アマテラスの力
「今日はどこに行くん?」
「虹のまちという漁村。こっちの世界には女神が4人居るんだけど、そのうちの一人、水の神様アーパスがいるところだよ。ウカノとイナリも居着いているけど」
「あー、あのキツネの」
「そう。オーガ島に寄って悪鬼のサカキと天狗のクラマ、毘沙門も連れて行くから」
まずはオーガ島に移動する。相変わらず相撲三昧か。妖怪達も別の土俵でやってんな。
「キュウタロウ、お前もここで相撲してるか?」
「久々のお呼びでやんすね。相撲なら任せて欲しいっす」
河童も相撲好きだしな。
「おっ、キュウタロウ、俺がもんでやろうか」
サカキは徳利を咥えながらキュウタロウにもんでやると言い出した。
「むっ、無理でやんすっ」
慌てて俺の後ろに隠れるキュウタロウ。ヌシ様と呼ぶくせに俺を盾にするな。
ここにしばらくいるなら水辺が必要だなと、キュウタロウの為に池を掘っておいてやる。ここなら海水も混じらんだろ。
「キュウタロウ、こんなもんでいいか?」
「真ん中に座れる岩場が欲しいでやんす」
甲羅干をするための岩場を作ってやり完成。小屋は誰かに頼め。
「よし、掛かってこい」
「サカキ、お前は一緒に来るんだよ」
「どこにだよ?」
「シーバス達のところだ。クラマもな」
「なんかあるのかよ?」
「お前等ここでだけ相撲しててもつまらんだろ?各地に土俵作ってやるから、そこで新たな挑戦者を募集してやる」
「おっ、いいねぇ」
「毘沙門、お前も来てくれ」
「セイ、お前、俺に指図すんのか?おっ?」
毘沙門は付いて来いと言ったセイを威嚇する。
「あんた、セイに口答えするんか?」
「あっ、アマテラス様・・・」
「口答えすんのかて聞いてのんや。はよ返事せんかいな」
「い、いえ。付いて参ります」
「そうやったら、初めっからそう言い」
「も、申し訳ありません」
アマテラス強ぇぇ。傲慢な毘沙門ですら頭が上がらんのか。これは便利♪
「セイ、ほな行こか」
笑顔に戻ったアマテラスはそう言ってセイに腕を組む。
「ちょっとぉぉっ、何すんのよっ」
「ウチら親戚やないの。そんな怖い顔したらあかんで」
「ぐぬぬぬぬ」
反対の腕にウェンディ、肩にヘスティアを乗せて虹のまちへ移動。
「ようやく来やがったか」
「シーバス、なに疲れてんだよ?」
「ウカノが我儘なんだよ。あれ持って来い、これ持って来いってよ。聞いた事もねぇもんが多いから言われてもわかんねぇんだよ。お前に連絡したら機嫌悪くて当たられるしよ」
ブツブツと文句を言うシーバス。ツバスは子育てで忙しいからシーバスとダーツがウカノの面倒を見ているらしい。
「で、その嬢ちゃんは誰だ?」
「アマテラス。俺の居た国の最高神の一柱。太陽の神様だ」
「そりゃすげえな」
「あんたシーバスいいはんの?」
「あ、ハイ。シーバスです。セイとは冒険者仲間です」
「そうなんや。なんやウカノに困ってはんねんなぁ。ちょっと呼んで来てくれへん?」
シーバスはウカノを呼びに行く。
「やい、シーバス。人間の分際でウカノ様を呼びつけるなんて生意気やねんっ」
やって来たのはイナリ。
「あら、子狐、なんや偉そうにしてるやん」
「あっ、あっ、あっ、アマテラス様・・・」
「ちょっとこっちおいで」
「はっ、はひ・・・・」
ガチガチになったイナリはロボットのようになってアマテラスの近くに来た。
「随分と久しぶりやねぇ」
「は、はい」
「あんたの未来を占うたろか?ツクヨミ程とちゃうけどウチも占いできんねん」
「えっ?あ、あの・・・」
「尻尾出し」
「あ、あの。アマテラス様にお尻を向けるなんて・・・」
「はよ出し」
「し、失礼します」
「ウチの占いはな、こうやんねん」
ブチッ
「ひぎゃっ」
「動きなっ」
「は、はいっ」
「ウチに褒められるブチッ 怒られるブチッ 褒められるブチッ 怒られるブチッ」
花占いのように尻尾の毛を抜いて占うアマテラス。イナリは涙目で耐えている。
そしてフサフサの尻尾の毛がなくなり、最後の一本。
「これで最後やねぇ。これを抜いたらウチに怒られるや。覚悟はええか?」
「すいませんっ すいませんっ すいませんっ」
尻尾を丸裸にされるまで毛を抜かれただけでも十分なのにまだこれから怒られると占われたイナリは泣いて謝る。
「あんな、ここは他の神さんの世界や。遊びに来ている分際で何を偉そうにしとるんや。次にこんなん見つけたらどうなるかわかってんな?」
「はっはっ、はいぃぃぃっ」
「わかったらはよウカノ呼んどいで」
涙目になったイナリは走ってウカノを呼びに行った。
頭を下げながらこっちにくるウカノ。
「ご、ご無沙汰しておりますアマテラス様」
「あんた、偉い我儘言うてはるんやてな」
「そっ、そのようなことはっ。ちょっと食べたい物をお願いしただけで。ちゃ、ちゃんとその分は豊作になるようにその・・・」
「やることはやってるて言いたいん?」
「は、はい」
