今やっておかないと
夜になっても蒸し暑い。何度コンビニでアイスを買ったかわからないぐらいだ。
「おーい、ヒムロ。来たぞー」
「なんやなんや自分、偉いべっぴんさん連れとるやないか。もしかして嫁さんか?」
「まぁ、なんとも言えん。こいつはウェンディ。ヒムロから見たらどんな感じだ?」
「外国人やろ?」
「まぁ、外国のやつではあるが人ではないぞ」
「はーん、分かったで外国の妖怪か。とうとうお前も妖怪を嫁さんにもろたか。うんうん、それがええわ。お前に人は無理や」
きさくなのはいいけど失礼なやつだ。俺に人は無理ってなんだよ。
「妖怪じゃないわよっ」
「あれ?ウェンディ。ヒムロの言葉がわかるのか?」
「わかるわよ」
なるほど。神様どうしだと世界が違っても言葉が通じるのか。
「妖怪とちゃう?あー、外国やったら妖精っちゅうやつか。すまんすまん。まぁ、似たようなやっちゃ」
「私は神よっ」
「え?セイのカミさんってことか?」
「そうよ」
多分、お互いの神とカミは違う意味だ。
「ヒムロ、こいつは違う世界の神様だ。お前と同じ存在だよ」
「へーっ、違う世界の神さんか。まぁ、それでも妖怪と似たようなもんや」
「だから違うって言ってんてしょっ」
「まぁ、まぁ、そない怒りなや。べっぴんさんが台無しやで」
ヒムロの口調に力が抜けていくウェンディ。べっぴんさんの意味を教えると機嫌もも良くなった。
「で、セイは嫁さん紹介しに来てくれたんか?」
「それもあるけどちょっと相談があってね」
「なんや?出来ることやったら何でも聞いたるで。聞いたるだけかもしれんけどな」
「お前さぁ、ユキメの事好きだよね」
「なっ、なっ、なっ、何いきなりはずかし事言うてんねんっ」
図星を付かれて真っ赤になるヒムロ。
「ユキメはひょうたんの中に住んでるんだけどさ、あんまりかまってやれないんだよね。ヒムロが一緒に居てやってくんない?」
「あっ、アホなこと言いなっ。ユ、ユ、ユキメがそんなんウン言うわけあらへんやろっ。お前に付いていったやんか」
「おい、ユキメ出てこい。ヒムロがお前に話があるってよ」
「あっ、アホっ。そんないきなり」
「何よっ。ウェンディと良い仲になって私が邪魔だからヒムロに押し付けようっての?酷いじゃないっ」
「押し付けるとかそんな風に取るなよ。俺はお前をあまりかまってやれない。そしてお前の気持に答える事も出来ない。それは今までもこれからもだ」
「そ、そんなにはっきり言わなくったって・・・」
「お前とちゃんと付き合えるのはヒムロぐらいしかいないだろ?」
「・・・・」
黙って下を向いて涙ぐむユキメ。
「セイ、そんな事を言い方したらんでも」
「ユキメ、お前が居てくれて正直助かっている。でもそれは女性としてお前を必要としているわけじゃない、仲間としてだ。お前が欲しいのは女として愛してくれる愛情だろ?俺はお前に妖力はやれても女性としての愛情はやれん」
「わかってるわよ・・・。そんなのとっくにわかってるわよっ」
ユキメはそう叫んで号泣した。
「セイっ、お前ユキメになんちゅう酷いことをいうんやっ」
「ヒムロ、俺はこの前までこことは違う世界にいた。もしかしたらまたそっちに行くかもしれん。そうなれば今度はこっちに戻って来れなくなると思うんだ」
「それがどないしてん。そんなことでユキメを泣かしてええっちゅうわけちゃうぞ」
「よく考えてみろ。違う世界に行くときにはひょうたんに入っている妖怪達も全員そっちに連れて行く。このままだったらユキメもだ。そうなればお前は二度とユキメに会えることもなくなる。そしてユキメは俺に愛情を貰えないとわかったままずっとひょうたんの中に引きこもるんだぞ」
「ユキメもおらんようになるんか?」
「昨日まで日本全国の妖怪を誘って連れてきた。日本中の妖怪はもうひょうたんに入っている」
「日本全国の妖怪やて?」
「そう。違う世界の人間は妖怪が見える。それにそこは妖怪たちを普通に受け入れてくれる世界なんだよ。俺が生きている間はひょうたんの中は快適かもしれんがそれも長く続かん。だから皆が快適に暮らせる場所に連れて行くんだ。と言ってもまだもう一回行けるかどうかわかんないんだけどな。今はいつ向うに行ってもいいように準備してるところなんだよ」
「そんでここに来たっちゅうわけか」
「そう。ユキメには幸せになってもらいたいからね。ユキメを託せるとしたらお前しかいないんだ。ユキメもお前の事はまんざらじゃないと俺は思ってるから」
「うっ、嘘やっ。ユキメはセイにぞっこんやったやんか」
「ユキメは寂しいだけなんだよ。でもこのままじゃずっと寂しいままだろ?ユキメ、違うか?」
「私はセイが・・・」
「本当にそうか?初めて会った時にたまたまお前の事が見えた俺に懐いただけじゃないのか?ずっとずっと長い間誰にも見てもらえなかった時にお前の事が見えたのが嬉しかっただけだろ?」
「そんなことは・・・」
「セイ、もうやめたれ。ユキメが困っとるやないか。痛々しくて見てられんわ・・・」
