ストーキング
散々焼き鳥を食べて飲んだあとに焼き芋を食べたいと言ったアマテラス。
「めっちゃ甘いや〜ん。こんなに筋の無い甘い芋初めて食べたわぁ♪」
これは品種改良されたシルクスイートだからな。元の世界で手に入れて砂婆がせっせと里で栽培しているのだ。
「もっと甘いのもあるけどね」
「そうなん?ほんなら次はそれ焼いてぇな」
ウズメは表情があまり変わらずに食っているがアマテラスはめっちゃ美味そうに食う。ついついおっとりとした関西弁と相まってこれ食べるか?とか世話を焼いてしまう。
「なんだよ?アマテラスには随分と優しいじゃねーかよ」
「お前らにも同じことをしてるだろうが」
「態度が違うんだよ態度がっ。まさか惚れたんじゃねーだろうなっ」
「そうよっ。セイはわたしのなんだからねっ」
ツクヨミと違って女神だとはっきりとわかるアマテラスに焼きもちを焼く二人。
「なんや、あんたら焼きもち焼いてるん?えらい可愛らしいやんかぁ」
「そっ、そんなんじゃねーよっ」
「ふーん、ほんまかなぁ?ほならウチがこないしても焼かんの?」
と、隣に座って腕を組んでくる。
「ちょっとぉぉぉっ!セイに触んないでよっ」
「ほら、焼きもちや〜ん」
「うるさいっ 離れてっ」
ドンとアマテラスを突きとばしてセイにしがみつくウェンディ。ヘスティアも肩に乗ってアマテラスを威嚇する。
「あんたらおもろいなぁ。セイにはウチとおんなじもんが混ざってるて言うたやないの。姉弟みたいなもんやねんから焼きもちなんか焼かんでもええんねんで♪」
「うるせえっ。セイに触んなっ」
「いやぁ〜ん、セイ。炎神はん怖いわぁ」
そう言ってコロコロ笑いながらセイの手を握るアマテラス。アマテラスは二人をからかって遊んでいるようだ。
「ほら、ヘスティア、降りろ。ウェンディもしがみつくな。次の芋が燒けたぞ」
「剥いてよ」
「冷ましてくれよ」
ハイハイ。
二人に食べやすいようにして皮を剥き、ヘスティアにはフーフーしてから渡す。
「タマモは昔ながらの芋の方がいいんだよな?」
「あたしゃベチャベチャ系よりホクホク系の方が好きさね。揚げて飴と絡めてもいいねぇ」
ぬーちゃんはどっちでもいいみたいなので甘い方を。
「あんたら妖怪やんなぁ?」
「そうさね。最高神があたしらみたいなのと一緒にいても大丈夫なのかい?」
「あんたは大睦の妖弧やろ?そっちは鵺やんなぁ?セイとどういう関係なん?」
「あたしはセイの母親代わり、鵺は友達さね」
「へぇっ。あんたらよう討伐されへんかったなぁ」
「アマちゃん、妖怪達はみんな俺の仲間だよ」
「仲間?なんでなん?妖怪は人の怖れから生まれた存在やのに?」
「元々はそうかもしれないけど、もう妖怪を見ることの出来る人間なんてほとんどいないだろ?」
「そうやねぇ。神を見ることの出来る人間はもっと早ようにおらんようになってしもたからねぇ」
「だから妖怪も悪さしても気付かれる事もなくなってしまったから悪さするやつがほとんどいなくなったんだ」
「存在意義の喪失って奴やなぁ。ウチらとおんなじかもしらへんねぇ。まぁ、それはそれでええねんけど♪」
「お前は人から見られなくなっても気にしねぇのかよ?」
「別にかまへん。あれしてくれこれしてくれって直接言われへんようになった分楽やわ。お日さんも勝手に登るようになったし」
