最終決戦で凶星が流れる
四天王が出て来たゲートから全ての光を吸い込む用な黒い鎧に包まれた悪魔の王、魔王が出て来た。
「クックックッ、我が来る前に既にこの惨状か。四天王よ、少々やり過ぎではないかな。ここは私の世界となるのだから。アーハッハッハッハ」
黒い鎧の中から声が鳴り響く。
「雷鳴っ!」
セイは高笑いを続ける魔王にウェンディの風魔法とアーパス水魔法を併用して神力のこもった雷を魔王に落とした。
バリバリッドンガラガッシャーン
「ングぐぁぁぁっ」
鎧の中で小さく悲鳴をあげる魔王。
くそっ、鎧を着ているからこれでなんとかなると思ったが…
その声はセイには届かない。神力が込められた雷でも魔王には効いていないように見える。
「貴様っ、私に向かって何かをしたのか?」
魔王は余裕であるかのようにふるまった。
くそっ、もう一度だ!
「雷鳴っ!」
ビシャッ バリバリっ
「ヒンギャァァーっ」
もう一度雷を落としてみたセイ。今度の甲高い悲鳴は少しセイに届いた。
なにか叫んでいたから全く効いていないわけではないだろう。
「ぐぬっ 貴様あぁっ この私を誰だと…」
「雷鳴っ!」
ドンガラガッシャーーーン
「んふぅぅううっ」
叫び声にならない声が漏れた魔王。
くそっ、ありったけの力を込めても効いてないじゃないか。
「貴様ぁぁぁっ 私の話を聞いている…」
「メテオっ」
次はヘスティアの力とテルウスの力を使い、溶岩と化した隕石をドガガガとぶつけていく。
「ウガがガガガッ」
くそっ、あれでも無傷か。なんてタフな奴だ。
「いだっ あづいっ あづい」
鎧の中でそう叫ぶ魔王の声はセイには聞こえてはいない。
何も効いていないように見えたセイは覚悟を決めた。
「こうなったら全エネルギーを込めるっ」
セイは女神ズ4人の力を全て出し、溶岩の竜巻で魔王を包み込みそこに水をぶっかけた。
どぉぉぉおん どぉぉぉおん どぉぉぉおん
溶岩の竜巻の中で何度も水蒸気爆発が起こる。溶岩の竜巻はその威力を閉じ込めこちらには衝撃波は来ない。
「おい、セイなんだよその技は」
見ていたヘスティアが今の状況を聞いてくる。
「お前らの力を複合して出してる。効いているのか効いていないのかわからん」
ヘスティアに答えながら熱を上げては水を中に発生させて水蒸気爆発を起こしていく。その膨大な水蒸気は天へと上り雨雲へと発達していった。
「雷鳴っ!」
それを利用して水蒸気爆発と雷で連続攻撃を仕掛けるセイ。
ぐらっ
無尽蔵のエネルギーを誇るセイではあるが4人の神の力を一人で限界まで使いふらついた。
「セイっ」
ふらついたウェンディがセイを支えた。
「大丈夫だ。これでダメだったらもう…」
セイは全ての手を打った。
疲労困憊になったセイのエネルギーが尽きかけ魔王を覆っていた溶岩の竜巻が消えていく。が、そこには黒い鎧の魔王がまだ存在していた。
くそっ、考えられる攻撃はやった。もう打つ手が…
「き、貴様……。四天王共っ、何をしているかっ!こいつを殺れっ」
しかし魔王の呼びかけに答える四天王はいない。
「残念だったな。四天王とらやは貴様が来る前に始末させて貰った。準備運動は終わりだ。お前も同じ目に合わせてやる」
セイはハッタリで魔王を牽制した。
「フラフラの癖に何を言っておる。お前を支えているやつを殺ればお前は立ってられないのではないかな?」
魔王もまた余裕を見せようとセイを脅した。
プツン
魔王にウェンディを殺すと言われてセイの中で何かが切れた。
ゴゴゴゴゴゴっ
尽きたかと思われたセイの妖気が膨れ上がっていく。
「ウェンディ、セイから離れなっ」
タマモが今のやり取りで魔王がセイの逆鱗に触れた事を悟った。
「なっ、何じゃっ」
魔王は脅すことで怯むと思っていた人間から溢れ出す禍々しい力に慄いた。
「殺…すっ」
セイを包み込む禍々しい力、それをセイも抗うことなく受け入れ古竜を殺しかけた時とは比較にならない存在へとなっていく。
「お、お前は一体何者…」
「ウェンディ、セイはあいつを倒す。しかしあのままだと世界を滅ぼす厄災そのものになっちまうからね。それを元に戻してやるのはあんたの役目さね」
セイはマガツヒと変貌していく。意識もほぼ飲み込まれ強く心に抱いた思いだけを残して。
あれだけの神の力を使って倒せなかった魔王を倒すにはバンパイアをダンジョンに吸収させたようにするしかない。すなわち自らに取り込こみ、そして我が身ごとダンジョンに吸収させる…
セイの微かに残った心が揺らぐ。我が身をダンジョンに吸収させる、そうなればウェンディ達に約束した、永遠に面倒を見てやるということを守る事は出来なくなる。
それでもこいつを生かしていればこの世界の人や妖怪達、そしてウェンディ達も消滅させられてしまうかもしれない。
セイは完全に意識を飲まれる前に少しだけウェンディの方に目をやり、「ゴメンな」とポツリと呟いた。
そしてセイはその申し訳無さと二度とウェンディ達と会えなくなり、約束を果たせないのはこいつのせいだと怒りを爆発させていった。
「俺の大切なものを奪う奴は許さん…」
ゴォーーーーーーッ
セイはその身を怒りのままにマガツヒに変貌させた。
