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水路の視察

アクアーガイヤの水路の船着場と船を上に上げる装置が完成したあとようやく第一号が出航をすることになった。乗るのはランバールが仕立てた特製ゴンドラだった。派手な出発式が執り行われる。


「おー、贅沢なゴンドラですねぇ」


「うわっはっはっは。そうだろう。第一号はこれぐらいの物でないと人も呼べぬからな」


ランバールの言った通り大勢の見物客が集まっていた。このためにわざわざこんな目立つゴンドラにしてくれたのだ。騎士達も大勢集められている。


「当初は陛下が一番乗りするとおっしゃったのだがな、流石にそれはお控え頂いた」


乗るのはランバールとレベッカとお母さん。


「息子さんは?」


「あちらで騎士の指揮を取っておる」


「一緒に乗れば良かったのに」


「それでは訓練にならぬだろう」


「訓練?」


その時にファンファーレが鳴る。王家の音楽隊まで派遣してくれているのでまるで出兵式みたいな感じだな。


「いざ出陣っ!」


いや、あんたら軍隊じゃなかろうに。


ゆっくりとゴンドラが船着場を離れると騎士達も一斉に号令を掛けられ走り出した。


「貴様らっ、父上に遅れを取ると地獄の訓練が待っておるぞっ」


「うぉぉぉぉぉっ」


あー、なるほど。ゴンドラに遅れないように騎士達は街道を走るのか。


「うぉーほっほっほっ。速いぞ。このゴンドラは速いぞっ」


ランバールは大喜びだ。騎士達は重い甲冑を着けてんのに半日で漁村に到着するゴンドラに敵うわけないじゃないか。すでに地獄の訓練だなこりゃ。


「遅いっ、遅いぞ貴様らっ。それで国が守れるかっ」


もうランバールの声が聞こえないくらいに離されている騎士達。


「走れぇぇっ、走れぇぇぇっ」


レベッカのお父さんは馬に乗って必死に号令を掛けるが流石に無理があるだろう。


セイはぬーちゃんに乗って先に第一トイレ休憩ポイントに。


「おー、セイ殿。流石に神獣は速いな」


「ランバールさん、これ漁村まで半日で到着するんですよ。甲冑を着けた騎士が追い付けるわけないでしょう?」


「セイ殿、男には負けるとわかっていても戦わねばならぬ時があるのだ」


こんなセレモニーでそのセリフを言わないで欲しい。


ここで騎士達を待っていたらゴンドラは日暮れまでに漁村に到着は無理なので出発した。


日暮れ前にゴンドラは漁村に到着し、ランバール達はアーパスの宿にチェックインした。


あれ?


「シーバス、宿の名前これにしたの?」


「そうだ。ロレンツォの発案でな」


<虹の宿>


こんな名前が付いていた。水路に掛かる橋の欄干も虹にされており、ちょっとメルヘンチックだ。


「この漁村にも名前を付けたぞ」


「なんて名前にしたの?」


「虹のまちだ」


もうそのまちは名前変わってんぞ。確かに街道から南にあるからここをナンバと言ってもおかしくはないのだが。


町の新しい建物は水色を基調にした色合いで虹が描かれたりしている。ロレンツォ曰く、アーパスを象徴する水色と身に付けている宝石をイメージしたとのこと。確かにアーパスは色とりどりの宝石が付いたアクセサリーにしていたからな。様変わりしていく漁村に一人でウンウンと頷くセイ。



「セイ、ちょっと抱いてみる?もう首が据わったから大丈夫よ」


と、赤ちゃんを抱いたツバスが話し掛けてきた。


「首が据わるって何?」


「生まれたての頃は首がぐらんぐらんしてやがってよ。すぐに壊れちまうかと思ったぜ」


と、シーバス。首が据わるとはどうやら赤ちゃんが自分で頭を動かせたり支えられるようになった状態を言うらしい。


「なんか怖いからいいよ」


「いいから抱けって。お前から名前取ってセイーゴっていうんだからよ」


とシーバスに無理やり抱かされた。


「わっ、わっ」


なんかぐにゃぐにゃしてて怖い。本当にすぐに潰れてしまいそうだ。


まだ何もわかっていないような赤ちゃんは喜びも泣きもしない。


「柔らかいの?」


ウェンディが赤ちゃんをつんっとしようとしたらきゅっとその指先を握った。


キュン


ウェンディの心に初めての感覚が宿る。


「どうしたウェンディ?」


指先を掴まれたままじーっと赤ちゃんを見つめてフリーズしているウェンディ。


「なんか変」


「お前が変なのはいつものことだろうが?」


「キィーーーーっ」


セイがそう言うといつものウェンディに戻った。ダーツとパールフもやってきて自分の子供も抱けと言う。こちらはもう結構大きくなってきていて赤ちゃんというより子供って感じがする。


