お土産だけど?
あいつはまた寝ぼすけか・・・
ウェンディどころかヘスティアも起きて来ないのでぬーちゃんとギルドに向かう。
「あっ、セイさんが帰ってきた!」
大きな声を出したのは受付嬢のリタだ。
「ただいま。昨日帰ってきたんだよ」
「帰ってきてくれて良かったです」
「またすぐに出るんだけどね」
「えっ?そうなんですか・・・」
「うん。用事が済んだらちゃんと帰ってくるよ。あ、後ろを向いて髪の毛を上に上げてくれる?」
「えっ?こうですか?」
後ろを向いてうなじを見せるリタにオレンジの宝石のネックレスを付けてあげた。
「えっ?えっ?えっ?」
「ボッケーノのダンジョンで取ってきたんだよ。お土産にどうぞ」
「こ、こんな高そうな宝石なんてダメですよっ」
「気に入らなかった?」
「そっ、そんな事ないですっ」
「良かった。じゃあもらっといて」
「あっ、ありがとうございます。本当にいいんですか?」
「うん。この色はリタに似合うかなって思ったから」
「は、はい。とっても素敵です」
頬を染めて嬉しそうにするリタ。喜んでもらえてよかったと思うセイ。
「ギルマスいる?」
「は、はい呼んできますっ」
「もうここにいるぞ」
「あ、ギルマス。帰ってきたから顔だしたよ」
「あぁ、ちょっと来い」
ギルマスは渋い顔をして部屋に来いと言った。
「お前、どういうつもりだ?」
「何が?」
「リタに宝石やってただろっ」
「あれボッケーノのダンジョンで取ってきたんだよ。まだあるからギルマスも欲しい?余ってるのは未加工なんだけど」
あんな高そうな宝石をあまりとか言うなと思ったギルマス。
「いるかっ。それよりどういうつもりだと聞いてるんだよっ」
「どういうつもりって、お土産?」
「あんな宝石をお土産にくれてやるやつがいるかっ」
何怒ってんだよ?
「何だよ?何怒ってんの?」
「お前、リタの事をどう思ってんだ?」
「え?ここの受付嬢。初めて来た時からお世話になってる人」
「それだけか?」
「それだけ」
「はぁ〜、お前なぁ、なんとも思って無いなら気を持たすような事はしてやるな」
「気を持たす?なんの?」
まったくこいつはよ・・・
「もういいっ。俺からリタには言っておく」
何怒ってんだ?
「あ、ギルマスにはこれあげる」
「何だこれは?」
「ドワーフの秘酒って言ってたよ。ボッケーノの武器職人に貰ったんだ。かなり強い酒みたいだから一気に飲まない方がいいと思うよ」
「ドワーフの秘酒?そんな物を貰ったのか」
「サカキ達と盛り上がってね。サカキと同等に飲める人達初めてみたよ」
「ドワーフが自分達の酒を人に渡すとはかなり気に入られたんだな」
「そうだね。剣と防具も作って貰ったし」
「剣を打ってもらったのか?」
「そう。かなりいいよ。というか使い方を間違うとヤバいくらい」
「見せてみろ」
「これ、持つ人の力を奪うみたいだがら念の為見るだけね」
と剣を抜いて見せた。
「なっ、なんだこの剣は・・・」
「メラウス鉱って貴重な鉱石で作ってもらったんだよ。ヘスティアが力を貸してくれて・・・」
「待て待て待て待てっ」
「何?」
「今メラウス鉱って言ったか?」
「うん」
「簡単に言うなっ。そいつは伝説の鉱石だぞっ」
「メラウス鉱ってサラマンダーのお腹の中に入っててね」
「待て待て待て待てっ」
「なんだよ、話の途中なのに」
「頼むから初めから順を追って話してくれ」
なんだよ面倒臭い。
セイはビビデとの出会いから話した。
「この剣はボッケーノの武器職人ビビデ作か?」
「そうだよ。防具は弟のバビデ作」
「お前はその二人がどういう人か知ってるのか?」
「腕の良い職人だよ」
「当たり前だっ。ボッケーノで一番の職人だその二人はっ」
「へぇ、有名なんだね。どおりでヘスティアも力を簡単に貸してくれた訳だ」
「あのよ、さっきからヘスティアって名前が聞こえてんだが、まさか火の神様ヘスティアじゃねぇだろうな?」
「そうだよ。今うちで寝てる」
「は?」
「なんか勝手に遊びに来たんだよ。あ、ボッケーノはイフリートが見てるから大丈夫だって」
「ちょっとこいつを飲んでいいか?」
「勤務中だろ?」
「うるさいっ。こんな話をシラフで聞けるかっ」
そしてもう一度おさらいさせられた。
「その防具は持ってるのか?」
「持ってるよ」
着てみせろと言われたのでフルセットで着て見せる。
「ワイバーンの防具なのはわかった。なぜそんな色をしてるんだ?」
「これはブラックドラゴンの血で染めてあって・・・」
ブーッ
酒を吹き出したギルマス。
「ブラックドラゴンの血だとっ」
「そうそう。イフリートの炎にも耐えて・・・」
「さっきから言ってるイフリートってまさか大精霊のイフリートのことか?」
「そうだよ。ヘスティアの眷属で初めはムカついたから滅してやろうかと思ったんだけど・・・」
「もういい、もういい。頭がおかしくなるわっ」
なんだよそれ?
