俺はそんな目で見られたくはないからスルー
ボッケーノ王都に戻り、孤児院にブラックオークの肉を寄付しにいく。
「こんなに頻繁にありがとうございます。子供たちもたいへん喜んでおります」
ととても感謝される。
「なんでここはこんなに子供がいるのよ?」
ウェンディは孤児院を知らないらしい。
「ここは孤児院といってね、親がいなくなってしまった子供達が集まってるんだよ」
「私のところにはこんなのなかったわよ」
「そうだね。ここは強い魔物が多いみたいだから親御さんが亡くなってしまうことが多いのかもしれないね」
「ふーん」
「肉のおにぃちゃん、この女の人は彼女?」
肉のおにぃちゃんとか言うな。
「違うよ。ウェンディっていう名前の冒険者仲間さ」
「そこの子供、私はウェンディ。風の神様よ。セイは私の下僕なの」
「風の神様?火の神様とは違うの?」
「そうよ。あんなのよりずっとすっごいんだからっ」
何がすっごいんだろうか?
「胸とか負けてるじゃん」
またいらぬことを言ったセイはウェンディにポカポカと殴られる。
「キャハハハっ」
俺達のやり取りが面白かったのか大笑いする子供達。
「風の神様ーっ。一緒に遊ぼう」
無邪気に神様と呼ばれて一気に機嫌を治すウェンディ。
「いっ、いいわよ。しょうがないから遊んであげる」
無邪気な子供達は容赦が無い。幽霊に集られるが如く子供達に集られ、遊びというより殴る蹴るの暴行を受けるウェンディ。
「まぁ、まぁ。ありがとうございます。私達も手が足りなくてあまり子供達の遊び相手になってあげられなくて」
女性神官はウェンディがもみくちゃにされてるのを見てホッとしたようす。毎日こんなのされたらたまらんだろうな。
「いい加減にしなさいよーっ」
ぶほぉぉぉー
「バカ、子供に暴風なんて出すなっ」
コロンコロンと風に押されて転げていく子供達。
「キャハハハっ」
あれ?ウェンディが手加減できたのか?転がった子供達は喜び怪我はしていないようだ。
「何よ?」
「い、いや」
「おねーちゃんもっとやってーーっ」
ぶほぉぉぉー
コロンコロン
「キャハハハ」
際限無く続く暴風遊び。
「まぁ、お連れ様は風の魔法使いでらしたの」
「いや、あいつは風の神様なんですよ。不器用で風の威力を調節出来なかったのに子供達にはちゃんと手加減出来て驚きました」
「風の神様?」
「はい。信じられないでしょうけど」
「神様が顕現なさってるのですか」
「ヘスティアもたまには顕現してるんじゃないですかね?普通は神様は見えないんですけど、ウェンディは訳合って力が落ちているので皆にも見えるんですよ」
と、少しごまかした。ここは他国だからバレても構わない。ここの信仰心は関係ないだろうからな。
「まぁまぁまぁ大変大変。皆を呼んで来なくては」
慌てて女性神官は他の神官達を呼びに行ったのだった。
「風の神様、ようこそ我が火の教会へ」
「どうしたのこれ?」
ウェンディも突然の展開で驚いている。
神官達が勢ぞろいして頭を下げているのだ。
「神官さん達、そんなにかしこまらないで下さい。ウェンディはこの国になんの加護も授けてませんし」
しかし、こんなに素直に信じてくれるとは驚きだ。だいたい可哀想な目で見られるのに。
「いえ、子供達にお恵みを下さいました。バチではなくお恵みを・・・」
そう言ってヨヨヨと泣く女性神官。
「我々は今後風の神様であられるウェンディ様を祀りたいと思います。そう、この教会も風の教会として」
両手を組んで涙を流しながらそう言い出す神官達。
「そ、そお?」
エヘヘへへとニヤけるウェンディ。
「やめとけっ。ヘスティアにシバかれんぞ」
信者の横取りとかまずいに決まってる。
「だって、こいつらが勝手にやってくれるって言っただけじゃない」
神官をこいつとか言うな。
「それでもだっ。丁重にお断りしろ。お前はアネモスの神様だろっ。あそこはどうすんだよっ」
「知らないわよあんな国」
プイッと横を向いてそういうウェンディ。
「おーまーえーなぁ」
とセイがウェンディにチョップしようとした時に
「よぅ、ひんぬーぇんでぃ。俺様の信者を横取りとか良い度胸してんじゃねーか」
ほら来た。
皆にはヘスティアの事は見えない。
「なっ、何よ?私はなんにもしてないわよっ」
神官達にはウェンディがいきなり空間に向かって話し出したように見えている。
「よう、セイ。この落とし前どう付けてくれんだ・・・・おいセイ? セイってば。無視すんなよお前っ」
セイはヘスティアをスルーする。幽霊無視スキルを神にも発動だ。
「ひんぬーぇんでぃっ!こいつ無視しやがるぜ。お前から何とか言えよ」
「何で私が言わないといけないのよっ」
「うるさいっ。お前落ちこぼれた時にこいつの従者になったんだろうがっ」
「言わないでっ。大きな声で言わないでっ」
空間に向かって手を抑えて何かをしているウェンディ。神官達は段々とウェンディを見る目が、あぁという感じに変わっていく。
