最奥の部屋
突き飛ばした、突き飛ばしたとプリプリ怒るウェンディにイラッと来たセイは7つ宝石をゲットしたがこっそりとひょうたんに全部しまい、今の衝撃でどっかにいってしまったとウェンディに告げた。
「取ってよ!私に宝石取ってよーっ!」
「うるさいっ。次は下敷きになってもしらんぞ。お前の身体がプチュッとかならなければいいな」
「そんなのいやっ」
「なら諦めろ」
そう言うとふて寝したウェンディ。セイもそれ以上口をきかなかった。
翌日も拗ねて口をきかないウェンディ。セイもそのまま無言で最奥へとむかった。魔物はクラマがうちわで吹き飛ばしてくれている。
それが半日程度続いた頃、めちゃくちゃ暑くなってきた。
「おい、ウェンディ、微風吹かせてくれ。暑くてたまらん」
拗ねながらも風を出そうとするウェンディ。
「言っておくけど暴風とか突風じゃないぞ。微風だからな。絶対に暴風を吹かすなよ。いいか絶対に暴風を吹かすなよ」
ブホぉぉぉぉッ
ぬーちゃんから吹っ飛ぶセイ。
どんゴロゴロゴロっ
「痛たたた。暴風を吹かすなと言っただろうがっ」
防具に包まれているところはなんともないが頭に出来たコブを押さえながらウェンディに怒鳴るセイ。
「何怒ってんのよ。振りでしょ?」
お前、いつそんなの覚えたんだ?
「こんな時に振りなんかするかっ」
全くこいつは・・・。異世界の神だった癖になぜそんなことを知っているのだ。
ぬーちゃんが駆け寄ってくれたのでもう一度乗って微風だ微風とウェンディに言うセイ。
「微風ってどんなのよ?」
「マーメイを治す時にやっただろうが。あんなやつだよ」
ぬーちゃんに股がり、ウェンディがセイの腰に掴まり再出発。
「こう?」
ふぅ~っ
「うっひゃぁぁぁ。やめろっ」
後ろから耳に息を吹きかけられたセイは聞いた事が無いような声を上げた。
「何よっ。マーメイにやったようにしたじゃない」
「もういい」
「何よもうっ」
クラマは魔物を吹き飛ばしながらセイとウェンディのやり取りを生暖かい目で見ていた。
「暑っううぅ」
どうやら目の前にある空間が最奥のようだ。ここから見ている分には何も無い。大きなドーム状の空間だ。
「セイよ。何も感じんのぅ」
「そうだね。今日は中に入らず飯を食って寝てから明日調査しようか。もう疲れたわ」
ウェンディは耳にふぅ~する度に変な声を上げるのが面白くてあれから何度もやっていた為、セイはぐったりしていたのだ。
「セイ、冷やしうどんにしてやったぞ」
今日の晩御飯は冷やしおろしうどんにかき揚げ付きだ。
「砂婆、旨いよ」
ユキメがキンキンに冷やしてくれたらしい。うどんが少し凍ってるけどこの暑さの中では有り難い。
「ほれ、これを持って寝るがよい」
氷をゴザのような物で巻いた物を渡される。これもユキメが作ってくれたようだ。
「ユキメにありがとうと言っておいて。助かるよ」
ゴザから伝わるヒンヤリ感がとてつもなく気持ちいい。
「ちょっと貸しなさいよ」
「ヤダよ。お前、寒さにも暑さにも強いだろ?汗一つかいてないじゃないか」
妖怪達もウェンディも気温の変化に強い。
「いいから貸しなさいよっ」
「嫌だっ」
ふぅ~
「うっひゃぁぁぁ」
その隙にゴザ氷を奪われてしまった。なんて奴だ。
気持ちよさそうにゴザ氷を抱いて寝るウェンディが寝はからったのをみて奪い返しておいた。ユキメの氷は溶けにくく長持ちするから、ゴザ巻きだとこのまま朝まで持つかもしれない。
ドーム前はセーフティゾーンのようで魔物も出なかったためスヤスヤと寝たセイであった。
「なんか重い・・・」
なにかの重さで目が冷めたセイ。ふとみるとウェンディがほぼ溶けた氷越しにセイに抱きつき足を乗せてガーガーと寝ていた。氷が溶けた水はダンジョンが吸収したのかベチャベチャになってないのが幸いだ。
しかし、このヨダレ垂れの呑気な寝姿を見ると、とても元女神とは思えん。
ウェンディをひょいとのけて起き上がるセイ。グキグキと首を鳴らして身体全体をストレッチ。ずっと足を乗せられていたのか身体中がバキバキになっているのだ。
今何時だろうな?ダンジョンの中だと時間が全くわからん。ダンジョン内は砂婆が飯を持って来てくれて初めて時間がわかるのだ。サカキもクラマもまだ出て来ないから夜中なのかもしれん。
目が覚めてしまったセイはドームの中を外からマジマジと見ると広いのがよくわかる。
ここまでの道程はゴツゴツした坑道って感じだけど、この部屋は人工的な感じだな。というか岩肌が溶けたようにすべすべな感じだ。どこを掘ればいいんだろう?まぁ、掘るのはサカキにやってもらうけど。
振り返るとサカキ達がひょうたんから出てきた。どうやら少し早く目が覚めただけだったんだな。
「随分と早起きしたのじゃな」
ウェンディに乗られていたからとは言わない。
「まぁね」
そして砂婆が朝飯を持ってきてくれた。
「ほれ、いつまで寝ておるのじゃ?」
ウェンディを起こす砂婆。
「ふぁーーあ。よく寝た」