「寂しくねぇのかよ?」
「ウズメもおるし、お供えもんもぎょうさんあるしな。神もあちこちにおるやん」
「アマちゃん、こっちの世界は女神が4人と大神が一人。向こうの世界とは違うんだよ」
「そんなけしかおらんの?そら寂しいなぁ。人からも見えへんのやろ?」
「ちょっと前から普通の人にも見えるようになったからよ、そうでもねぇぜ。それにセイがいるからな」
「アマちゃん、こっちの世界はみんなアマちゃん達の事が見えてるからな」
「そうなん?ほならさっきなんも隠さずにお風呂入ってたんも見られたかもしれへんの?えーっ恥ずかしわぁ」
「ここには誰も来ないよ。人が住んでる所からかなり離れているし」
「人間なんてどこにでもおるやんか?」
「こっち世界は人口が全然少ないんだよ。人のいる所の方が少ないぐらいだからね」
「へぇ、始まりの頃みたいやねぇ」
「その頃は知らないけどそうかもしれないね」
そしてそのままニコニコと帰る気配すら出さないアマテラス。
「食べ終わったんなら帰りないさよ」
不機嫌なウェンディ。
「えぇ〜、ええやないのぉ」
このままテントで寝たら一緒に寝そうなのでオーガ島に移動してあそこに収容しよう。
「セ、セ、セ、セイ。誰を連れて来たんや」
アマテラスとウズメが来たことにより騒然となるオーガ島の神々。特にヒムロは腰を抜かすぐらい驚いている。
「アマテラスとウズメ、あとは宜しくな」
「えっえっえっ、ちょっと待ちいなっ」
アマテラス達をヒムロに押し付けてセイは逃げた。ウェンディ神社からヒムロの所を通って元の世界に。
「なんで俺達が逃げなきゃなんないんだよっ」
「あのままあっちにいたらずっと付き纏われるだろうが。その方がいいのか?」
「なんで自分の世界から追い出されなきゃなんないのよっ」
「なら戻るか?あのままだと一緒に寝に来るぞ」
「それはイヤ」
「だろ?しばらくこっちで過ごそう」
ホテルに泊まると人目に付くかもしれないのでテントを張る事に。どこにテントを張ろうか。人目を避けるなら山奥。が、もうどこにいても誰かいそうな気がしてならない。
木を隠すなら森の中。テントを隠すならキャンプ場か。スマホで勝手に使ってよいキャンプ場を探す。キャンプするところって予約とか必要なんだな。
色々と調べたこのダムはトイレしか施設が無く人気が無いのか。ここに行ってみよう。
ぬーちゃんに飛んで貰って、スマホで地図を確認しながらダムの公園みたいな所に到着。こっちも紅葉シーズンなのでそこそこテントが張られていた。
「空いてるんじゃなかったのかよ?」
「これでも空いてるんじゃない?」
ネットで調べるとキャンプの情報が山程出てくる。今は空前のキャンプブームのようだ。人のテントを近くを避けて一番不便そうな所にテントを出して寝ることに。これでようやく落ち着ける。
マットレスの上に寝転び毛布に包まる。ここは山の上だからか結構冷えてくるな。
ウェンディも寒いのかモゾモゾと入ってきてヘスティアは上に乗りやがる。こっちに来ると重さがあるんだよね。しかし温いのでこのままでいいか。
久しく安眠出来ていなかったセイは心地よい温もりで爆睡したのであった。
「あー、良く寝たわ」
上に乗ってまだ寝ているヘスティアをコロンと横に避けて伸びをする。
ブッ
なんでここにいる?
