フラッシュバック
真っ青な顔になって屋敷に戻ったセイ。
ギャーギャー騒ぎながら遊んでいる女神ズをスルーしてそのまま寝室へ。
カタカタカタ
セイはベッドの中で震えていた。
「は、母親が会いたいだって・・・」
母親の顔は覚えてはいない。しかし自分を怯えだ目だけが自分を襲ってくる。
カタカタカタ
一気にフラッシュバックするあの日の気持ちがセイを恐怖と焦燥感に包み込む。どうしていいか分からない。なぜ今頃会いたいと言うのだ?あれだけ焦がれても会えなかった母親に・・・
「あれ?セイのやろう戻って来てたよな?どこ行ったんだ?」
「早く代わってよっ。これはセイが私の為に買ってくれたんだからねっ」
「違えーよっ。俺様の為に買ってくれたんだろうが」
揉める二人。その隙にアーパスが一人プレイ。
「キィーーーっ。次はわたしって言ったのにぃっ」
ウェンディがキーキー怒っている間にヘスティアがアーパスのゲームに乱入。自分だけゲームに参加出来なかったウェンディはセイを探して言いつけに行った。
「セイっ、あれはわたしの為に買ってくれたのよねっ」
そう言いながら風呂場を探してから寝室へ。そこで毛布にくるまっているセイを発見して飛び乗った。
「ねぇっ、セイ。あのゲームはわたしの為に・・・・」
毛布を引っ剥がすとセイがカタカタと真っ青な顔をして震えている。
「ど、どうしたのよ?」
ウェンディに飛び乗られても反応せずにブツブツ何かを言いながらカタカタ震えている。
「ど、どうしたのって聞いてるのっ」
ウェンディは様子がおかしいセイの顔を両手で挟んでこっちを向かせた。
「ウェンディ・・・」
「ど、どうしたのよ・・・」
ウェンディに気付いたセイの目は虚ろで何かに取り憑かれたような感じになっていた。
「セイ・・・」
セイは捨てられた子供のようになってウェンディにギュッと抱きついた。
「何があったの?」
そう聞いても何も答えないセイはそのままカタカタ震えてウェンディにしがみついていた。
バンッ
「またちゅーしてんじゃねーだろうなっ」
勢いよく寝室の扉を開けて入ってきたヘスティア。セイもウェンディも帰って来ないので様子を見に来たのだ。
「あーーっ!何抱き合ってんだよっ」
「ヘスティア、セイの様子がおかしいの」
「え?」
アーパスも心配して見に来たがセイはカタカタ震えてウェンディにしがみついたまま離れないのであった。
「タマモ、出てきて」
アーパスは冷静にタマモを呼び出す。
「セイに何かあったのかい?」
「様子が変」
タマモはセイの目を見てピンと来た。自分が捨てられたと理解したときの様子と全く同じだったからだ。
タマモは床に落ちていたスマホに目をやり操作してみる。そこには父親からのメールがそのままになっていた。
これが原因かい・・・
タマモは母親が原因で当時の気持ちがフラッシュバックしたと理解した。
「ウェンディ、そのままギュッと抱き締めててやんな」
「う、うん」
「いや、ヘスティアの方がいいかもしれないねぇ」
「だってよ。ウェンディ代われよ」
「いっ、嫌よ。さっきゲーム代わってくれなかったじゃないっ」
様子がおかしいセイとゲームを一緒にするウェンディ。
「ウェンディ、いいからちょっとヘスティアと代わりな」
と、タマモに言われて渋々代わるウェンディ。
「よう、セイ。どうしたんだよ?」
ヘスティアに代わるとセイは胸に顔を埋めた。
「やっ、やめろよっ。すけべっ!恥ずかしいじゃねーかよっ」
「勘弁しておやり。セイは今子供に戻ってんだよ」
「どういうこったよ?」
セイはフラッシュバックした気持ちに押しつぶされ幼児退行していた。そしてヘスティアの胸を母親の胸のように思い、捨てられまいと必死にしがみついているのだ。
「す、すけべでやってるんじゃねーのか?」
「そんな触り方してないさね。しばらくそのままにしてやっておくれ」
「どうしてわたしのじゃダメなのよっ」
「ボリュームの問題さね。セイの母親は大きかったんじゃないのかねぇ」
「キィーーーーっ」
ウェンディはほらわたしのに顔を埋めなさいよと押し付けてみるがセイはヘスティアから離れなかった。
「じゃあ、私も無力。残念」
アーパスはボリュームの話を聞いて早々と諦めた。母親代わりの胸はヘスティアかテルウスでないと無理なのだ。
一晩中ヘスティアの胸に顔を埋めていたセイは翌朝にはカタカタ震える事もなくなったが幼児退行したままだった。ウェンディは元に戻そうと耳に治癒の息をふぅーふぅーしてみるもくすぐったがってセイはキャッキャ笑うだけなのであった。
