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心にチクッと刺さる

「ぬーちゃんに乗っけてもらってるとはいえ遠いねぇ」


「そうじゃな。こっちであっておるのか?」


「多分ね。今日はここで降りて野宿だね」


「仕方があるまい」


一日中飛び続けても大きな街が見えないので森に降りて野宿することに。幼少の頃から山で修行をしていたセイは森とかで寝ることに抵抗はあまりない。ぬーちゃんもいるから寝具も不要だ。


「ほれ、見たことないキノコじゃが食えるかの?」


ぬーちゃんが齧って毒見をする。毒があってもぬーちゃんには効かないからだ。


「これとこれは大丈夫。こっちのはダメ」


選別し終わったキノコを焼いて食べる。飲み物は川の水だ。念の為水はクラマが風で浄化してくれた。


「これ、結構旨いね」


「そうじゃな。こいつも中々良い出汁が出ておるぞ」


「セイー、肉は?」


「ひょうたん置いてきたから無いよ」


「えー、じゃなんか探してくるー」


と、ぬーちゃんは森の中に獲物を探しに行った。


「あやつは食わんでもいい癖にのぅ」


「まぁ、この世界に来てから外で自由に出来るから楽しいんじゃないの?」


「そうじゃな。元の世界の大昔でもそうじゃった」


「ぬーちゃんの大昔はヤバいよ」


「厄災の塊みたいな存在じゃったからな」


ぬーちゃんは大昔は人間に毒や疫病等を振り撒く厄災の妖怪だったためひょうたんに封印されたのだ。


「セイよ」


「何?」


「このままこっちの世界で過ごさんか?」


「神器とかどうすんだよ?」


「帰らなんだら気にする必要ないじゃろ」


「クラマのじっちゃんも山があるだろ?俺が帰れないとじっちゃんも帰れないんだぞ」


「それはそうじゃが、どうせそのうちワシの力では守れんようになるワイ」


「守れなくなる?」


「そうじゃ。というよりワシが守る必要が無くなると言った方が正しいの」


「どういうこと?」


「ワシらの考えでは山は恵みじゃ。じゃが人間にとってはそうでもないようじゃからの。開発とやらであちこち山を削っておるしダムとやらも作っておる。あんな物はワシにはどうにもならん」


クラマがいた山は開発されていない。神山と言われているからな。しかし、他の山を見てそのうち同じようになると感じても仕方がない。想像出来ないぐらいの長い間山を見てきたクラマがそう感じるのだから。


「でもさ・・・」


「お前を捨てた親の事を心配しておるのか?」


クラマの捨てたという言葉が胸に刺さる。正直母親の顔はよく覚えてはいない。覚えているのは母親が俺を化け物を見るような目で見た怯えた目だけだ。


「父親はいきなりいなくなった俺の事を知ったら心配するかもしれないし」


「別に心配しててもいいじゃろ。ろくに顔も見せなんだ親なぞ放っておけばいいんじゃ」


「そうだね・・・。でも怪異で困ってる人をなんとかしないと」


そう言うとクラマはじっと目を見た。


「困っとる人間はこの世界にもおるぞ。元の世界に戻ったたらそいつらはどうするんじゃ?」


クラマに言われてハッとする。


「じっちゃん・・・」


「全ての者を救うなんてことは無理じゃろ?こうして話している間にも困っとる人間は大勢いるはずじゃ。セイは手の届く範囲、つながりが出来た者を救えたらそれでかまわんのではないか?」


「そうだね・・・」


「元の世界でお前とつながりが出来た者はほとんど妖怪の里に暮らしておる。それに人間でつながりがあるものはすでにこっち世界の方が多いじゃろ」


クラマの言うことがセイの胸をチクッと付いた。


「うん、そうかもしれないね」


元の世界にセイと繋がりがある人間はほとんどいない。頭の中では解っていたが心は違ったのだ。



「お腹いっぱーい」


ぬーちゃんが口の周りを血だらけにして帰ってきた。まさか人間を食ってないよね?


「鹿食べてきたあー。角有りの方が美味しいね」


「そうか、鹿より角有りの方が旨いか。戻ったらあの山に狩りに行こうね」


「うん♪」


クラマにワシらの分の鹿も持って帰ってこんかと怒られていたがぬーちゃんは口の周りの血をベロで拭って素知らぬ顔をしていたのであった。



翌日も半日ほど飛ぶとようやく大きな街が見えた。すぐ近くに活火山がある。


「あれだね」


「ようやく着いたか」


街中にいきなり入ると魔物と間違われるかもしれないのでそばに降り立ち、入国する人達が大勢いる順番待ちの列に並んだ。


「これは商人たちか?」


「みたいだね」


荷馬車で順番待ちをしている人が多く、冒険者達もいるようだ。


「よう、変わった使い魔連れてんな?」


そう声を掛けて来たのは冒険者風の男だ。


「そうだね。ここらじゃいないかも」

 

