知らない間に引導を渡す
「帰ったぞー」
「あっ、お前・・・」
「よお!」
「誰だお前達は?タッパの知り合いか?」
「あんた、この子達はセイとウェンディといってね、わざわざタッパを訪ねて来てくれたのよ」
夕方になってタッパと父親が帰って来た。
「はじめまして、セイと言います。ボッケーノ王都でタッパと知り合って訪ねると約束していたのでお邪魔しました」
「よく来てくれたなセイ。その可愛い娘は誰だ?まさか嫁か?」
違う。なぜみなこいつを俺の嫁とか言うのだ?
「パーティメンバーのウェンディだよ。他の仲間もみんなボッケーノに来たんだ」
「そうだったのか。よく来たよく来た」
タッパはウェンディを見てデレていた。中身を知らないとこうなるんだな。しかしタッパは母親から小声であの娘はやめときなっと注意されていた。お母さん、正解だ。
「もう国に帰るのか?」
「まだもう少しいるけど少し時間が出来たから寄ってみたんだ。ちょっと聞きたいことがあってね」
「おぉ、何でも聞いてくれ。親父今日泊まってもらって構わねぇよな?」
「かまわんが飯の用意はどうするつもりだ?いきなり来られても用意しとらんぞ」
「あ、ご飯はお構いなく。オーク肉とか色々持ってますので」
「は?どこにだ?」
「ぬーちゃん、持ってきて」
「どれにするー?」
「タッパ、どれが食べたい?ノーマルオーク、コカトリス、角有り、カニがあるぞ」
「角有り?カニ?」
「角有りはミノタウルスの角有り、カニは海の魔物だね」
「ミノタウルスって、あの牛の化け物みたいなやつか?」
「角有り肉は旨いぞ。それにするか?」
「あ、うん」
ぬーちゃんは角有りの肉を持ってきてくれた。
「これ売ったらいくらぐらいになるんだ?」
「銀貨50枚だっけな。一度に10とかしか買い取ってくれないから余ってんだよ。ぬーちゃん肉好きだから別にいいんだけど」
「そ、そんな高級な肉を・・・」
「帰ったら角有りが生まれる山があっていくらでも狩れるから気にせずに食ってくれ」
「どうやって狩るんだ?」
「ぬーちゃんやクラマが狩ってくれるから。俺は見てるだけ」
「ぬーちゃんって強いんだな」
「そうだね。この前のワイバーンはほとんどぬーちゃんが狩ったから」
「ワイバーンを狩った?あのずっと残ってた依頼を受けたのか?」
「そう。25匹いててね、結構儲かったんだよ」
「25匹だと?嘘つけ・・・ってマジか?」
「ほとんどぬーちゃんがやっつけたんだよ。俺は皮と毒袋拾いをしただけ」
「ぬ、ぬーちゃんってそんなに強いのか?」
「ワイバーンは肉にならないし、周りに人もいなかったからね。毒で一撃だよ」
「そんなに強い毒なのか・・・」
「即死級の毒だよ。こっちもヤバいからあんまり使って欲しくないんだけど」
タッパはセイのする異次元の話に付いていけなかった。ワイバーンは1匹でも死人が出るぐらいヤバい魔物なのだ。それを25匹・・・
「いくらの報酬になるんだ?」
「全部で金貨30枚にならないぐらい。皮は3枚防具に使ったし」
「ワイバーンの防具を作ったのかよ」
「なんかビビデの弟が防具職人でさ、上下の服と手袋、ブーツ、マントのフルセットだよ。耐炎性が凄くて助かったわ」
「もう使ったのか?」
「ちょっとね」
その後は角有り肉を堪能した。タッパより両親の方が喜んでいたので宿泊代がわりに塊の残りも全部渡しておいた。
部屋はウェンディと一緒だ。別に外で寝るときはいつもぬーちゃんと3人で一緒なので構わないが部屋だとなんか、なんというか、なんかなのだ。
ウェンディはベッドに寝かせて、セイはぬーちゃんにもたれて寝たのであった。
おいっ。
朝起きるとウェンディもぬーちゃんの上で寝ていた。いつ乗ったんだ?
