バイリンガル
「暑い〜っ」
日本の夏は暑い。しかも今日は最後の場所だ。ここは盆地で湿気も多く風もあまり吹かない。
「カキ氷でも食べに行くか?」
と、古い街並みが残っている所に行きカキ氷を食べる事に。
「ねぇ、まだ〜?」
観光客も多くどこの店も並ばないと入れない。夏休みシーズンということもあり、大人子供外国人が入り乱れていた。
日陰とはいえたまらん暑さだ。並んでいる人々はハンディ扇風機で涼を取っているのでセイはこそっとウェンディの加護で風を出す。
「まだ暑いんですけどぉ」
こっちは汗かいてるけどウェンディは汗とかかかないから風だけではあまり涼しくならないのかもしれない。
ウェンディの加護にアーパスの加護をほんの少し混ぜて出すとミストみたいになった。
「ちょっとはマシか?」
「うん、でもまだ暑い」
俺とウェンディが話している言葉は他の人にはどこかの国の言葉で聞こえているだろうから聞かれても問題はない。
と、思っていたら前に並んでいる外国人が話し掛けてくる。
「珍しい言語だね?どこの国の人だい?」
「誰も知らないような国だよ。特殊言語だから気にしなないで」
「おー!」
「何?」
「ダメ元で話し掛けてみたんだけど、そんなに流暢に英語が話せるとは思ってなかったよ」
この人英語を話してたのか。全くわからんかった。
「特殊言語を覚えるときにね」
「良かったら同じ席で食べてくれないか?カタコトなら英語も通じるんだけどメニューの説明を聞くとわからないことが多くてね」
「ウェンディ、一緒に食べようと言われたけどいいか?」
「別にいいわよ」
ということで見知らぬ外国人と相席することに。
「これはなんだい?抹茶は知ってるけど白い玉はなんだ?」
「これは白玉といって餅みたいなものだよ。これ自体にはあまり味がないから食感を楽しむ物と思ってくれたらいいよ」
外国人はアランとミシェル。新婚旅行で日本に来たようだ。
そして奥さんのミシェルは2つの緑のカキ氷の違いはなんだろうとアランと話している。
「こっちは抹茶、こっちはピスタチオクリームって書いてあるね。今ピスタチオクリームなんてあるんだね」
「おや?セイはフランス語も話せるのか?」
え?今奥さんが話したのフランス語だったのか。
「いやぁ、まぁ」
「君は優秀だね。英語やフランス語をまるで自国の言葉のように話せる日本人には初めて会ったよ。通訳の仕事でもしているのかい?」
「んー、ある意味そうかもしれないね。今はこいつに日本を見せて回っててここが最後なんだよ」
「君達は若く見えるけどもしかして新婚旅行かい?」
新婚旅行・・・
「ま、まぁそんなところかな」
妖怪集めの旅とか言えんからそれでいいわ。
「次に行くところは決めているかい?」
「鹿は見にいくけど特には決めてないよ」
ウェンディはこれとーこれとーとか言っているが取り敢えずひとつ食べてから次のを頼めと言っておいた。一気に頼んだら次々に溶けていくだろうが。
「なら、ここに連れて行ってくれないか?」
「どこ?」
と、ガイドブックを見せられる。あー、ちょうどいいわ。
「いいよ。ここから歩いて行けるし」
アランは宇治金時ミルクに白玉乗せ、ミシェルはピスタチオクリームにフルーツが乗ったもの。俺は王道のイチゴミルクでウェンディはブルーハワイに南国フルーツが乗ったのを頼んだ。
「わぁ、日本のカキ氷ってフランスのと全く違うのね。フワフワだわ」
ミシェルはフワフワのカキ氷を喜んでいる。ウェンディはフルーツを食べてカキ氷を俺のイチゴミルクと食べ比べて入れ替えやがった。
「仲がいいね」
「こいつ、気に入らないと全部こっちに押し付けて来るんだよ」
「あっはっはっは。こっちはそんな事をされたら喧嘩になるよ」
ウェンディはおかわりするのかと思ったら頭がキンキンしたようで一杯で終了。アラン達がお礼にと奢ってくれた。カキ氷って結構高いんだな。
クソ暑い中を歩きながらお目当ての場所に向かう。
「ここ、鹿狩り放題ね。晩ごはんは鹿の焼肉にするの?」
「ここの鹿は狩ったらダメなんだよ。飼われているわけじゃないけど法律で守られている。ここの鹿は神の使いとも言われているからね」
「へぇ、ならわたしの言う事を聞くわよね。ほら、こっちに来なさいっ」
プイッ
「何よっ、あんた達神の使いなんでしょっ」
ガブッ
「痛ったぁぁぁっ。なんで噛むのよっ」
「ウェンディ、お前の使いじゃないだろうが。触ろうとするんじゃなしに手を上にあげてみろ」
「こう?」
と、ウェンディが手を上げると鹿は頭を下げた。
「フッフッフッ、ようやく自分の立場って物がわかったようね」
勝ち誇ったようにそう言うウェンディ。鹿は何度頭を下げても餌をくれないウェンディにムカついた。
ガブッ
「また噛んだぁぁっ」
ガブッ ガブッ ガブッ ガブッ
どんどん鹿が寄ってきて一斉に噛まれるウェンディ。
