてたまらずに逃げるヘスティア。奇異の目で見られるセイ。
「あ、あのっお客様。申し訳ございませんが他のお客様のご迷惑に」
「あ、他の人もいるんだ。変な所をみられちゃったな。あっ、そうだった。今俺屋敷に住んでんだよ。お前ら連れて帰ってやれるぞ。ほらっおいで」
逃げたヘスティア、セイの変貌に戸惑ってフリーズするウェンディ。
「ほら、おいでってば」
セイはウェンディをそのまま抱っこする。
「ちょっとちょっと、おんぶっ。おんぶでいいからっ」
「抱っこの方が持ちやすいだろ。ほら暴れんな」
ウェンディを前抱っこしながらヨシヨシするセイ。
「やめってってばっ」
「そうかそうか。ヨーシヨシヨシヨシ」
ウェンディを抱き締めながら頭をヨシヨシし続けるセイ。
「お、お客様お勘定を・・・」
「あ、こいつを連れて帰るのにお金いるの?いくら?」
「銀貨1枚と銅貨40枚です」
「銀貨?銅貨?なんだそれ?んーと、あっ、金色の500円玉があった。珍しいねぇこれ。これでいい?」
「は、はい勿論です。お釣りをお持ちしますので少々お待ちを」
「いいのいいの。こいつが500円なら安いもんだから。じゃ連れて帰るねぇ」
金貨を渡され釣りはいらないと言われた店員は驚きながらもホクホクだった。
「ちょっとぉっ!降ろしてってば」
店を出ても尚ウェンディを前抱きしているセイ。ジタバタ暴れるウェンディ。
「ほら、そんなに暴れたら連れて帰ってやれないじゃないか。そうしたら飼ってやれないぞ」
「飼うってなんなのよーっ」
ふんーっと両手でセイを押しのけようとするウェンディ。ガッチリとホールドするセイ。
それは周りから見たら嫌がる女の子を無理やり連れ去ろうとしている不埒な男に見えた。
「おいあんちゃん、こんな大通りで堂々と女を拐おうとするなんざふてえ野郎だな。その娘を離しやがれっ」
二人組の男達がウェンディを助けようと声を掛けてきた。
「あーん?なんだお前ら」
それに凄む目の据わったセイ。
「いいから離しやがれっ」
「さてはお前ら俺が買ったこいつを横取りしようってんだな」
「買った?そんな子供みたいな娘が娼婦なのか?」
「誰が子供なのよっ」
変な所に反論するウェンディ。
「そんな訳ねぇよな。娼婦にしちゃ貧相過ぎやがる」
「どこが貧相なのよっ」
もはや何を論点にもめているのかわからないウェンディ。
「ごちゃごちゃうるせぇぞお前ら。こいつはずっと前から俺が構ってたんだ。横取りしようとするなら覚悟しやがれ」
そう言ったセイから殺気なのか妖気なのかわからないものが溢れ出す。なんかヤバい気がしたウェンディ。
「セイっ、何をしようとしてんのよっ。やめてよっ」
「お前を奪おうとするやつは許さんっ」
尚膨れ上がっていく妖気。
ヤバいヤバいヤバヤバい
「わっ、私達はこういう仲なのっ。ほっといて頂戴っ」
そう言ってウェンディはセイにギュッとしがみついた。
「おー、そうかそうか。ヨーシヨシヨシヨシヨシ」
しがみついてきたウェンディをヨシヨシして顔をグリグリするセイ。
「なんだ、痴話喧嘩かよ。人騒がせな奴らだ」
その様子を見た二人組はペッと唾を吐いてその場を去った。ウェンディはジタバタ暴れたらまた同じような事になるかもしれないと抵抗をやめたのであった。
屋敷に着くまでヨシヨシと頰ずりをされ続けたウェンディ。
屋敷に着いてもセイは離してくれずそのまま抱き締められながらヨシヨシされベッドに寝かされてしまったのであった。
ー翌朝ー
「おいっ、なんでお前が俺のベッドで寝てるんだよ?」
そう言って起こされたウェンディは無言でセイにグーでいったのであった。