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真相

「セイ、すずを連れて来ちまってよかったのかい?こいつがいたところの幸運が逃げちまうよ」


「別に不幸がやってくるわけじゃないから大丈夫だよ。ほんの少し運気が上がってたのが元に戻るだけなんだから」


新幹線に乗って家まで帰って来たセイは家の中でテントを張り、野営する時と同じようにしていた。


「なぁ、タマモ、また向こうの世界に戻れるならいっそのこと他の妖怪達も誘おうか?」 


「そうさね、別に向うに行かなくても里には住むところなんざいくらでも増やせるし、もうこの世界には妖怪が不要だからいいんじゃないのかい?」


「じゃあ、観光がてら日本中を巡ろうか」


「好きにしな。金の算段も付いたことだし、ここにセイが戻ってるのがわかったらそのうちの分家の奴らも来るだろうしねぇ」 


電気ガス水道のインフラを再開してもいついなくなるかわからないのでやめておいた。電話も父親に連絡する必要もなくなったので不要だ。



そしてセイはこの家の権利書を父親に郵送することにした。翌日にネットカフェに行き、パソコンで委任状の書き方を調べていくつか用意してそれも同封した。ハンコも全部だ。




ー異世界ー


「絶対に帰って来るんじゃぞっ」


「へっへーん、それはどうかな。まぁ、条件しだいだよなぁ」


結局、ヘスティアがセイを迎えに行くことに決まったのだったが、テルウスはこそっと大神から条件を引き出すようにアドバイスされていた。


「条件じゃと?」


「そ、俺様もウェンディもここに帰って来たくなるようにしてくれりゃ喜んで帰って来るってもんだ」


「なんじゃその条件は?」


「神のままで人間から見える事、俺様達が外界にいても魔物がアイテムを落とすようになる事。これをしてくれりゃ、神の仕事もちゃんとやるし、ウェンディも帰って来たくなるってもんだぜ。もちろんセイも一緒にな」


「天界におってこそ神への感謝の祈りが続くんじゃっ。いつもそこにおっては神のありがたみが無くなるじゃろうが」


「あら、セイはウェンディが落ちこぼれて皆からは見えていてもちゃんと信仰心を取り戻したわ」


「ぐぬぬぬぬっ」


「大神、今の条件は出来んのかよ?それとも無理なのかよっ」


「出来ぬ訳ではない」


「なら、いいよな?」


「ならばこちらからも条件が2つある」


「なんだよ?」


「一つはセイが生きてる間だけじゃ」


「おう、俺様達もセイがいない外界なんて別に行きたくはねーからいいけどよ」


「もう一つは・・・・・」


大神が出したもう一つの条件にヘスティア達は驚き、うんとはなかなか言えなかったのであった。



ー日本ー


「どこに行くのよ?」


「せっかくだからお前にこっちの世界を見せてやろうと思ってな。今日から日本全国めぐりだ。その土地その土地で食べ物の味が違うんだぞ」


「じゃ、行く♪」


まずセイ達は沖縄へと飛行機で飛んだのだった。


「これ空馬?」


「そう。動く原理は違うけどね」


出発前にウェンディと自分の服を買った。ウェンディには帽子もかぶらせているので随分とジロジロ見られるのも減ったのだ。


「なにこれ?」


「ミミガーっていって豚のミミだよ」


「ふーん」


沖縄料理はだいたい食べたウェンディだが、ゴーヤと海ブドウはお気に召さなかったようだ。夜にぬーちゃんに乗り、サカキ達も出て来て妖怪を呼び出していく。


「こいつはセイだ。妖怪のヌシでもある。付いて来たいやつは付いてこい」


大妖怪達の言葉は地元の妖怪達を震え上がらせたが、もっと住みやすい所に連れてってやると言われて付いて来る妖怪達も多かった。沖縄から九州、四国へと同じ事を繰り返していく。


「ねー、ここは何が美味しいの?」


「うどんだな」


セルフサービスのうどんだが安くて旨い。ウェンディ、そんなに天ぷら取ってるからみんな驚いてるだろうが。


妖怪を誘いに行く旅はさながらセイとウェンディの新婚旅行のようでもあった。誰にも邪魔されずに楽しくあちこちを飛ぶ毎日。初めて食べる物も数多く、向こうでは手に入らなさそうなものを保存ボックスに収納していく。チョコとかダンジョンに食わせたら出せるようになるだろうか?


日に日に増える妖怪達は里の居心地の良さに感激して他の妖怪達を誘うのを手伝いだしたのであった。


地元の近畿地方は後回しにして中国四国を終えたセイは北海道へと飛び続いて東北地方から関東中部とまた近畿を目指して行った。



「あれ、なんだろうね?」


セイの父親に外に連れ出されていた美幸。すずちゃんがいなくなって落ち込んでいたのを父親が心配して理由を聞いても言わなかったので気晴らしにと家族で外食へと連れ出していたのだ。そして高いツリーから夜景を見ていた時に美幸がそういったのである。


