ウラウドも神あり国に
「随分と久しぶりじゃねーか」
「本当に。ギルマス随分とジジイになったね」
「うるさいっ。そういうお前はちっとも変わらんな」
「俺はなんかいろんな血を引いてるみたいなんだよね」
これで勝手にエルフの血が混じってるとか勘違いしてくれるだろう。
「で、急に来たのはなんかあったのか?」
「虫使いはまだ働いてんの?」
「いや、もうギルドでの預かりは終わった。しかし独立して立派にやってるぞ」
「今日は蟲使いの作った毒の予防薬のレシピ料っていうのかな?それを預かってきたんだよ」
「あいつはレシピを無料開放しただろう?」
「ボッケーノの研究者がちゃんと払うって言ったからね。他の所はわかんないけど開発した者にちゃんと利益が行くべきだって言ってたよ」
「そうか。随分としっかりした研究者だな。店を教えてやるから持って行ってやれ」
ギルマスに場所を聞いて行って見ると粗末な一軒家だった。
「おーい、虫使いはいるか?」
「あっ、あなたはっ」
「覚えてた?」
「はい。あの頃とお変わりないのですぐにわかりました」
虫使いも随分とおっさんになっている。
「あの毒予防ポーションのレシピ料を預かってきたんだよ。はいこれ」
「えっ?」
「ボッケーノのポーション研究者にあのレシピを渡したんだ。それで量産して儲かったんだって。内訳はわかんないけど開発者の取り分だそうだよ」
「あの薬は罪滅ぼしで・・・」
「たくさん売れたということは助かった人が多いってことだよ。それが罪滅ぼしになったと思うよ。これはれっきとした報酬だから受け取ったら?断わられたらまた返しに行かないとだめだし」
「本当にいいんですか?」
「もちろん」
作物の受粉や冬場のG退治が忙しいとは思うけどあまり裕福そうではない。多分ずっと罪滅ぼしに代わりに安値で仕事を受けているのだろう。あれから10年くらいやり続けてるんだ。もう正当な報酬を受け取ってもいいと思う。
「あ、ありがとうございます」
虫使いはホロホロと泣いて受け取った。自分が許された気になったのかもしれないな。
今から仕事に行くようでここでお別れ。セイは用件が済んだのでトウモロコシのお酒を大量に買っていくことに。
いつもの宿に泊まり、ぬーちゃんに女神ズのお守りを頼んで風呂に行くと当然のようにウラウドがやってきた。
「随分とお久しぶりですね」
「色々とやることがあってね。それも落ち着いたよ」
元の世界の神々が来ていて新たな面倒事が増えてはいるが。
「この後ラウンジでお話でもしませんか?」
「良いですよ」
「あと、一人ご紹介したい方がいまして、ご一緒でも構いませんか?」
「別にいいですけど・・・」
ウラウドは人付き合いしていないはず。誰だろうか?
そしてラウンジに移動してトマトジュースを飲んでいると一人の男性か女性かわからない人がやってきた。
「そなたがセイか?」
「あの、えーっと・・・」
見覚えはないけどこの世界の人では無いことは確かだ。綺麗な長い黒髪の人?
「妾はツクヨミと申す」
え?最高神の一柱じゃねーかよ。
「ツクヨミ様がなぜここに?」
「やはりお知り合いでしたか」
と、ウラウド。
「いや、知り合いというかお会いするのは初めてです。この方は神様と言っても最高神の一柱なので・・・」
伝承では知っている。本名はツクヨミノミコトで男神だったはずなんだけど。見た目は女性だ。
「セイ殿の国の神であられましたか」
「はい。ツクヨミ様は男神だと伺っていましたけど女神だとは初めて知りました」
「そなたには妾が女に見えるのか?」
妾とか言ってるじゃん。
「はい」
「ふふっ、ならばそれで良い」
違うのだろうか?それとも男の娘というやつか?
「ツクヨミ様がなぜここに?」
「ここは良い闇に包まれておる」
そんな事を聞きたいのではない。
「こっちの世界になぜお越しになられたのですか?」
「ふむ、セイよ。妾に様付けはいらぬぞ。そなたは妾の血も混じっておる。親戚と言うか兄弟というか難しいがのぅ」
曾祖母の祖先を辿ると月読家だけど、まさか本当にツクヨミ様の血が流れてんのか?月読の盤も曾祖母の家に伝わる物だったし。それと兄弟と言うのは俺に混じっているらしいマガツヒの事を言っているのだろうか?
