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苦難

「なっなっなっなにしやがんでぃ」


耳に息を吹きかけられたヘスティアは真っ赤になっていた。


「お前が燃やしたらみんな巻き添え食らうだろうが。それにお前に人殺しなんてさせたくないんだよ」


「よ、余計な事をすんなっ」


「それに宝石って燃える奴もあるみたいだぞ」


「そうなのか?」


「しらんけど」


「なんだよそれっ」


君も同じ事を言ったよね?


「まぁいいよ。ヘスティアにやらせるぐらいなら俺がやるよ。ギルマスも立場があるんだから剣を収めて」


「セイ、お前・・・」


「仲間にもやらせたくないからね。皆俺と約束してるから破らせる訳にはいかないんだよ」


と、セイは剣を抜いた。この世のすべてを吸い尽くすような黒い剣が衛兵隊長に向けられる。


黒い剣はセイの力を受け、他の衛兵達も身動きが出来なくなった。


「隊長、俺も人殺しなんてしたくはないんだけど、他の奴らにやらしたくないからね。覚悟はいいかな?」


「待てっ、待ってくれっ」


「待ったらどうなるんだ?」


凄むセイ。


「むっ、無罪だ。これはこちらの間違いだった。宝石も返すっ」


「本当に?」


「本当だっ」


「ごめんなさいは?」


「ご、ごめんなさいっ」


衛兵隊長は宝石を返して土下座した。


「ヘスティア、これでいいか?」


「お前が許したんならもう構わねぇよ」


「そっか。お前はやっぱり優しいな」


「うるせえっ」


「ギルマスも変な事に巻き込んでごめんね。この国で頼れるのギルマスしかいなくってさ」


「い、いや。頼ってくれて何よりだ」


「こ、こちらですっ」


その時に衛兵が誰かを連れて来た。


せっかく終わったのにまた面倒臭い事になるのか・・・


衛兵に連れて来られたのはとても偉そうな衛兵服を着た人だった。


「あなた様がセイ・ミナモト様ですかっ」


あなた様?セイ・ミナモト様?

なぜ俺の本名を知ってる上に様付けなんだ?


「そ、総長っ」


総長?


隊長に総長と呼ばれた人はいきなり土下座をした。


「ちょっとちょっとちょっと、なに?」


「この度は部下が大変失礼な事を致しまして申し訳ございませんっ」


どうやら本部に俺が捕まった報告が入り、名前を聞いた衛兵の一番偉い人がとんで来たとのこと。総長より更に上の方から冒険者のセイには手出しをするなと厳命されていたようだった。


なぜそのような命令が出ているのかしらないけど。


取り敢えず、誤解は解けて釈放になった事を伝えて頭を上げてもらった。事の顛末を他の衛兵から報告を受けた総長は隊長を罪人として捕らえたのであった。そして、内部に他にもこのような不正が無いか調査すると約束してくれた。


「おいムテキング、いつの間に国の上の奴らを取り込んだんだ?」


だからムテキングってなんだよ?ステキテキテキすんぞ。


「知らないよ。この国のシステムすらよく知らないのに」


「嘘つけっ。あんな上の奴が走ってきて土下座するなんてなんかやらかしてるに決まってるだろ」


「貴族はバートン家とリーゼロイ家しか関わってないよ。しかも依頼を受けただけだし。それにそんな上の人と関係あるならギルマスなんかより、そっちに助けてもらうだろ?」


「ギルマスなんかとか言うなっ」


「そっちがやらかすとか言うからだろ」


二人でぐちゃぐちゃ言い合いしながら宝石店へ移動。宝石店には総長が同行し、チョビヒゲをさんざん怒鳴り散らした後に無料でネックレスへの加工を命令したのであった。


あまり役には立たなかったけど、わざわざ飛んで来てくれたギルマスにお礼を言って分かれた後にギルマスの奥さんの分もネックレスを発注。ヘスティアには黄色、ギルマスの奥さんはどんな感じの人か知らないので透明のをチョイス。ヘスティアはもらうときの楽しみにとっておくと先にサカキ達の所に行ったのであった。



