ウェンディのほどほど
「その条件はマジかよ?」
「あぁ、もしもの時の事だから気にすんなよ」
ヘスティアの説明では大神は天魔対戦で悪魔共を追っ払ったあと、向こうから転移ゲートを繋げられないように結界を張り続けているらしい。で、女神達が地上に降りていても魔物がアイテムを落とすようにするのは大神の力でやり、その分結界の力が弱まるので悪魔達がやってきたら追い払う、もしくは討伐するのにセイも参戦するというものだった。
「あのなぁ、大神が追い払うことしか出来なかった悪魔達を俺がどうにか出来る訳ないだろうが。大人しくみんな天界に居てろよ。こっちには時々来ればいいだろ?」
「お前が生きている間だけの話だろ?俺様達も悪魔なんか見たことがねぇぐらいなんだから問題ねぇだろがよ」
確率的にはそうかもしれんけど、なんちゅう条件を飲んだんだお前らは?
もう何を言っても天界に帰りそうにないヘスティア達。テルウスはどっちでもいいみたいだけど、多面カットダイヤモンドのアクセサリーを凄い凄いと言われて満足気だ。神様ってチヤホヤされたいんだな。
「ヒムロ、お前はどうすんだ?元の世界に戻るのか?それともここにいるのか?」
「こっちの方がおもろいやん。人間と酒飲むなんてなかなかでけへんで」
と、ユキメを隣に置いて上機嫌のヒムロ。この近くは涼しいので他の冒険者達にも人気だ。
「こっちの奴らは神さんや言うたらすぐに信じよんねんな」
「ウェンディ達がいるからね。元の世界より神様が身近になってんだよ」
「こんなん知ったら他の奴らも来たがるんちゃうか?」
「やめろ。他の神に教えんなよ。元の世界が神なし国になるじゃないか」
「かまへんのちゃう?なんかイベントん時におったったらええねん。どうせあれしてくれこれしてくれしか言わへんねやから」
「よぅ、氷の神様。あんたどこの国の神様なんだ?」
「日本ちゅうとこや。いわいる異世界って奴やな」
あっ、言いやがった・・・
ヒムロはセイが異世界人であることを一部の者しか知らないとは思わずに喋った。
「異世界?」
「そや。こことは文明もなんもかんも違うとこやな。セイもそっから来てるやろ?」
ざわっ
「セイ、お前異世界人だったのか?」
「あ、うん。まぁ」
もう隠しても今更さだ。ウェンディも神に戻ったし俺がこの世界でやらねばならないことは終わってる。ここに居づらくなれば他の所に移り住めばいいからな。
「そうだったのかよ。どうりですげえと思ったぜ」
と、皆は特に疑問も抱かずに素直に受け入れた。そうだった。この世界は何でも受け入れるんだったな。
別に怯えた目で見られる事もなく、どんな世界なんだ?とか色々と聞かれるハメになり、明け方近くまで皆で元の世界の話をさせられるのであった。
屋敷に戻って風呂入って寝る時にはまた皆が同じベッドに寝に来る。なんでこっちに寝に来るのよっとウェンディが怒るけどお構いなしにヘスティアとアーパスは一緒に寝たのであった。
ギルマスから皆も心配していると言われてビスクマリーの所に顔を出し、オーガ島、ボッケーノ、アクアへと移動して行く。
「ようやく帰って来やがったか」
「悪かったね心配かけて」
「保存コンテナはどうした?」
「ちゃんと渡して来たよ。あ、紹介しておくね。氷の神様のヒムロ」
「おー、そうか。初めまして。俺達はセイの仲間でシーバスという」
と、皆が挨拶をした。
ここでも宴会だ。
「あっ、もう一人紹介するわ。すずちゃん出ておいで」
と、すずちゃんを呼び出す。アーパスみたいなので驚くだろう。
「セイ・・・、お前まさかアーパスに子供を産ませたのか・・・」
「違う違う。アーパスと似ているけどこの娘は座敷童子っていう妖怪の一種。まぁ、神に近い存在だけどね」
「なんだよ脅かすなよ。アーパス様が神様じゃなくなったかと思ったじゃねーかよ」
「ん?どういうこと?」
「いやほら、なんだ。女神様とそういうことをいたすと女神様は神様じゃなくなるんだろ?」
そういう事とはああいうことなのだろう。
「すっ、するかっ」
セイは顔が真っ赤になった。
「私はセイの女。別に神じゃなくなってもいい」
「ちょっとおぉぉっ。何言ってくれてんのよおっ」
すずちゃんは嬉しそうにアーパスと手を繋いだ。なんとなく肉親みたいに感じなのかもしれない。
「私があなたのママ」
「うん、ママ遊んで」
そしてすずちゃんはアーパスをママと呼び、俺をパパ様と呼ぶようになった。
「セイ、俺様の子供はいねぇのかよ?」
「いるわけないだろうが」
「アーパスだけずりぃぞ」
火の子供の妖怪が居ない訳ではないけどヘスティアと似ているわけじゃないしな。火事になるかもしれんから呼ぶのはやめておこう。
「セイ、ここにも神社を建てて」
「アーパスの教会があるだろ?」
「神社があればそこを通れるんでしょ」
もしかしてそうなのか?
