メラウス鉱
「いい鉱石採れたの?」
「あぁ。こいつで試してみるワイ」
セイ達は特にすることが無いのでビビデが剣を打つところを見学させてもらうことに。
「工房って暑いねぇ」
「火が命じゃからな。火の神様ヘスティア様と鍛冶の神様ヘパイストス様の力を借りて作るのじゃ」
鍛冶の神様とかいるんだ。
「こちらにもアマツマラ様みたいな神がおるのじゃな」
クラマはほうとその話を聞いていた。
ビビデは燃え盛る炉に鉱石を入れて、なお火を強めて行く。通常の鉱石より熱を上げないとダメらしく火の神様ヘスティアにお祈りを捧げていた。
「祈ると火力が上がるの?」
「それもあるが爆発したりせぬようにお祈りが必要なんじゃ」
爆発と聞いて後ろに下がる。
「むぅ、いまいち火力が上がらんのぅ」
「クラマ、少しうちわで扇いだら火力上がらないかな?」
「そうじゃな。ビビデ、もうよいところで合図をくれ」
そういったクラマは羽うちわで炉の火に風を送っていく。
ゴーーーーッ
火力が一気に上がっていく。
「ぬおっ。なんじゃその風は?」
「聖なる風だよ。火力はどう?」
「よし、もういいぞ。溶け出してきおった」
鉱石から真っ赤になった金属が溶け出してきた。初めに出て来たのは不純物らしく、クラマが送った風により高温になってから出てきたのがお目当ての金属らしい。
それを少し待ってからヤットコで掴んで打ち出し始めたビビデ。熱いし邪魔になりそうなのでセイ達は工房から離れたのであった。
「まだまだ掛かりそうだね」
「一昼夜は打ち続けるじゃろう」
ここにいても仕方がないのでボッケーノ王都を見て回る事にした。
中心の繁華街まで来ると高給そうな店が増え、宝石を扱っている店が多い。
「宝石って高いね」
飾ってある宝石は小さくても値段が高い。お土産にでもとか思ったけど綺麗とはいえ石にこんな値段払うのは馬鹿らしい。
ご飯を食べに食堂にはいる。ギルドの酒場と違って小洒落た食堂だ。
「セイよ、何が何かわからんから適当に頼んでくれんかの」
自分もよくわからないので適当に頼む。ぬーちゃんは肉類なら何でもいいだろう。
運ばれて来た飯はどれもスパイシーで辛い。火をイメージしているのだろうか?
「ビールをくれ」
辛い料理を流し込むように飲むクラマ。
「ここにはいつまでおるんじゃ?」
「剣が出来るまではいないとダメだろうね。もう火の神様のこともだいたいわかったし。同じようなやり方でウェンディに祈り続けてもらうのは難しいね」
「そうじゃのう。やはり皆が風を必要とせぬ限り無理じゃな」
「次は水か大地の神様の土地に行ってみる?ここも想像していたのとも違ったし、他も何かヒントがあるかもしれないし」
「どこにでも付き合ってやるぞい。見知らぬ物が見られるというのはなかなかいいもんじゃ」
それは言えてる。観光と思えばいいのかも。アネモスの人々がウェンディの風を欲するのにはまだまだ時間が掛かるだろうし。焦っても仕方がないな。
こうして街をあちこち見て回り他のギルドの依頼を見たりして過ごした。教会は他にもあり、そこも孤児院が併設されていたので肉を狩って持っていっておいた。
「まだ刀身の原型のみじゃ。これで貴様の力に耐えられるなら仕上げていくから試せ」
言われた通りに妖力を流す。
パシンっ
「ダメか・・・」
「なんかごめん・・・」
「いや、こいつでダメならダンジョンの最奥にあると言われておる鉱石、メラウス鉱を使わねばならん」
「ダンジョンがあるんだね。メラウス鉱って珍しいの?」
「ワシの知る限り過去に持ち帰った者が二人いただけじゃ。ダンジョンの最奥で手に入れたらしいが見つけられたのはそいつらだけじゃったらしい」
ずいぶん遠い昔の話みたいだ。
「何を倒したんだろうね?」
「詳しくはわからん。そもそも最奥まで行けるやつがそうはおらんし、たどり着いても何もない広場らしいんじゃ」
「じゃあ、頑張ってもらったのに申し訳ないね。これ、ワイバーン討伐の報酬なんだけど渡しておくね」
「なんのつもりじゃ?」
「前に壊した剣といま壊した剣の分。値段わかんないけどこれ手持ちの全部なんだ。悪いけど俺達そろそろ一度国に帰るから」
「こんなもん受け取れるかーーーーっ」
「いや、だって値段つけられないような剣をなんでしょ?」
「こんなナマクラで金がなんぞ受け取れるかっ。取ってこい」
「何を?」
「メラウス鉱に決まっておるじゃろうがっ。貴様が使える剣はワシが打つんじゃっ」
打つんじゃって言われてもなぁ。
「ダンジョンに行けってこと?」
「そうじゃ」
「俺達アネモスのダンジョンには入れないんだけど大丈夫かな?」
「ダンジョンに入れんじゃと?貴様ら犯罪者か?」
「違う違う。ダンジョンが来てほしくないって入口閉じちゃうんだよ」
