また税金
そろそろ日が登るという頃にお開きに。
「あー、楽しかったわ。また飲みたいものね」
「おぅ、いつでも来い。酒ならセイがたんまり買いやがるからよ」
そういや俺は税金、借金、酒にしか金を払ってないな。
「ほらマモン、仕事に行くんだろ。さっさと起きな」
そう言っても起きないギルマスをひょいと担ぐグリンディル。まるでオークに拐われるギルマスを見ているかのようだ。
「セイ、誘ってくれてありがとうね。ごちそう様」
「ここが気に入ってくれたならいつでも来て」
そういうとにっこり微笑んでギルマスを担いで帰って行った。人魚達も眠そうにしているので海坊主がみんなを飲み込んで海に消えていく。食ったんじゃないよね?
「今日は寝てないから休みね」
そう言うとサカキ達もひょうたんへと帰っていった。
セイは夜明けを風呂で楽しんでからベッドに潜りこんだのであった。
うとっとしかけた時にドスンとした重みがセイを襲う。
「よう、なんか朝飯作ってくれよ」
ヘスティア、君は寝ぼすけだったよね?なぜこんな日に限って早くに起きるのだ?
「ちょっと寝てからね」
「そんなこと言うなよ。外界に降りてると腹が減るんだよ」
そのまま寝たふりをすると腹の上でどんどんと跳ねやがる。
「もうっ、少し寝かせてくれよ」
「なんだよっ。作ってから寝ればいいじゃねぇか」
神様ってなんてワガママなんだよ・・・
仕方がなく起きて寄鍋の残りで雑炊を作る。ついでに自分のはハモ松茸鍋で雑炊だ。
「なんかぐちゃぐちゃしてるけどうめーぞ」
「そりゃ良かったね」
セイもハモ松茸雑炊を食べようとしたときにウェンディが起きてきた。
「わたしの分は?」
君、いつもは起こしても起きてこないよね?
「ヘスティアと一緒に食えよ。たくさん作ってあるから」
「もう食ったぞ」
早えよっ。確かに猫舌用に冷ましておいたけれどもっ。
砂婆も鍋は一つずつしかここに残していない。ハモ松茸はウェンディのお好みではないしな。
「あーっもうっ」
セイはジャガイモをダンダンっと切って油の中にぶち込む。
「何怒ってんのよ?」
「眠たいんだよっ」
山盛り皮付きポテトフライに塩をかけてドンッと出す。
「飲み物は?」
「俺様はジュースがいいな」
「それぐらい自分で入れろ」
プリプリと機嫌が悪いセイ。すっかりほとびてしまった雑炊を食べて尚機嫌が悪くなっていく。
「わ、悪かったよ。そ、そんなに怒んなくてもいいじゃねぇかよ・・・ぐすっ ぐすっ」
あーっもう。
「こんな事で泣くなよ。怒ってないから」
「ね、言った通りでしょ」
「本当だな」
なんですと?
「いや、ウェンディが泣いたら怒らなくなるって言うからさ」
殺す
「だーーっ!封印すんぞウェンディ」
「なんで私に怒るのよーーっ」
「お前がヘスティアにいらんことを教えるからだろうがっ。次に泣いても許してやらんからなっ」
「そ、そんなに大声で怒鳴らくてもいいじゃない」
とウェンディが目に涙を溜める。
「あーっもう。大人しくポテト食っとけ」
「ねっ」
そう言ったウェンディはヘスティアにニヤッと笑った。
「もう許さんっ」
「ほめんなふぁい ほめんなふぁいっ」
「いらんことを言う口はこれか?この口がいらんことを言うのかっ」
セイはウェンディの両ほっぺをつまんで折檻したのであった。
「ほっぺたが伸びたらどうすんのよっ」
離した途端これだ。
「胸より大きなほっぺとか貴重な存在になれるぞ」
「キィーーーーっ。この口ねっ。この口がそんな失礼な事を言うのねっ」
仕返しにくるウェンディ。
「やめほよっ ほまえふぁわふいんろうふぁっ」
「ほひるっ ほっへふぁのひる」
ほっぺたをつねり合いするセイとウェンディ。
朝っぱらから元気だなとヘスティアは呆れていた。
小柄なウェンディはほっぺたをつねられたままセイに持ち上げられギブアップした。
「うぐっ、ヒック ヒック。ほっぺたつねったまま持ち上げたーっ。セイのバカァッ」
「お前が悪いんだろうが」
「・・・おはようございます。いつの間にかわたし部屋で寝てたんですけど」
泣きじゃくるウェンディを何事かと見ているリタ。
「おはよう。なんか食べる?」
「なんでわたしの時とそんなに態度が違うのよっ」
「リタはいい子だからだ」
「差別よっ」
「これは区別というんだ」
リタは揚がっていたポテトを食べると言うのでオレンジジュースをいれてあげる。
「わたしには自分でいれろって言った癖にっ。だいたいセイはわふぁひに ほめんなひゃいほめんなひゃい」
あんまりうるさいのでほっぺたを摘んで持ち上げてやった。
リタはその様子を笑いながら食べたら帰ると言ったので途中まで送って行くことに。
「寝るんじゃないのかよ?」
「こいつのせいで目が覚めたからな。それに用事もある」
「どこに行くんだ?」
