山をもらう
「こんちはー」
相変わらず商業ギルドの受付嬢には無視されるセイ。
木工ギルドに顔を出すとヨーサクがいた。
「やっと帰ってきおったか」
「お土産持ってきたよ。ヨーサクってドワーフなの?」
「そうじゃ。知らんかったのか?」
「ドワーフ族というのを知らなくてさぁ、ボッケーノに行って初めて知ったんだよ。ヨーサクみたいな人が多いなぁと思って」
「ワシもボッケーノ出身じゃからな」
「そうだったんだ。じゃあちょうど良かった。これドワーフの秘酒だって」
「ぬおっ!誰にもらったんじゃ」
「武器職人のビビデと防具職人のバビデって人」
「あの兄弟から貰ったのか」
「知ってるの?」
「当たり前じゃ。アイツらの事を知らんドワーフなんぞおるか」
そんな有名人だったんだ。
「その装備、まさかその二人に作ってもらったのか?」
「そうだよ」
「そうか。秘酒を貰うくらいじゃから相当気に入られたんだな」
泣いて抱きしめられた事は言わない。
「じゃ、角有り狩りに行ってくるよ」
「その前にわざわざ酒を持ってきてくれたのか?」
「そうだよ。飲みたいかなと思って」
「それは悪かったな。ありがたく頂くわい」
「あれからどう?」
「まぁ、上の方の話は進まん。あやつらも被害が出て初めて理解するじゃろ」
「やっぱりそうなんだね」
「せめて水路を改良して水を街から外へ逃げるような工夫でもしてくれると良いのじゃが、そういう工事は金がかかるでの」
「お金が掛かるといっても被害が出るより安いと思うんだけどね」
「そうじゃな。人は痛い目に合って初めて気付くのじゃ」
ということは人々がウェンディを必要とするのはまだ先になるな。
「わかった。とりあえず俺の山だけでもちゃんと管理しておくよ」
「もう一つ買うか?」
「なんか出るの?」
「ブラックオークが出る」
「買った!」
「というよりお前にやる。どうせ誰も管理出来んからの」
「え?」
「構わん。ギルドに金が入っても使い道もないわい」
なんかヨーサクが投げやりになっているようだ。
「なんかあったの?」
「お前が気にすることはない。その山はお前の山の隣じゃ。一応案内してやるわい」
今日はウェンディがいないのでぬーちゃんに乗ってひとっ飛び。
くれると言った山は谷を挟んで隣だった。
そよ山をぐるっと回って確認する。そして先に結界を張ったのであった。
「本当にいいの?」
「構わん。その代わりと言ってはなんじゃが」
「何?」
「ここの谷に流れとる川は王都に入る川の一本での、一番水を運んでくれるんじゃ」
なるほど。それを挟む山を管理して川を守れということか。対価としてはお互い悪くないのかも。
「それを堰き止めてくれんか?」
は?なんですと?川を堰き止める?それは予想外の提案だ。
「そんな事をしたら王都の人が困るんじゃないの?」
「困らにゃならんのだ。これより先に被害が大きくなるまで待ってたら取り返しの付かん事になるじゃろ。だから大きな被害が出んくらいで困って貰うほうがいい」
なるほどね。
「完全に堰き止めるの?」
「いや、水流を大幅に減らしてくれればええ。できるかの?」
クラマを呼んで相談する。
「ダムとやらを作るしかないのではないか?」
「そんな大規模な工事無理だよ」
「ここをこう崩して堰き止めてやればなんとかなるじゃろう」
「崩れて一気に流れたらどうすんだよ?」
「それでも構わん。一本の川だけなら命にかかわる大きな被害は出んからの」
そうか、水不足で困ってもよし、濁流が襲って困ってもよしということか。
「わかった。やってみるよ」
ということで今日は角有りと黒豚狩りをして明日からどうやるか決めることに。
黒豚も角有りも大漁でホクホクだ。ヨーサクにお裾分けとして1つずつ渡してからギルトに角有りを売りにいく。10売れと言ってたからな。
「セイさんお帰りなさい。その真っ黒な出で立ち格好いいですよね」
「闇夜に紛れて泥棒とか出来そうだよね」
「本当ですね」
と面白くもない冗談にくすくすと笑ってくれた。