「タマモ、殴れば元に戻るんじゃねーのか?」
「それでずっと戻らなくなったらどうするさね?」
サカキとタマモはセイを元に戻す方法を考えていた。
「もう一度子供からやり直していくしかないのかもしれんのぅ」
クラマも子供時代のセイを知っている。セイは辛いときにはタマモや砂婆に甘えながら乗り越えて来たのだ。
「この子は甘えただからねぇ。大人になっても中身は変わっちゃいないんだろうね。セイ、おいで」
タマモに呼ばれたセイは抱きついて胸に顔を埋める。そんなセイをタマモは愛おしそうに頭を撫でた。
「もうこのままでいいさね」
「だっ、ダメよっ」
「セイが子供のままなら俺様達がかまって貰えなくなるだろうがっ」
「私もセイを抱っこしたい」
女神ズはこのままでいいと言ったタマモにそれぞれの反応をする。抱っこしたいと言ったアーパスにタマモはセイを渡してみた。
アーパスの胸には顔を埋めないセイ。しかし、楽しそうに手遊びを始めた。
「すずちゃん、次はこれね」
「私はこっちだよ」
「あれ?すずちゃんが二人もいる」
「おままごとしよう。セイがパパでアーパスがママ。私が子供ね」
すずちゃんがおままごとをしようと言うとセイはすずちゃんを子供として可愛がっていく。自分がこうして欲しかったように構い、頬ずりしたり抱きしめてほっぺにチュッチュしたりし始めた。
「ママにもして」
「うんっ」
セイはアーパスのほっぺにもチュッチュしだした。
「な、な、何やってんだよーっ」
「夫婦なんだから当たり前。セイ、ママには口にもして」
ムチューっ
セイは何の抵抗も無しにアーパスにキスをした。
「なっ、なっ、なっ、何やらせてんのよぉっーーーーっ」
「夫が妻にするのは当たり前」
「代われよっ」
「ヘスティアはダメ」
「いいから代われよっ」
アーパスの妻役を無理矢理代わるヘスティア。
「ほっ、ほら俺様にもちゅーしろよ」
「ヘスティアは大人だからダメだよ」
「なんでだよっ。一晩中抱きしめててやったろうがっ」
子供に戻ったセイの中でアーパスは子供として認識されていたので問題はなかったが、ヘスティアは大人と認識されてダメだった。ウェンディも代わってみたが大人と認識されちょっと喜んだ。
おやつは砂婆がみかんを持ってきてくれ、セイはアーパスとすずちゃんの為に綺麗に皮を剝いて食べさせる。
「コイツ、子供の頃から面倒見良かったのかよ?」
「そうさね。自分で出来ることは自分でして私達にもよくなんかしてくれたさね」
次は砂婆の膝に座ろうと思ったようだが自分が大きい事に気付いたセイは砂婆を膝に乗せた。
「セイや、重いじゃろ」
「砂婆はいつも膝に乗せてくれていたから今度は僕がしてあげるね」
それを見たサカキが疑問に思う。
「タマモ、セイのやつ子供の自分と今の自分が混ざってやがんのか?」
「どこまでわかってんだろうねぇ?ウェンディ達の事もわかってるみたいだし、しばらく様子を見るしかないさね」
おままごとは終了してみんなでゲームを始めた。
やっているのはシューティングゲームだ。ウェンディは下手くそだがヘスティアは上手かった。
「ヘスティアすごーいっ」
そう言ってヘスティアに抱きつくセイ。
「やっ、やめろよぉ〜」
無邪気にセイに抱きつかれて満更でもないヘスティア。
「キィーーーっ。なんでヘスティアに抱きつくよのよっ」
「ウェンディはなんで怒ってんの?」
「セイはわたしのなのっ」
「そうなの?」
「そうよ。だから抱っこしてよ」
「いいよ」
と、セイはウェンディをお姫様抱っこした。
「ウェンディって軽いね。高い高いしてあげよっか」
「え?」
セイは一度ウェンディを降ろして脇に手を入れて高い高いする。
「キャハハハっ。くすぐったいっ」
「くすぐったいの?こうしたらもっとくすぐったい?」
ウェンディを持ち上げたまま無邪気に手をワシャワシャするセイ。
「キャーーッハハハハッ。やめっ やめっ」
くすぐられて暴れるウェンディ。
「危ないっ」
ズルんっ
暴れてセイの手からずり落ちるウェンディをセイは慌てて抱きしめようとする。
ムチューっ
ずり落ちたウェンディはセイの顔の上に落ちそのままキスをするような形になった。
ふぅ〜
ウェンディはそのまま治癒の息をセイに吹き込む。
「うっ・・・・ ウェンディ?おっ、おっ、お前人前で何やってんだよっ」
「あーーーーっ、またちゅーしやがったぁぁ」
ウェンディをセイから引き離すヘスティア。
「ヘスティア?」
「なんで俺様だけにしねぇんだよっ。アーパスともしやがったくせにっ」
は?
