ウェンディーズ
「で、セイはこの娘の手助けをする約束をしちまって違う世界に連れて来られたってわけかい?」
「そういうこと。で、この指輪はその契約の指輪らしい。結婚指輪じゃないんだよ」
「そうだったのかい。おかしいと思ったんだよ。セイがこんな乳無し娘を選ぶ訳ないさね」
「だっ、誰が乳無し娘よっ」
「セイはねぇ、小さいころはそりゃあもう私の胸を好き放題に・・・」
「やめろっ」
母親の愛に飢えていたセイはタマモの胸に甘えまくっていた時期があったのだ。
慌てるセイをクスクス笑うタマモ。
「何が風の神様じゃ、よくよく聞けば神様をクビになった落ちこぼれではないか。風神様の足元にも及ばんの」
「なんですってぇぇぇっ!このカラス風情がっ」
「またワシをカラス呼ばわりするとはこの乳無しの落ちこぼれがっ」
「キィィィィィッ」
また暴風争いをしそうになった二人を殴って止めるセイ。
「しっかしよう、こっちはみんな俺達が見えるみてぇだな」
とサカキは驚いていた。
「みたいだね。どういう仕組みかわかんないけど俺達のところには無かった魔法ってのがあるからかもしれないね」
「魔法ってなんだ?」
「妖術みたいなもんみたいだよ。狐火の事はファイアボールとか言ってたからな」
「妖怪共はいるのか?」
「まだわからんけど、魔物ってのはいたぞ」
「まさかそいつらもひょうたんに送りこむつもりか?」
セイは元の世界で悪さをしないと誓った妖怪、現代社会で生き辛くなった妖怪を退治するのではなくひょうたんの中に送っていた。元々は封印の為のひょうたんもセイが膨大な妖力を込めて妖怪の里に変貌させたのであった。そのお蔭でひょうたんの中は妖怪達にとって暮らしやすい世界となっていた。
「ところでクラマもひょうたんの中にいたの?山はどうしたの?」
「山も騒々しくなってきおっての。別に悪さをするわけではないのじゃが、ふらっしゅというのをバンバン光らせおる奴らが増えおった。うっとおしくてかなわん」
観光客が異常に増えたからな。参拝というより観光で訪れる人が多いのだろう。
「でも帰り方わからんからその間山は大丈夫?」
「カラス共がおるから問題なかろう」
クラマの言うカラスとはカラス天狗達の事だ。近隣の妖怪はほぼセイがひょうたんに送ったりタチの悪いのは退治したので今の山は平穏そのものだ。
「なんだ、やっぱりカラスの親玉なんじゃない」
「何じゃとぉぉぉっ」
ゴスッ べしっ
「だからやめろって言ってんだよっ。お前らのせいで借金背負ったんだからなっ。これ以上借金を増やすつもりかっ」
セイが背負った借金は金貨27枚とちょっと。元の世界で3千万弱だ。
「だってこいつが悪いんじゃ・・・」
怒られてブツブツ言うウェンディ。
「うるさいっ。18歳でこんな借金背負った身にもなれっ。これを返すまではお前の事は後回しだからなっ」
「えーーーっ」
「自分のせいだろうがっ」
自分が原因なのにぶーたれるウェンディに心底ムカついたセイはぬーちゃんの尻尾に噛ませておいた。
「で、神から落ちこぼれたこの娘を神に戻すのには何をやればいいんだい?」
「信仰心を集めればいいらしい。つまり、神として尊敬されるようにしてやるんだって」
「この娘を尊敬ねぇ」
ぬーちゃんの毒でプクプク泡を吹いて倒れているウェンディを見てタマモはふぅーっとため息を付いたのであった。
セイは伸びてるウェンディを宿屋に放置して一人で冒険者ギルドに向かった。
「昨日は大変でしたね」
受付嬢のリタがそう苦笑いをする。
「何か稼ぎのいい仕事ないかな?」
「あるにはあるんですけど、セイさんはまだEランクですから高額な依頼は受けられないんですよ。それに借金持ちでより信用も下がったので・・・」
グサッ
借金持ちという言葉が胸に刺さる。
「アイアンさん達とパーティを組めばBランクの依頼も受けられますよ」
依頼には推奨ランクがあって、自分のランクの一つ上までしか受ける事ができないらしい。しかし、アイアン達は昨日の騒ぎでパーティの話がうやむやになってしまったからな。
「ウドー討伐は常駐依頼って聞いたけどあれは俺一人で受けられる?」
「ウドー討伐は受けられますけど昨日たくさん討伐したからあまりいないんじゃないですか?」
「それもそうか。なら他にはある?」
「1匹当たりの値段は下がりますけど小鬼退治なら数を稼げるかもしれません。たくさんいますから」
「子鬼?」
「はい。但し巣を見つけた場合はすぐに逃げてギルドに報告を下さい。ワラワラと湧いて一人では太刀打ちできませんので。その代わり小鬼の巣の情報料をお支払いします。後で巣討伐の依頼をギルドから出す事になりますからそれに参加されてもいいかもしれませんね」
「了解。あとどうやったらランクは上がるの?」
「ポイント制です。1000ポイント集まったらランクDに上がります。ウドーは5ポイントですので昨日セイさんには35ポイント溜まってますよ」
もっと数を倒したけど35って事はポイントはパーティで分けるんだな。
「子鬼は何ポイント?」
「3ポイントです」
300匹倒してもランク上がらんな。
「ちなみに巣を潰したら?」
「その時点で無条件でDに上がります。でも止めて下さいね。死にますよ」
と釘を刺された後に子鬼が出るポイントを教えて貰う。複数あるけどどれも村の近くだ。子鬼は夜になると村に襲撃してくるらしい。まぁ、襲撃っても子鬼なんてワンパンでどうにかなる。鬼になってしまったら少々手強いけど。
「私を置いて行く気?」
「ウェンディ、お前もう目が覚めたのか?」
「だんだん毒耐性がついてきたわよっ。神の力を舐めないでよねっ」
「あ、昨晩暴れた方ですね。一緒に行かれるなら冒険者証はお持ちですか?」
「そんなのある訳ないじゃない」
「では先に登録をお願いします」
昨晩の損害の支払いはすべて借金にしてもらったので、なけなしのお金でウェンディを登録する。
「おっ、何だそりゃ?」
「お前には関係無いよ」
「聞いてたぜ、子鬼の躾だろ?俺に任せろよ。ぶん殴ってやるぜ」
確かにサカキは鬼でもある。子鬼ならこいつの方が適任か。
「じゃあ、サカキも登録します」
「じゃあ私も行こうかね」
タマモ参戦。
「ではワシもじゃ。小娘にワシの力を見せつけてやるワイ」
ぬーちゃんは従魔扱いなので身分証なし。皆の登録料で手持ちがほとんど無くなってしまった。
「では皆様でパーティということで宜しいですね。パーティ名は何にされますか?」
「ウェンディーズ。こいつらセイの下僕なんでしょ?だったら私の下僕も同然ねっ。私がリーダーだからウェンディーズで決まりっ」
ウェンディーズ・・・
ファストフード屋でも始める気かこいつは。
ウェンディに下僕と言われて怒り狂うクラマをなだめてウェンディーズとしてパーティ登録をしたのであった。