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奥さんからのお願い

セイとウェンディが自分達が寝ている間にちゅーしたと分かってめっちゃ機嫌の悪いヘスティアとアーパスは無言で朝食を食べている。


「ウ、ウェンディ・・・、今日はなんかめっちゃ綺麗というか神々しいというか、あの、その・・・」


ウェンディの美しい不思議な髪色に見惚れるケビン。


「ふふんっ♪」


自慢気に髪をかきあげ無い胸を逸らすウェンディ。


「セイくん、今日出発しちゃう?」


「そのつもりですけどなんかあります?」


「ラーラと駅前の土地の整地をお願い出来ないかしら?」


奥さんの話によると木を引っこ抜いて更地にしただけで地面はまだボコボコらしい。元々手伝うつもりだったのでセイはOKした。ラーラはギルドで働いているといってもお手伝い程度らしいので休んでも問題ないとのこと。



「じゃ、じゃあ行ってきます」


「セイ、ラーラに手を出すなよ」


カントとケビンはそう言い残して仕事に行ったのでこちらも出発することに。


ラーラが無邪気にセイと腕を組もうとするのを阻止する女神ズ。右手はウェンディ、左手はすずちゃんとアーパス。肩の上はヘスティアだ。これには奥さんもラーラも両手を上げてやれやれポーズとなった。



てくてく歩いて駅前に到着すると、土地は更地というよりまだ荒れ地だった。


「やり方は上手く教えられないけど、イメージは上から重いものでどんどんして踏み固めるような感じかな」


ロードローラーを説明してもわからないだろうから踏み固めるしか言えない。


セイがお手本に街道を作ってた時のように土を上から押し固めていくとでこぼこの土地が平らになっていく。


「じゃあやってみるね」


うーん、うーんとイメージを土魔法に乗せて平らにするのをやるラーラ。慣れるまでスムーズに出来ないだろうな。セイが他の所をやろうとすると止められる。どうやら奥さんは手伝ってと言ったがラーラに全部やらせるつもりらしい。


暇になったのでマットレスを出してお茶の準備を砂婆にお願いした。昨日食べそこねたチョコを食べる準備をしているとすずちゃんは違うものがいいと言ったのだ。


おやつは干し柿とおはぎ。すすちゃんは洋風のお菓子より和風のお菓子を好む。


「セイくん、ちょっといいかしら?」


と、セイだけ奥さんに呼ばれた。


「ラーラは上手くいかなさそうですか?」


「まぁ、習うより慣れろって感じかしらね」


ラーラは一定の圧力で固められないのか、でこぼこが上手く綺麗にならないので土を柔らかくしては固めてを繰り返しているようだ。


「ねぇ、セイくん」


「はい?」


「ラーラは綺麗になったでしょ?」


「びっくりしましたよ。ケビンもそうだけどちょっと見ない間にすっかり大人になっちゃって」


「ふふ、子供の成長は早いもの」


「そうですね」


「でもセイくんは全然変わらないわね」


「人種的なものかもしれませんね。俺の世界ではドワーフやエルフとかの人種は居ない代わりに人族の中で種類が分かれるんですよ。俺はアジア人というのに分類されて歳より若く見られる傾向にありますね」


「いまいくつ?」


「えーっと、27歳くらいだと思いますよ」


「そのアジア人ってそんなに歳を取らないのかしら?セイくんはまだ10代に見えるわよ。ケビンと同じ歳と言われても信じちゃうわ」


「そうですね。俺もケビンの事を知らなかったら同じ歳ぐらいかと思っちゃいます」


「セイくん、本当にまだ人間?」


「え?」


「ほら、私って魔族でしょ?人間の歳の取り方はずっと見てきたけどセイくんがいくら異世界人だといっても普通の人間と歳の取り方があまりにも違うと思うのよね。異世界はそういうものなのかしら?」


「他にも異世界人はいますけど普通に歳を取ってるから違うとは思いますけど・・・」


「女神様たちとずっと一緒にいるから神様が感染ったとかない?神様の通り道を使えたりするわけだし」


神様が感染ったとか病気みたいな言われ方だな。


「うーん、俺にはなんか色々と混じってるとか言われたからそのせいかもしれせんね、自分ではよく分からないんですけど」


「見た目だけじゃなしに中身も若いままの感じがするからセイくんはずっとそのままなのかもしれないわね」


もしかしたら人魚のマーメイの血が口に入った影響なのかもしれん。妹のマーリンからそんな事を言われたからな。


「ラーラはね、私の血を濃く継いでるの」


「みたいですね」


「羽も生えちゃったしね」


魔族の羽か。そのうち飛べるようになるかもしれんのか。


「でね、ラーラはもう少し成長したらそこでしばらくというかかなりの年月をそのままキープすると思うのよね。歳は取るけど人間とは比べ物にならないならないぐらいゆっくりとね」


