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ここで面白楽しく

騙された騙されたと散々ブツブツ言うヘスティア。


誰も騙してなんかいないぞ。人聞きの悪い。


「まったく、神を欺くとはふてぇ野郎だ」


「欺いてなんかないだろ?俺はウェンディを神に戻さなきゃならないんだから」


「そんなのもういいじゃねぇか。ここで面白楽しく暮らせよ。お前達がいたら俺様の退屈がマシになるってもんだ」


「ちょっとぉっ!何勝手なこと言ってんのよっ」


「いいかウェンディ、お前が神に戻ったらコイツら元の世界に帰っちまうんだろ。そしたらまた天界でずっと同じことの繰り返しだ。それでもいいのかよ?」


「げ、外界に降りればいいじゃない」


「お前は今見習いだから普通の人間にも見えてるみたいだがよ、神に戻ったら俺様と同じだ。誰からも見えなくなる。せいぜい眷属の精霊と神獣ぐらいしか話し相手もいねぇだろ?」


「そ、それはそうかもしれないけど」


「な、お前を捨てた国なんてどうでもいいじゃねぇか。こいつらとここにいればいいだろ?」


「わっ、私は」


「私は?」


「私は神に戻りたいのっ」


ウェンディは迷いながらもそう宣言した。


「ヘスティア、俺は人間だ。長生きしてもせいぜいあと5〜60年くらいしかおらん。お前らにしたらあっと言う間だろ?このままここにいてもいつまでも面白楽しく暮らせるわけじゃないぞ」


「そうか、人間はすぐに死にやがるからなぁ」


「そういうこった。俺がこいつを神に戻せんまま死んだらサカキ達もここに取り残される。妖怪の里もどうなるかわからんから帰えんなきゃならないんだよ。だから一旦アネモスには帰る。またここにも来るから」


「なんだよ。ずっとここにいると思ったから力を貸してやったのによ・・・」


寂しそうにそう言うヘスティア。


「そう言うな。ウェンディと契約してしまったからやるべき事を先にやらんとな」


「なら俺様とも契約したらここにいてくれんのか?」


「なんでヘスティアが私の下僕と契約すんのよっ」


「なんの契約かわからんけどウェンディが先だ。それとお前は一生懸命に祈りを捧げているここの人達に加護をちゃんと与える役目を果たせよ」


「うるさいっ。人間が説教すんな。お前は大神か」


大神とは創造神のことか。説教とかするんだな。


「セイ、お前は一体なんの話をしているんじゃ?」


一人会話に取り残されているビビデ。


「あぁ、ごめん。ちょっとヘスティアとね。あ、この剣は神様も殺せるぐらいの性能があるらしいよ。素晴らしい剣をありがとう」


「神をも切れるじゃと?」


「力がない人が持ったら逆に力を奪われる剣みたいだけど俺は大丈夫みたい」


「ワ、ワシが神殺しの剣を打ったというのか・・・」


「神殺しというより、それぐらい素晴らしい剣だってことだよ」


セイがそう言うとビビデは自分の両手を見つめて泣き出した。


「おお、火の神ヘスティア様、鍛冶の神ヘパイストス様よ。ワシに力を貸して下さった事を感謝申し上げる」


感涙するビビデ。


「鍛冶の神?なんだそりゃ?」


ヘスティアの頭にはてなマークが見える。


「鍛冶の神様はいないの?」


「いねぇよそんなもん。が、鰯の頭も信心からと言うからな。そのうちそんな神が生まれるかもしれんな」


異世界の神がなぜそんな諺を知っているのだ?