「ん?どこだ?」


「えっ?あ、別に見間違いかも」


美幸はハッとした。人に見えざる者が見えても人には言ってはいけないとのすずちゃんの言葉を思い出したのだ。


大きな獣に乗った二人の周りに数多くの異形の者たちが付いていく。二人のうち一人は真っ黒な姿、後ろに乗っている人の髪の毛は輝いて見える。そしてそこへ異形の者たちがどんどん集まって来ているのだ。



「百鬼夜行・・・・。すずちゃんはあれに加わったのかも」


あまりの出来事に美幸は言葉に出してしまった。


「すずちゃん?」


「あっ、」


ポツリと呟いた美幸の言葉に反応した父親。幸いにも母親には聞こえなかったようだ。


「美幸、お前見えてるのか?」


「えっ?」


「何が見えているかそっと教えてくれないか。父さんは信じるから」


そして美幸は見えているものを父親に説明した。


「そうか。なら先頭にいるのは・・・、いや、後で話そう」


そう言った父親は少し涙ぐんでいるようにも見えたのだった。



ー異世界ー


「早くしろよ。条件飲んだだろうがよっ」


「やかましいっ。あやつがあちこち移動しておるのじゃっ。扉を開くには一日近く時間が掛かる。せっかく繋げてもあいつが近くにおらなんだら無駄なんじゃっ」



そんな事を知らないセイはずっと移動を続けて行くのであった。



ーセイの妹の部屋ー


「美幸、お前には異形の者が見えていたんだね?」


「う、うん」


「どうして黙ってた?」


「すずちゃんが絶対に誰にも言うなと言ったから」


「すずちゃんとは保育園にいたのか?」


「お父さん知ってるの?」


「父さんには見えないけどな。居たのは知っている」


「実はすずちゃんを保育園が無くなる時にうちに連れて来たの。黙っててごめんなさい」


「いや、そのすずちゃんの言う事を守ったのは良かった」


「どうして?」


「お前には話してなかったが兄がいる」


「え?」


「名前は誠。誠もすずちゃんが見えていた。それを知った母さんは取り乱してな。人が見えないものを見ることの出来る誠を怖がってしまったんだよ。そして暫く誠をお祖父ちゃんの家に預ける事になった」


「それでどうしたの?迎えに行かなかったの?」


「誠は見えるだけでなく相当力を持っていたみたいでな」


「力?」


「父さんの家系は代々祓い屋と呼ばれる職業をしていた。祓い屋とは人間に悪さをする妖怪や悪霊を退治する仕事だ。父も私にもその力は受け継がれず廃業する予定だったんだ」


「映画とかテレビでみる陰陽師みたいなもの?」


「そんな所だ。もう源家の力は失われたと思っていたが誠は歴代の祓い屋の中でも格別な力を持っていたんだ。爺さんはその力があるゆえ悪い妖怪に狙われたり、自分の力がコントロール出来ずに暴走してしまう恐れがあると言われた。それでそのまま爺さんの家で修行をすることになったわけだ」


「会いにすら行かなかったの?」


「爺さんたちから里心が付くから会うなと言われたんだ。誠には父母代わりの妖怪が面倒を見てくれているとな」


「お母さん、自分の子供に怯えるなんて酷いね」


「そう言ってやるな。あの頃は父さんも母さんも仕事で忙しくてな、物凄くピリピリしてたんだ。それに母さんの知り合いに幽霊に襲われたとかでおかしくなった人がいたらしく、自分の子供がそんなものを見る力があると受け入れられなかったんだよ。しばらくしてずっと後悔して泣いていたよ」


「そうなんだ・・・」


「何度も爺さんの所に連絡したり近くまで会いに行ったりもしたがそのことで誠に里心が付いて修行をやめて何かあったらどうする?と言われて諦めて帰ったよ。しかし、それは正解だったみたいでな、その後一度暴走したらしい」


「暴走したらどうなるの?」


「下手したらすべてを飲み込むような存在になってもおかしくなかったらしいぞ」


「・・そうなんだ。で、あれはなんだったの?」


「恐らく誠は妖怪をすべて連れていくつもりなんだろう」


「どこに?」


「誠を受け入れた世界だ。綺麗な髪の毛をしていた人が居たと言ったろ?あれは神様らしい。誠は神様と一緒にその世界に行くつもりなんだろう」


「すずちゃんはヌシ様に呼ばれたと言ってたの」


「そうか、誠は妖怪のヌシにもなっているのか・・・。まぁ、爺さんが言うには神も妖怪もあまり変わらない存在みたいだからな。誠は神様を娶るぐらいだ。妖怪のヌシになっていてもおかしくないな」


「神様と結婚したっていうの?」


「相手は神様だから結婚とかじゃないみたいだけどな。幸せそうだったぞ」


「いつ会ったの?」


「最近だ。あいつが会いに来てな。多分お別れの挨拶だ」


「あー、お父さんが泣いてた日か。そういえばすずちゃんもあの時にさよならしたのよ。やっぱり迎えに来たのね」 


「だろうな。美幸、この話は母さんには内緒にな」


「うん」


「いつか父さんが話すから」


「いつ?」


「お前が嫁に行くときにかな」


「まだまだじゃないの」


「そうか?」


「そうよ」



極稀に妖怪を見ることが出来る者はいる。そしてその人達は百鬼夜行を初めて見たことを誰にも言えずにいたのであった。


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