「なんで噛むのよぉぉぉっ」
セイはせんべいを買ってきてウェンディに集っている鹿にやっていく。
「ほら、ウェンディ。頭を下げた鹿に褒美をやれ」
ウェンディは幽霊もにも集られるがここの鹿にも集られるんだな。鹿寄せ才能があるのかもしれん。向うに帰れなかったら雇ってもらえるかも。
アランは楽しそうに鹿に餌をやる二人をこそっと撮影していたのであった。
「ここだよ」
「思ってたより小さいところなんだね。なぜ日本は氷の神様なんているんだい?」
「日本は八百万の神々がいるからね。色んな神様がいるんだよ。大社には行った?」
「もちろん。素晴らしく美しい所だったよ」
「ここは小さいけど趣きはあるだろ?」
「そうだね」
「よー、セイやん。久しぶりやな」
セイが来たことに気付いたヒムロが話し掛けて来た。大きな声で返事をするとまずいのでアランたちがあちこち写真を撮っている隙に返事をする。
「久しぶりだね。ちょっと相談事があるから夜にもう一度来るよ」
「ほな、また後でな」
この神社の神様であるヒムロは気難しくもなくきさくな奴なのだ。子供の頃に曾祖父に連れられてやってきたときに仲良くなったのだ。日本の神達は各地の神社を行き来できる為、家の近くの神社までよく遊びに来ていた。クラマとも結構仲が良い。タマモとサカキとぬーちゃんの事は苦手のようだが。
神社を後にしてウェンディに綿菓子を買ってやり、メインストリートに戻った。夜にヒムロと会うので宿泊をすることにしたのだ。
アラン達が日本のお菓子を買いたいというので駄菓子屋に行き、こっちも色々とお菓子を・・・、ウェンディ、お前買い占めるつもりか?
手当たり次第にカゴに入れては俺に渡して来やがる。
「ウェンディ、いい加減にしろ。こんなに持てないだろうが」
「アイテムバッグかひょうたんに入れればいいじゃない」
「この世界で使ったら怪しまれるだろうが」
ぎりぎり持てる分だけ買いホテルを探すことに。
アランがコンビニに行っている間にソフトクリームを食べて待っているとアランが写真を渡して来た。
「いつの間に撮ったの?」
それは自分とウェンディが鹿に囲まれて笑っている写真だった。
「良くお似合いだったから思わずね。データも送ろうか?」
「ごめん、スマホ壊れててさ。今通信できる物持ってないんだよ」
「そうか。それは残念だ。僕のアドレスを渡しておくから直ったら連絡をくれないか」
「うん、ありがとうね」
アラン達は今からホテルを取っている大阪に戻るらしいのでここでお別れになった。お礼を言うとアラン達はこっちも楽しかったと握手をして去って行ったのだった。
夏休みシーズンでホテルはどこも満室。ウェンディはもう歩きたくないというしなぁ。この辺で勝手にテント張ったら怒られるしどうしようか・・・。まぁ、ヒムロと会って話をしたあとにぬーちゃんで帰ってもいいか。
ー異世界の初夏ー
ピリリリッ ピリリリリっ ピッ
「よー、シーバス。セイはそっちに行ってるか?」
「いや、来てねーぞ。こっちもいつ来るか聞きてぇぐらいだ。水運ギルドから保存コンテナってのがいつ来るのか聞きたいみたいなんだがよ。ギルマスのとこにもいねーのかよ?」
「そうだ。もう肉の在庫がやばくてな。冒険者共がダンジョンから持ってくる分だけじゃ足りねーんだよ」
「ボッケーノに行ってるんじゃねーのか?」
「いや、ビビデ達も来てないって言っててな。ガイヤに行ってる可能性はないか?」
「ガイヤに行くときは毎回こっちにも顔を出してたからなぁ」
「そうか、あの野郎、どこに行きやがったんだ」
ピッ
「やっぱりいないのね」
「おう、ウンディーネもどこにいるかわからないって言ってんだよな?」
「そうなのよ。あの娘がわからないなんておかしいのよね。もしかしたら元の世界に帰ったんじゃない?」
「マジか?ちょっとウンディーネに頼んでアーパス様に聞いてみてくれねぇか?」
「わかったわ」
そしてマモン達はセイが元の世界に帰らされたこと、それにウェンディが付いて行ってしまったことを聞かされる。
「ど、ど、ど、どうすんのよっ。ウェンディが付いて行っちゃったらアネモスはどうなるのよっ」
「アーパス達と大神ともめているみたい。なんとかして連れ戻す間はアーパスがアクアとアネモスを兼務するんだって。私も付いて行きたかったなぁ。こんなことになるなら離れるんじゃなかったわ」
「セイも戻って来るの?」
「ヘスティアが大神様を脅したらしいから連れて帰って来ると思うわ」
「ヘスティアが迎えに行くの?」
「そうみたい。アーパスはまたウジ神になってるからここもずっと雨が降るかもよ」
「マジで?みんなに知らせておかなきゃ」
アクアはすでに長雨となっており、ウンディーネはセイが作った水路が氾濫しないように忙しいらしい。
そしてセイとウェンディが元の世界に行っていることは各地に知らされて行くのであった。