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セイの気掛かり2つ

新幹線の中で山程駅弁を食べて寝たウェンディ。窓の外の景色には興味がないようだ。


よくよく考えたら服を買って着替えてから来たらよかったなとか思うけど今更だ。


そして東京に着いて乗り換え。ウェンディが起きないもんだからおんぶ。もう変に思われるのは今更だからとセイは割り切った。


東京に着いて乗り換えるとラッシュアワー。


「なんでこんなにぎゅうぎゅうなのよっ」


異世界は人が少ない。こんなすし詰めになるの学校初めてのウェンディは人酔いをしていた。


「確か家はこっちだったよな?」


降りる駅は覚えている。が、どこが自分の家だったか記憶が定かではないのだ。なんとなく覚えている風景も3歳の頃の記憶だ。当然目線や建物自体も変わってるいるので自分の家だっだところがわからない。


「行き当たりばったりで来てもダメだったなこりゃ」


「ねー、もう歩くのイヤ」


「もーっ、まだそんなに歩いてないだろうが」


と、ウェンディをおんぶする。


「で、どこに行くのよ?」


「よくわからん。取り敢えず泊まる所を決めておこうか」


「宿に泊まるってこと?」


「そう」


駅前にビジネスホテルがあったからそこでいいかと駅に向かって戻る事に。皆から見られてはいるが特にめっちゃジロジロ見てくるおっさんがいる。確かに奇異ではあろうが失礼だろうが。


そう思っていると、


「誠か?」


「えっ?」


「やっぱり誠かっ。お前どこに行ってたんだっ。探してたんだぞっ」


ジロジロ見てくる失礼なおっさんは自分の父親だった。


「父さん・・・、ごめん。スマホが使えなくてさ直接来ちゃった」


「誰?」


「俺の親父だよ」


「その娘は誰だ?気分でも悪いのか?」


「いや、ちょっと歩き疲れただけだよ。ウェンディ、降りろ」


「外国人か?」


「まぁ、その・・・。父さん、どこかで話せる?」


「あ、あぁ。わかった」


父親はご飯を食べて帰ると電話を入れ、一緒に駅前に戻りファミレスに入った。


「わたしはー、これとー、これとー、これとー、」


「どこの国の人だ?それに今まで何をやってたんだっ」


「こいつはウェンディ。アネモスって国の人・・・ではないな。神様なんだよ」


「ん?」


「俺がいなくなったのは日本でいう神隠しみたいなものでね、違う世界に行ってた。父さんなら信じてくれるだろ?」


「本当の話か?頭がおかしくなったんじゃないだろうな?」


「ほんと。その水全部飲んでみて」


と、父親に水を飲ませてコップを空にしてもらった。


「向こうで得た力のひとつでね」


じょろろっと指先から水を注ぐ。


「なんだこれはっ」


「水の神様アーパスの加護の力。そしてこいつは風の神様なんだよ」


今出した水を飲んでふーっとため息を付く父親に今までの事情を話した。誰かに聞かれても物語としか思えないだろう。


「祓い屋の力はそんな事を招くのか」


「そうかもしんないね。で、父さんは俺がいなくなったのはどうやって知ったの?」


「お前の保証人は俺だろうが。未払いの督促がこっちに来たんだ。取り敢えず全部払っておいたが住民税と年金はこれからも請求が来るぞ」


「なんとかなる?このまま日本にいるならちゃんと働いて払うけど、多分こいつを迎えにくると思うんだよね」


タッチパネルを操作しながらウェンディが食べると言ったメニューを押していく。食べて気に入らないメニューがあれば食わさせる事になるので自分の分は頼まずにおいた。父親は魚の定食だ。


「お前も一緒に行くつもりか?」


「行けるならね。もし一緒に行けないなら元の家に住むよ」


「なら、委任状を書いておけ。お前がいなくなったら転出届を出して外国に住むような手配にしておく」


「反対しないの?」 


「俺はお前に何もしてこなかったからな。お前の人生に口を出せる立場じゃない。好きに生きろ」


「そっか。ならそうさせて貰うよ」


大量の料理が運ばれて来るので席をファミリー席の広い場所に変えてくれた。タッチパネルの操作を間違えではないかと確認され、間違いじゃないと伝えると席を移してくれたのだ。



