セイ、怒られる
「わ、悪いな」
「いや、タッパにも色々教えて貰いたいから報酬代わりだよ」
タッパは喜んでジールと同じ物を頼んでいた。
「で、神様の何が知りてぇんだ?」
「火の神様って何してくれんの?」
「まぁ、何かしてくれるっていうかご機嫌取りってやつかな」
グビグビとビールを飲みながらそう答えるジール。
「ご機嫌取り?」
「そうだ。神を疎かにするとバチが当たる」
「バチ?」
「あぁ。火のトラブルに巻き込まれる事が増える。家が火事になったりとかだ」
「それ、神様の仕業なの?」
「さぁな。昔っからそう言われてんだ」
それ、火に気を付けなさいとかの教えなのでは?
「他は?」
「まぁ、俺らはそんなもんだが、ドワーフ達は違う。アイツらは武器防具職人が多い。いい武器を作るにはいい火がないとダメらしい。一流と呼ばれる職人ほどそれにこだわるからな」
「ドワーフって何?」
「あちこちにガチムチ毛むくじゃらのちっこい奴らがいるだろ?あれがドワーフ族だ。アネモスにはいねぇのか?」
ヨーサクもドワーフ族なのかな?
「いや、アネモスにも居たけどこんなにはいなかったから種族とは思ってなかったよ」
「お前、物を知らなさ過ぎねぇか?」
「まぁ、そうだね。俺の知識は偏ってるかも」
「何に詳しいんだ?」
「幽霊とか?」
「幽霊?お前神の事を知りたがってるし、もしかして神官のスキル持ってるのか」
「スキルって何?」
「冒険者をやっててそんなことも知らねぇのか?」
「いや、冒険者もこの夏から始めたばっかりなんだよ」
「は?成人してから何やってんだ?」
「普通に学校に行ってた」
「お前、本名なんて言うんだ?」
「セイ、ミナモト・セイ」
「ミナモトって家名か?」
「そうだね」
「お前、貴族だったのか・・・」
「違う違う。俺の国では皆家名があるんだよ」
「アネモスってそんな国だったか?」
「いや、アネモスに来たのは夏。出身はニホンって国だよ」
「ニホン?どこにあるんだそんな国?」
「海に囲まれた島国だから知らないと思うよ」
「なんだ、驚かすなよ。お前も田舎者モンだったのかよ」
「そうそう。田舎だね。山以外なんにもないとこだよ」
「なら何も知らねぇのも合点がいった。スキルってのはそいつが生まれ持ってる能力みたいなもんだ。神官はさっき言ってた幽霊を討伐出来るようなスキルを持ってるらしい。冒険者なら剣とか魔法を持ってたりする。ドワーフは鍛冶や錬金スキル持ちだな。因みに俺は道具鑑定スキルを持ってるぜ」
「スキルってみんな持ってるの?」
「いや、持ってる奴の方が少ない。調べようがねぇし、そういうもんだと言われてるだけだ」
「ほう、スキルとは面白い表現じゃの。どれ、ワシの刀を見てみるか?」
「じーさんの持ってる剣は変わってやがんな。どれ・・・・ん?」
「どうじゃ?」
「わからん」
「わからんとはどういうことじゃ?」
「俺の力が足りねえのかもしれん。つまりそれほどの逸品てやつだ。こんな事は初めてだから多分だがよ」
「そんなすごい物だったのか。俺の剣を切れたはずだ」
タッパはそう頷いた。
「剣を切った?」
「ここに来る前に俺の剣ぐらい切れると言われて試したら一瞬で切られたんだ」
「剣を切った俺が見ることの出来ない剣か。おもしれぇ。お前らこの後どうすんだ?」
「今日は宿探して泊まるだけかな。明日はまだ決めてない」
「よしっ、なら俺がいいところに連れてってやる。朝にここへ来い」
「どこに行くつもり?」
「鍛冶屋だ。頑固親父のギャフンという顔を見てみてぇ」
「俺達は知らない親父のギャフンという顔なんて見たくないんだけど」
「ついでとはいえ武器探してんだろ?そこで見てみろ。武器通りで売ってる武器とは比べもんにならねぇから」
「お、俺も行っていいか?」
「構わねぇけどよ。そんな剣ぶら下げてたら目も合わせてくれねぇからな」
話の続きはまた明日ということで解散。お金のないタッパは激安宿に泊まるらしい。俺達はギルド近くの宿屋を紹介してもらったのであった。
ー翌日ー
「あいつ来ないね」
朝に張り出される依頼を取り合う冒険者達を見ながらタッパとそう話す。
「朝って言ったよなぁ」
掲示版に残った依頼を見ながらタッパは答えた。
「なんかいいの残ってる?」
「残ってるのは割の悪い奴と困難なやつしかねぇよ」
割の悪いのはずっと残ってるみたいだな。これは孤児院からの依頼で食べられる物の討伐依頼。報酬金額からみて食べ物の寄付をしてくださいって感じだな。
で、困難なのは鉱山の魔物討伐。頂上に近いところの鉱山入口付近で飛び交うワイバーンの討伐か。報酬は金貨10枚。かなりの高額だから強いんだろうな。
「タッパ、ワイバーンってどんなの?」
「空を飛ぶデカい魔物だ。尻尾に毒があるから剣で倒すのはほぼ無理だな。火にも強いから強力な氷魔法を使える魔法使いがいないと倒せねぇ」
「そうなんだ」
「魔法使いは体力がねぇ奴が多いから山の頂上付近まで行けねぇから残ってんだよこれ」
「鉱山で働く人困ってるだろうね」
「まぁ、しょうがねぇよ」
ユキメが一緒に来たら倒せるかな?ウェンディと合同でブリザード攻撃したらいけそうだけど。
「おぅっ、早いなお前ら」
「朝って言ったじゃん」
「まだ昼飯前だろ?朝じゃねーか」
お前、ポイントが溜まらないのそういう感覚だからじゃないのか?
