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セイとウェンディの決心

アネモスで肉の補充と加護の雨を降らせて醤油作りを開始。沖田とヘンリーにゴンドラに乗るサイズの保存コンテナの制作を依頼した。


「ウェンディ、そろそろ戻れそうか?」


「毎日毎日聞かないでっ」 


「もうアネモスはヤバいんだよ。冒険者達もアイテムが落ちないから儲けも少ない。だから冒険者を目指すやつも減って来てるんだよ」


ウェンディへの妖力の流れが日に日に悪くなっている。信仰心が落ちているのだろうか?と教会に行ってみるとたくさんの人達が感謝の祈りを捧げている。


「ウェンディ、お前に妖力を注げる効率がめちゃくちゃ落ちてるんだよ。もうそろそろ満タンなのかお前が拒否してるのかどっちだ?」


「だから知らないって言ってんでしょっ」


「ほらっ、こんなに軽くなってんじゃないか」


「キャッ。持ち上げないでっ」


セイはウェンディを高い高いしたまま真剣な顔をして話す。


「ウェンディ」


「なっ、何よ。それより早く降ろしてっ」


「お前、何が引っかかってんだ?神に戻りたくなくなったのか?」


「そ、そんな訳ないでしょっ」


セイはウェンディを降ろして顔をじっとみる。


「本当か?」


「ほ、本当よっ」


そしてセイはウェンディを抱き締めた。


「はっ、離してっ」


「お前本当に大丈夫か?何が引っ掛かってるのかわからんとずっとこのままだぞ」


「離してっ」


「ウェンディ、お前は神様だ。神は神であるべきなんだよ。俺はお前が神に戻ってもこの世界にいる。元の世界には帰らない。だから会いたくなったらいつでもここに来れるだろ?」


「だ、誰がセイに会いたいって言ったのよ」


「俺がお前に会いたいんだ。だから天界に戻っても会いに来てくれ」


「うん・・・」


セイがそう言うとウェンディはセイにぐっと抱きついたのだった。



時は過ぎ、夏にはマリーを連れて海水浴に虹のまちへ行き、カントハウスでケビンの冒険者デビューを祝ったり、ここの駅の土地開発をしたりして過ごした。ウェンディはまだ神に戻らない。冬には温泉地でカニとふぐ鍋を堪能してまた春を迎えた。



「マダラ、醤油はどうだ?」


「もう仕込みの仕方はここの人達にも教えたにゃ。来年には醤油が出荷出来ると思うにゃよ」


「そうか。ここの方が温暖だからいい醤油が出来るかもな」


マダラはダンジョンに出して貰ったカツオ節をおやつにガリガリと食べている。カツオ節はまだあまり売れてはいないが、醤油が普及しだしたらオーガ島の特産品として売れて行くだろう。すでに在庫は山程おいてあるのだ。アクアに行くときには昆布とカツオ節を運んで向こうでも料理に使ってもらっているし、沖田達がガイヤとアクアへの航路を結ぶ船も造船中だ。アネモスとガイヤの線路も順調に伸びていっている。資金はダンジョン産の金を国庫に入れて潤っているが、マリー達もそろそろまともに税金を取らねばいけないと言っていた。戦後の復興ということでこれまで無税で来たのだ。金や銀は俺がいるといくらでも手に入るがいつまでもそれをするとやがてインフレというか金や銀の価値が落ちて他国にまで迷惑をかけるからな。



