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他国へは行きたくない

翌日セイは冒険者ギルドの酒場に行き借金を返済した。


「お前、何回莫大な借金してもすぐに返しにくるな。ギルドの依頼もそんなに受けてないのにどうやって稼いでんだ?」


「闇営業」


「は?」


「まぁ、色々と面倒な仕事が舞い込んで来るんだよ。あ、角有りの肉をここでも使う?」


「ん?お前らダンジョンに入れなくなったと聞いてるぞ」


「角有りポイントを見付けたから狩って来れるよ」


「いくらで卸すつもりだ?」


「銀貨30枚でどう?」


多少安価になっても売り先をたくさん確保しておきたいのだ。


「お、そんなに割り引くのか。なら・・・」


「おい、裏営業すんなっ。お前もちゃんとギルドから仕入れろ。まったく」


すぐにギルマスにバレて怒られる。


「だってギルドは仕入れ数決まってんじゃん。中央には20降ろしたばっかりだし」


「うるさい。お前も冒険者ならギルドに売ればポイント貯まるだろうが」


「もうCランクのままでいいよ」


「うるさい。とっとと昇進試験受けやがれ」


「試験?」


「BやAに上がるにはポイントと試験に合格する必要があるんだよ」


「なお面倒臭いわ。それにそんなにポイント貯まってないだろ?」


「俺が紹介状を書いてやる」


「ギルマスの紹介状って意味ないからなぁ」


「なんだと?」


「この前漁師ギルドで話をしたけど、検討する気もなく追い返されたからね」 


「なに?」


「商売の邪魔すんなって感じだったよ。だからオーガ島周辺だけ海をかき混ぜて来た。少しマシになったみたいだからやっぱり効果あるんだよ」


「お前、ちゃんと話をしたんだよな?」


「したよ。信じてくれなかったけどね。だから海全体をやるのは後回し」


「なんてこった」


「ちなみ山も死にかけてるからね」


どういうことだと聞かれて木工ギルドのヨーサクと調べて来たことを話した。


「山を買ったのか?」


「そう、角有り牧場としてね。だからその山は生き返らせるよ」


「国全体はどうなるんだ」


「さあ?」


「さあってなんだ、さあって」


「俺に怒られても困るよ。この国の人達全員がウェンディの風を求めてくれないと」


「全員が求める?」


「そう。山を生き返らせるには海で暴風を発生させて台風にする必要があるんだ。だから漁師の協力が必要になる。でも、山が乾いてるから台風が来たら街に大きな被害が出るみたいなんだ。この国の人がそれを覚悟で望んでくれないとせっかくやっても恨まれるだけだろ?」

 

「大きな被害が出るのか?」


「事前に皆を避難させておけば人的被害は防げるけど建物はそうはいかないでしょ。洪水になったらかなりの物的被害が出るのは確実だね」


「それも防げないものなのか?」


「皆がウェンディを疫病神呼ばわりして暴風を拒否した結果だよ。もう今更なんの被害もなくやるのは無理だと思うよ」


そうつっけんどんに言うセイ。


「お前、もしかして怒ってるのか?」


「別に」


「怒ってるじゃねーか」

 

「皆が望んだ結果だからしょうがないね。俺達はしばらくこの国を離れるよ」


「は?どこに行くつもりだ」


「他の神がどうやって信仰心を保ってるのか見てくる。どうやれば信仰心が戻るのか、戻った後どうやったらそれが続くのかを見たいんだ」


「この国に戻ってくるんだな?」


「そんなに長い間離れないよ。オーガ島にも時々行く約束をしてるから」


「分かった。必ず帰って来いよ」


「解ってる」


「セイ」


「何?」


「色々とスマンな」


そう言われたセイは胸にあるモヤモヤをギルマスに八つ当たりしていることに気が付いた。


「こっちこそゴメン。ちゃんと調べて準備はしておくから」


「おう、頼んだぜ」


いつもならギルマスの部屋で話すのだが今日はみんなの前でこんな話をしてしまったセイだった。



「ギルマス、セイさん機嫌が悪かったですね」


今の様子を見ていた受付のリタ。


「あぁ。風の神様がこの国の為にやってくれてたのに皆が疫病神呼ばわりしてるのに腹を立ててるんだろうよ」


「これからこの国はどうなるんですか?」


「さぁな。何かしら悪いことが起きるのは間違いない。なんせこの国は神の加護を失ったんだからな。俺は今から木工ギルドに行って来るわ」


「はい・・・」




「なんで他の国に行かないと行けないのよーっ」


「勉強だ、勉強。お前以外に落ちこぼれた神はいないんだろ?」


「キィィーーー」


お前だけ落ちこぼれたと言われてセイをポカポカ殴るウェンディ。


「やめろ。俺は確かめたいんだ」


「何をよっ」


「水と大地の加護は恩恵がわかりやすい加護だから信仰心が続くのは理解出来るんだ」


「それがどうしたのよ?」


「火の加護の恩恵ってなんだ?」


「知らないわよそんなの。でも火が使えないと困るからじゃないの」


「ここは火の神様の加護が無くても火が使えるじゃん」


「それはそうだけど」


「な、よくわからんだろ?だから見に行きたいんだよ」


「見てどうすんのよ?」


「俺はお前を神に戻す契約をした」


「うん」


「それは出来ると思う」


「ほんとっ?」


「でもそれをずっと継続させるのは自信がない」


「継続?」


「そうだ。喉元過ぎれば熱さを忘れるって諺があってな、人間は加護を受けているのが続くとそれが当たり前になって感謝、すなわち信仰心が薄れると思う。それが今の状態だ。お前は遥か昔から加護の風を吹かしてたんだろ?」