その辺で串肉を食いながら行こうぜとか呑気に言うジール。ウェンディと気が合うかもしれん。
来た時とは違う門から外へ出る。どこに続いているのだろうか?向かってるのは火山の方向だ。
しばらく歩くとあちこちの建物から煙が出ている。
「ここなに?」
「鍛冶屋の工房が集まってる場所だ。街中にあると煙と音が迷惑だろ?」
そう言われた通り、あちこちからガンガンと鉄を叩くような音が聞こえてくる。
「しかし、この集落全部が鍛冶屋か。壮観じゃの」
「まぁ、こいつが持ってる凡庸品もここで作られてる。で、俺たちが行くのはあの集落じゃねぇ。もう少し山の方へいくぞ」
言われた通りまだ山のほうヘと向かう。
「ここだ、ここ。いきなりなんか飛んで来るかもしれんから気をつけろ」
「バッカヤローお前なんぞ破門じゃーーっ」
「わっ」
ジールが行ったしりから槌が飛んで来て、まだ若そうなドワーフが走って逃げて行った。
「おぅ、まーた弟子追い出したのか?」
「何じゃっジールか。このろくでなしが何しに来たんじゃ」
「知り合い?」
「まぁな」
「ビビデのおやっさん、面白い奴を連れて来たぜ」
「ワシは忙しいんじゃっ」
「ま、そう言うなって。じーさん、あの刀って奴を見せてやってくれないか?」
クラマは刀を鞘事ビビデと呼ばれたドワーフに渡した。
「抜いて良いか?」
「構わんぞ」
スラッと刀を抜くドワーフ。
「むっ・・・。お主ら中へ入れ」
「クックックッ。見たか?あのクソ親父の顔。あんなの初めて見たぜ」
ジールはめっちゃ嬉しそうだった。
中に入ると剣が置いてある。売り物だろうか。
「ほう・・・」
クラマはその剣達を見て顎に手をやり関心していた。お眼鏡にかなったようだ。
「この剣は誰が打った?」
「それは鍛冶神と呼ばれた奴が奉納してくれたもんじゃ」
「神がこれを打ったのか?」
「いや、人間じゃ。そう呼ばれていただけじゃ。しかし見事なもんじゃろう?」
ビビデは刀をクラマに返した。
「うむ、見事じゃ。惚れ惚れする剣じゃの。とてつもない信念のような物を感じる」
クラマの刀は刃紋も美しい。しかしそれだけではない。昔クラマから聞かされた話ではこれを打ったのは元人間らしい。死して尚刀を打ち付け、妖怪となりその身を刀と変えたのだと。所謂妖刀と言われる物だ。妖刀は数あれどその中でも特別な刀らしい。
「うむ。コイツの事を解ってくれたようで嬉しいぞ」
クラマも満足げだ。
「で、こっちのに剣を売れというのか?」
「まぁ、それはついでらしいけどな」
「どれがいいんじゃ?」
「えっ?売るのか?」
「剣を探しに来たのじゃろうが」
「いや、ビビデのオヤッサンがまさか初対面の奴に剣を売るとは・・・」
「俺はセイ。こっちはクラマ。で、こいつはぬーちゃん。あっちの冒険者は此処で知り合ったタッパ。で、剣もあった方がいいとは言われたんだけど、俺に使えるかなぁ?剣って持ったことないんだよね」
「剣は初めてか?」
「いや、クラマが持ってる刀は使った事があるんだけど、この両刃の剣は持ったことすらないんだよ」
「そうか、ならどれか手に取ってみろ」
そう言われてもなぁ。これがいいかな。
試しに何となく綺麗だった剣を手に取ってみる。
「ほぅ、見る目はあるようじゃな」
クラマもウンウンと頷いている。いや、一番綺麗な剣を選んだだけだから。
試しに振ってみると以外と違和感が無かった。
「思っていたより悪くないね。もっと違和感があるかと思ってたよ。でも・・・」
「でもなんじゃ?」
「うん、しっくり感は無いかな。俺には分不相応なのかも」
「そうか。ちなみにお前が使ってたのはこれと同じような剣か?」
「うん、近いよ。ただ・・・」
「えーいっ、言いたい事があるならはっきりと言わんかっ」
このビビデって人も沸点が低いな。
「コヤツの使ってた刀は神器と呼ばれる刀じゃ。力の無い奴が持てばナマクラじゃがセイが使えば切れぬ物は無い」
「神器じゃと?」
「さよう。あれは誰が打ったか誰も知らぬ。遥か昔からコヤツの家に代々伝わるものじゃ」
「なぜそれを使わん?」
「忘れてきちゃったんだよ」
「は?」
「いきなり連れ出されたからね。俺の国は遠いから取りに帰れないし」
「バッカモーーーーン!」
ビビデに怒鳴り付けらたセイ。その後コンコンと武器とはという説教を受けたのであった。