「で、そちらの神様とお前はどういう関係なんだ?まさか神様と結婚したとか言うんじゃないだろうな?」


「結婚とかじゃないけど、ずっと守るとは約束をしたよ」


「なら結婚と同じだな。ちゃんと約束を守るんだぞ」


「うん」


父親はウェンディを嫁さんだと認識した。しかしガツガツと食うウェンディを見てどう思っているのだろうか?気に入らないメニューはすっとセイの前に置き次のメニューに取り掛かるのも・・・


「そうだ父さん、俺が通っていた保育園の場所わかる?」


「もうないぞ」


「えっ?」


「取り壊されて老人ホームになっている。場所はここだ」


元保育園の場所は駅から近く、ずっと前に老人ホームに変わったとのことだった。すずちゃんは子供がいなくなっしまってどうしてるのだろうか?



ウェンディは父親と話している間も食べ続け、そして寝ていた。


「異世界の神様は自由奔放だな」


「日本の神様も自由奔放だよ。神様はみんなそんなものだよ」


「そうか。しかし、異世界の神は俺にも見えるのだな」


「不思議だよね。異世界では見えないんだよ。その代わり妖怪たちは見えるんだ」


「妖怪も連れて行ったのか?」


「皆、ここの中に住んでるからね。いつも一緒にいるよ」


「お前の話は誰も信じないだろうな」


「母親ですらそうだったからね」


「そうだな・・・、母さんに会って帰るか?」


「いや、顔もよく覚えてないし、向こうも俺には会いたくないだろうからいいよ」


「母さんな、ずっと悔やんではいたんだぞ」


「そう・・・」


「やっぱり許せないか?」


「許すとか許さないとかはないけど、会うのは怖いからやめとくよ。もう怯えた目で見られるのは嫌だし」


「・・・そうか。なら、今日お前と会った事は黙っておく」


「うん、そうしてくれた方がいい」


支払いは父親がしてくれ、財布の残りのお金もくれようとした。


「大丈夫。お金はなんとかなるから。あと、未払い分とかの支払いありがとう。これ代わりと言っちゃなんだけど」


と、宝石を2つとポーションをいくつか渡しておいた。


「これは宝石か?」


「そう。向こうの世界でたくさん採れるんだよ。こっちの小さいのは薬。怪我にも病気にも効くから医者にいってもダメだった時には使ってみて。こっちの世界で効くかどうかわからないけど気休めに」