でしょうね。こっちは君のせいで身体中がバキバキなのだよ。
朝飯を食った後に皆でドーム内に入ると天井からゴゴゴゴっという音が鳴り出した。
「罠だっ」
ドームから出ようとすると入口が閉まってる。
「セイっ、こっちに来いっ」
サカキが庇ってくれたのでぼーっと天井を見上げているウェンディをぐっと抱き寄せそこにいく。ぬーちゃんは壁際に飛び退き、クラマは宙に舞う。
ゴゴゴゴゴ ドッゴン
と大きな溶岩が落ちてきた。
「危ねぇっ」
サカキとセイは同時にその溶岩から逃れるように飛んだ。
「キャァァァァッ。スケベっ!どこ触ってんのよっ」
「それどころじゃないっ」
セイはウェンディを抱き締めたまま飛んだのでウェンディがセイの腕の中でポカポカと胸を叩いてくる。
「なんだこいつは・・・」
溶岩の塊かと思ったのは火に包まれた大きなトカゲだった。
「熱っつぅ」
サカキがそいつに一番近い。かなりの熱を発しているようで、サカキですら熱いと言った。
「やっかいだぜこいつはよ」
溶岩のような物を身に纏った巨大トカゲ。
その時、カッと口を開いて火炎放射器のように火を吹いた。横っ飛びで避けるサカキ。
「ぬーちゃん、クラマ、ウェンディを頼むっ。魔物から離れて火が来たら風で防いでくれ」
ウェンディに風を吹かせたらドーム内が嵐になって巻き込まれるのでクラマに頼んだ。
「セイ、どうするよこいつ?」
サカキにそう言われてもわからない。あんな熱そうなトカゲを攻撃するのは無理だ。
サカキと二人でこちらに注意が向くようにギリギリで火炎放射攻撃を躱す二人。
「どうするって言ってもなぁ・・・。あれ腹側はどうなってると思う?」
「そういや赤くねぇな」
「じゃ、浮かして腹側を殴るか。俺が顎を下から殴ってみるからそこへサカキが攻撃してくれ」
「大丈夫かよ?」
「この防具があるから平気。炎には耐えられるから」
と、作戦が決まった所でセイとサカキが正面から突っ込む。溶岩のトカゲはカッと口を開いた。
セイは顔の前で腕をクロスさせて防御態勢のまま突っ込み、サカキは腹に力を込めた。セイはトカゲが炎を吐いた瞬間に顎の下に潜り込みアッパーを食らわしてのけ反らせた。
「どりゃあっ」
のけ反ったトカゲの喉元にサカキのパンチが決まる。
「ちいぃっ、浅いっ。ジジイ、風で引っくり返せっ」
クラマは羽うちわでバサッとのけ反ったトカゲに風を食らわすとひっくり返った。
「はぁぁぁぁぁっ」
サカキがタメを作って腹目掛けてパンチを打とうとした瞬間、爆撃の様な攻撃を食らった。
「くっ」
「ぐわっ」
吹き飛ぶセイとサカキ。
「キャァァァァッ、セイっ」
「熱ちちち、焦げちまったじゃねーか」
サカキはシュウシュウと焦げた腕を修復していく。
「ウェンディ、心配すんな大丈夫だ。防具のお陰で助かったわ」
髪の毛が雷様みたいになったセイも平気そうでウェンディはホッとした。
トカゲがひっくり返ったままジタバタしているところに砂婆が出てきて山盛り砂を掛けて身動が取れないようにしてくれてさっとひょうたんに帰った。ナイスアシストだ。
「なんだお前は?」
いきなり攻撃を食らわしてきた炎を纏った大男にそう言って睨むセイ。
「ほぅ、貴様らは俺が見えるのだな?」
「見えてるに決まってるだろうが。不意打ち食らわせやがって」
「フンッ、いつもならサラマンダーと良い戦いをしたら褒美をくれてやるが、俺が見えるというなら話は別だ。特別に戦ってやろう」
「やめなさいっ、イフリートっ。セイ達は私の下僕よっ」
マントのフードを脱いでいきなり叫んだウェンディ。
「イフリート?」
「そう。こいつは火の大精霊イフリート。ヘスティアの眷属よ」
「誰かと思えば風の神ウェンディ・・・。いや、元神というのが正しいな。落ちこぼれた神なぞ神ではない」
そう言われたウェンディは悔しそうに下唇を噛んだ。
「おい、イフリートやら。ウェンディはそのうち俺が神に戻す。いま落ちこぼれてるからといっていつまでもそうだとは思うなよ。偉そうな口をきいてると神に戻った時に頭下げても許して貰えねぇぞ」
「ふんっ。例え神に戻ったとしてもヘスティア様がおられればそれで良い。何の役にも立たん風の神など元からいらぬのだ」
ウェンディは目に涙をいっぱい貯めて反論出来ずにいる。それを見たセイ。
(こいつ、ムカつくわ)
「おい、ちなみにヘスティアは何をしてくれてんだ?本当は人々に加護なんてほとんど与えてないだろ?バチしか当ててないんじゃないのか?」
「貴様っ・・・。ヘスティア様を呼び捨てにした挙げ句に愚弄するかっ」
「お祈りしても火山の噴火は止まらんと皆に教えたらどうなるかな?バチも皆が十分火の取り扱いに気を付けたら防げる話だ。これがバレたらヘスティアも信仰心を失って落ちこぼれるんじゃないか。あーっはっはっは」
馬鹿にされたら馬鹿にして返す。馬鹿返しだっ。
イフリートの怒りに満ちた顔を見て少しスッキリしたセイ。
「許さんっ」
イフリートは怒りに任せて炎の玉をセイに撃ち出して来たのであった。