意外と交渉上手
「そう言ってやるな。セイもそれは十分わかっとる」
「しかしじゃな、そんな唯一無二の武器を常に身に付けて無いのが悪いのじゃろうが」
「コヤツの住んでた国は帯刀を許されてはおらんのじゃ。じゃから悪しき物を討伐する時以外は封印の間に仕舞っておるでの」
「そんな国があるのか?」
「世の中は広いもんじゃて」
「むう、なら初めになぜそう言わんっ」
あなた口を挟ませてくれなかったよね?
「いや、あまりの迫力に圧されちゃって」
「しかし、この国やアネモスなら帯刀が許されておるじゃろうが。しかも冒険者なら剣ぐらい持たんか」
「そうは思うんだけど、ナマクラなら無い方がマシかなって。剣に頼って折れたらヤバいし」
「ワシの剣がナマクラじゃと?」
みるみるうちに真っ赤になるビビデ。赤鬼じゃないよね?
「違う違う。何軒か見て来た店の話。ここじゃない」
「フンッ。しっくり感が無いと言うたじゃろうが」
「なんていうんだろ。俺はクラマのじっちゃんに剣術を教えてもらったけど、じっちゃんほど剣術が出来るわけじゃないんだ。上手く言えないけど刀が力を貸してくれるとかそんな感じがなかったからしっくりこないという表現になっただけで」
「剣が力を貸すとな?」
「セイの言わんとすることはのぅ、刀が力を貸すというより、力を引き出すと言った方が正しいの。ワシの愛刀ですらセイの力を存分には引き出せん」
「力を引き出す・・・?お前、魔法剣士か?」
「魔法剣士って何?」
「魔法も剣も使えるやつじゃ。ギフテッド。つまり複数のスキルを持つ者の事を言うんじゃ。剣士スキルと魔法スキル両方を持つ者が極稀におる」
「いや、魔法は使えないと思う。妖術や陰陽術は使えるけども。それに剣士と言われても違うと思うよ」
「妖術?陰陽術?なんじゃそれは?」
「例えばね。狐火っ」
セイはぼっと狐火を出して見せる。
「これは妖術。こっちでやったらファイアボールとか言われたけど違うと思うんだよね。これはぬーちゃんと同じ様な存在なんだよ」
「は?ファイアボールが魔物じゃと?」
「ぬーちゃんも魔物ではないんだけどね。まぁいいや。狐火は俺の言うことをよく聞いてくれるからこうやって自由に動かせるし」
くるくると自分の周りを狐火を回して見せる。
「なっなんとっ。ちょっと待っておれ」
ビビデは慌てて奥へ走っていき、1本の剣を持ってきた。
「こ、これにそのファイアボールを纏わせてみろ」
「こう?」
ビビデの剣に纏わりつく狐火。
「これでいいかな?」
「素晴らしいっ。お主は魔法剣士で間違いないっ」
「いや、これは狐火が剣に纏わりついてるだけだから。でも、さっきの剣よりしっくり感はあるかな。ちょっと振ってみていい?」
「構わん。外で存分に振れ」
狐火を纏わせたまま振るとファイアーダンスみたいで面白い。
「セイよ、ちょっと神通丸にやるように妖力を込めてみよ」
「こう?」
と、狐火を解除してセイがガッと妖力を込めるとピシっと剣にヒビが入った。
「あーーっ。ご、ごめんなさいっ」
「今何をやった?」
「いや、あの、ちょっと妖力を込めすぎたみたいで・・・」
「惜しかったの。これならいけるかと思ったんじゃがセイの力を受け止められんかったの」
「あの・・・これいくらぐらいの剣・・・かな?ごめん。今の手持ち銀貨40枚くらいしかないや」
「フハッ」
フハ?