「ツクヨミ様、これ、俺が持ってるんですけどお返しした方がいいですか?」
「様付はいらぬと申したであろうが」
「あ、すいません」
「ふむ、妾の盤か。どこに行ったかと思うてはおったがそなたが持っておったか」
「はい」
「ならば構わぬ。そのまま持っておるがよい。使ってみたことはあるか?」
「いや、使い方は知っていますが自分では使った事がないです。占いの道具ですよね?」
「能力が無いものが使えば普通の占いじゃ。あやふやな事を言っておけば後からこういうことじゃったとか言えば全てが当たる」
占いや予言の類はそういうのが多い。どうとでも取れる内容を言えばいいのだ。しかし、元々月読の盤は天候や潮の動きを知るための物で使う者によっては未来を占う事が出来るのだ。曾祖母ちゃんはあやふやな占いではなく吉兆占いや捜し物の占いを的確に当てていた。
「天候や吉兆占いをする為の物ではないのですか?」
「そなたが使えば未来が見えるであろう。興味があるなら使ってみればよい」
未来がなんでも見えたら楽しくなくなるよな。
「あ、はい。機会があれば使って見ます」
「それともしや神通丸もそなたが持っておるのか?」
「はい。破邪の錫杖と封印のひょうたんも。ひょうたんはお返し出来ませんが他のは返せと言われるならお返しします」
「錫杖とひょうたんは知らぬのう。神通丸も必要ではないと申すか?悪鬼とかも斬れるであろう?」
「いま、悪鬼は俺の仲間ですよ」
「そうであったか」
「はい。それに俺にはもうこの世界の剣がありますから」
と、メラウスの剣を見せる。
「ふむ、これは神すら斬れるものじゃな。誰が作った?」
ツクヨミはメラウスの剣を抜いてもなんともない。
「こちらの世界の職人と神ですよ」
「ほう、自分すら殺せる程の物をお前に与えるとはその神に愛されておるじゃの」
「愛されている?」
「その神はそなたになら殺されても良いと言うことであろう?」
ヘスティアはそんな深く考えてなかったと思うんだけど。俺様も斬れるぞとは言っていたが。
ツクヨミによると神通丸では神は斬れないらしい。
「ツクヨミはどうしてこの世界に来たの?」
「噂じゃ。空も海も土地も何も汚れてはおらぬ綺麗な世界があると聞いての。少し見に来たら確かに良い闇をもっておる。今やあちらの世界は夜が無いところも多いでの」
元の世界の夜は田舎でも明るいからな。
「特にここは良い闇に包まれる」
「ここは夜神様に守られている国ですからね」
「そうであったか」
「ツクヨミ様、ここがお気に召されたようならお好きなだけご滞在下さい」
と、ウラウドが言った。ツクヨミの為の社も建ててやるらしい。ここは神なし国だから問題ないな。ツクヨミがいればもっと豊かな国になって行くだろう。
「そなたは海の魚は手に入れらるか?」
「手に入りますよ」
「ならば期待しておる」
ウラウドの魚は淡水魚と淡水の魔魚だ。海の魚が食べられるなら居着くつもりなのだろう。
「ウラウドさん、アクアからここまで街道の整備をしようか?」
「街道の整備?」
「荷馬車がもっと楽に通れるようになれば流通が増えるでしょ?」
「確かに。しかし宜しいのですかな?」
「ツクヨミがここに住むなら食べ物の種類が増えた方がいいしね。トウモロコシのお酒や粉とか売れると思うよ」
保存コンテナを使えばトマトジュースも売れるだろうな。
これをするのは自分の為だ。流通がないとツクヨミからしょっちゅう呼び出されてしまうかもしれない。ツクヨミは元の世界からここに来るのに使った神社はガイヤのものだったみたいだ。空を飛んでここを見付けたらしい。
セイはまた来ると約束をしてウラウドを去ったのであった。
ダンジョン産の魚は栄誉が足りないかもしれないのでえべっさんに魚を釣って貰う。
「はぁ〜、ツクヨミ様も来られてるんか」
その様子を見ているヒムロ。
「あ、ヒムロ。お前スクナにもここのことを教えただろ?」
「スクナやったらええやろ?」
「いいけどさぁ、もうどうせ収拾付かなくなってるから」
「そのうちみんな来るんちゃうか?」
「あーっはっはっは。会議をここでやるかもしれへんなぁ」
と、えべっさん。
は?
「出雲でやってるやつ?」
「そうや。毎年毎年愚痴しかでん会議や。ここでやったら釣り大会も相撲大会も歌や踊りも全部出来るがな」
えべっさん、なんて事を言い出すんだ?
「えべっさん。ここは元々は鬼達の島で、そこに妖怪達の居場所を作るのに広げたんだぞ。神達のために作った訳じゃないんだからね」
「堅いこと言わんでもええがな。一ヶ月間の話やないか」
「一ヶ月間で済むわけないだろうが。向こうの世界に神がいなくなったらどうすんだよっ」
「かまへんかまへん。向こうには仏さんもおるし、外国の神さんもおるやないか」
「そんな問題じゃないって。神の恩恵がなくなるだろうが」
「もうそんなもんとっくにあらへん」
え?
「人間は力を付けた。ワシらが別になんかしたらんでも問題あらへん。そりゃあ熱心に感謝してくれる人間もおるけどほとんどがあれせえ、これせえばっかりや。ほんでその願いが叶わんかったら手のひら返しで恨んだりしよる。アホらしなんのもわかるやろ?」
「ま、まぁね」
「そやけど、ここはええ。ワシらも楽しめるし、人間も素直に感謝だけしてくれよる。神にとって居心地がええんや」
「だけど、この世界にはもう神がいるだろうが」
「それがええねんやんか」
「どういうこと?」
「人間で言うたらリゾート地ってやつや。遊びに来させてもうて福を落としていく。そんな感じやな」
「住み着くつもりなんだろ?」
「まぁ、なんかあるときには向こうに帰えるから居着くんとは違うで。こっちにいる時間の方が長なるいうだけや」
それを住み着くというのだ。
えべっさんでこれだから他の神には言うだけ無駄だな。
セイは神が増えて居着くのを想定してオーガ島をまた少しずつ広げて行くのであった。