「ウェンディ、もうアネモスはもう限界だぞ」


「わかってる」


先日、とうとうウェンディに妖力が流れなくなった。満タンなのかと思ってヘスティアとアーパスに協力をお願いして妖力を流してみた。


「どこが満タンかしらねーから念の為に天界の実を食ってきたけどエネルギーが流れて来なくなんてなんねーぞ」


「うん、私も満タンになって流れなくなるなんて感じはしない。天界の実を食べたらすでに満タンになってるはずだから」


やっぱりそうか。ウェンディは神に戻れる状態か最後の一押しで神に戻れる状態なのだろう。それを心が拒否しているに違いない。


「ヘスティア、アーパス。ありがとうね」


「お前、ウェンディが神に戻っても元の世界に帰らないんだよな?」


「帰らないというか帰る術がない。元の世界と繋がったのは天界だろ?俺を天界に連れて行くことは出来るのか?」


「セイが神にならないと無理」


「だろ?だから帰ろうと思っても帰れないんだよ」


「ウェンディ、だってよ。お前もこの話を先に聞いてたんだろうが?何を戸惑ってるんだよっ」


「戸惑ってなんかないっ」


「ならさっさと受け入れろ。俺様達も我慢してんだからよ。あれから何年経ったと思ってやがんだ」


ヘスティアとアーパスにも散々怒られてキーキー怒ったウェンディは二人を追い返したのであった。


翌日、ギルマスとグリンディル、マリーに近々ウェンディが神に戻ると伝えておく。


「そうか。そうなれば俺にはウェンディが見えなくなるんだな」


「そうだね。でもちゃんと遊びに来るから大丈夫だよ」


「そうだな。ウェンディ、アネモスを宜しくな」


「うん・・・」



ーアネモス王城ー


「そうか、寂しくなるの。アネモスに安寧が訪れるのは歓迎じゃがセイは寂しくなるの。寂しければ妾と一緒に住んでも良いのじゃぞ」


「なんでマリーがセイと一緒に住むのよっ」


「そこは寂しくなったセイを妾の成熟したワガママボディで慰めてやるのじゃ。すぐに跡継ぎが産まれるやもしれんぞ」


マリー、やめなさい。16歳やそこらでそんな事を言うもんじゃない。


「ダメよっ。セイは一生わたしの下僕なんだからねっ」


「うははは。ならばそうならぬように天界から見張っているが良いぞ」



ーその夜ー


「ウェンディ、マリーも笑って冗談を言っていたがアネモスは本当に限界が来てるぞ」


「冗談とかわかんないじゃない。わたしがいなくなったらマリーと子供を作るんじゃないのっ」


「アホか。そんな事をするわけないだろうが」


「じゃあリタとは?」


「リタはガッシーと婚約しただろうが」


「ラーラは?」


「ラーラはまだ子供だ。それにちっさい頃からラーラを見てきたんだ、俺にはずっと子供だ」


「レベッカは?」


「レベッカとはそんなに繋がりがあるわけじゃないだろうが」


「他の女はどうなのよっ」


「あのなぁ、俺はずっとお前と四六時中一緒に居ただろうが。どうやって他の女と恋愛関係になるんだよっ」


「なによっ。セイが結婚出来ないのはわたしのせいだといいたいわけっ」


「そうだ。お前のせいだ」


「キィーーーーっ。だったらわたしが神に戻ったら好きにすればいいでしょっ」


「ダメだ。お前がちゃんと責任を取れ」


「責任ってなんなのよっ」


「俺はお前と契約と約束をした」


「わかってるわよっ」


「だからお前には契約を果たしたら報酬を貰う」


「わたしがあげられるものなんてないじゃないっ」


「あるぞ」


「なによ?」


「俺にお前を一生守らせろ。お前が神に戻っても約束を果たさせて貰う。それが報酬だ」


「ど、どういう意味よ」


「俺は誰とも結婚なんかしない。一生お前の面倒をみてやる。だから神に戻ってもちゃんと会いに来てくれ。俺はここにいるから」


「な、なによ。それはプロポーズのつもり?」


「まぁ、そんなとこだ」


「かっ、神のわたしにプロポーズなんて馬鹿じゃないのっ」


真っ赤になってそう答えるウェンディ。


「そうだ。俺は馬鹿野郎だな。神と人間が結婚なんて出来る訳はないからな。でもな俺はお前といたいんだ」


「そ、そんなにしょっちゅう来れないわよ」


「しょっちゅう来ないと他の誰かといい関係になっても知らないぞ」


「なんでそんなことを言うのよっ」


「心配ならちゃんと来い。アネモスの魔物がアイテムを落とすようになったら帰って来ればいい。またアイテムを落とさなくなったら落すようになるまで天界にいればいいだろ?」


「しょ、しょうがないわねっ。そんなに言うなら会いに来てあげてもいいわよ。でもわたしの事は誰にも見えなくなるんでしょ」


「俺にはお前が見える。それだけじゃダメか?」


「べ、別にいいけど・・・」


「なら、神に戻るのを受け入れろ。俺の契約を果たさせて、次は約束を果たさせてくれ」


「うん・・・」


こうしてウェンディは神に戻るのを受け入れたのだった。



セイはウェンディを抱き締めてもう一度妖力を流していくと少しずつ流れ出した。


「ねぇ、セイ」


「なんだ?」


「さっき言ったことはわたしを神に戻らせる為の言い訳?」


「違うぞ。本気だ」


「ならわたしの事をどう思ってるのよ?」


「世話の掛かるサルだ」


「キィーーーーっ。なんでそんな事を言うのよっ」


「世話の掛かるサルってのは存外可愛いものでな。どうやら俺は世話をするのが好きらしい」


「どういう意味よ?」


「俺はお前の面倒をみているのが幸せらしい。ここに来てから色々と大変だったけど俺は幸せだぞ」


「なっ、なによそれ」


「俺はお前がいなくなった時の事を考えてみた」


「どうなのよ?」


「めっちゃ楽になる」


「キィーーーっ」


「でもな、寂しくて仕方がないかもしれん」


「楽になってなんで寂しいのよ」


「なんでだろうな。飯やなんだかんだと世話を焼かされ、寝ている時にくっつかれて重たいなとか思ってたけど、それに慣れて毎晩妖力を流しているうちにこれが俺の生活の一部になった」


「じゃあいなくなっても慣れるんじゃないの」


「そうかもな。でも今ではこうしてお前とくっついているのが嬉しいんだよ」


「どうして嬉しいのよ。エネルギー流すのも本当は面倒臭いんでしょ」


「面倒臭いよ。疲れて眠たい時もあるし、意識を集中してないとダメだし」


「なら嬉しい理由なんてないじゃないっ」


「あるぞ」


「だからそれはなによ」


「お前は暖かいんだよ」


「そんなのヘスティアの方が暖かいでしょっ」


「違う、心が暖かいんだよ。俺はお前とこうしていると心が暖かい」


「意味がわかんないわよっ」


セイは少し間をおいて大きく息を吸った。


「ふぅー。あのな・・・俺はお前が好きだ。いつからかわからんがお前の事が好きになっていたんだ」


「えっ?本当に?」


「本当だ。神様に惚れるとか大馬鹿野郎なんだよ俺は」


セイはウェンディに話し掛けている中で自分の気持にようやく気が付いた。もしかしたら初めからウェンディの事が好きだったのかもしれない。


〜私を助けてくれませんか?〜


そう言ってウェンディがいきなり現れた時から・・・



「か、神に惚れるなんて本当にセイは馬鹿野郎ねっ。で、でもわたしも馬鹿なのかも・・・」


そう言って目を閉じたままウェンディは顔をあげた。



セイは上を向いたウェンディにキスをしたのであった。


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