「クラマ、どう思う?」
「作ってみればわかるじゃろ」
ということで虹のまちに神社を建てる事になった。
その間にヒムロをアクアとガイヤの観光に連れて行っておいた。
「ヒムロ、通れそうか?」
「バッチリやな。元の神社にも鬼の所にも行けたで」
ということで、ガイヤにもボッケーノにも神社を作った。ボッケーノにはビビデ達の所とヘスティア温泉に作った。これで空馬で行くより簡単でいつでも行ける。
他の人は通れないけど自分達が遊びに行くのは簡単になったのだ。
「ミナモトセイよ」
あ、この声は大神。
「はい」
「それは転移のゲートか?」
「違いますよ。神の社です。社は繋がっているので神はそこの神の許可があれば自由に行き来出来るんですよ」
「ここへ時間がズレずに戻れたのはその力か?」
「そうです」
「神だけしか通れないのであれば、お前はなぜ通れる?」
「なんか神が混ざってるとか言われましてね。それにウェンディ達から加護をもらったからかもしれません」
「そうか・・・。お前が絡むとワシの知らぬ事、見えぬ物事が増えおるのはそういうことじゃったか。まさか異世界の神が混じっておるとはのう」
「自分ではよくわからないんですけどね。あ、そうだ。使わなかった扉をお返ししたいんですけど」
「良い。それはそなたにやろう。この世界であればどこへでも繋がるし人数の制限もかからぬ。ただし人間を天界へ連れて来てはいかんぞ」
は?
「そんなの俺が持ってたらまずいでしょ?」
「悪魔共が来たときに訳に立つから良い」
「それ、ヘスティアから条件で聞きましたけど、大神ですら追い払うことしか出来なかった悪魔を俺がなんとか出来るわけないでしょうが」
「いや、エンシェントドラゴンを殺せるぐらいの力を持っておるなら戦力になろう。しかと頼んだぞ」
しかと頼んだぞとか言われてもなぁ・・・
まぁ、捕縛出来たら大神がなんとかするか。
「よう、大神と話してたんだろ?なんだって?」
「ヘスティアの言ってた条件の事と扉のことだよ。扉は俺にくれるって。どこにでも行けるらしいから神社作る必要なかったね」
「そうなのかよ。まぁいいじゃねーかよ」
ということで試しに扉を使ってアネモスの屋敷に戻るとちゃんと帰れたのだった。
「ウェンディ、お前地上に居ても加護の風をは吹かせられるよな?」
「多分ね」
「なら、近々アネモスに加護の風を吹かせるぞ」
「どうしてよ?」
「海をかき回すのと魔物の一掃、それにいつまでもウンディーネにダムの水を貯めてもらうの悪いだろうが。ウンディーネはアクアでの仕事もあるんだぞ」
「わかったわよっ」
そしてビスクマリーと相談して加護の風を吹かせる予定を決めた。実行日は二週間後だ。各地に伝令が飛び、暴風雨に備える体制を整えて行く。これでも被害は出るだろうけど備えていないよりはマシだ。王都内の水路整備も終わっているし、水不足も解消されているからメインは海でやろう。米は収穫が終わっているが麦はまだ小さいからな。下手したら全滅してしまう。
そして加護の風の決行日がやってきた。
ぬーちゃんに乗って海の方へ飛び、ウェンディは風を吹かせていく。
ゴウウウウウウウ
「あんまり思いっきりやるなよ。ほどほどだほどほど」
