なすりつけられる
「アマテラス、次の神様会議はどこでするんだ?」
「なんやオーガ島でやるみたいやねぇ。噂を聞いてどんどんこっちに来てはるしちょうどええんちゃうんかなぁ」
不味いな。神々はずっと退屈していたし、元の世界の人達は習慣としてお参りはしているけど、本気で感謝のお参りをしている人は極少数だろう。それ故向こうの世界の事はどうでも良くなっている可能性が高い。そうすると楽しめるオーガ島に居着いてしまうかもしれない。
「アマテラス、会議が終わったら皆元の所に帰るように言ってくれない?嫌な予感がするんだよ」
「なんかあったん?」
「悪霊とか増えてるみたいなんだよね。特に俺の住んでいた地域は神様達が早くからこっちに来ていたから事件の比率が高いんたよ」
「うちら別に前から悪霊祓うたりしてへんやん。たまたまちゃうの?」
神々はそれぞれ恩恵の得意分野があるのは確かだけど、こっちの世界と同じように実はそこにいるだけで悪しきモノを寄せ付けないような役目をしていたんじゃなかろうか?アマテラスでさえその自覚はないみたいだけど。
「いや、たまに遊びに来るのはいいけど、やっぱり祀らているところにちゃんといないとダメなんだと思う。こっちの世界もそうなんだよ」
「ウェンディやヘスティアはずっとセイと一緒におるやないの」
「こっちはウェンディ達の親みたいな大神様が居ててね、今はウェンディ達の代わりをしてくれているんだよ。その分この世界を守る結界の力が弱まってるらしいんだけど」
「そうなんやぁ。力が足りへんとかはないの?」
「あるよ。だから時々俺が手伝ったりしてるんだよ」
「へぇ」
ダメだ。アマテラスは事の重大さを理解していない。これは自分で皆に帰れというしかないな。
「なぁ、神様会議って俺も参加出来る?」
「別にかまへんけど何も決まらん会議やねんで。別名愚痴会やねんから」
それでも良いと言って神様会議に参加させてもらうことにしたのであった。
そして神様会議の日が近くなるとオーガ島はお祭りのような感じになっていく。相撲や宴会はもちろんだが、神々はオルティア達を追うのが楽しくて仕方がないらしく、八百万の神々が抵抗する3人を弄んでいた。
ここでの修行を提案しておいてなんだが可哀想な事をしてしまった。サカキ、クラマ、ぬーちゃんも3人を哀れに思ったのか追い立て側ではなく援護に回っている状況だ。
「いやぁ、楽しそうにやってはるねぇ」
アマテラス、それはちょっと違うと思うぞ。
夜は追い立てられるのから開放されるらしく、ヒョウエたちの所で飯を食うとのことでそこへ行くことに。
俺の顔を見るなりキッと睨むオルティア、グスグスと泣いて駆け寄ってくるラーラ。
「おにーちゃん、私もう無理〜っ」
ラーラをよしよししてやるとオルティアが怒鳴る。
「だからどんな目に合わされるか解ったもんじゃないって言ったでしょっ。それを簡単に受けたあんた達が悪いんじゃないっ」
「オルティア止めろ。セイにーちゃんは俺たちの事を思って修行の場をここにしてくれたんだ」
ケビン、なんかちょっとゴメン。
「オルティア、初めにお前が逃げたから神様達のスイッチがはいったんだぞ。俺は鬼ごっこなんかさせるつもりはなくて立ち会い中心でやってもらおうと思ってたんだ」
「私のせいにしないで下さいっ」
なんかちょっと可哀想だなとか思ってたけどオルティアにキレられてこっちもイラッとする。
「毘沙門、オルティアだけ体力余ってるみたいだぞ。相撲の稽古とか足りないんじゃないのか?」
「おっ、こいつは逃げてばっかりだったからな。よし稽古を付けてやろう」
不味いと悟ったオルティアはまたダッシュするので捕縛して毘沙門に渡しておいた。
いやーーっと叫びながら連れて行かれたオルティア。しっかりと頑張ってきたまえ。
サカキに酷えことしやがると言われたけどオルティアにはあれぐらいでちょうどいい。もしかしたらそのうち毘沙門に相撲で勝つかもしれないし。
「セイ、こやつらの様子を見に来ただけか?」
クラマが酒を飲みながら聞いてくる。
「いや、もうすぐ神様会議がここで開かれるんだよ。あちこちから神様がワラワラ来てんだろ」
「なんじゃと?出雲でやらんのか?」
「ここでやるらしい。だから俺も参加させてもらおうと思ってね」
「何をするつもりじゃ?」
「ここに居着かないように追い返す」
クラマ達に元の世界がどうなっているかを説明した。
「なるほどの。妖怪共も全部こちらにきた影響が出ているのやもしれぬな」
「妖怪の影響?」
「妖怪によっては縄張り意識の強いモノもおるじゃろ?異国のモノや見知らぬモノを排除しておったのではないか?相手が強いと追い払えず居着くやつもおるがの」
タマモとかがそうか。
「全く嫌味な言い方をする爺だね」
タマモも今の話を聞いていたらしくひょうたんから出てきた。
「で、セイはどうしたいんだい?妖怪共を元の世界に戻すかい?」
「妖怪は縄張りを守るためによそ者を排除していたのかもしれないけど、人を守る責務はないから戻さなくていいよ。責務があるのは神々だ。あの国を作って人を誕生させたのが神様なんだからね」
「そりゃそうかもしれないけど神様達が言う事を聞くかねぇ」
「最悪力ずくでもやるしかないよ」
「おいおい、神様達と戦うってのかよ?」
「どうしても言う事を聞かなかったらね。その時は手伝えよ」
とサカキに言うとそんときは妖力をたんまりと寄越せよと言われた。
その夜皆が寝静まった頃にフラッと月読が現れた。
「会議は明後日だぞ。もう来たのか?」
「セイよ、月読の盤は使わぬのか?」
セイの問いかけに答えずに月読はそう聞いてくる。
「あれは使わないって言ったろ?」
「そうか。なら空を見ておけ」
「なんかあんの?」
気になる事を言われて外へ出てみる。
「何があんの?」
「あの星は何だと思う?」
月読が指を指した方向に見える星・・・
あっ、尾を引いている。彗星じゃないか。肉眼であんなに尾を引いている彗星なんて初めて見た。まさかあれがこっちに来るのか?