「遅ぇんだよまったくっ」


「ごめんごめん。トラブルに巻き込まれてさ」


「酒だ」


「いらないって言ったじゃん」


「うるさいっ」


帰りに王都の酒屋で全部買い占めろと言われてあるだけ買わされたのであった。



バーベキュー当日にネックレスを受け取り準備開始。再び酒屋を買い占めさせられてあらゆる酒が山盛りだ。


式神と砂婆でせっせと準備してあとはみんな揃うまで待つだけだ。


「ここでいいわけ?」


海坊主とそんな会話をしながらやってきた人魚達。今日は岩場のある場所でのバーベキューだ。


「これお土産だって」


マーリンが海坊主の言葉を通訳してくれる。大きな姿に戻った海坊主の身体中央ににょいんと穴があいて魚やエビ、カニ、貝などの海産物がどっさり出てきた。


「おー、ありがとうな」


ボタっ


到着直後にその様子を見ていたギルマスは酒瓶を砂の上に落としてフリーズしていた。



マーメイは岩場にびょんと跳ねて乗り、腕を使って岩場を進み席に着く。まるでアシカショーを見ているみたいだ。


「なにを見ているわけ?」


「ボール投げたらオウオウする?」


「何よそれ?」


「いや、こっちの話」


ちょっと小魚を手から食べさせてみたいとか思ったのは内緒だ。


マーリンも岩場に乗って移動中にこっちに手を振っている。もうダメだ。アシカショーにしか見えなくなってしまった。


セイはそのイメージを振り払う様に頭を振り、ギルマスとリタに人魚達を紹介する。


「驚いた・・・。俺も人魚は初めて会ったぞ」


「人魚達は人に狙われたりするみたいなわだよ。ギルドに依頼が入っても受けないでね」


「もちろんだ。こんな美人を狩ろうとするなんざ俺が許さん」


ギルマスって結婚してるのに美人に弱いよな。


「ヌシ様、ヌシ様。この方々は誰でヤンスか?」


顔を赤くして聞いて来たのは河童のキュウタロウだ。


「人魚のマーメイとマーリン。あとはごめん名前知らないや」


「あっ、あっしは河童のキュウタロウでヤンス。ヌシ様の一番の舎弟でヤンスっ」


舎弟とかいうな。


マーメイはふんっと冷たいけど、マーリンはちゃんと挨拶した。どうやらキュウタロウにとって人魚達はどストライクだったようでこの席に着いて色々と話しかけている。


「よう、俺様もここで食うぜ」


「誰でヤンスか?」


キュウタロウにはヘスティアが見えるのか?というか妖怪達にはみんな見えてるな。


「この世界の火の神様ヘスティアだ。おいたしたら燃やされるからな」


「セイ、ここに神様が来たのか?」


「今、俺の隣に座ってるよ」


そういうと何やら拝みだすギルマス。いや、あなたはウェンディを拝んであげて。


「セイ、その娘がヘスティアかい?」


タマモもこっちに来た。


「まだ会ってなかったっけ?ヘスティア、パーティメンバーのタマモ」


お互いにどうもと挨拶をする。


「なんでみんな固まってんのよっ」


もう飲んだのかおまえは?


赤い顔をしたウェンディもこちらにやってきた。


「セイ、大きな魚はワカメで包んでやったぞ。このまま焼けば良いからの。これはイカ串とタレじゃ。貝は貝柱を切ってあるで待っとても口は開かんからの。海老は塩焼きじゃ」


「ありがとう。砂婆もここで食べる?」


「小豆とぎをかまってやらんといかんでの、あちらに行くわい。ユキメはここで食うみたいじゃぞ」


うん、ひんやりしてたからわかってた。いきなり抱き付いてこなかったけど後ろにいるよね?