「なぁ、セイ。ここはウカノの力が無いと困るんか?」
「いや、アーパスが加護の雨を降らせたら実り豊かになるからウカノの力は不要だね」
「なっ、なんでそんなこと言うんよっ」
「事実だろ?お前がいたらタマモはこの街で出てこれないし」
「なんやウカノ、あんたタマモと仲悪いんか?」
「そ、それはあいつは妖怪やし・・・」
「タマモはセイの母親代わりやねんて。そんな妖弧と揉めたらあかんやん?んー?」
「は、はい」
にっこり笑ってそう言うアマテラスに逆らえないウカノ。アマテラス強ぇぇ。
「タマモ、出ておいで。ここはあんたらが先に来てた世界や。遠慮することあらへん」
「あら?ウカノ。随分とアマテラス様の前ではしおらしいじゃないか」
「くっ、タマモ」
「ほらウカノ、あんたもここにいたいんやったら手土産ぐらい持ってきぃな。今やったら野菜とかええのんちゃう?あ、湯葉とかもええな」
アマテラスは色々とリクエストする。イナリに取りに行かせようとしたら、あんたが行って来ぃやと言われて渋々取りにいったのだった。
「なぁセイ、これからなんかあったらウチに言いや。なんでもしたるから」
と、しなだれ掛かってくるアマテラス。
「離れて」
すずちゃんと手を繋いだアーパスがやってきた。
「あらぁ、ここにも座敷童子が居てはるんやねぇ。しかも二人も」
「アマテラス、背の高い方はアーパス。ここの神様だよ。小さい方が座敷童子のすずちゃん」
「あらそうなんやぁ。ウチはアマテラス。セイとええ仲の神なんよ」
「セイ、どういうことか説明して」
「良い仲って変な意味じゃないよ。俺に混じってるのモノがアマテラスと関係があるんだって」
「くすくす。あんたも焼きもち焼くん?」
「私はセイの女。当たり前」
「大人しい顔してはっきりいう娘やねぇ。ウチはそういうの好きやで。仲良うしよな。それに親戚みたいなもんやし」
「意味がわからない」
「あんたらウェンディと姉妹みたいなもんやろ?ほならそういうことやん。なぁ、ヘスティア」
「えっ、あ、あぁ」
「ウェンディもセイにそんなにくっついてんでも取らへんって」
ウェンディはセイの腕にしがみついている。
「セイ、アマテラス様ってなんか凄ぇな」
「う、うん。あと毘沙門も紹介しておくわ。色々な力があるけど戦いの神と言っても良いような神。サカキとタメを張るぐらい」
「げっ、そんな神がいるのかよ」
「というかオーガ島は妖怪だけでなく神だらけになってる」
「マジかよ」
「そこで相撲って物をやっててさ、ここでもやろうかと思って」
「どんなんだ?」
「今から広場に土俵を作るから見て貰った方が早いね」
サクサクとクラマの指示で土俵を作り、デモンストレーションとしてサカキと毘沙門にやらせる。
お互い睨み合いながら大きく足を上げて四股を踏む。四股ってのに邪気祓いなのにサカキがやって大丈夫なのか?
「ハッケヨイ 残ったーっ 残ったーっ」
行事はクラマだ。
立ち会いから頭と頭がぶつかりゴスッという大きな鈍い音がしたあと張り手の応酬。
そして毘沙門が上手、サカキが下手を取り投げ合いに移る。
「どりゃぁぁぁっ」
サカキの下手投げが決まり勝ち。
「うわぁぁぁあっすげぇっ!」
何事が始まるのかと見物をしていた街の人や冒険者達が歓声を上げる。筋肉隆々の大男二人が裸でぶつかりあい投げ飛ばす迫力は満点だ。剣も魔法も使わず力と技のぶつかり合いはこの世界の人には新鮮に映ったらしく大興奮だ。
「サカキてめぇっ、今まで手を抜いてやがったのかっ」
「今日はセイがいるからな」
勝負前にサカキに妖力を流してやったのだ。しばらくひょうたんにも戻ってなかったしな。
「汚ねぇやろうだ。人の手を借りやがって」
「セイは俺の弟子だからな。セイ、この弱っちいのとやってやれよ」
「は?無理に決まってんだろうが」
「あいつ弱ぇから大丈夫だって」
「きっさまぁぁ、神が人間ごときに負ける訳がないだろうがっ」
「へぇぇそうなんや。セイ、やったり。人間舐めてるやつにお仕置きしたったらええやん」
「あのなぁアマテラス。剣や術使うならまだしもガチンコの力勝負で勝てる訳がないだろうが」
「大丈夫やて。遠慮せずにちゃんと力と出したらええんよ」
「なんか混じってるらしいけど自分ではよくわかんないんだよ」
「そうなん?ほなら呼び出したるわ」
え?
アマテラスがセイの背中に手をやり光を注入する。
ドクンっ
なんだこれ・・・
セイの中から禍々しい力が溢れ出て来る。
「おいっ、アマテラスっ。セイを暴走させる気かよっ」
「心配せんかてええて。セイの意識ははっきりしとるやろ?」
アマテラスの言う通りマガツヒに飲まれることなく力のみがセイに宿る。
「お、おまっ、お前そんなもんが混じってるとか聞いてねぇぞっ」
毘沙門も何の力か瞬時に悟る。
「じゃあやろうか」
「ま、参った」
毘沙門はセイと相撲を取る前に参ったをした。観客からは大ブーイングだったのは言うまでもない。