「この子お腹めっちゃ汚れてんじゃん」


セイは赤ちゃんをツバスに返してダーツ達の子供を抱き上げる。これぐらいなら壊れそうとか怖くはない。


「もうたっちしたりするけどハイハイの方が早いからお腹が汚れるのよ。ちょっと目を離したらどっかに行くのよねぇ」


家の中をシャカシャカとあちこちに行ってしまうらしい。物怖じもせずに好奇心旺盛な子供のだようだ。


夜になり教会横の家でシーバス達とご飯。ヘスティアとアーパスもやってきた。


「お、おい、セイ。この赤ん坊のやろう俺様の胸を触って来やがるぞ」


シーバス達の赤ちゃんを抱いたヘスティアがそう言う。


「ヘスティアの胸が立派だからミルクが出ると思ってんじゃないのか。ウェンディにはそんな事をしなかったぞ」


「キィーーーっ」


「何だよぉ、お前、セイの名前貰ったからスケベなんじゃねーのか?足で挟んでやろうか?」


誰がスケベだ。それに足に挟まれて喜んだことなんて一度もないぞ。


アーパスがダーツ達の子供をあやすとキャッキャと喜ぶ。


「ん?随分とお前んとこの子供はご機嫌だな」


「そうだな。どこ見てんだ?」


「今、アーパスがあやしてんだよ。べろべろばーって」


「もしかして子供にはアーパス様が見えてんのか?」


あっ、自分からは普通に見えてるけどシーバス達からはヘスティアもアーパスも見えてないんだった。


「ヘスティア、ちょっとその赤ちゃんをそこに寝かせてみてくれ」


と、赤ちゃんを抱っこしているヘスティアに降ろさせてから指を近付けさせてみるときゅっと握った。


「あー、二人共ヘスティアとアーパスのこと見えてるわ」


「マジか?」


「今セイーゴがなんか掴んでるだろ?」


「おお」


「ヘスティアが指先を近付けたら握ったんだよ。見えてなきゃそんな事をするわけないからな。それにさっきヘスティアの胸をまさぐってたぞ。シーバスに似てスケベな赤ちゃんだ」


スケベ呼ばわりを自分からシーバスに転換しておいた。


「へぇ、こいつら俺様達の事が見えてやがんのか」


「赤ちゃんだからか相当能力が高いかどちらだろうね?」


「そんなもん能力が高いからに決まってんだろうがっ。なぁー、ダーツ」


「そうだぜ。なんせ俺達の子供だからなぁ」


二人共俺達の子供は神様が見えるとはしゃいでいた。もう親バカ全開だ。この子達が他の人に見えないものが見えたとしてもシーバス達は怯えた目で見るような事はない。きっと幸せに育って行くだろう。