「へぇ。何て魔物だ?」


「鵺っていうんだよ。あ、しっぽに触らないでね噛むよ」


ぬーちゃんのしっぽがシャーーっと威嚇する。ぬーちゃんは魔物呼ばわりされたのが気に食わないようだ。


「へっ、蛇のしっぽかよ。本当に珍しいな」


「そうだね」


「お前、どっから来たんだ?」


「えっと、アネモス?風の神様の国だよ」


「随分と遠い所から来たんだな。武器はどうした?」


「無いよ」


「あ、使い魔がいるからいいのか。しかしよぉ剣ぐらいは持てよ」


「そうだね。いいのが有ればね」


「ここは初めてか?」


「そうだよ」


「ならいいとこに来たと思いな。ボッケーノの王都は武器防具のメッカだからな。俺も新しい剣を新調しに来たんだ。この前ブラックオークを倒して金が入ったからな。やっと買い替え出来るぜ」


「剣っていくらぐらいで買えんの?」


「ボッケーノは他国の半額くらいで買えるって聞いちゃいるがそこそこするぜ。こいつで銀貨30枚だ」


と手持ちの剣を見せてくれる。


「粗悪品じゃの」


クラマが剣を見てそういう。


「そんなことを言うなよ。コイツは一般的なヤツなんだぜ。確かに高くはねぇがよぉ。そういうお前の剣はどんなの持ってるんだよ?」


「ワシの愛刀はコレじゃ」


「なんだ曲がってるじゃねぇか?」


「曲がっておるのではないっ。元々こういう刀じゃっ」


相変わらず沸点の低いクラマ。


「カタナ?」


「お主らのとは違う剣ってやつじゃ。貴様の剣なんぞ一刀両断に出来るわい」


「嘘つけ、俺のが一般的な剣とはいえそんなヤワそうな剣で切れるもんか。コイツはブラックオークも切ったんだぞ」


「ブラックオークとは黒豚のことか?それならセイは素手で倒せるワイ」


やめろ。


「ジイさん、ゴブリンならいざしらず、ブラックオークを素手で倒せるわけがないだろ。嘘つきは泥棒の始まりって言うからな。もしかしてお前ら盗賊なんじゃねぇだろうな?」


「ワシを盗人扱いするかーーっ」


「だって嘘ばっかり付くからだろうが。ブラックオークを素手で倒せるやつなんているかよ」


「ワシの言うことが信じられぬか?ならば試してみよ。おぬしの剣をワシが切り捨ててやる」


「面白ぇ。そっちの剣が折れても泣くなよ」


二人のやり取りで列を作っている人がざわついて離れていく。


「念の為に聞くが、その剣は使い物にならんくなっても良いのじゃな?」


「ゴタゴタ言わずに試してみろよ」


そう言って剣を構えた所にクラマは剣をスパンと切った。


ゴトン


「え?」


「想定していたより脆かったの。買い替えをするならもう少しマシな剣を買え」


「な、な、な、な、」


「そこのやつらーっ、何をやっておるかっ。こんなところで剣を抜きやがって。こっちへ来いっ」


「え?」


今刀を抜いてるいるのはクラマのみ。冒険者らしき者は刀身を失った剣とは言えないものを持っているだけだ。クラマとセイは衛兵に引っ張られていった。



「だーかーらー、殺し合いとかじゃ無いって」


「嘘を付くな。列に並んでいた商人から剣を抜いて切りつけていたとの証言があるんだっ」


衛兵室で取り調べを受けているセイ達。


「報告します。立会の相手から誤解であると申し出がありました」


「ほら。殺し合いなんてしてないから」


「それは本当か?」


「はい、剣を切れるというから試して貰っただけであると」


「剣を切る?」


「は、こちらが証拠品の剣です」


「むぅ、見事な切り口だ。これは本当にお前がやったのか?」


「思ったより脆い剣じゃったの。これなら鉄の棒の方がマシじゃ」


「解った。お前たちは釈放だ。列に並び直せ」


ゲッ。また並ぶのか?


「衛兵さん、誤認逮捕って知ってる?」


「なんだそれは?」


「罪の無い人を間違って捕まえることだよ。俺達は無実なのにこうやって拘束されて怒鳴られたんだよね?なんかお詫びはないの?」


「そんなものあるかっ」


「ふーん。じゃあ入国したらあちこちで衛兵に酷いことをされたって言いふらしてやる。いつもあんな調子で威張り散らしてるなら相当反感買ってるだろうね。共感して反乱起こす人が出てくるかも・・・」


「貴様っ。入国させんぞっ」


「なら、列に並んでる人たちに言いふらすからね。この国の衛兵は無実の人を捕まえてひどいことするから気を付けろって。衛兵のせいで入国者減るかも」


「貴様ぁっ」


「今ここで入国手続きをしてくれたらそんなことしないけど」


「ちっ!小賢しい奴だ。このまま通れっ」


「はーい。公務ご苦労さまでした」


この部屋に入る前に冒険者証は調べられている。冒険者証は結構なハイテク品らしく犯罪歴とか解るらしい。俺達に犯罪歴とかはないのでそのまま通された。


しかしいつもウェンディが騒動を巻き起こすと思っていたがクラマも同類だな。


クラマの顔をチラッと見てそう思うセイであった。




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