「アマテラスっ、お前なんでここで寝てるんだよっ」
「むにゃむにゃ。ん?あ、おはようさん。お日さんまだ登ってへんで。えらい早起きやなぁ」
「おはようさんじゃないわっ。なんでここで寝てるかって聞いてるんだよっ」
「なんでて、眠なったからに決まってるやないの」
ダメだ。神はゴーイングマイウェイ。何を言っても無駄だ。もう知らん。
セイはもう一度毛布に包まる。
「なんやのぉ、まだ寝るんやったら起こさんといてぇなぁ。ウチもお日さん登るまで寝るわ」
そして日が登り、もう朝やでと起こされる。日が登ってるのぐらい知ってるわ。
ウェンディとヘスティアを起こすと二人共驚いていた。
「なんで付いてくるんだよっ」
ヘスティアは不機嫌そうにいう。
「そんな邪険にせんといてぇな。ウチは日の神、あんたは火の神。似たもん同士やないのぉ」
「わたしは風の神よっ。あんたとは関係ないじゃないっ」
「そう言われたらそうやなぁ。ほなら風神呼んだろかぁ?一緒に雷神も来はると思うけど」
やめろ。もう神はお腹いっぱいだ。
取り敢えず朝飯だ。他のテントも朝ごはんの準備を始めたようで、焚き火台で準備をする人、カセットコンロや専用コンロで支度をする人とか様々だ。こちらは魔導コンロで味噌汁を作ることに。
「セイ、何の味噌汁するんだ?」
「何がいい?」
「豆腐じゃなかったらなんでもいいぞ」
ヘスティアは豆腐は味がしないと言ってあまり好まない。麻婆豆腐は食べるんだけどな。
「ウチ、海老か蟹のがええわ」
と、横からアマテラスがリクエスト。
「そんな晩飯の味噌汁みたいなのを朝に飲むのか?ワカメと玉ねぎとかでいいだろ?」
「ええやないの。材料ないんやったら持ってきたるし。ウズメ、海老持ってきたって」
「ハイ」
ご飯は里で砂婆が炊いてくれているので待っている間にアジの干物でも焼いていくか。
炭火もヘスティアの力ですぐに火起こしが出来るのでバーベキューセットを用意。お湯も湧いた頃にウズメが戻ってきた。手に持つザルには海老が5匹。
「お待たせしました」
「おおきにな。はいセイ、海老やで」
「あのなぁ、これ伊勢海老だろうが。しかもこんな大きいのどうやって調理するんだよっ」
「海老言うたらこれやないの」
ウズメは奉納されていた伊勢海老を持ってきたのだろう。物凄く立派な伊勢海老だ。
ビチビチする伊勢海老。自分ではどうすることも出来ないので砂婆を呼ぶ。
「味噌汁にするには大きいのう。出汁は頭で取るかの」
砂婆は伊勢海老をスパンと2つに割り、焼いて食べるようと出汁用に分けていく。そして味噌汁を作り終えるとご飯を持ってきてくれて帰っていった。一緒に食べる?と聞いたら朝からこんなのはいらないだって。
伊勢海老と一緒にアジの干物を焼いていくといい匂いだ。
朝飯を終えたキャンパーは散策しに行くのかこっちにくる。ふと後ろを見るとハイキングコースの道がここにあるようだ。
「お早うございます」
「えっ、あ、お早うございます」
キャンパーって声かけるのがマナーなのか?
「朝から豪勢ですねぇ」
「いやぁ、まあ」
そりゃ、海辺でもないダムの広場でこんなデカい伊勢海老を焼いてたらそう思うわな。しかも5人分の食材だけど見えてるのは3人だろうし。
ちょっと食べたそうだけどウェンディ達ががっつき出したのを見て二人は散策に行った。その後も散策に行く人達に声を掛けられる。落ち着いて食えやしないのでテントの中で食べることにした。
「この味噌汁美味しいわぁ。さっきの妖怪はご飯作らはんの上手やねぇ」
「ツクヨミも砂婆に刺し身と煮魚作れってうるさいんだよ」
「へぇ、ツクヨミはほとんどお酒しか飲まへんのに?」
「その酒のツマミだよ。肴ってやつ」
「ウチは飲むより食べる方が好きやわぁ。お昼も夜も楽しみやねぇ」
アマテラスはそうニコニコとしながら言ったのであった。