簡単な朝飯をご馳走になって木こりの仕事を見学させてもらうことに。
「俺、一生木を切って過ごすのが嫌なんだよ。だから冒険者になったんだよな」
「普通に斧で木を切るのって大変だよね」
タッパのお父さんは筋骨隆々だ。ガツンガツンと木に斧を食い込ませていく。
「斧以外に木なんて切りようがないだろ?二人の鋸ひきでもやるのか?」
「いや仲間にかまいたちってのがいるから簡単に切れるんだよ。クラマも同じ事が出来るし」
「かまいたち?クラマってあのじーさんだよな。あの刀で切るのか?」
「刀でも切れるけど、かまいたちの技の方が早いんじゃないかな?」
「どんなのだ?」
というのでクラマとかまいたちを呼び出した。
「わっ」
「みんなここに住んでるんだよ。サカキも出て来いよ」
「酒もねぇのに呼ぶなよ」
「何なんだそれ?」
「アイテムボックス?みたいなやつかな」
驚くタッパとお父さんに皆を紹介した。
「クラマ、かまいたち、木を切るの手伝って」
「はい、ヌシ様。どれを切ればいいですか?」
「タッパのお父さん、どれを切ればいいかな?」
「えっ、あ、あぁ。ならこいつを頼む。あっち側へ倒してくれ」
「じゃ頼んだよ」
「はい」
シパっ
「よっ」
かまいたちが切った木をサカキが蹴飛ばして言われた方向へ倒した。
「枝は払いますか?」
コクコクと頷くお父さん。
シパパパと枝を払って完了。
「こんな感じ」
「な、なんだよそりゃ・・・」
「ありがとうね。帰ったらまたなんか差し入れるよ」
「はい、いつでもお呼び下さい」
かまいたちはスッと帰っていった。
「セイよ、嫌な空気が山頂付近から流れて来おるぞ」
クラマがなんかの巣があるのでは無いかと言う。
「タッパ、前にブラックオークを倒したと言ってただろ?それどのへん?」
「この山を登った裏側だ」
「クラマ、ブラックオークの巣があるかもしれないね。狩りに行こうか」
「ブラックオークの巣?なんだそれは?」
「魔物が生まれる所があってね、それが巣と呼ばれているものらしいんだよ。多分山の上かその向こうに巣がありそうだから肉を仕入れてくるよ」
「ちょっと待ってくれ、巣があったらどうなるんだ」
「どんどん生まれてくるよ。それがブラックオークなら宝の山だね。いくらでも肉が狩れるから」
「い、意味がわからんっ」
「んー?ブラックオークの牧場って感じ?」
「セイー、早く行こうよー」
「ちょっと行って来るわ」
「お、俺も連れてってくれ」
タッパが付いてくると言うと、どうやらお父さんも行きたいようだ。
ぬーちゃんが元の大きさになると乗れるけど・・・
「タッパ、お父さん。怖がらないでくれる?」
「何がだ?」
「今のぬーちゃんに乗れるのは俺とウェンディの二人なんだよ。タッパとお父さんを乗せようと思ったら元の姿にならないと無理なんだよね」
「元の大きさ?今がそうじゃないのか?」
「いや、もっとデカいし、見た目が怖いから先に言っておこうかと」
「噛んだりはしないよな?」
「大きくなってもぬーちゃんはぬーちゃんだよ」
「なら大丈夫か・・・」
「ぬーちゃん、元の姿に戻ってみんなを乗せてくれるか?」
「戻っていいのー?」
「でも毒を出したらダメだよ」
「わかったー!」
ぬぬぬぬんっ
元の厄災の塊の鵺になったぬーちゃんを見てタッパとお父さんは泡を吹いていた。
サカキはひょうたんに入り、クラマは自力で飛ぶ。
「早く我に乗れ」
泡を吹いているタッパとお父さんを咥えて背中にポイッと乗せる。
「何よ、あんたこんなにデカかったの?」