「もしかしてあれがここにぶつかるのか?」
「いや」
ポツリとそう返事をする月読。
「あれは凶星だ」
「凶星?誰か死ぬってやつか?」
「どうであろうな。気になるならば盤を使うが良い。といっても盤に力を溜めねばよく見えぬがな」
月の光に照らしておいて盤に力を溜めないとダメだと言われた。全く使ってなかったのですぐには溜まらないようだ。
「今からやって間に合うのか?」
「我の問を無視してきたのはセイだろう?」
確かに。月読には何度か盤を使わないのかと聞かれてはいた。
「まぁ、今更ってやつか、気を付けておくよ。忠告ありがとうね」
寝る前にサカキ達と神々と戦いになるかもしれないと言った事と関係するのだろうか?だとするとサカキ達は参戦させない方がいいな。神々の力を合わせたらいくらサカキと言えども消滅させられるかもしれない。
そんなことを考えていると月読はまたフラッと闇に消えていった。
そして会議当日になった。会議は7日間行われ、初めの日からしばらく報告と言う名の愚痴を言い合うようだ。
三日三晩飲みながらの愚痴大会。例年はこのあと憂さ晴らしの宴会となるようだが、今回は憂さ晴らしではなく先にここに来ている神達がここでの生活がいかに楽しいかを自慢し合う内容になった。これはまずい。
「アマテラス、早く俺の出番をくれよ」
「あー、そうやったねぇ。ちょっと待ってり」
忘れてやがったな・・・
「はーいちゅうもーく。みんなちょっと静かにし」
わーっはっはっはとか笑い声にかき消されて誰も静かにしない。
アマテラスはどんどんと機嫌が悪くなっていく。
「ええ加減にしいやあんたらっ」
しーーーーんっ
アマテラスがドスを効かせてようやく静かになった。
「セイ、はよ喋り」
「えー、ミナモトセイです。顔見知りの神もおられますが初めましての神もおられますので先にご挨拶をさせて頂きます」
前置きはいらんと口を挟んだ見知らぬ神はアマテラスに焦げるまで焼かれた。
セイは神様達がここにいることであっちの世界で異変が起きていることを話していく。
「なので会議が終わったら祀られて居るところにお帰り下さい。たまに遊びに来るのは良いですけど常駐は無しです」
そういうとブーイングの嵐だ。何度も向こうの世界がこれからどんどんヤバいことになっていく事を説明をし、それはこっちの世界でも同じだったことを話す。神々の数が多いので全員に伝えるのに物凄く時間が掛かり夜になるまで同じことを説明した。
「おい、セイ。こっちの世界も神がいるべきところにいないと不味いって言ったな?」
「そうだよ毘沙門」
「ウェンディとかずっとお前と一緒にいるだろうが。まさかお前のそばがここの神の居場所だとか惚気たことを言うつもりか?」
「ちっ、違うわバカッ」
毘沙門に恥ずかしい事を言われて真っ赤になるセイ。
「この世界には大神という神を産んだ神様がいて、ウェンディ達が外界にいる間は仕事を代わりにやってくれてんだよ」
「神を産んだ神が代わりにだと?」
「そう」
「それはいいのか?」
「まぁ、大変だとは思うから俺にも手伝ってくれとか言われているみたいだけど」
「セイはここの神の力を持ってるのか?」
「加護として同じような力を使えるようにはしてくれてある」
「ほう・・・」
「なっ、なんだよ?」
「お前は確か・・・ マガツヒ混じりだったよな?」
「え?あ、うん」
「ってことは神を産んだ神の一部といってもおかしくないな」
なんだその理屈は?
「なら、俺の加護をやるからお前が代わりにやってくれよ」
「は?何を言い出すんだお前は?」
「なにっ?こいつに加護をやれば代行しよるのか?ならワシも」
ワシも私もワシもワシもワシもっ
毘沙門がへんな理屈をこねて加護をセイに渡したのを見て他の神々も次から次へとセイに加護を付けていく。
「ちょっ、ちょっ、止めっ 止めっ 止めてぇぇぇぇっ」
八百万の神々の加護をなすりつけられていくセイ。
その時に凶星が鈍い光を発したような気がしたのだった。