セイ、異世界へ再び
「セイっ、聞いて聞いてっ」
夜を待ってヒムロの所に行くと思いの外ユキメが元気にそう言って駆け寄って来た。
「ど、どうした?」
「いいから早く早くっ」
「えっ?なんだって」
ヒムロが語りだしたのは予想外の話だった。
「そやからな、数年前からえらい一生懸命拝まれてる神社があってんわ。しかも形式的なもんやなく心の底から祈ってとんねん。今どき珍しいやろ?あれしてくれこれしてくれとかやなしに感謝のお参りしかしよらへんねん」
「へぇっ。そんなところまだあるんだね」
「そやろ?ほんでどんな奴らが参っとるんかなぁ?て気になるやん」
「それで見に行ったのか?」
「そや、ほんならどんな奴らが拝んでたと思う?」
「田舎の年寄か?」
「ちゃうちゃう。田舎の年寄りも病気直せとか膝痛いの何とかせぇとかばっかりやんか。毎日一生懸命感謝しとったんは鬼やねん」
「えっ?なんだって?」
「鬼や鬼。久々に見たけどあいつらあんなんしよんねんなぁ。めっちゃ驚いたわ」
「ねっ、ねっ、ヒムロに神社の様子を聞いたらオーガ島のウェンディ神社じゃないかと思うのっ」
「ユキメ、マジで?」
「うん」
「ヒムロ、そこに入江とかあったか?」
「あるある。山がくり抜かれたような中に作られとってな、人魚とかもおったわ。そやけど神社自体は結構こじんまりとしてて新しかったで」
間違いない。オーガ島のウェンディの教会だ。
「ヒムロ、お前そこに行き来出来るんだよな?」
「どんな神さんか知らんけど留守やったからなぁ。あんまし勝手に行くのも悪いやろ?」
「多分、そこの神様はこいつだ」
「マジで?ほならあそこは異世界なんか?」
「そうとしか思えないんだよね。ウェンディ、お前ヒムロと一緒にそこへ行って来い。そうすれば時がズレずに帰れるんじゃないか」
「セイはどうすんのよっ」
「俺はヘスティアと扉から帰る。そうすれば10年ぐらいの誤差で帰れるだろ?」
「じゃっ、こいつとヘスティアが一緒に行きなさいよっ。私はセイと一緒に扉から帰ればいいでしょっ」
「なんでだよっ。俺様が先に帰ったら失敗したとか10年間言われ続けるだろうがっ。ウェンディが先に帰れよっ」
ギャーギャー言い合うウェンディとヘスティア。
「ならウェンディとヘスティアがヒムロと一緒に行け。俺は扉で一人で行くから」
「嫌よっ」
ウェンディとヘスティアは神様だから多分ヒムロと一緒に神社間の移動は可能なはず。
二人がギャーギャーと姉妹喧嘩をしている間にユキメにどうするか聞いてみる。
「ユキメの結論は出たのか?」
「ウン、ヒムロと一緒に行く」
「どこへ?」
「向こうの世界へ」
「は?ヒムロはここにいないとダメだろうが」
「セイ、別にええねん。もう俺の役割はあらへんねん。氷も人間は自由に作れるようになっとるやろ?冬の間に出来た氷を守っとらんでも人間は困らん」
「て言ってもさぁ・・・」
「それに鬼がおった所がホンマにお前の嫁さんの神社やったらここにいつでも帰ってこれるしな。行事の時だけおったたらええんちゃうか?」
「まぁ、神が決めるなら俺が口出しすることじゃないけどさぁ」
「ほんで、お前も一緒に行ったらええやんか。別に嫁さんだけ先に行かすことあらへん」
「俺は人間だからその道使えんだろうが」
「せやかて工藤」
「誰が工藤じゃ」
「あぁ、スマン。一回言うてみたかってん」
なぜそんなセリフを知っているのだ?
「せやかてセイは神混じりやろ?」
「神混じり?」
「せや、お前には妖怪と神が混じっとる」
「えっ?」
「え?てなんやねん。お前にはタマモの血が・・・」
「余計な事を言うんじゃないよっ。噛み殺すよっ」
「ヒィィィっ」
タマモが妖狐の姿で出てきてヒムロを威嚇する。
「なっ、なんや。ワイなんかいらんこと言うたんか」
「黙れと言ってるんだよ」
「す、すまん。謝るからそんな牙むきなや」
「タマモやめろ。何ヒムロを脅してんだよ?」
「こいつは余計な事をおしゃべりするもんだよ。はぁ、しょうがないね全く。セイ、ヒムロが言った通りだよ。あんたには色々な神が混じってるさね。それにウェンディ達全員の加護ももらったろ。もう神と同じような資格があるんじゃないかね」
「神が混じってる?」
「お前はドラゴンにブチ切れた時に何に変わったか覚えているかい?」
「いや、ごめん。あまり覚えてないや」
「あんたが変わったのはこいつさ」
と、タマモはペンの九十九神が描いたイラストを見せた。
「これは俺か?」
「そうさね。九十九の奴が勝手に描いてたんだよ。見られちゃまずいからあたしが預かってたんだよ」
そのイラストを見てカタカタ震えるヒムロ。
「お、お前、こんなに恐ろしい神が混じっとるんか・・・」
「恐ろしい?」
確かにイラストでは怖く描かれているけれども。
なんかいつもは馴れ馴れしいヒムロがスススっと俺から離れていく。
「ヒムロ、俺も通れるか試してみていいか?」
「はっ、はひどうぞ」
なんだよそれ?
