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グリンディルという人

グッと一気にワインを飲み干したグリンディルが話を始める。


「わたしはね、元妖精なんだよ」


「え?」


「アクアの出身でね、まだ水の女神アーパスが来る前から存在してたのよ」


「妖精?精霊とはまた違うの?」


「妖精が育つと精霊になり、神の眷属になると大精霊になるといった方が正しいのかしらね」


「グリンディルさんは精霊にはならなかったわけ?」


「なったわよ。その後にアクアを見る神がアーパスになってウンディーネという精霊と一緒に眷属になれと言われたわ」


「へぇ。それがなんでまたギルマスの奥さんになったの?」


「アーパスとそりがあわなかったのよ。あのジメッとした女神とね」


水の女神はジメッとしているのか。


「てことは眷属にはならなかったわけ?」


「そう。ウンディーネは素直というか何も考えてないというか自由な娘でね、そのまま眷属になったからわたしは旅に出たの。なんとなく他の国ってどんなのだろうって」


「そもそも精霊ってなにすんの?」


「別に。眷属になれば神の手伝いもするけどね。私やウンディーネは水から生まれた存在なのよ。だから水は私達そのもの。流れるままにって感じかしら」


グリンディルの話によると、別にすることもないけど池や川に落ちた人とかを水の中から助け出してたりはしていたらしい。


「フラフラとアクアを出て退屈しのぎに人間達を見てたりしてたときにマモン達が魔物と戦ってるのを見かけてね、結構強かったし一生懸命に戦う姿が気になってしばらく付いて見てたのよ。で、ある日大きな魔物に水に引き込まれそうな時にちょっと助けたの。いきなり水の中から放り出された時の物凄く不思議そうな顔をしていたのはよく覚えているわ」


「その時にギルマスはグリンディルさんの事は見えてなかったわけだよね?」


そうそうと返事しながらワインを手酌でなみなみと注ぎまた飲み干す。


「そしたらさぁ、マモンの奴はどうしたと思う?」


「いや、想像が付かない」


「アーパスに感謝の祈りを捧げたのよ。助けたのはわたしだっつうの。あのジメッとした奴がそんなことするわけないのに涙を流して感謝したわけ」


「それってなんか複雑だね」


「でしょ?だけどマモンにはわたしが見えないし、文句を言って話しかけても気付きもしない。腹立たしいったらありゃしない」


グビグビグビグビ


そこからマモンに対する愚痴が延々と始まった。



ーその頃のギルマスー


「お前のかみさん強そうじゃねーか」


「サカキ、お前見た目でそういっただろ?確かに今はオークみたいな体型になっちまったがよ、昔はそりゃあボン・キュッ・ボンでいい女だったんだ」


「へえっ、人間はへんな所に拘るんだな」


「そういうな。人間の男ってのは皆そんなもんだ。言っておくがセイが特殊なんだぞ。こんな綺麗所に囲まれてる幸せを理解出来ないとか不幸なやつだぜ」


「ワシらは繁殖せんからそういうのがよくわからんが確かにセイの事は心配じゃの」


「だろ?お前ら妖怪だっけ?妖怪ってのは人間と結ばれたりすんのか?」


「昔はそういうやつもいたんじゃねーか?今はそもそも俺達の事が見えねぇ奴ばっかりだからそんな事はねぇと思うぞ」


「こっちの世界はみんな見えてんだろ?気になる女とかいねぇのか?」


「はんっ、人間なんてどいつもこいつも弱ぇじゃねぇか。せめてセイの力の欠片ぐらいありゃ興味も湧くがな」


「妖怪の好みの基準って強さなのか?」


「お前は虫に興味湧くか?」


「なんだよそいつは?お前らに取っちゃ人間は虫っていいてぇのか?」


「そうじゃねぇけどよ。違い過ぎると興味がわかねぇってこった。あのドワーフ達は面白かったけどよ」


「なんだ、強さの基準って酒の強さかよ」


「カッカッカ、俺にとっちゃそうだ。セイの野郎はまだ飲みやがらねぇからどれぐらい強ぇか楽しみで仕方がねぇんだ」


「人間の酒の強さなんてお前にとっちゃ知れてるだろ。俺も強い方だがお前には虫ケラみたいなもんだろ?」


「まぁな。それと倒せるか倒せないかの強さってのは比べてもしょうがねぇ。人間はまず俺様を殺す事は出来ん。だから人間にはそういう強さはそもそも期待してないぜ」


「絶対とは言い切れんだろ?」


「いや絶対にだ。人間と俺達のことわりは違うからな。だから大昔に居たメチャクチャ強かった人間にも殺されずに封印されたってわけだ。タマモや鵺もそうだな。ジジイは知らんがまぁ死なんだろ」


「セイはお前を殺せるのか?」


「まぁな。あいつは特殊だ」


「どう特殊なんだよ?」


「セイはな・・・」


「サカキ、いい加減におし。飲み過ぎなんじゃないのかい?」


「おっといけねぇ。まぁあいつは特殊ってことだ」


サカキはわかりやすく誤魔化したのであった。


 

ー屋敷でのセイ達ー


グリンディルの愚痴が一段落したあと


「でさ、あんまり腹が立ったもんで精霊の座を捨てたってわけさ」


「は?そんなこと出来るの?」


「下から上の存在には自分の意志では無理だけどね。下には降りれるのさ」


人間って下の存在なんだな・・・


「人間になったってこと?」


「そ、一言マモンに文句を言いたくてね」


そんな事の為に寿命も老いもある人間になるものだろうか?