「山の税金を払いにいく。忘れて他国にいってたら借金奴隷になりかねんからな」
「俺様も暇だから付いていってやるぜ」
「ほっぺたつねったお詫びにケーキ買ってよね」
こいつは・・・
ぬーちゃんも今日はお休みにしているので歩いて王都中心へ。ここまででいいというので途中でリタと分かれた。
「ちょっとぉ。歩くのダルいんですけどぉ。二人になったんだからぬーちゃん呼んで欲しいんですけどぉ」
「ぬーちゃんも今日は休みだ。たまにこうして妖怪の里でゆっくりさせてやらないとダメなんだよ」
「どうしてよっ」
「食べてもそんなに回復しないからだ。妖怪の里は妖気で満たされてるからそこで休まさないとダメなんだよ」
「めんどう臭いわねまったく」
そんな便利グッズみたいに扱ってたら次にぬーちゃんに乗ったときに尻尾で噛まれてもしらんぞ。
しかし、晩秋だというのにアネモスは陽気だな。温暖地域なのかな?ボッケーノは結構冷えてたのに。もしかしたらここは海が近いからかもしれん。
そんな事を考えながらプラプラ歩いて税務署に到着。
山の持ち主が変わったことを伝えて調べてもらう。
「ありました。この山2つですね。では本年分の税金が金貨30枚となります」
「えっ?去年は金貨15枚って聞いてたんだけど」
「はい、山一つが金貨15枚。それが2つですので金貨30枚です」
マジかよ・・・。今年残り僅かなのに税金全部俺持ちってどういうことよ?
まぁ、格安で譲ってもらった山とただでもらった山だからしょうがないっちゃしょうがないけど。
「すいません、出直します」
足らん、税金を払うのに金が足らん。
「ケーキ」
呑気にそういうウェンディにイラッと来てチョップしておいた。
手持ちは金貨20枚弱。角有りと黒豚を売ればなんとかなるけど、狩り尽くしたばっかりだし、狩れても買い取りしてくれない恐れもあるよな。
余ってる宝石売るか。
「ケーキは少し待て。先に宝石屋に寄るから」
と、この前の宝石店に行くと俺を見るなり店をクローズにしやがった。どうやら関わり合いになりたくないらしい。
ケーキケーキとうるさいウェンディ。
取り敢えずカフェに入って黙らせる事に。
またもや全部頼むウェンディ。ヘスティアも全部だと?
また奇異の目で見られながらも注文。
「ヘスティア、お前がここで食ったら他の人からはどう見えるんだ?」
「知らねぇよそんなの」
試しに一つ食べさせてみると、隣のテーブルの人が吹き出して驚いている。どうやら空中に消えていくように見えるみたいだ。まずいなこれ。
「ヘスティア。俺の膝の上に座れ」
「なっ、なんでだよ。恥ずかしいだろっ」
「お前が食ってるのを人が見たら驚くんだよ。俺が食ってるふりをするから」
赤くなってセイの膝の上におっちんするヘスティア。食べるのに合わせてセイも食べるふりをする。
「なんでヘスティアがセイの上に座ってんの?」
お前、今の会話すら記憶回路から漏れたのかよ?
「気にせず食えよ」
呆れて物も言えん。
「あら、膝の上に座らせて食べさせるとか人前で恥ずかしくないのかい?」
げっ、見られた。
たまたまカフェに入ってきたグリンディル。
「違うんだよ。周りが驚くから仕方がなくなんだよ」
クスクスと笑いながら同じテーブルについたグリンディルも全種類頼んだ。よりオーク化が進むぞ。
一つのテーブルでは乗り切らないケーキ達。店員がテーブルを追加してそこに乗せていく。なんだあいつらは?みたいな目で見られるのは当然だ。人からは俺も同じだけ食っているように見られてるからな。
「ギルマスはちゃんと仕事に行けたの?」
「あのまま放り込んでやったからギルドにはいるんじゃないかしら」
ビチョビチョのまま放り込まれたのか。元精霊は人の扱いが雑だ。
ペロリとバタークリームケーキを平らげるのをみてお腹いっぱいになったセイはギルドに行ってみる。宝石を買い取りしてくれるかもしれない。
「なんだよ・・・」
まだビチョビチョのギルマスは辛うじて生きていた。
「宝石買い取って」
「無理だ」
「なんでだよ?」
「あんな宝石は品質が高すぎる。大騒ぎになるだろうが。どうしても売りたいならオークションにだせ」
「間に合わないんだよ」
「お前、結構ボッケーノで稼いだんだろ?何に使うんだ」
「税金だよ税金。山の税金を払わないとダメなんだよ」
「お前、国に貢献してやがんな。トータルどれだけ払ってんだ」
考えたくない。いくら金貨にピンと来ないといっても大金なのはわかる。普通に暮らしてたら金貨なんて見ることもないだろうからな。
はぁ、仕方がない。ボッケーノの宝石店なら欲しがってたから買い取ってくれるだろうからボッケーノまで行くか。
そんな事を思っていたらギルマスはグリンディルにほらしっかりと働きなっと活を入れられていた。止めにならなきゃいいけどね。