「そうなんですね」


「それに付き合える人間っていると思う?」


「無理でしょうね。先に死ぬと思います」


「可愛そうだとは思わない?」


「相手がエルフとかじゃないとそうかもしれませんね」


「セイくんなら?」


「俺はまだずっとこのままだと決まったわけじゃないですし」


「でも可能性は高いわよね?」


「まだわからないですよ」


「そうよねぇ。でももしそのままだったら将来ラーラの面倒を見てあげてくれないかしら?」


「え?」


「カントは普通の人間、ケビンも私の血を継いではいるけどラーラ程濃くないわ。そのうち二人共私とラーラより先に死ぬの」


と、奥さんは目を伏せて寂しそうに言う。


「でも・・・」


「ラーラはこれから他の人と恋愛をして結婚するかもしれないし、しないかもしれない。どちらにしても周りの人がどんどんと歳を取って死んで行くのを見ることになるわ」


「そうかもしれませんね」


「それって結構辛いのよ。仲良くなった人を次々に見送るのって」


奥さんはそういう経験をしてきたんだろうな。


「魔族の国へ帰ったりしないんですか?」


「魔族の国はあまり活気が無いのよ。魔法でなんでも出来るから何にもしなくなるの。ダラダラと生きていくだけというより死なないだけの毎日。エルフ達も似たような生活をしているわよ。森の中でダラダラと生きているの」


長寿になるとそうなんだな。


「奥さんはどうして人間の国に来たんですか?」


「ラーラぐらいの歳の時に魔族の国が嫌になって飛び出して、人間達が生き生きと暮らしているのに憧れたの。仲良くなった人達はどんどん歳を取って死んでいく。それに耐えられなくなって帰った事もあったけどやっぱり魔族の国はつまんないのよね」


「で、戻って来たって訳ですか?」


「そう。それでカントがケビンと同じぐらいの歳の時に出会ってね、猛烈にアタックされたのよ」


と、惚気が入りだす。


「初めは私が見送ることになるのがわかってたから断ってたんだけど、そのうちね、うふっ」


うふっじゃねぇよ。


「カントは私が魔族と知っても態度は変わらなかったわ、それこそ羽を見せてもね。それで私も覚悟を決めて一緒になったの。この人の最後を見届けるのは私よって覚悟を」


「そうだったんですね」


「でもラーラは半分人間。魔族の国で暮らす事も出来ないでしょうし、別れの悲しみから逃げ場が無いの」


「そうなんですね・・・」


「だからセイくんにお願い。結婚してあげてとは言わないけど、あの娘が行くところが無くなった時には受入れてあげて欲しいの」


「俺は先に死ぬかもしれませんけど、サカキ達が居ますから。近々妖怪達の住処をこの世界に作るつもりなのでそこに来ればいいですよ。異形の者も多いですけど人と見分けがつかないような奴らもたくさんいますし」


「本当に?」


「はい。アネモスにオーガ島というところがあって、そこに鬼という種族がいます。そこもずっと変わらずに生活してますから心配することはないですよ」


「ありがとうセイくん」


奥さんはラーラの未来を案じていたようだ。自分と二人で生きて行くよりも変わらない仲間のいるところに娘を任せたいのだろう。


話が終わって皆のところに帰るとヘスティアに足で首を決められる。


「随分と遅かったけどよ、まさか奥さんとちゅーしてたんじゃねーだろうなっ」


「するかっ。足で首を決めてくんなっ。また噛むぞ」


「やっ、やりたいならやってもいいぞ」


そんな赤い顔して言うな。俺が喜んでやってもらってるみたいに思われんだろうが。


「あらぁ〜、セイくん。私とちゅーしたいの?」


「冗談でもやめて下さい。ギルマスに今度こそ殺されます」


そこにラーラも休憩に戻って来て参戦。女神ズとおもちゃの取り合いみたいになっていく。すずちゃんは我関せずで砂婆とマットレスの上で正座をしながらお茶を飲んでそれを見ているのであった。



午後からは整地を手伝いして更地になった所に囲いを作っておいた。横取りされたらたまらんからな。


その夜もう一泊させてもらうことになり、綺麗になったウェンディに惚れ直したケビンはまた勝負を挑んで来たので容赦なしに剣で叩きのめしておいたセイなのであった。



「随分と機嫌がいいな?今日なんかあったのか?」


カントは寝室で奥さんと会話をしている。


「うふふ、ちょっとね」


「何があったんだ?」


「私がセイくんとちゅーしたって言ったら怒る?」


「殺すっ」


奥さんが冗談でそう言うなり剣を掴んでセイ達が寝る部屋に走って行くカント。


「死ねぇぇぇっ」


「うわぁぁぁぁっ。ギルマスっ、なんだよいきなりっ」


「言い訳はきかんっ。ラーラならまだしも嫁さんにまで手を出しやがってぇぇぇ」


「えぇぇぇぇっ」


奥さんはそれを見てクスクスと笑っていたのであった。

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