ウェンディもぬーちゃんの本当の姿を初めて見る。
「そうだ。貴様、我の尻尾に触るなよ。手加減出来ぬからな」
元の鵺に戻ったら毒の強さも飛躍的に上がる。気絶させるだけとかの加減が難しくなるのだ。
クラマの先導で巣らしき所に飛んでいく。山頂付近かと思ったらそこよりかなり離れていた。地形的に風が谷から山に当たって吹き上げるような感じなのだろう。
「あそこじゃの。ウジャウジャおるわい」
「サカキとクラマで狩って来てくれ。肉は俺達で拾うから」
いつものごとくサカキは殴り殺し、クラマはシパシパと切っていく。
「嘘だろ・・・。ブラックオークがあんなに簡単に」
「さ、肉を集めるぞ。ここに集めてくれたらぬーちゃんが里にしまってくれるから」
皆で肉拾いをする。
「セイ、そっちに一匹いったぞ」
「サカキ、わざとだろ?」
「一匹ぐらい殺れよ」
「うわっ、一匹こっちに来たっ」
タッパが剣を構え、お父さんが斧を振りかぶる。
「タッパ、自分で殺る?」
「お前、剣持ってないだろうが」
「これぐらいなら大丈夫だよ。ウェンディと一緒に下がってて」
タッパのあの構えじゃ危ない。弾き飛ばされそうだ。
腹に力を溜めて襲って来たブラックオークの腹に回し蹴りを叩き込み、前のめりになった顔面を蹴り上げて殺したセイ。
ブラックオークは肉の塊になった。
それをあぐあぐして見るタッパ。
「セイ、それぐらい一撃で殺れよ」
「飛ばないと顔面に届かないだろが。飛んでるところに攻撃受けたらヤバいだろ」
「これだからチビってのはよ」
誰がチビだ。お前がデカ過ぎるのだ。
「セイ、この奥が巣じゃ。どうするんじゃ?」
「タッパ、ここどうする?このままにしておいたらいつでもブラックオークの肉が取れるぞ」
ふるふると首を振るタッパ。
「クラマ、浄化してほしいんだって」
「そうか。もったいないの」
同感だ。
クラマが風で浄化していく。
「タッパ、これでしばらく魔物は出ないけど、そのうちゴブリンとか生まれて来ると思う。ゴブリンなら大丈夫だよな?」
ふるふると首を振る。
仕方が無い。ここは封印するか。
「サカキ、どっかからこの穴を塞ぐ岩かなんか取ってきてくれ」
「面倒くせぇよ」
と、穴の上を殴って崩落させる。雑だなおい。
ガラガラと崩れて穴がふさがったのでセイはそこを封印した。
「タッパ、この封印は取れないと思うけど触らないように皆に言っておいて。あと、元を断ったわけじゃないから魔物を生む空気が漏れ出たら魔物は出ると思う。まぁ、穴じゃないからそんなにぽこぽこ生まれないとは思うけど」
「な、なぁ。お前はなんなんだ?」
「俺の本業はこういうのなんだよ。魔物退治はサカキ達に任せた方が早いからね」
タッパの家に戻って泊めて貰ったお礼を言って、肉を3つほど渡した。これ以上あっても保存出来ないらしい。
「じゃ、また機会があったら遊びに来るわ」
セイ達は王都へと戻って行った。
「親父」
「なんだ?」
「俺、木こりを継ぐよ」
「冒険者はどうするんだ?」
「仲間には頭を下げる。冒険者で一旗上げようと思ってたけど俺には無理だ」
セイ達を見てタッパは自分が冒険者として一旗上げるのは無理だと悟った。
「あんな奴らがいるんだな」
「あぁ。凄いとかそんなレベルじゃない。あいつら人間じゃねぇ」
「踏ん切り付けてくれて良かったな」
「うん」
「しかし、あいつら木こりやったらすげぇだろうな」
「うん」
セイ達はタッパが冒険者を辞め、家業を継ぐ決心をしたことなど知る由もなかったのであった。