アネモスのダンジョンの事を話した。
「恐らくここまで離れたら繋がってはおらんじゃろ。それにダンジョンと言うてもそこは坑道と変わらん。宝箱等は出んから自ら掘って探さねばならんのじゃ。坑道と違うのは鉱石が無くならんと何度でも出るということじゃな」
へぇ。ダンジョンっていっても色々あるんだな。
「そこに入るにはギルドに許可貰えばいいの?」
「ギルドといっても鉱石ギルドの許可じゃ」
とビビデは鉱石ギルドへの紹介状を書いてくれた。これがあれば簡単に許可をくれるらしい。
「ダンジョンに行くなら一度国に戻って仲間を連れてくるよ」
このメンバーだと鉱石掘るなんて難しいからな。
「そんな事をしとったら数ヶ月かかるじゃろ?」
「一週間位で帰ってくるよ。ぬーちゃんで駆けたら早いから」
そういうとビビデは驚いていた。
ーアネモス、セイの屋敷ー
「あいつはいつ帰ってくるのよ?」
屋敷に閉じこもりきりのウェンディは不機嫌だった。
「毎日毎日同じ事を聞くなよ。知らねぇって言ってんだろっ」
サカキに怒鳴られてブスッとむくれるウェンディ。
「しょうがない娘さね、どれ街にお菓子でも食べに連れてってやるさね」
タマモも辛気臭いウェンディがうっとおしくなって街に連れて行くことにした。サカキも鬼殺しを飲み干したので火酒を買いに付いて来た。
「ほれ、好きな物を好きなだけ頼みな。金はセイが置いて行ってくれたから問題無しさね」
「ねーちゃん。ここにはなんの酒置いてるんだ?」
「あ、あの・・・、お酒は置いてません」
サカキにビビる店員。
「あたしゃこれ。あんたはどうするんだい?」
「じゃ、これ」
ウェンディはケーキを一つだけ頼んで少し食べて残した。
ギルドではなく街の酒屋で火酒とワインを樽で買ったサカキ。ウェンディももういいと言うので屋敷に帰ったのであった。
ーバビデの家ー
「は?ダンジョンが入り口を閉じるだと?」
「あやつがそう言うとった。ダンジョンが勝てないと思ったら拒否するらしいんじゃ」
「そんな事があるのか・・・」
「世の中は広いもんじゃの。まだまだ知らんことも多いもんじゃ。お前の防具はどうなっとる?」
「もうすぐ出来る。ワイバーンの皮を素材にはしたが兄貴の剣でも切れんかもしれんぐらいの加工を施してやった」
「何を使ったんじゃ?」
「ブラックドラゴンの血で染めた」
「なんじゃとっ?あれを使ったのか?」
「こういうときに使うもんだろ。なーに、そのうちあいつからが狩ってくるだろうから血は返してもらうさ」
「そうか、ならワシもドラゴンを倒せる剣を打たねばならんの」
セイ達はまた途中で一泊し、帰る前にオーガ島に立寄っていた。ウェンディが島全体を吹き飛ばしたからオーガもいなくなっているはず。鬼達の肉が無くなってしまったのではないかと気になっていたのだ。
「おーい、ヒョウエ」
「おっ、セイ。どうした?」
「オーガいなくなっただろ?肉はどうしてるんだ?」
「オーガ肉は底を付いたから今はゴブリンや魚を食ってるぞ」
「え?ゴブリンって食えるの?というより倒したら魔石になるじゃん」
「半殺しにしておいて食うんだ」
そう言われて鬼が生きているゴブリンを食う姿を想像したらめっちゃ怖い。
「食ってみるか?」
「遠慮しとく。オーガがいなくなったらゴブリンが出るんだね」
「みたいだな」
魔物が生まれるスポットは弱い魔物が生まれて段々と強い魔物を生むようになるのかもしれないな。ゴブリン→ノーマルオーク→ピンクオーク→ブラックオーク→ミノタウルスとか。どれぐらいの期間で入れ替わって行くのかわからんけど。
「ラームもゴブリン食ってるの?」
「いえ、さすがに動いているゴブリンを噛るのは気が引けますので」
とコロコロと笑う。
ラームはもう鬼達と見分けがつかないくらい馴染んでるけど、お育ちの良さは抜けていない。とても上品だ。
「セイ様、お茶をどうぞ」
ラームがニッコリと微笑んで俺達にお茶を入れてくれる。ぬーちゃんには冷ましてくれているようだ。ぬーちゃんは熱いの平気だけどこういう気遣い出来る人なんだな。それにとても優しい雰囲気だし。
「ヒョウエ」
「なんだ?」
「いい人と結婚したな」
「な、なんだよっ。いきなりっ」
「いや、なんとなくそう思ってな」
ラームも照れくさそうにはにかんでいる。前は全国の鬼っ娘ファンに謝れとか思ってごめん。
はにかんだラームがとても可愛く見えたセイなのであった。
「今日は肉をどうしてるか気になって寄っただけなんだ。明日か明後日に肉を持ってくるからラームに食べさせてあげて」
「そうか、気を使わせて悪いな」
「じゃ、また来るよ」
とセイ達はオーガ島を後にして屋敷に戻ったのであった。