真の相手
バンバン火の玉を撃ち出してセイを攻撃するイフリート。閉鎖されたドーム内はまるでピザ窯の様に温度が上がっていく。多少炎の王がかすってもワイバーンの防具が防いでくれるが、全体的にこんがり焼かれるのは防げない。
「やめなさいよっ」
ウェンディが竜巻を出してイフリートを攻撃するが逆効果だ。纏う炎が一段と大きくなくる。
このメンバーだと火の特性がある相手には分が悪いな。
「ハッハッハ。元神の力とはこの程度か?」
イフリートに馬鹿にされるウェンディ。クラマも浄化の風で攻撃するが全く効かない。
「クラマ、風はダメだ。それにこいつは腐っても神の眷属。浄化は効かん」
「厄介じゃのう」
サカキが隙を見て飛び上がって回し蹴りを食らわすが実態が炎なのかまるで効き目がない。
「どうした?何も我には効かぬぞ。ヘスティア様を愚弄した罪をその身で思いしるがいいっ」
くそっ、仕方がない。
セイは式神を出してイフリートを拘束しようとした。
ボッ
一瞬にして燃やされる式神。
「やはり無理か。ユキメ、頼む。一瞬でいいから出てきてくれ」
この熱い中にユキメを呼ぶのは気が引けたが背に腹は代えられない。
「やっぱり私が必要なのねっ」
ひょうたんから飛び出て来たユキメがセイに抱きつく。が、その瞬間暑さでフラついた。
「ユキメ、氷の息を全力で出せ」
セイはユキメに妖力を注ぎ込み力を与える。ユキメは気力を振り絞って氷の息を吐いた。
「そんな甘っちょろい氷なぞ効くものか」
余裕のイフリート。
「ウェンディ、竜巻だっ」
「喰らえっ、地獄のトルネードっ!」
なぜ神が地獄の技を使うのだ?
ユキメの氷の息とウェンディの竜巻が合体してブリザードとなって吹き荒れる。
「むっ、小癪な」
一瞬イフリートの温度が下がったのをセイは見逃さなかった。
「捕縛っ」
鎖のように繋がった式神を飛ばして拘束の結界術でイフリートを捕獲した。
「ぐぅ・・・。何だこれは・・・」
捕縛しながら相手の能力ごと結界で封じたセイ。
「ユキメ、大丈夫か?」
「大丈夫。セイが熱いのくれたから」
妖力を変な言い方をしないで欲しい。しかも熱いのなら君ダメージを受けるよね?
「ぐぉぉぉっ。貴様、何をしたっ」
「お前を結界で縛った。もう能力も出せんぞ。覚悟はいいか?」
「何をするつもりだっ」
「お前、ムカつくんだよ。いまごめんなさいするなら許してやらんこともないけどな」
「誰が貴様らなんぞに。落ちこぼれた神の下僕の癖に・・・」
またウェンディを馬鹿にしたイフリート。セイは無表情で呟いた。
「じゃあな、大精霊イフリート」
「ダメっ」
滅と言いかけた時にウェンディが止めた。
「なんでだよ?反省もしない強大な力をもった奴はヤバいんだぞ。厄災そのものじゃないか」
「大精霊がいなくなったらどんな影響が出るかわかんないのっ」
「そんなの火の神様が代行してやればいいだろ?眷属の不始末は神の不始末なんだから尻拭いして当然だ」
それでもダメというウェンディ。
「ちっ、ウェンディに免じて滅するのは勘弁してやる。が、罰は与える。風の神のバチだと思え」
そう言ったセイは拘束の結界を縮めていく。イフリートに食い込んでいく式神。
「ぐぉぉぉぉぉっ」
大きな声を出して苦しむイフリート。
「ねぇ、セイ。あなたエグレ娘に耳に息を吹きかけられて喜んでたでしょ」
ユキメがいらぬことを言う。誰が喜んでたんだ。くすぐったいだけだ。
「ほら、こんなのが好きなんでしょ?」
ふぅ~
ピキピキっ
「やめろっ。耳が凍って落ちるわっ」
ユキメに耳に息を吹きかけられて凍ったセイの耳。狐火で炙るわけにもいかず、砂に埋もれているトカゲのそばに行って溶かした。
「ユキメ、まだ大丈夫ならこいつを凍らせてくれ」
「じゃ、熱いの頂戴」
再び妖力をユキメに注いでトカゲを砂ごと凍らせてもらった。
「お疲れ。助かったわ。これでここも随分と涼しくなったし」
用事は済んだのでユキメをひょうたんへ帰そうと思ったら拗ねられた。
「もうっ。私は都合の良い女じゃないのよっ」
「わかった、わかった。ここから出たらお礼にいいものをあげるから」
「ほんとっ?」
「あぁ、本当だ」
「約束ねっ」
そう言ったユキメはセイのほっぺたにチュッとして帰った。ユキメは口紅を付けてないのに唇の形がセイのほっぺたに残る。凍傷みたいなものだ。
「何いつまでキスマーク付けてんのよっ?」
「キスマークじゃない。ヒリヒリするんだぞこれ」
ウェンディはセイの耳元にふぅ~と息を吹きかけた。
「うっひゃぁぁぁ。何すんだよっ」
「フンッ」
チリ頭になったセイの髪の毛が元に戻り、ほっぺたがヒリヒリするのも治った。なんだよ、治癒してくれたのか。
ぐぉぉぉぉぉっとか苦しんでいるイフリートの横でそんなことをしていたセイ達。
「セイー、なんか来るよー」
ぬーちゃんに言われて我に返ったセイ。サカキもクラマもとっくに臨戦態勢に入っていた。
「何やってんだテメーらはよぉっ」
急に現れたのは真っ赤な髪が逆だったような髪型の口の悪い小柄な美人。少し目尻が上がった大きな目、炎のようなビキニとホットパンツにロングブーツ。ギャル?ヤンキー?