角有りを買い取りしてもらい、近々バーベキューしたら来る?と誘ってみる。
「是非っ」
「ならギルマスにも声を掛けておいて。あと3日くらいはバタバタしてるけどその後なら大丈夫だから」
「はいっ。わかりました」
屋敷に戻るとウェンディとヘスティアが酔っていた。
「もう飲んでんのか?」
「ほうよ、食べるもんないしおふぁけしかなかったんらもん」
出掛けてから酒くらしいか残ってなかったか。悪いことしたな。
「飯は食うか?」
「ふふぁへるわよ」
これはもうすぐに食べさせて寝かせた方がいいかもしれない。
角有りをサイコロステーキにして焼く。これならフォークだけで食べられるだろ。あとはじゃがいもを揚げておくか。
クラマは里で食べると肉をパス。ぬーちゃんはここで一緒に肉を食うみたいだ。
味付けは塩胡椒と焦がし醤油だな。
「旨えなこれ」
ヘスティアは焦がし醤油を気に入ったらしい。二人共酔ってるけどウェンディの方が酔ってるな。いつもより食べるスピードが遅い。
「セイー、やっぱり角有り美味しいねー」
「そうだね。黒豚も捨てがたいけどね。もう少し寒くなったら黒豚鍋しようね」
「うーん♪」
肉を食べ終わる頃じゃがいもが揚がったので塩を掛けて食べる。
「お前も飯作れんだな」
「焼いて揚げただけだかね。こんなの料理とは言わないよ」
「そうか、これも旨いぞ」
「素材のおかげだね」
ポテトと赤ワインの組合せをヘスティアは気に入ったようでモグモググイグイを繰り返す。ウェンディはポテトをモグモグしながらぐらんぐらんしてテーブルに突っ伏して寝ていった。これテレビの赤ちゃん動画で見たことあるな。
寝かせに行くのはいいけど、こういう場合口の中に入ってる食べ物はどうするんだろうか?
「おい、ウェンディ。飲み込むか吐き出すかどっちかにしろ。そのまま寝たら誤飲するぞ」
返事がない ただの屍のようだ
仕方がないので口に指を突っ込んでポテトを取り出してベッドに寝かせにいった。きちゃないなもうっ。
ポテトとよだれまみれのテーブルを洗ってお片付け。
「もう終わりか?」
「まだ食べる?」
「いや、もういいか」
ヘスティアも満足したようなので水を入れてやる。
「お前とウェンディってどんな関係なんだ?」
「神に戻す契約をさせられた関係だよ」
「ならなんで主従契約の主人がお前になってるんだ?お前から契約したわけじゃねーんだよな?」
薄々そうじゃないかと思ってたけどやっぱりそうか。
「ウェンディはアレだからやり方でも間違えたんじゃないの?」
「お前が命令したらウェンディは言うことを聞かざるをえないだろ?この契約がいやなら破棄も出来るぞ」
「まぁ、契約でどっちが上とかどうでもいいよ。俺にとっては契約というより約束だからな」
「約束?」
「あいつは助けてと言って、俺ははいと答えた。まさか異世界でこんな事をさせられるとは思ってなかったけどな。まぁ、約束は約束だ。俺はあいつを神に戻さなきゃならん」
「俺様とも何か約束したらそれを守ってくれるのか?」
「冬にカニ持ってボッケーノに行くって約束したろ?もう今年はアクアに行くのは止めとく。ちょっとやること出来たし」
「そっか。もう約束してたか」
「そうだよ。お前も約束守れよ」
「なんの約束だ?」
「温泉に案内してくれるって言っただろうが」
「あぁ、もちろんだ。何なら一緒に入ってやってもいいぞ」
「俺は一人でゆっくり浸かりたい派だから遠慮しときます。サカキたちと一所に入ったら宴会しながらの風呂が楽しめるぞ」
「なっ、なんで俺様が男共と風呂に入んなきゃなんねーんだよっ」
「俺も男共だろうが」
「そりゃ、そうだけどよ・・・」
「サカキ達は男とか女とか気にしないからな。お前が問題ないなら一緒に入ればいいし、気になるなら別で入ればいいんじゃないか。それかウェンディと入るとかな」
「そうだな。ひんぬーぇんでいを笑ってやるのも悪くねぇな」
別に好きにしてくれてもいいけど、炎の竜巻とかやらかすなよ?
セイはその後も楽しそうに話すヘスティアと下らない話を遅くまでしていたのであった。