「やれやれ、もうセイの子供時代が終わっちまったじゃないか」
タマモは少し寂しそうにそう言った。
「結局、戻るキッカケはウェンディだったな」
「まったくじゃ。心配させよってからに」
「心配したって言ってもまたジジィは何の役にも立たなかったじゃねーかよ」
「なんじゃとーっ!貴様も何もしとらんじゃろうがっ」
喧嘩を始めたサカキとクラマ。このまま暴れたら屋敷が壊れてもおかしくないのでタマモが二人を噛んだのだった。
「タマモ、俺は何をしてた?」
「これが原因さね」
セイはウェンディとヘスティアがギャーギャー言い合いしている横でタマモにぼんやりとした記憶の事を聞く。
「あっ、そうだ。このメールを読んで・・・」
「セイはあの頃に戻ってたんだよ。ヘスティアにお礼を言いな。一晩中、子供に戻ったあんたはヘスティアの胸に顔を埋めさせて貰ってたんだからね」
俺はそんな事をしていたのか・・・。なんか凄く安心感というか気持ち良い温もりと感触に包まれて寝た記憶はあるけど、あれはヘスティアの胸だったのか。
「へ、ヘスティア」
「なんだよっ」
「ありがとう。凄く心が安らいだというか嬉しかったというか・・・」
「べっ、別にすけべでされたわけじゃねーからいいけどよっ。そ、そんなに俺様の胸は良かったのかよ?」
「えっ、ああ、うん」
「な、ならいつでもしてやるよっ」
照れたヘスティアは熱を発しながら横を向いてそう言ったのだった。
「セイ、母親と会うのかい?」
「まだわかんない」
「会うならウェンディ達も連れて行きな。もしまたどうにかなったら皆がなんとかするさね。ヘスティアの胸に顔を埋めりゃ落ち着くんだろ?」
「元に戻したのはわたしなんだからねっ」
「パニックになったらヘスティアとアーパスで落ち着かせてウェンディが戻してやりゃいいさね。だから3人共連れて行きな」
「ヘスティアの代わりにタマモが来ればいいじゃない」
「セイの母親は見えないものが見えたセイを怖がったんだよ。あたしは見えざる者だからあんた達の方がいいのさ。それにひょうたんにいるさね」
「でも・・・」
「あんたはここに戻ってくる条件として悪魔共が来たら一緒に戦わないとダメなんだろ?無理にとは言わないが悪魔は心の弱い所を突いてくるんじゃないかねぇ?トラウマを克服出来るならしておいたほうがいいんじゃないかとあたしゃ思うがね」
嫌な事を思い出させるタマモ。しかし確かに悪魔の一種であるバンパイアはチャームという精神攻撃をしてきた。俺はそういう攻撃に無防備だからタマモの言うことも一理あるかもしれん。
「ウェンディ、ヘスティア、アーパス。付いて来てくれるか?」
女神ズは当たり前と返事をした。
「なぁに、どうしようもないクソ親だったらあたしが噛み殺してやるさね」
と、笑いながら言ったが本気か冗談かわからないよなタマモの場合。
そしてセイは神社の中に入って、そっちに行くときには連絡をするとメールを送ったのであった。