タマモとユキメはひょうたんに入り、セイはウェンディと手をつないでヘスティアを肩車してヒムロに付いて行く。神しか通れない神社間の道を通れるのはとても不思議だ。
「こ、ここですわ」
そしてひょいと覗くとやはりオーガ島のウェンディ神社だった。
「ヒムロ、やっぱりここは異世界だよ」
「あっ、セイ。いつ帰って来たんだ?お前がいなくなって皆騒いでたんだぞ」
と、顔を出すなりヒョウエが居た。
「ヒョウエ、ここはオーガ島だよな?」
「当たり前だ」
神社から外に出るとヒョウエはそいつは誰だと聞いてくる。
「こいつはヒムロ。氷の神様だ」
「男神もいるんだな」
「いるぞ」
「なぁ、セイ。鬼にはワシの事が見えとんのか?」
「みたいだね」
「ヒョウエ、俺がいなくなってからどれぐらい時間が経ってる?」
「夏前だから3ヶ月くらいか」
ということは時間がズレてないな。
「ありがとう。ちょっとギルマスのところに行ってくるわ。後でまた来る」
ヒョウエにそう言い残してぬーちゃんを呼び出してギルマスの所へ。ヒムロはぬーちゃんに乗るのが怖いようだが連れて行った。こっちの世界だと神社から離れられるらしい。ウェンディとヘスティアはこっちの世界だと重みが無くなっていたのでみんなで乗っても大丈夫だった。
「セイっ!お前帰って来れたのかっ」
「事情を知ってるの?」
「私がウンディーネ経由でアーパスに聞いて教えてもらったの。ウェンディとヘスティアも一緒だったのね」
「私もいる」
「うわぁぁぁぁっ、アーパス。いきなり出て来んなよ」
「会いたかった。私にもキスして」
「しませんっ」
ウンディーネも来て身体にまとわりつく。アーパスも腕にしがみついて離れずにウェンディ達とセイの取り合いを始めた。
「セイ、ヘスティア様に達もまた力を落としたのか?それとそいつは誰だ?」
「もしかしてギルマスにもみんな見えてるの?」
「あ、ああ」
ギルマスはキョトン顔だ。
「へっへーん、いいことを教えてやるって言ったろ? ウェンディをちゃんと連れて帰ってくる条件に俺様達は神のまま人に見えるようにしてもらったんだ。それに外界にいても魔物もアイテムを落とすぜ」
「え?」
「つまり、セイが生きている間はこうしてずっと一緒にいて構わなねえってことなんだよっ。どうだ?嬉しいだろ?」
「そんな事が出来るの?」
「そうよ、人間から私達が見えて外界にいても信仰心を失わないとセイが証明したお陰でね」
と、テルウスも現れて説明をしてくれた。
「そうなんだ。だったら何の心配もなく前みたいな生活が戻って来るってこと?」
「そういうこった。セイ、俺様に感謝しろよな。俺様が大神に交渉したんだぜ」
「私が教えてあげたんでしょっ」
「いちいち年寄りはうるせぇな。交渉したのは俺様だろうが」
「誰が年寄りよっ」
「なんでみんなセイにくっついて来るのよぉぉっ。セイは私の下僕なんだからねっ」
あー、かしましい。が、この世界に戻ってきたのと、このかしましさがなんか嬉しい。
セイは状況を把握して笑顔になっていた。
ひょうたんからタマモ達とユキメが出て来る。まだ外は暑いのでヒムロはユキメの為に温度を下げてやっていた。
「なっ、何だ?急に寒くなってきたぞ」
「ギルマス、グリルディル。紹介しておくよ。俺のいた世界の氷の神様、ヒムロだよ。ここに帰ってこれる方法を見つけてくれたんだ」
「よ、よろしゅうに。あんたらもワイの事が見えてんねんな?」
「こちらこそ。ようこそアネモスへ。氷の神様」
ヒムロの言葉も翻訳されるのか普通に話せていた。大神は異世界から来た人には自動的に翻訳能力をくれるのかもしれん。
「お、なんか無事に元の鞘に収まったって事だな。なら酒だな。グリルディル、ジョッキ持ってこいよ」
「よーっし、なら今日はもう仕事終わりっ。マモン、飲むわよっ」
「えっ、あ、ああ」
そしてそのままギルドの酒場で女神ズとヒムロ、サカキ達を加えて飲み会となっていく。
「ユキメ、やっぱりセイはやめとけ。見てみぃ、連れて来た嫁さん以外に女神ハーレム作っとるやんけ。しかもマガツヒ混じりやねんぞ。お前の手には終えんちゅうやっちゃ。よう氷漬けにしたときにしばかれへんかったな」
「セイは優しいからそんな事をしないわよ。でもあの中に加わるのはちょっとねぇ」
ユキメはセイがヘスティアとアーパスから自分にもキスしろと迫られ、ウェンディがブチ切れる様を見てそう言った。
「ほならどうすんねん?」
「ヒムロが私の面倒を見てくれるんでしょ?」
「えっ、ほ、ほんまにええんか?」
「うん、ヒムロといると暑くないし」
二人は冷たくも熱くなっていくのであった。
「ヘスティア、セイにあの条件のことは言ったの?」
「あっ、まだ」
「まだなんかあるのか?」
「そうそう。こっちの条件出したら大神の野郎も条件をだしやがってよ」
「どんな条件だよ?」
「それがよぉ〜」
マジかよ・・・・
ヘスティアから聞かされた条件はセイが仰天するものであった。