「タマモ、セイの野郎完全にマガツヒになりやがったぜ。ありゃ全てを飲み込んじまうな」
「まぁ、セイに飲み込まれるならそれはそれでもいいさね」
「そうじゃな。単に消えるより一つになるならそれもまた一興じゃわい」
「うん、セイになら食べられてもいい」
セイを守り育て鍛えたきた妖怪達はセイに飲み込まれるならそれはそれで悪い終わり方では無いとマガツヒを見守った。
「あん時の比じゃねーな。あいつの本気ってこんなにすげぇのかよ。さすが俺様が惚れたやつだぜ」
ヘスティアはセイの本気を見て惚れ惚れとしていた。
「別に一つになれるなら飲まれてもいい。私はセイの女だから」
アーパスもセイに飲まれるならいいと覚悟を決めた。
「しょうがないわね。大神も私達もどうにもできなかったんだから。後は任せるわ」
「いっ、嫌よっ。私は皆と一緒にセイに飲まれるなんてっ。私だけならいいんだからねっ」
ウェンディは自分だけセイと一緒になるならいいと叫んだ。
「我から大切なものを奪おうとする愚か者よ。お前の全てを我に捧げよ」
マガツヒと化したセイは魔王を鎧ごと噛み砕こうと食らいつく。
「やっ、やめろっ」
「お前は全て我のものとなるのだ」
ガギギギギ
悪魔界の魔力と叡智で作られた全ての力から魔王を守るための鎧が悲鳴をあげてガギッガギッとひしゃげ始めた。
ガギーーーーンッ
マガツヒはその究極とも言える鎧を噛み砕いた。
「やった!」
その様子を見ていた皆は声を揃えて鎧が砕けたのを叫んだ。
「いやーーーっ 妾は痛いのはもう嫌じゃーーーっ」
ガギンっと鎧が噛み砕かれた後に飛び出して来たのは禍々しい悪魔ではなく、愛らしい姿をした少女だった。
しかしマガツヒは止まらない。
「我が物になれっ」
そう唸ったマガツヒは悪魔の少女を飲み込もうとした。
「分かったのじゃっ。妾はお前の物になるっ。これで契約は成立じゃ」
ガチンっ
契約は成立じゃと言われたマガツヒは少女を飲み込む事なく目の間で口を閉じた。
「なんの契約だ」
「お前のものは奪わない。代わりに妾がお前のものになる。いまその契約がなされた。悪魔は契約は必ず守るのじゃっ」
完全にマガツヒに意識を飲まれたかと思ったセイだったが、ウェンディとの約束を果たせない後悔の念が強く強く心に突き刺さっていた。
「お前は俺から何も奪わないと約束が出来るのか」
「うむ、契約したからの」
悪魔は自分勝手なものだが唯一契約を守るという事だけは信用が出来る。セイはここでこいつを吸収しなければ自らをダンジョンに吸収させる必要もなくなる。そうすればまたウェンディと一緒に…
マガツヒは動きを止めた。しかしセイに戻る事もなく禍々しいままだった。
「うむ、我が父からの遺言もこれで果たせるというものじゃ。そなたよ、妾を好きにするが良い。そなたとの子なら全てを統べる者となろう」
魔王はそのままマガツヒと化したセイに抱き付き身を委ねた。
「なっ、なっ、なっ、何をやってんのよーーーっ」
その様子を見ていたウェンディがブチ切れてわずかに残った力でセイの元へ飛んだ。
「離れなさいよっ」
ふぬぬぬぬぬぬ
魔王をセイから引き離そうと顔を真っ赤にして頑張るウェンディ。しかしびくともしない。マガツヒはセイとしての意識が残っているかどうかすらわからない。
「セイもセイよっ!自分でこいつから離れなさいよっ」
ふ〜 ふ〜
力ではダメと悟ったウェンディはマガツヒの耳元にフーフーした。
「うっひゃっひゃっひゃ。やめろっ」
それをくすぐったがったマガツヒはスーッとセイに戻りウェンディにいつものように怒鳴ったのであった。
「あれ?」
「いつまで抱き合ってんのよっ」
「誰だこいつ?」
ウェンディの耳フーフーで元に戻ったセイは鎧から出てきた魔王が誰か分かっていなかったのであった。
「さすがウェンディ。あのマガツヒからセイを取り戻すなんてさすがさね」
「だな。俺達には無理だったろうからな」
「あの未熟者もセイの事になるとワシらより上なのは認めざるをえんわい」
「セイーッ」
ぬーちゃんは元に戻ったセイの元へと飛んだ。
ぬーちゃんと皆の元に戻ってきたセイ。
「タマモ、こいつ誰だよ?離れないんだけど」
「それは魔王さね。あんたと契約を交わして何も奪わないと約束したさね」
「という事は解決したってこと?」
「この世界は救われたさ。そう世界はね」
タマモはそう意味深に答えて肩をすぼめた。
「サカキ、何がどうなったか教えてくれよ」
「はぁ、ったく。お前はそいつに求婚したんだよ」
「は?」
「セイが魔王に我がものになれと言ってそいつが承諾した。対価はお前から何も奪わないということだ」
「何だよその条件?」
「知らん。お前がそいつと交わした契約だ」
「離れなさいよぉぉぉ」
「妾はこやつのものになる契約を交わした。すなわち嫁じゃ、お前に離れろと言われる筋合いはない」
「セイは私のなのよっ。悪魔の癖に何をふざけた事を言ってんのよっ」
「セイの女は私」
「よう、セイ。俺様の覚悟をどうしてくれんだよ?敵の悪魔といちゃつきやがってよぉ」
守るべき者達が鬼のような形相を浮かべ、今度はセイの敵に回った。その時、明るい時間にも見えていた凶星がキラリと流れたのを見たのだった。