20代最後の年
「セイ、その溶接ってどういうこった?」
「一部分を溶かしてくっつけるってことだと思う」
「そうか、なら俺様もやってやんよ」
職人によると溶接して繋げた所をヤスリで平らにするらしい。
ぶっ
ヘスティアは瞬時に溶かして繋げた。まるで初めから繋がっていたようになめらかだ。
「すごいなお前」
「これくらいセイも出来るだろが。そんなに力はいらねぇからよ。おい、イフリート、お前もやれ」
ヘスティアはイフリートも呼び出し3人で溶接していくことに。一箇所一箇所が瞬時に溶接されて行くので早い早い。レールを枕木に固定する作業員が追いつかないのでどんどん先に繋げておいた。ついでに貨物線のも繋げておいてやる。
これを一ヶ月程かけて完了。あとはお任せだ。
運搬船も動き始めたのでこれで各国の物や人の流通が増えて行くだろう。
セイはオーガ島に住みたい妖怪達を放ち、好きに生活をさせることにした。あとからひょうたんに入ったものの多くはオーガ島に移り住む。元からいた奴らはしばらくこのままでいいらしい。まぁ、好きにしてくれ。
あちこちに顔を出しては家でゲーム三昧の日々。もうセイが主導で何かをする必要もなくなってきたのだ。
「よく飽きないなお前ら」
「こいつら汚えんだよっ。ハメ技ばっかり使いやがってよ」
ゲームをネットに繋げた事により、対戦ゲームに熱中するヘスティア。ウェンディはまるで勝てないので対戦ゲームはやってない。
そしてセイの20代は今年で終わりになる年だ。実際に30歳になるのは半年後だけどなんか30歳という響きがおっさんになったような気がする。見た目は19歳の時のままだが。
「セイよ、妾の方が年上に見えるではないか」
「マリーは本当に綺麗になったよね。威厳も出てきたし、まさに女王様って感じだね」
「そのような事を申すな。セイの前では子供でいたいのじゃ」
「もう無理だよ。諦めろ」
「ぐぬぬぬ」
「年末年始は休むんだろ?うちに遊びに来るか?」
「いいのかっ」
「いいぞ。みんなでゲームをやろう」
時々マリーの所に遊びに来たときにヘスティアがゲームの話をするものだからマリーはそれをやってみたくて仕方がなかったのだ。しかし、自分の我儘が誰にどう迷惑を掛けるかわからないのでずっとやりたいと言わずに我慢してきたのだった。
「しかし、護衛がのぅ」
「俺に依頼したと言えばいいだろ?シーバス達も呼ぶし」
「おー、ならばそうしよう。いつじゃいつ迎えに来るのじゃ?」
「31日の朝に迎えにくるよ。動きやすい服にしておけよ」
「わかったのじゃーっ」
女王様から姫様に戻るビスクマリー。休みなく王様を続けてきたから遊ばせてやろうとセイは誘いに来たのだった。
各地の仲良い人達を呼んで20代最後の年末年始を楽しもう。
年末の準備を少し前から始める。砂婆に頼まれた食材やゲームを買いに行って準備をする。寝室が足りない分はテントを張る事に。多分寝ずに遊ぶだろうからいらないかもしれないけど。
「こりゃマダラ。それは正月の昆布巻じゃと言うたろうが」
「にゃははは」
マダラは鮎の昆布巻きをつまみ食いして怒られている。俺は数の子をつまみ食いしてやろう。
ポリポリと数の子を食っているとウェンディ達もつまみ食いしようとする。
「やめろっ、お前らはつまみ食いで済まないだろうが」
「ずりぃじゃねーかよ」
「こっちでポテチ開けてやるからそれを食え」
「おーし、それでいいぜ。コーラも出せよな」
すっかり元の世界の物に馴染んだヘスティア。ウェンディはポテチじゃなしにポテトを揚げろという。アーパスはすずちゃんの味覚につられて干し柿とかを食べるようになっていた。座布団に正座してるし・・・
そして皆が集合すると屋敷には入り切らず、ゲーム組、宴会組に分かれる。宴会組はビーチを掘り海水を引き込みヘスティアに沸かして貰った。即席海水温泉だ。
概ね女性陣は屋敷の中でご飯を食べながらゲーム、男性陣は風呂に入りながら飲むというスタイル。タマモやマダラは水着を着てこっちに参加だ。
「風呂に浸かりながらの鍋とかたまらんのう」
ビビデはカニを食べながら酒を飲みご満悦のようだった。
「ティンクル、お前水着を持ってきたのか?」
「これは下着だ」
「アホかっ。透けるだろうが。ちょっと待っとけ」
アーパスの水着ならちょうどだろう。アンジェラはタマモの水着がいけるか。他にも入りに来るかもしれないから水着を出しておく。サイズは勝手に選んでくれ。
女神ズが着替えてこっちにやってくる。
「カニ剥いてよ」
「食べ方知ってるだろうが」
「いいからっ」
「俺様のもやれよな」