「ヘスティア、ビビデは剣を打つときにいつも熱心にお祈りを捧げてんだ。ちゃんと力を貸してやれよ」


「ちっ、しょうがねぇな。あの防具を作った奴はこいつの関係者か?」


「兄弟だよ」


「そうか。ほらよ」


「ん?なんかしたのか?」


「力を貸してやれとお前が言ったんだろ?だから貸してやったんじゃねーかよ。毎日毎日こいつらだけ見てるわけにもいかねーだろ」


「力を貸したって?」


「こいつにさっきみたいな熱を出せるようにしてやった。俺様が直接力を貸す程じゃねーけどな。その剣を打つ時以外はあんな高熱いらんから十分だろ?」


へぇ、神だとそんな事も出来るのか。


「ビビデ、素晴らしい剣を打った褒美に神様が力を授けたって。かなりの高熱を出せるようになったって。ついでにバビデにも同じ能力を授けたらしいよ」


「本当かっ?」


「試してみたら?」


そう言われたビビデは炉に鉱石を放り込みいつものように祈りを捧げて熱を上げていく。


「こっ、これはっ」


炉を燃やしている火が真っ赤から青白く変わっていく。


「信じられん・・・」


「毎回神様に一生懸命お祈りしていた結果だね」


そういうとガバッと抱きつかれた。胸毛や腕毛は治癒されていないからめっちゃチクチクする。


「ありがとう、ありがとうっ」


「こちらこそ素晴らしい剣をありがとう。というかお礼はヘスティアにしてね。俺達はもうそろそろアネモスに帰るけどまたお土産持って遊びに来るよ」


「うん、うん。いつでも来い」


そしてバビデの所にもそろそろ帰る事を伝えると同時にヘスティアの加護が与えられた事を伝えると兄弟が抱き合って喜んだ。


セイはせめてもの礼だとドワーフの秘酒である火酒を大量にもらったのであった。



「ヘスティア、これ持って帰るか?」


「天界には持っていけねぇよ」


そうなんだ。


「俺達は明後日ぐらいにはアネモスに帰るね」


「本当に帰っちまうのかよ?」


「向こうにも帰ると言ってあるからね。こっちのギルドにも顔だして、もう一回孤児院に肉を届けて挨拶してからになるけどね」


「そうかよ・・・。じゃなっ」


そう言ってヘスティアはあっさりといなくなってしまった。もっと駄々をこねるかと思ってたけど。神って気まぐれだな。


宿に戻ってあと2泊したらここを出る旨を伝え、飯食って寝たウェンディをおいて宝石屋に向かった。


「お待ちしておりました」


ケースに入れられたネックレスを見せてくれてたので確認する。これがいいのか良くないのかさっぱりわからない。


「じゃ、これで」


と金貨7枚をお支払い。


「あの・・・」


「はい?」


「冒険者ギルドか鉱石ギルドには行かれましたか?」


「いや、バタバタしてて顔だしてないや」


「そうですか。ではまた宜しくお願い申し上げます」


?と思いながら宝石店を後にした。


宿屋に帰って式神を飛ばす。タマモが全然帰ってこないので通信の式神だ。勝手にタマモを探してメッセージを届けてくれるのだ。


寝て起きるとタマモが宿に戻って来ていた。


「もう帰るのかい?」


「用事は済んだからね。後はギルドに帰るって挨拶したら終わりだよ」


「ここにはまた来るのかい?」


「そうだね。知り合いも出来たしね」


「そうかい。そりゃ良かったさね」


「あ、タマモ」


「なんだい?」


「これ、プレゼント。いつもありがとうね」


「へぇ。セイも女にこんな物をくれる歳になったんだねぇ」


タマモはそう言って赤い宝石のネックレスを手に取った。


「付けておくれよ」


「自分で付けるもんじゃないの?」


「こいうものは男が女に付けてあげるもんさね」


と、タマモはネックレスの付け方を教えてくれ、手で長い髪を上に上げてうなじを出した。


「はい、これでいい?」


色白美人のタマモに赤い宝石がよく似合う。タマモは宝石を手に取り嬉しそうに見ていた。


「砂婆、ちょっと来て」


砂婆には金が混ざったようなやつ。


「こんな婆さんにもくれるのかい?」


そう言って涙ぐむ砂婆。


「いつも美味しいご飯作ってくれてるからね」


「そうかい、そうかい。ありがとうよ。長生きはするもんじゃて」


いや、砂婆とか寿命ないよね?


「ユキメ、この前の礼だ」


待ってましたと言わんばかりに出てきたユキメ。前々から思ってたけどひょうたんの中から外は丸見えなのだろうか?