久しぶりに加護の風を吹かせるウェンディはちょっと張り切っていた。
ゴウウウウウウウゴウウウウウウウ
「もういいもういいっ」
ウェンディの風を止めても風の勢いは増し竜巻になっていく。
「これヤバいよね?」
海上で荒れ狂う竜巻。オーガ島の木々は吹っ飛んでいく。
「ヤバいヤバいヤバいっ。ウェンディ、ほどほどって言ったろうがっ。なに台風と竜巻両方出してんだよっ」
「出してないわよっ。勝手に大きくなって言ったんでしょっ」
「嘘つけっ!お前の髪の毛色が前と同じになってんじゃねーかよっ」
透明な緑と青が混ざった不思議な髪色が元の青に戻ってやがる。どんだけ力を使ったんだよっ。
ギャーギャー言い合いしているセイとウェンディ。
「セイ、いいのかよ?上陸すんぞ」
ヤバい。竜巻がオーガ島を通過したあとにさらに巨大化して湾内の海水を巻き上げている。そのまま上陸してしまったら王都は破壊されてしまう。
「ウェンディ、あれを打ち消す風を出せっ」
「どうやるのよっ」
「お前風の神様だろうがっ。それぐらい分かれっ」
もうウェンディを待ってられない。
セイはウェンディの加護を使って竜巻の方向を変えようと試みる。
「ダメだ。俺の風の力だけじゃ足らん。シルフィードっ、手伝えっ。クラマも頼むっ」
シルフィードとクラマにも竜巻を追い返すように一緒に風を吹かせてもらう。
「戻れぇぇぇぇっ」
竜巻は進路を戻して逆方向へと進み出して沖合の中に方へいき消滅した。
「ふぅ、危なかったわ。でも台風も想定より育ってんじゃねーかよっ」
「知らないわよっ」
台風の進路を変えるには偏西風程の風が必要になる。そんなの出せるのか?
台風が上陸するまでにはまだ間があるので、オーガ島に降りて被害がないか確認しに行く。
「ヒョウエ大丈夫か?」
「まぁ、なんとかな。ウェンディ様の力は流石だな」
「いや、今のは想定外の竜巻だ。これから本番の台風が来る。想定してたよりデカくなってるからヤバいんだよ」
「と言われてもどうしようもないぞ」
「セイ、えらい慌ててんな」
「ヒムロ、慌てるって。アネモスよりデカい台風になっててさ、明日にはここも飲み込むんだぞ」
「お前の嫁さんえらい力持ってんねんな」
「いや、使った力以上になってんだよ」
「ほなら海水温が高かったんやろな」
「ん?どういうこと?」
「台風の餌は海水温度や。それを餌に大きいなっていきよんねん。そやから台風が過ぎた後は海水温も気温も下がるんやで。もう陸上は気温下がっとるから上陸したらすぐに弱まるわ」
「上陸する前に弱めたいんだよっ」
「ほなら手伝うたろか?進路前の気温下げたら弱なりよるやろ」
ヒムロとユキメが温度を下げるのを手伝ってくれるとの事でぬーちゃんに元の大きさに戻って貰って台風前まで移動。
「ユキメ、ほならやるで。海を凍らせるようなイメージで冷やしていき。ワイは気温を下げるわ」
ヒムロの指示でユキメは台風の進路の海水を凍らせていく。これほどの力を使うには妖力が足りないのでセイは背中に手を置いてユキメに妖力を注いでいく。そしてヒムロが大気を冷やしていくと台風はどんどんと勢力を落としていった。
「これぐらいでええか?」
「うん、ありがとう」
こうして台風は程々の強さになって上陸し、魔物の浄化と雨をもたらしたのであっ