「ヒムロ、このままユキメが俺に付いて来たらもっと痛々しいぞ」
「そうさね」
「げっ、タマモ」
タマモはひょいとひょうたんから出てきた。
「おや、ヒムロ、わたしの事が怖いのかい?」
「あっ、当たり前やっ。お前は神ですら噛み殺せるやないか。こっちは戦闘能力ないんやぞ」
「ユキメはそんな怖いあたしにずっとひょうたんの中で見張られてんのさ」
「なんやて?」
「ユキメはすぐに感情が爆発してセイを氷漬けにしようとするからねぇ。セイが呼ぶ時以外は勝手に会いに行かせないようにしてんだよ。これはセイが生きている間ずっと続くのさ」
「ユキメ、ほんまか?」
こくんと頷くユキメ。
「なんちゅう可哀想な事をしたるんや。なんぼ九尾の妖狐やいうても酷いんちゃうか?」
「セイはわたしの可愛い子供さね。親が子を守るのは当然のことだとは思わないかい?酷いとお前は言うけどユキメは違う世界で2回もセイを氷漬けにしたからね。3度目をやって噛み殺されるよりマシさね」
「ユキメ、ホンマにセイを氷漬けにしたんか?」
こくん。
「あちゃー、そらあかんわ。セイはなんぼ力があるいうたかて人間や。氷漬けになんかしたら死んでまうやないか・・・」
「ユキメはそれが分かってても感情を抑えられなくなるのさ。だからセイと二人きりにはさせないようにしているのはわかったかい?」
「セイ、お前はこのことを知ってたんか?」
「タマモから聞いてる。だからヒムロの所に来たんだよ」
「そうやったんか・・・。セイ、2〜3日でええからユキメと二人で話をさせて貰えんか?」
「ユキメ、お前もどうしたいか考えろ。そして結論は自分で出せ。付いて来ると決めたら連れて行く。ここに残るなら残して行く」
ユキメはうつむいたまま返事をせずにヒムロの方へ行ったのだった。
セイはぬーちゃんに乗って家に帰ろうかと思ったけどそんな気分ではなくなってしまった。ユキメには酷い事をしたとは思うけど、今これをやっておかないとユキメをずっと縛り付けてしまうのだ。
セイはぬーちゃんに乗って空をゆっくりと歩いてもらった。空に上がると重い心がちょっとマシになるような気がしたからだ。
「ユキメって暑い所ダメなんでしょ。大丈夫なの?」
「ヒムロが住んでるのは万年氷の中だ。あそこは出入りする場所だから問題ない」
「そうなんだ」
ウェンディもユキメの事をちょっとは心配したようだった。
「どこに泊まるのよ?」
「ホテルはどこもいっぱいだし、山の中でテントを張るか?」
「ねー、あそこ物凄く光ってるけど何?」
相変わらず人の話を聞かないウェンディ
「パチンコ屋かなぁ?」
「見に行って」
というので近くまで行くとファッションホテル、いわいるラブホテルってやつだった。
「かっ、帰ろう」
「何するところ?」
「しゅ、宿泊とかかな」
「じゃぁ、ここに泊まればいいじゃない」
「ここはそういうホテルじゃなくてね、その」
「行くわよっ」
「待て待て待て待てっ」
と言っているのに中に入ってしまった。中に入ると光っているパネルと消えているパネルがある。パネルは部屋の写真だ。多分消えているパネルの部屋は使用中なのだろう。
「これ押したらどうなるの?」
と、なんかゴージャスな部屋のボタンを押すと鍵が出てきて矢印が光る。こっちですという感じか。ウェンディはここのホテルが何のこっちゃわかってないし、毎日一緒に寝ているからいまさらか。
矢印の方向へ進むと部屋の番号が点滅しているのでここだろう。
鍵を開けて部屋に入るとめっちゃ広いゴージャスな部屋だった。しかしなぜ風呂場がガラス張りなのだ?丸見えじゃないか。
ベッド周りにはやたらスイッチがあり、ウェンディがポチポチと押していく。そうすると証明が点滅したりピンクに変わったりとか無駄な演出がされた。そしてテレビのスイッチが入り、アダルティーな映像と音声が・・・
「これなにやってんの?」
「けっ、消しなさいっ」
慌ててテレビを消すセイ。このホテルは心臓に悪い。とっとと風呂に入って寝よう。
「お腹すいた」
そういや飯を食わずにここに来たからな。フードメニューはあるけどろくな物がないな。
砂婆をここに呼んだらびっくりするかもしれんから呼び出すわけにもいかない。
セイは買ったお菓子を出していく。ウェンディは別にお菓子でも大丈夫だろう。
ウェンディにお菓子とジュースを出して飲み食いさせている間に料金システムを確認する。時間帯で宿泊と休息で自動的に変わっていくのか。宿泊だけなら同じクラスのホテルに泊まるより安いんだな。
そして風呂はお互いがこっち見ないようにと言って順番に入った。なぜバスタブまでガラス張りなのだ?
ー異世界ー
「大神、いい加減に繋げろよっ」
「やかましいっ。全くあちこちあちこち移動しおってからに。おっ・・・、昨日からあまり動いておらんな。よし、そこから動くなよっ」
大神はセイが同じ地区で留まっているのをそのまま動くなよと思いながら扉を繋げるのであった。