「フハハッ フハハハハハっ ガーハッハッハ」
ヤバっ。怖い人がいきなり笑い出す時はとても良くない前兆と決まってる。
「面白い。ワシの打った魔剣を壊しよるとは。ワシもまだまだナマクラしか打ててないということじゃの」
「怒ってないの?」
「お前の愛刀なら壊れんのじゃろ?」
「う、うん」
「なら、ワシの打った剣がナマクラじゃったというわけじゃ。面白い。実に面白いぞ貴様っ」
何やら怒って無い様で良かった。
「お前らいつまでボッケーノにいる?」
「特に決めてなかったんだけどあんまり長くはいられないかな」
「ワシがお前の剣を打つ。それまでここにいろ」
「いや、お金をそんなに持って来てないんだよ」
「今いくら持っとる?」
「銀貨40枚とちょっと。45枚くらいかな」
「なら銀貨40枚でいい」
「ダメだよ。凡庸品でも銀貨30枚はするんでしょ?」
「うるさいっ。貴様が使える剣をワシが打つんじゃっ。その代わり・・・」
「その代わり?」
「材料を集めにゃならん。頂上のワイバーンを倒してこい」
ギルドに残ってた依頼か。
「俺、氷とか出せないよ」
「なんとかしろ。あの魔剣を壊すぐらいの力を持っておるじゃろ」
なんとかしろとか言われたってなぁ。
「タッパ、ワイバーンて毒以外にどんな攻撃をしてくるか知ってる?」
俺達のやり取りに圧倒されて今まで黙って見ていたタッパとジール。
「上空からの急降下で鋭い爪と嘴での攻撃、それに加えて毒の尻尾を振り回してくる。魔法使いを加えた複数パーティでやらんと無理だぞ」
と、代わりにジールが答えてくれた。
「倒したら何に変わるの?」
「皮か毒袋だ。まさかお前やるつもりか?」
「仲間がいれば大丈夫だと思うんだけど」
「セイー、セイが手伝ってくれたら大丈夫だと思うよー」
「わっ、喋った」
「そうだよ。ぬーちゃんは賢いもんなぁ」
「うーん♪」
「セイ、鵺とじゃれておらんでさっさと決めんか。というより受けろ。無理だったら退却すれば良い話じゃ」
「そうだね。じゃ、明日やってみるよ。場所教えてくれる?」
とビビデに聞くと地図を出してそこまでの道のりを教えてもらうけど道は通らない。
「おいおい、マジかよっ。剣も無しに倒せるのか?」
タッパが止めようとする。
「俺はサポートになると思うよ。メインはクラマで尻尾担当はぬーちゃんってとこかな」
「尻尾担当?」
「尻尾に毒あるんだよね?ぬーちゃんに毒は効かないから」
「そ、そうなのか」
「ワイバーンは肉になったりもする?」
「いや、聞いた事はねぇな」
「その場所に誰かいるかな?」
「いや、今は頂上への入口は閉められているから誰もいねぇはずだ」
どうやら火山は鉱山でもあるから国の管理下にあり勝手に入山出来ないようになってるようだ。ギルドで依頼を受けたら許可証が出るらしい。
「じゃ、明日だね。ビビデ。壊しちゃった剣っていくらぐらいするものなの?」
「値段は付けとらん。それにナマクラじゃったから気にするな」
帰りがてらジールとタッパと話す。
「ギャフンと言わすどころかとんでもねぇことになっちまったな」
「まぁ、ヤバそうなら逃げて来るよ」
「違約金大丈夫か?」
「違約金?なにそれ?」
「これも知らねぇのかよ。依頼を失敗したら報酬の30%払わねぇとならねぇんだよ」
「なんで?」
「誰か依頼を受けたら他の奴が受けらなくなんだろ?でそいつが逃げて来ましたぁとかが続いてペナルティがなかったら割の良い仕事をダメ元で受ける奴が出てくるだろうが」
「なるほど。でもあれ随分と長い間残ってるみたいだから交渉してみるよ。ダメ元でも受けてくれる方がいいでしょ?」
「いや、無理だと思うぞ。それに値が上がるのを待ってる奴もいるからな」
「値が上がる?」
「そう。今金貨10枚だっけか。それで誰も受けなかったら依頼主は15枚、20枚と報酬を上げざるを得ない。高ランクパーティはそれを待ってるんだよ。自分達の中で割に合うまで受けねえからな」
「へぇ。嫌な奴らだね。金貨10枚ならかなり高額だと思うけど」
「別に嫌な事はねぇぞ。複数パーティが組んでやるとすると一人当たり金貨1枚にもならん。それにもしこれが銅貨1枚の依頼でもお前受けるか?」
「割に合わないよね」
「だろ?それと同じだ。割に合う合わないかはパーティが決めるもんだ。命が掛かってるからな」
ジールにそう言われて納得した。
タッパはもう泊まるお金が無いので村に帰るそうだ。宿泊代貸そうか?と聞いたらもうこれ以上借りは作れねぇと言って去って行った。村の場所を聞いたので帰りに寄ってみるか。
「ジール、飲んで帰る?」
「おっ、いいねぇ」
ギルドの酒場で皆は飲み、セイはまたウィンナーを食べていた。
翌日
「これ、受けようと思うんですけど失敗したら違約金っていります?」
「はい。どの依頼も必要です」
「そっか。ならやめておこうかな。鍛冶師のビビデさんから討伐してくれと頼まれたんですけどワイバーンと戦った事がないから本当に倒せるか不明なんだよね」
「ビビデさん?あのビビデさんが直接あなたに頼んだんですか?」
「そうだよ。なんか剣を作ってくれるのに材料がいるから倒してこいって」
「え?剣を打って貰うんですか?」
「お前の剣はワシが打つんじゃーって言ってね。だけど材料がないから倒してこいって」
「す、すいません。冒険者証をもう一度拝見させて下さい」
ハイと渡すとランクを確認された。
「あの依頼はBランク以上しか受けられませんよ」
「自分のランクが一つ上まで受けられるんだよね?」
「それはそうですが・・・」
「俺達はワイバーンって見たことないから取り敢えず倒せそうか確認だけでもしたいんだよ。でも入山許可がないと入れないし、かといって確認だけで退却して違約金払いたくないし。まぁ、無理ならギルドが許可してくれなかったとビビデさんに伝えるよ」
「お待ち下さいっ」
「無理なんでしょ?」
「ギルマスに相談してきますのでそのままお待ちを」
ビビデに伝えると言ったら態度が変わった受付嬢だった。