「私も」
「じゃあ私もね」
いつの間にかテルウスも来ていた。
「ちょっとぉ、なんで誘わないわけっ?」
海からビチビチしてマーメイ達もやってきた。
「オーガ島は新年会の予定だったんだよ。こっちに入ってくんな。今掘ってやるから」
「どうしてよっ」
「お湯が出汁臭くなるからだ」
そう言ったセイはビッタンビッタンいかれる。サム達は夜に出る魔魚狩りに行っているらしい。
「ずるいのじゃっ」
ぶっ
「マリー、胸がこぼれてんだろうがっ」
「仕方があるまい。もうこれしか残ってなかったんじゃから」
もう水着はないらしく胸にタオルを巻かせた。立派にお育ちになられたものだ。
結局全員海水温泉に集合だ。セイは給仕の式神を出してカニをせっせと剥かせる。自分の分も剝かせたので楽ちんだ。
グリンディルはまた腹が・・・、いや見ないでおこう。
若い人魚達にも剥いたカニを食べさせお酒も口に入れてやる。酔っても海坊主がなんとかしてくれるだろう。
一通りカニを食べた後は年越し蕎麦をそこへ投入。首に巻き付いたぬーちゃんと蕎麦を一緒に食べる。カニ鍋の出汁で食べる蕎麦は旨いのだ。
「なんでぬーちゃんと人魚達にだけ食べさせるんだよ?」
「ヘスティアは自分で食えるだろうが。それに人魚に食べさせてるのは式神だ」
「俺様達はほったらかしかよ」
「式神でカニを剝いてやったせろうが」
「そんなんちげーよっ」
サバっとお湯から出て肩にのるヘスティア。水着でそんなことをするなよ。
「ちょっとぉぉっ、くっつかないでよっ」
「私はここ。じゃないと溺れる」
アーパスは膝の上に乗る。食べにくいからやめて欲しい。
だんだん収拾がつかなくなる海水温泉。皆湯に浸かって飲んでるから酔いが回るのが早いようだ。
もう好きにしてくれ。
暑くなってきたセイは砂浜に座る。はぁー、キンと冷えた空気が気持ちいいわ。しかしすぐに寒くなってきたセイ。落ち着くとあのどんちゃん騒ぎの中に戻るのは勇気がいるな。
「よう、寒いんじゃねーのかよ?」
「ヘスティアは相変わらず寒いの平気だよな」
「暑いより寒い方が好きだぜ」
「風呂のお湯は熱いのを好むのに本当にどういう感覚してんだよ?」
それに猫舌だし。
「寒っ、戻るぞ」
「へへっ、温めてやんよ」
と、ヘスティアが後ろから抱き着いてくる。確かにとても温かいけど水着でそんなことをされると恥ずかしい。もう10年くらいこういうことがあるけど未だに恥ずかしいな。
「またウェンディがキーキー怒るだろうが」
「別にいいじゃねーかよ」
と言われてもグチグチ拗ねられるのが面倒なのだ。海水温泉に戻ろうとしても離さないのでおんぶして戻ることに。
「ウェンディのやつ寝てんじゃねーかよ」
溺れそうなので抱き上げて寝かせに行こうかと思って持ち上げたらくすくす笑ってそのまましがみついた。
「起きてんのか?」
「ブッブー、寝てまーす」
めっちゃ酔ってんなこいつ。
もうヘスティアも酔ってるみたいだし、寝かせた方がいいな。アーパスものぼせてそうだし。
テントをこっちに持ってきてあるのでウンディーネに女神ズと自分の塩を洗い流してもらい水分も抜いてもらった。水着を着替えろと言ってもそのまま寝るだろうからな。テルウスはいつの間にか帰ったみたいでもういなかった。
ウェンディ達をテントに連れて入りもこもこパジャマを着せて布団と毛布をかけておく。これは何着目だろうか?飽きずに同じ物を着るから同じものを何回も買ったのだ。
そしていつの間にか年が明けていた。今年、俺は30歳になるんだと思うとなんか変な気持ちだった。
「今年も宜しくな」
と、セイは女神ズに呟き布団に潜り込んだ。
少し寝てまだ飲んでるみんなと初日の出を拝み、もう一度寝ることに。
日が昇って気温が上がったころから恒例の餅つき。おせちと雑煮を食べて各自好きな餅の食べ方をして解散となった。皆を扉で送り終えると結構疲れていた。
女神ズを寝かせて一人露天風呂。
「はぁ〜、やっぱり風呂は一人で入るに限るな」
セイは溜まった疲れが抜けていきそのままウトウトとしてしまった。
エンヤトット エンヤトット
ん?
えらく明るい船だな。イカ釣り漁船か?いやこの世界にそんなのはないっ。
あっ、あれは・・・
セイが目にした物は黄金に光り輝く船、そう宝船だ。
こいつぁ、正月から縁起がいい。
えっ?宝船・・・
はっ
そこで目を覚ましたセイ。
「夢か」
これは初夢と言っていいのだろうか?まぁ、うたた寝でも初夢としておこう。初夢に宝船を見るなんていい年になりそうだ。
今年30歳になるセイは身も心もホクホクして寝に行ったのだった。