「異世界には不思議な物があるんだな」


「そう。日本とはまるで違うから面白いよ」


と、セイは笑顔を見せた。


「楽しそうで何よりだ。しかし、お前、よく笑うようになったな」


ウェンディをおんぶするセイにそう言う父親。


「そうだね。向こうの世界の方が俺には合ってたんだと思う。戻れるかどうかはわからないけど、どこに行っても言語に不自由することはないから、何なりとして生きて行くよ」


「そうか。会うのはこれが最後になるのかもしれんか?」


「うん」


そう言うと父親はセイの頭をなぜた。


「元気でな」


「ありがとう。父さんも元気でね」


おそらく異世界に戻っても戻らなくても父親に会うのはこれで最後だろう。死に目には立ち会ってやれないけど、男同士の別れはこんな感じなのかもしれない。


そして父親は振り向かずに手を降って家に帰っていったのだった。




「あら、思ってたより早かったわね」


「あぁ、酒も飲まなかったからな」


「あら?泣いたの?目が真っ赤よ」


「ちょっと物語を聞いてな」


「あら、そうなの。物語で泣くなんてお父さんらしくないわね。美幸ぃー、お父さん泣いてるわよっ。見に来たら?」


「えーっ、見たくなーい」


セイは自分に妹がいることも、父親が永遠の別れを悲しんだ事も知ることはなかったのであった。




翌日にセイは老人ホームを訪ねた。


「すいません。ちょっと連れ合いの者が日本の老人ホームを見学したいと言ってまして、少しでいいので見学をさせて貰えないでしょうか?」


ここは老人ホームと言っても、まだ介護が必要でもない人が終の家として住むような高級マンションみたいな所だった。


「そうですか。住居スペースにはご案内できませんけど共有スペースなら結構ですよ」


と、中に入れて貰いすずちゃんを探して見たがいなかった。


中に入っても気配はしないのでどこかに移り住んでしまったのだろう。


「とても素敵なホームですね」


「はい、ありがとうございます。年齢を重ねると友人と呼べる方が減っていきますのでこうして交流があるホームを選ばれる方が増えているのですよ」


ゲーム施設や体操、カラオケ、風呂、談話スペースから居酒屋まで揃っている。施設見学をしているふりをしているとおばあちゃん達がこちらに寄ってきて若い人はいいわねぇ。赤ちゃんはまだ?とか根掘り葉掘り聞いて来た。年寄りの団体に飛び込んで来る若者は格好の餌食らしい。


すずちゃんがいないとわかったのでもうここには用が無い。ウェンディも綺麗な髪の毛ねぇとかベタベタ触られるのが嫌なようなのでそそくさとお礼を言って退散したのであった。


セイは近くの道を歩きながらすずちゃんを呼んで探していく。座敷童子はそんなに行動範囲は広くない。いるとしたらこの近所にいるはずだ。




「美幸ーっ、学校の時間よーっ」


「今日は休講で休みって言ったでしょっー」


一階からセイの妹である美幸に叫ぶ母親。


「まーったく、いっつも口うるさいんだからっ。ねー、すずちゃんもそう思うでしょ」


「美幸」


「なーにー?」


「呼ばれたから行かなきゃダメ」


「えっ?どこに行くのよ?」


「わからない。でも行かなきゃダメ」


「帰って来るよね?」


「多分帰らない。今までありがとう」


「ちょっ ちょっ ちょっと。何言ってんのよ。私達ずっと一緒にいたじゃない」


「でも美幸ももう大人。一人で大丈夫」


「本当に行っちゃうの?」


「うん。大切な人に呼ばれたから行きたい」


「すずちゃんの大切な人?」


「そう。皆からはヌシ様と呼ばれているの。本当に今までありがとう。さよなら」


「えっ、すずちゃん。ヌシ様って誰よっ」


「美幸と同じ空気を纏った人。美幸も元気でね。人ならざる者が見える子供を産んでも怖がらないであげてね」


座敷童子のすずちゃんはそう言ってすーっと美幸の前から姿を消したのであった。


「えっ?すずちゃんっ。すずちゃん、本当にいなくなっちゃったの?」


セイの妹の美幸はセイが通っていた保育園に通っていた。すずちゃんの事が見えた美幸はすずちゃんから自分が見える事は絶対に内緒だと言い続け、美幸はそれを守っていた。そして保育園がなくなる時にすずちゃんを美幸が家に連れて帰って来ていたのであった。




「セイ」


「あーっ、すずちゃん。やっぱり居たんだね」


「会いたかった」


「ごめんね。色々と事情があっていきなりいなくなっちゃって」


「ううん、ちゃんと会いに来てくれたから大丈夫」


「紹介するよ。こいつはウェンディ、風の神様なんだよ」


「私はすず。宜しくねウェンディ」


「わっ、小さいアーパスみたい」


「アーパスって誰?」


「水の神様だよ。この世界の神様じゃないんだけどね。それと、もしかしたらまた俺はいなくなるかもしれないんだよ。すずちゃんも一緒に来る?」


「うん」


「じゃ、このひょうたんに入ってて。中に色々といるから。タマモって妖狐がいるから色々と聞いておいて」


「うん」


こうして元の世界で気掛かりだった事が片付いたセイはウェンディと東京観光と高価買取店巡りをして宝石を売ってお金を確保していくのであった。


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