ヘスティアの近くはお互いに良くなさそうなので少し離れて座ってもらう。


「そうだ、セイ。これ付けておくれよ」


「もう食べるだけなんだから別に無くてもいいじゃん」


タマモがうなじを見せてネックレスを付けろという。


その姿をごくっと唾を飲んでみるギルマス。奥さんに言いつけるぞ。


「俺のはどうなったんだよ?」


「今付けたいのか?」


「当たり前だろっ。みんなしてんだからよっ」


そういやネックレスをあげた人が集合してるなここ。


ポケットから黄色の宝石のネックレスを出してヘスティアにも付ける。


「これがお前が選んでくれたやつか」


「他のが良かったか?」


「いや、気に入ったぜ。ありがとうな」


女性陣はお互いのネックレスを見ている。


「セイ」


「なにタマモ?」


「皆にこうやって付けてやったのかい?」


「そうだよ。タマモがそうしろと言ったんじゃないか」


そういうとあっはっはっはっと笑い出したタマモ。


「何?」


「いや、あんたも罪作りになったもんだねぇ。小さい頃はあたしのおっぱいにしがみついてママと・・・」


「やめろっ!」


タマモは何かにつけて俺が小さかった頃の話をする。本当に止めて欲しい。


が、皆が聞きたいというので、セイの子供の頃の話が酒の肴になってしまったのであった。もう好きにしてくれ。



「どわっはっはっはっ」


セイの昔話で盛り上がる面々。人魚達の気を引きたいキュウタロウが酔っぱらって


「アッシの華麗な飛び込みを見せるでヤンスっ」


「あ、やめろっ」


ザブンっ


「キョエエエエエエッ」


ナメクジ体質なんだから止めとけよ。


ヒリヒリするでヤンス、ヒリヒリするでヤンスといいながら濡れ女の所に走って行ったキュウタロウ。これで酔いも冷めるだろ。


「あれどうしたいわけ?」


「キュウタロウは泳ぎが得意なんだけど塩水がダメみたいでね、ちなみに人魚は淡水に入るとどうなるんだ?」


「そんなの知らないわけ」


試してみようということになり、岩場のくぼみに水を溜めて浸かってみるマーメイ。


「べつにぃなんともないわよぉ」


「太ってる、太ってるからっ」


ランチュウみたいになったマーメイを慌ててくぼみから抱き上げて真水から出す。そのまましばらくするとボタボタと水が出て元に戻った。淡水に入れると水を吸収するのか。


「大丈夫か?」


「いつまで抱きしめているわけ?」


顔を真っ赤にしたマーメイがそう言うのでセイは慌てて海に投げた。


「何で投げるのよっ」


びしゃびしゃびしゃっ


しっぽで海水を掛けてくるマーメイ。


「変な事を言うからだろっ」


「やめなさいよっ。セイがびしょ濡れじゃない。可哀想なセイ。私が乾かしてあげる」


ヒョオォォぉッ


ユキメが乾いた寒風の息を出す。


「死ぬっ 死ぬっ。凍え死ぬっ」


濡れた服に寒風なんて拷問に等しい。


「しょーがねぇなぁ」


ごぉぉおおっ


今度はヘスティアの火炙りだ。


「あちちちちちっ」


乾いたは良いけど身体は焦げチリ毛になったセイ。


「お前らいい加減にしろよっ」


ウェンディが気をきかせて治癒の息を吹きかける。


ふぅ~


「うっひゃぁぁぁ。やめろバカッ」


「何よっ。治してあげたんじゃないっ」


ぎゃーぎゃー騒ぐセイ達のテーブル。



「何をやっとるんじゃあやつらは?」


「セイが皆に気を持たすような事をしたから地獄に落とされたんだろうよ」


「そうかもしれんのぅ」



サカキとクラマはセイ達の様子を見てそんな事を言っていたのであった。




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