「多分」


多分て・・・


「お前がまた落ちこぼれたらその時には手伝ってやれないと思う」


「なんでそんな意地悪を言うのよっ」


「意地悪じゃない。そんときゃ俺はもう死んでるだろうからな」


「えっ?」


「人間の寿命は短い。お前が神に戻ってまた落ちこぼれるのは100年後とかの事だ」


「セイが死ぬ?」


「当たり前のことだろ。だからどうやって他の神が信仰心を保ち続けているのか学んだ方がいい。それが分かったらお前はもう落ちこぼれることが無くなるかもしれない」


「そ、そうね。セイなんてあっさりすぐに死ぬちっぽけな存在なのよっ」


とウェンディは口調はアレだけど、寂しそうな顔でそう言った。


「そうだ。それに死ぬよりずっと前に老いて今みたいに動けなくなるしな。分かったら火の神様の国に行くぞ」


「・・・・・・・嫌よ」


「は?今の俺の話を聞いていただろうが」


「嫌なモノは嫌なのっ」


こいつ・・・


「解った。なら俺だけで行ってくる」


「おい、セイ。一人で行くつもりかよ?」


「サカキはここでウェンディが変なことしないか見張っててくれ。留守中になんかやらかすかもしれん」


「やらかすって何よっ」


「あと、ひょうたんも置いていくから見てて」


「は?なんでひょうたんを置いていくんだっ」


「こいつに飯を食わさなきゃならんだろ?食材とかどうすんだよ。それともお前らが買いに行くのか?お前、酒しか買わんだろ」


サカキやウェンディを勝手に街中へ行かせるのは不安が残る。


「しかし一人でってよぉ・・・」


「ぬーちゃんがいるから大丈夫だよ。それに魔物と戦いに行くわけじゃないから」


「セイ、ワシが一緒に行こう」


クラマが同行すると言ってくれる。


「ジジイ、大丈夫かよ?」


「お前はワシをなんじゃと思っておるんじゃっ」


そして砂婆にウェンディ達の飯を頼んでセイは火の神様の国にむかったのであった。




「セイは出掛けちまったのかい?」


「あぁ」


「しかし、私らを封じ込めるひょうたんを私らに託して行くかね普通?」


「もう封印なんてしてないだろうが」


「まったくあの子はしょうがない子さね」


セイが出発した後に帰ってきたタマモ。


「ウェンディ、あんたなんで一緒に行かなかったのさ?」


「い、行きたくないからっ」


セイが出発したあとむくれているウェンディ。


「はぁ、こんなワガママ娘の為にセイはよくやるさね」


「あいつを神に戻さんと帰れないからだろ」


「それだけど、セイは本当に戻らないといけないのかね?」


「あいつはそのつもりだぞ」


「あたしは元の世界よりこっちの世界の方がセイには向いていると思うんだがねぇ」


「まあな」


サカキとタマモは元の世界で生き苦しそうに過ごしていたセイを見てきた。この世界はセイの能力を受け入れてくれ、セイは人間とコミュニケーションを取るようになった。


「まぁ、セイが決めることさね。アンタはセイが留守の間、しっかりあの娘を守ってやんな。この娘になんかあってキレでもしたら・・・」


「解ってる」


サカキはオーガ島でヤバかったことをタマモにも話しておいた。




ー冒険者ギルドー


「おい、マモンはいるか?」


「マモンさんですか?」


「ここのギルマスだ。ロブスタが来たと伝えてくれ」


リタは潮の臭いを纏った柄の悪い男にそう言われてギルマスを呼びに行った。



「おうっ、セイとやらはどこにいる?」


「ロブスタ、お前、セイを追い返したそうだな?」


「お前の手紙を持ってたとはいえ一週間も漁を止めろとか言い出したんだぞ。当たり前だ」


「相変わらずその調子でセイに突っかかったのか。そりゃ嫌気も差すってもんだな」


「は?いいからやつの居場所を教えろ。あいつ行方不明の船を持ってきてろくな説明もせずに置いていきやがった。あいつが何かやったに違いねぇ」


今の言い種にカチンと来たマモン。


「おいっ、俺の部屋に来いっ」


マモンはロブスタの首根っこを引っ掴んで自分の部屋に連れて行くのであった。


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