ユキメには水色のやつ。


「セイーっ。ありがとうっ」


ユキメはセイに抱きついてほっぺたにチュッチュッした。凍傷になるからやめてくれ。


「フフフフッ。私のが一番綺麗だわっ」


ご満悦のユキメは里で見せびらかせたいのかウキウキと帰って行った。


まだ起きてこないウェンディ。なんか面と向かってネックレスを渡すのが恥ずかしくなったセイは寝ているウェンディの首に青い宝石のネックレスを付けておいた。


「タマモ、ちょっとギルドに顔を出して、孤児院に肉届けてくるよ。ウェンディを見てて」


「はいよ」


セイはぬーちゃんに乗ってギルドに顔を出しにいった。



「あーっ、やっと来やがったぜ。ギルマスー、セイが来たぞ」


そう大声を上げたのはジールだった。


「どうしたの?」


「どうしたもこうしたもあるかっ。ずっとお前を探してたんだ。ビビデのおやっさんの所にも何回も行ったんだぞ」


ジールは俺を探していたらしい。ビビデの所でも入れ違いになってたんだな。ビビデは剣作りでジールが来ても相手をしなかったみたいだし。


「お前、この国にいる間は顔を出してくれと言ってあったよな?」


怒りを抑えた顔のギルマス。


「だから顔出したじゃん」


「あれから何日経ってると思ってんだっ」


「いや、俺はここの冒険者じゃないし。もう依頼を受けるつもりもなかったから」


孤児院には直接肉を持って行ってるからな。


「依頼が3つある」


人の話をきかないギルマス。


「受けないよ。明日帰るから」


「なんだとっ?」


「もうボッケーノでの用事が済んだから。あとはもう一度孤児院に肉届けて明日の朝には出るよ」


「うるさいっ。これが済むまで帰さんっ」


なんだよそれ?


依頼を見ろと駄々をこねるギルマス。仕方がないので取り敢えず3つの依頼を見てみた。2つはギルドからの指名依頼、一つはあの宝石店からの指名依頼だ。


「えー、宝石店からはダンジョン産の宝石採取依頼か。これは無理だね」


「どうしてだ?宝石屋がお前がすげぇ宝石を持ってきたからわざわざ指名で依頼したと言ってたぞ」


「俺はもうあのダンジョンで採掘出来ないから無理なんだよ」


「どういうこった?」


「ダンジョンが俺達をお断りにしたんだよ。俺達が行ったらその間は鉱石も魔物も出なくなるから採掘している坑夫に迷惑がかかるから無理なんだ。アネモスのダンジョンにも入れなくなってるから同じだと思うよ」


アネモスのギルマスから聞いたダンジョンの仕組みを説明する。


「それは本当か?」


「帰って来るときに魔物が一匹も出なかったから間違いないよ」


「セイ、最奥の鉱石を手に入れたのか?その剣はまさか・・・」


「そうだよ。メラウスの剣。ビビデが打ってくれたんだ」


「みっ、見せてくれっ」


「いいけど見せるだけだよ。なんか力を奪う能力があるらしくてね」


と抜いて見せる。


「なんだそのすべてを吸い尽くすような剣は・・・」


「神殺しの剣?」


誰も見たことがないこの世の全てを吸い込むような黒い剣。ゴクッと唾を飲むジールとギルマス。そしてその場にいた冒険者達。


「わ、わかった。宝石採取の依頼は取り下げてもらおう」


メラウスの剣はギルマスの怒りも吸い取ってくれたようだ。


「えっと次は草原の炎の竜巻の・・・原因調査・・・」


「この前の夜に草原で巨大な炎の竜巻が発生したとの目撃情報があってな。他の奴らに確認に行かせたらすべて焼き尽くされていた。これを調べ・・・」


「大丈夫っ」


「は?どういうこった?」


「もう大丈夫。春には新芽がたくさん芽吹くからっ」


「もう見てきたのか?」


というより俺達は張本人なのだ。


「乾いた土地での自然発火。もう大丈夫だから」


「そ、そうか。もう確認済だとは思わなかったぜ。これは報酬の・・・」


「いらないっ。依頼を受けてやったことじゃないから」


そんなマッチポンプみたいな事出来るか。


しかし、ギルドから指名依頼を出して解決した物をハイそうですかとはならないらしい。


「じゃ、俺からそのお金で依頼を出すよ。孤児院に肉を寄付して。冒険者達にも割の合う収入になるように報酬金額は任せるから」


「いいのか?」


「長くは続かないだろうから様子を見て時々出してね」


「わかった」


最後の依頼はワイバーンの巣の調査か。


「調査団組んだんじゃないのこれ?」


「失敗した。またワイバーンが出てな。死人こそ出て来てないが大怪我をして撤退した」


そうか。もう出たのか。


「ギルマス、ここの噴火の歴史を教えてくれる?」


「噴火の歴史?」


セイはギルマスの部屋に行って少し話を聞くことになったのであった。



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