「ビビデがヘスティアの力を借りて伝説の鉱石から作った剣と、ブラックドラゴンの血で染めたワイバーンの防具をバビデが作った。これで合ってるか?」
「合ってる。合ってる」
「お前、無敵だな」
「無敵?」
「そうだ。お前の事はムテキングと呼んでやる」
何だそれ?俺はローラーヒーローじゃないぞ。
「じゃ、顔は出したから今から角有り狩りに行ってくるよ」
「いくつ持って来る気だ?」
「持って来ないよ。オーガ島に持って行くから」
「とりあえず10持って来い」
「いや、オーガ島に持って行くんだってば」
「うるさいっ」
なんだよもう。
「誰かにダンジョンで狩ってきて貰ったらいいだろ?」
「最近ダンジョンに狩りにいくヤツがいねぇんだよ。外の魔物狩りで大忙しなんだ」
「魔物増えてんの?」
「まぁな。最近はピンクオークが増えてやがるんだ」
「ならまだ大丈夫だよ」
「なに?」
「まだ完全に確認出来たわけじゃないけど、ゴブリン→オーク→ピンク→ブラック→ミノタウルス→角有り、みたいな感じで巣が育つと生む魔物が変わっていくみたいなんだよね。角有りの次がオーガなのかもしれない。元の魔物が何かでも変わるみたいなんだけど」
「本当かそれは?」
「ボッケーノにワイバーンを生む巣があってね、最終的にはドラゴンを生むらしい。それを倒せる人がいないとヘスティアが大噴火を起こして浄化するらしい。概ね300年周期みたいだよ」
「誰から聞いた?」
「ヘスティアから」
「神様から直接聞いたのか?」
「昨日ね。だから今度ボッケーノに行ったら向こうのギルマスに伝えておくよ。次の大噴火まで100年切ってるみたいだけど今から準備してたら被害減らせるだろうし」
「アネモスはそこまではいってないってことか?」
「10年くらい前までウェンディがこまめに暴風で浄化してたからじゃないかな?巣によっては成長が早い所もあるかもしれないから油断はできないけど。オーガの次はなんだろうね?」
「気軽に言ってくれんなよ」
「まぁ、ここは魔物より山と海だろうね」
「だからえらく気軽に言ってくれるよな?」
「人々が望まないから仕方がないよ」
そう言うとギルマスがグッと顔をしかめた。
「次はどこに行くつもりだ?」
「冬場にボッケーノに行くけど、その前にアクアに行ってみようかと思ってる。寒くなるから春にするかもしれないけど」
「そうか」
ギルマスはそれ以上何も言わなかったので角有り狩りに行くことに。
リタに手を振ってギルドを出たセイは木工ギルドのヨーサクに秘酒を渡してから行こうとぬーちゃんに話していた。
「ギルマス、これセイさんに付けて貰ってしまいました」
「リタ」
「はい」
「セイは止めとけ。住む世界が違い過ぎる」
「えっ?」
「あいつには全くそんな気は無い。奴にとってはそのネックレスも遊びに行った所で買った菓子とかと同じだ。ただの土産で特別な物じゃない」
「はい。わかってます・・・」
「そうか。分かってるならいい」
「はい」
リタはそうギルマスに返事をして胸元のネックレスをギュッと握り絞めたのであった。