「ウェンディ、今日はもう疲れたみたいだね。そろそろベッドで休んだ方がいい。神官さん達申し訳ありません。ウェンディは疲れが出たみたいですのでそろそろお暇します」
「あらー、そうですか。そうされた方が宜しいですわね。オホホホホ」
神官達は一気にウェンディを可哀想な目で見るようになった。
「ちょっとーっ、ここは私の教会になるんでしょっ」
「そうですわね。また機会がありましたら。ウェンディ様にヘスティア様のご加護がありますように」
「何で私がヘスティアの加護なんて貰わないといけないのよーーっ」
「さ、ウェンディ。身体に障るから帰ろう」
看護するようにウェンディを扱うセイ。
「いやよーーっ。私はここで敬われるのーーっ」
セイは暴れるウェンディをズルズルと引きずっていった。
いつまでもセイに引きずられながら人前で駄々をこねるウェンディ。時折ヘスティアに八つ当たりをしたりする。すれ違う親子がウェンディを指輪さすと「しっ、見ちゃだめ」とか言われてるし。
「いい加減にしろ」
とチョップをするとウェンディは目にいっぱい涙を溜めていた。
「なんで邪魔するのよっ」
「ここはヘスティアが管轄する国だろ。ややこしくなるわっ。お前はちゃんとアネモスで神に戻してやるからいつまでもごねるな」
「よぉ、セイ。お前は俺の事見えてんだろ?」
「見えてるよ。何しに来たんだよ?」
「なんだよ。わざと無視したのか」
「あそこでお前の事を話したらもっと大事になるだろうが。ヘスティアがウェンディと暴れたらあの辺一帯火の海になるわっ」
「そういうことかよ」
「で、何しに来たんだ?」
「暇なんだよ」
「暇ならここの国にちゃんと加護を与えろ。ボッケーノ周辺は強い魔物が多いみたいだぞ」
「しょうーがねぇだろ。魔物をなんとかしようとしたら国が滅びるんだからよ」
ん?
「どういうこと?」
「俺の力は炎だ。魔物を弱めるには火を使う。なんもかんも燃えちまうだろうが」
「今までまでどうしてたんだ?」
「人間が対処できないぐらい強いのが出だしたら大噴火を起こして魔物を弱めるんだよ。100年おきぐらいでしかやる必要はねぇ」
「日頃はバチ当ててんのか?少し前に噴火したって聞いたぞ」
「そんなことするかっ。ウェンディが風吹かせなくても普通に風くらい吹くだろ。噴火も同じだ」
なるほど。加護の噴火と自然の噴火があって、少し前のは自然の噴火ってことか。
「その間は何をしてるんだ?」
「別に。寝てるかぼーっと国の様子を見たりするだけだ」
「そりゃ暇だな」
「だろ?」
「あのダンジョンはお前が作ったのか?」
「サラマンダーの部屋だけな。あいつとそこそこの戦いが出来るやつなら他の魔物にも対処出来んだろ。だから褒美をやるんだ。まさか倒せる奴が来るとは思ってなかったけどな」
「あんなのと戦ったら死ぬ奴の方が多いだろ?」
「弱っちいやつの時はあいつも出てこねぇよ。いい勝負出来ないやつの時でも殺すまではしてねぇし」
ヘスティアは意外と色々考えている神だった。口と態度は悪いけどいい神様なのかもしれん。
「あのサラマンダーが出した鉱石は特別なものなのか?」
「そうだ。あれは自然には無い。あいつの腹の中で神力を蓄えて作られたものだ」
ブスッとむくれるウェンディの隣でヘスティアとそんな話をしながらビビデの所に向かった。
ビビデは呼んでも出てこないので工房に入ると物凄く暑い。というか熱い。ほら倒れ掛けてんじゃないかよ。
「ビビデ、大丈夫か?」
「セイよ、あと少しじゃ。邪魔するな」
と怒鳴られたので外に出てバビデの元へ。
「修復終わったぞ」
と防具一式を渡される。
「へぇ、こいつがイフリートの炎に耐えた防具か。どれどれ?はーん、ワイバーンの皮をブラックドラゴンの血で染めたのか。耐炎に特化したんだな」
「ブラックドラゴンの血?」
「あぁ。ドラゴンは総じて炎に耐性を持ってるからな。ワイバーンもドラゴンの劣化種だから軽さと耐炎性を高めたってところだろ。よく考えてあるわ」
「セイ、お前さっきから誰と話してんだ?」
「幽霊」
誰が幽霊だっ!とヘスティアが突っ込むけどスルー。
「バビデ、ブラックドラゴンの血って何?」
「兄貴に聞いたのか?」
「いや、幽霊から」
「はっ、物知りな幽霊だな」
「それ、物凄く貴重な物なんじゃないの?」
「そうだな。まぁ、こいつを使う必要がある防具を着る資格があるやつなんかそうはいなからな。気にすんな」
「金貨1枚しか払ってないのに」
「気になるならそのうちブラックドラゴンを狩って血を返してくれりゃいい。それまで貸しとくよ」
そんな魔物を倒せるのだろうか?というより出会えるのか?
「う、うん。倒せたら返しにくるよ」
「楽しみに待ってるぜ」
ヘスティアが居てくれたおかげでバビデの心意気に気付けた事に感謝するセイであった。