「で、マモンの前に文句を言いに出たらあいつどうしたと思う?」


「腰を抜かした?」


「惜しいっ。マモンは大きな口をあけてしばらく止まったんだよ。間抜けな顔してさ」


愚痴から今度はクスクスと笑い出すグリンディル。


「やっと動いたと思ったら、ケッケッケッ結婚して下さいって言いやがったのよ」


あーはっはっはっはと大笑いする。


「まさかそんな事を言うとは思わないからさ、思わず私もはいと返事しちゃってさ」


なんだ。グリンディルはギルマスを見ているうちに惚れてしまったから精霊の座を捨てて人間になったのか。ここまでの愚痴はこのノロケの前振りだったとはな。


セイは自分の事はまったくだが、人の事はこうして理解出来た。


「で、今に至るってとこ?」


「そうそう。わたしが冒険者パーティに入って手伝ってという感じかしらね。まぁマモンだけじゃなく他の奴らとも一緒に話せたり食べたり飲んだりするのは楽しかったわ」


「それで人間になったのに神を見る力が残ってたのに自分でも驚いたわけね」


「それもそうだし、顕現して他の国に来ているなんて信じられないわよ。あんたが連れて来たんでしょ?」


「いや、勝手に来たんだよ。退屈だって」


「そうかい。まぁ外界にいたわたしでさえ退屈と思ってたから天界にいる神ならもっとそうなのかもね。ヘスティア様はあんたの所で楽しそうじゃないか」


「初めはろくでも無い神様だと思ったけど、まぁいいヤツだよ」


「ふふっ。あんたみたいに人間も神も同じように接する人なんてまずいないだろうね。わたしが精霊だったといってもあまり驚かなかったし」


「こっちの世界は不思議な事が多いからそうなんだとかしか思わないよ」


「そうかい。そんなあんただからわたしもこの話をしたんだろうね」


「ギルマスは知らないの?」


「当たり前よ。人に話したくないことは話さないけど、人に話せない事があるのは結構辛いもんでね。こうして話せる事が出来てスッキリしたよ。ありがとうね」


「そう。それなら良かったよ。俺もギルマスに話を聞いて貰ったお返しが出来て」


「そうかい。あんたも話せない事がたくさんありそうだもんね」


「いや、ギルマスがだいぶ聞いてくれたからスッキリしてるよ」


「そうかい。あいつ、いい男だろ?」


「うん。いい男だよ」




ーギルマス達ー


「いや、本当にボン・キュッ・ボンで美人で強くていい女だったんだよ」


「わかったって言ってるだろっ。何回その話をしやがるんだっ」


酔ったギルマスは同じ話をエンドレスリピートしていた。


「それがいつの間にかオークになっちまいやがってよ」


「誰がオークだって?」


「か、かぁちゃん・・・」


サーッと酔いが冷めていくギルマス。


「わたしはあんたのかぁちゃんになった覚えなんてないからねっ。それに誰がオークだいっ」


海岸の岩場で惨劇が繰り広げられる。

その様子を見ていたサカキ。


「おぅ、グリンディル。お前強くていい女だな」


「あんたも顔は怖いけどいい男だね」


「顔が怖いは余計だ。ほれ、飲め」


「よーし、付き合ってやろうじゃないか」


飲み比べを始めたサカキとグリンディルは気が合いそうだ。


「セイ、あのギルマスって奴は死んだんじゃねぇのか?」


岩場でピクピクしているギルマスをヘスティアが心配する。ギルマスはタフそうだし大丈夫だろ。


マーリンも心配したのか尻尾でぴしゃぴしゃと海水を掛けて起こそうとしている。


ここは任せておこう。


後は酔い潰れてしまったリタとウェンディか。まずリタを抱き上げて屋敷の部屋に運び、次にウェンディの口をこじ開けて中から豚バラを出して連れていく。寝るなら飲み込んでから寝ろよな。


屋敷と岩場を往復している間に海水をかける担当がマーリンからマーメイに代わっている。


「まだ起きないわけっ」


「やめろっ。もう溺れかけてんじゃねーか」


加減を知らないマーメイはビッシャンビッシャン海水を掛けていた。


まったくもう、こんなびしゃびしゃの大男を運んでもベッドに寝かせられんだろうが。


アネモスは晩秋に近いというのにそれほど寒くはないのでそのまま放置することにしたセイなのであった。



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