「へ、ヘスティア様。申し訳ありません。不覚を取りました」
「やいやい、テメーら何者だ?ウチの可愛い舎弟をこんな目に合わせやがって」
ヘスティア?この柄の悪いおねーちゃんが神?
本当か?とウェンディを見るとコソコソとマントのフードを被り顔を隠している。どうやら事実のようだ。
「あーん?なんだお前ひんぬーぇんでぃじゃねぇか」
やめたれ。ひんぬーと名前をセットで呼んでやるな。
フードを覗き混んだヘスティアはウェンディの顔をみてニヤニヤと笑った。
「ようっ見習い。ここで何してんだテメーわ?」
「うっ、うるさいわねっ」
「降格したってのにいい身分だな。男連れて観光でもしてんのか?」
「誰が男連れてんのよっ。こいつは下僕、下僕よっ」
「ん?」
「な、何よ?」
「お前、誰に従属させられたんだ?」
ヘスティアにそう言われて慌てて左手を隠すウェンディ。
従属させられた?
「従属させたのっ。させられたんじゃないっ」
「だってお前、線がいっ・・むぐぐぐぐ」
「余計な事を言わないでっ」
ヘスティアの口を必死に抑えるウェンディ。
「なにしやがんだっ。この落ちこぼれがっ」
「やめたれっ」
セイは何度もウェンディに落ちこぼれと言うヘスティアにチョップした。
「お前、神にチョップするとは何事だっ」
「うるさい。神なら神らしくしろ。どこのヤンキーだお前は。それにウェンディはそのうち俺が神に戻す」
「なんだぁ、テメーは?」
「セイだ。ウェンディを神に戻す手伝いをしている。ここには特別な鉱石があるから取ってきて欲しいと頼まれただけだ。もうすぐ出ていく」
「お前、神に向かって偉そうな口をきくやつだな。人間なら俺様を敬えよ」
「敬われたければ神らしくなれ。お前ボッケーノに加護与えてないだろ?」
「はんっ、別になんにもしなくてもあいつらは敬ってるから構わねぇんだよ」
こいつ、ろくでもないな。
「そうか。次に落ちこぼれるのはお前だろうな。ウェンディ、その時に神に戻ってたら死ぬほど馬鹿にしてやれ」
「なんだと貴様っ」
「それよりお前は眷属をなんとかしろ。神の眷属の癖に人間を殺しに掛かってきたんだぞ。お前がちゃんと躾られないなら滅するからな」
「あれはお前がやったのか?」
「俺一人じゃない。皆の協力でやったんだ」
「ほー、人間の癖にイフリートが見えるだけでなく抑え込むことまで出来るのか。てか、お前ら全員俺様が見えてるみたいだからイフリートが見えるのも当然か。おもしれぇ。お前、俺様の眷属になれよ」
「は?誰がお前の眷属になんかなるか。俺はウェンディと契約してんだよ」
「契約?左手見せてみろ」
ワイバーンの手袋を脱いで手を見せようとするとウェンディがダメーっと邪魔しに来た。
「はっ、そういうことか。お前、しれっとえげつない事をしやがるんだな」
えげつない?
「どういう意味だ?」
「知らねーなら知らねーでいいわ。それよりあいつを開放しろ」
「また悪さしたらどうすんだよ?」
「しねーよ。っていうかあいつを見える奴がどれだけいるってんだ。なんかここにいる奴ら全員見えてるみたいだがよ。それ、普通じゃねーからな。何なんだお前らは?」
「風の神の加護を受けたウェンディーズってパーティだよ」
「はん、ひんぬーぇんでぃの加護ねぇ」
だからそのひんぬーと名前をセットで呼ぶのやめたれ。
「どっちかと言えばお前の加護なんじゃねーのか?」
「俺は人間だぞ。加護なんて与えられるか」
「ま、いいわ。おいトカゲ、いつまで凍ってんだ」
サラマンダーを氷ごと蹴飛ばして一瞬にして溶かしたヘスティア。神の力ってのはだてじゃなさそうだ。
「コイツラに褒美を渡せ」
と命令すると口からゴトゴトと鉱石を大量に出した。
「こんだけありゃ足りるだろ。イフリート、お前もそんな鎖みたいなのさっさとはずせ」
「も、申し訳ございません。我の力では」
「ちっ」
そう舌打ちしたヘスティアは結界に手をやり引きちぎろうとした。
「むっ」
今度はゴッっと燃やすが一度発動した結界は火や力技では壊せない。
「おい、セイとやら。こいつはなんだ?」
「結界だよ。その気になれば神すら封じられるからな」
「そうか、なら外してやってくれ。礼はそのうちしてやる」
礼なんてどうでもいいが悪さをさせないならと結界を解除した。
「イフリート、次に調子に乗ったら滅するからな」
「はい、セイ様」
イフリートは跪いてセイに頭を下げた。
ヘスティアは振り向かずにイフリートとサラマンダーを連れて消えていったのであった。