その後ウェンディはセイーゴを抱いて自分の胸を押し付けてみてめっちゃ泣かれていたのであった。



翌日の昼にようやく騎士たちが到着。さまよう鎧のようにフラフラだ。


「日頃の鍛え方が足らんからこんなに遅いのだっ」


騎士達を叱責するランバール。いや、甲冑を着たまま走り続けて来たのだ。全然遅くはないぞ。


明日の朝に出発するそうなので息子さんに人数分のポーションを渡しておいた。回復しないと飯すら食えなだろうからな。


翌日にマダラと醤丸を回収。虹のまちでの醤油作りと米作りも軌道に乗ったのだ。湧き水を利用したわさび畑もそろそろ収穫出来るとの事。


「ヌシ様、ここでずっと居ていいかにゃ?」


「ダメ。アネモスでも同じ事をするからな。田んぼは鬼達が作ってくれてるけど醤油も作らないとダメなんだよ。アネモスもそのうち同じように魚が捕れるようになるから」


マダラはお魚天国のここが気に入っていたようだが醤丸と共に回収しておいた。アネモスでも醤油を作るのに通訳も必要なのだ。


醬丸には妖力をマダラには猫獣人の店で好きなだけ食べさせてやる。


「おや、今日はお客さんで来たのかい?」


「何だよマダラ、お前この店に来てたのか」


「黒豚さん、来てるも何も入り浸りだよ」


「お前支払いはどうしてた?」


そういやマダラにお金持たせてなかった事に今更ながらに気付いた。


「漁師の魚を運搬する駄賃にご馳走してもらってにゃ」


「ごめん、こいつにお金渡してなかった俺のミスだわ。今までの分も全部払うよ」


何年も支払いせずに飲み食いしてたのか。早く言えよ。


「いいよ。いつも綺麗に平らげてくれるし残りもんの賄だから」


とお金を受け取ろうとしないので高い蒸留酒の樽を一つ渡しておいた。飲んでもいいし客に売ってくれてもいいと言っておいた。


死ぬほど魚を食ったマダラはお腹をさすりながらひょうたんへと帰って行く。サカキ達は最近俺が忙しくしているせいかあまり出てこなくなっていた。 


翌日、釣具職人に発注しておいた大量の釣具を受け取ってからランバールがガイヤに到着してゴンドラを船着き場まで上げる作業をしているのを見学してアクアまで戻る道程を見届けることに。


「レベッカ、ずっとゴンドラに乗ってるのも暇だろ?ぬーちゃんに乗ってみるか」


「神獣に乗せてくれるの?」


「いいぞ。今日の野営ポイントまでな」


レベッカを前に乗せるとウェンディが少し機嫌が悪くなる。こうして支えておかないと危ないだろうが?


レベッカはもう13歳だっけ?子供と大人の間ぐらいの年齢だ。背も伸びたしもう女の子って感じがするのだ。元々可愛かったが奥さんに似て美人になってきたしな。


サービスに少し空を飛んでみる。


「わぁっ、すっごーい。お祖父様達がゴミのようだわ」


なぜ皆上から人を見るとゴミに例えるのだろうか?


野営ポイントで一緒にご飯。虹のまちとガイヤで泊まった以外は毎回同じだ。風呂もお母さんと共に入らせている。


「セイ様、マリー姫様はどうしてるの?」


「王様してるぞ。アネモスの国民達もちゃんと受け入れたからな」


「セイ様と結婚しないの?」


「俺とマリーはそんな仲じゃないぞ」


「えーっ、二人でアネモスを守っていくと思ってたのに」


「なんでセイがマリーと二人でアネモスを守るのよっ。セイはわたしの下僕なのよっ」


「だってウェンディは神様じゃない。二人は結婚できないでしょ?」


「なんでわたしが下僕と結婚しないといけないのよっ」


「ならセイ様が姫様と結婚してもいいじゃない。セイ様と姫様はお似合いだと思ってたんだけどなぁ」


「セイはわたしのなのっ」


「だってウェンディは神様でしょ?セイ様は人間だよ?」


「そうだけどっ」


「こらレベッカ。そのような事に口を出すものではない。セイ殿、申し訳ござらんな。レベッカはどうもこういう事が気になる年頃になったようでしてな」


「レベッカはあと2年で成人だっけ」


「そうですな。いやはや子供の成長はあっという間にですわい。自分が歳を食うわけですな」


歳を取るほどに年月が過ぎるスピードが早く感じるというからな。ランバールからしたら日に日に女性になっていく孫娘はどのように感じているのだろうか?



騎士団達はだいたい翌日の昼頃に追いついて来る。その度にポーションを渡して回復させていくのだ。騎士達を待っている間、船頭に休息ポイントで反対側の水路に入ってもらったりして色々と試してもらっていた。どこも特に問題はないようだ。




そして往復の旅がようやく終わり、水路全体に問題はないとのことでガイヤとの共同で立ち上げた水運ギルドに報告をしておいた。他のゴンドラももうすぐ次々と出来上がって来るようだった。


「次に来るときは生鮮食品の劣化を防ぐコンテナを持ってきます」


「それはいか程のお値段になりますでしょうか?」


「取り敢えず10個は寄付するよ。追加が必要なら1つ金貨50枚位になると思う。拡張機能を付けると魔石の消費が激しいから劣化防止機能しか持たせないけどね」


「わかりました」


まぁ、当面10個で足りるだろ。



そしてセイはアネモスに戻り、醤油作りに取り組むのであった。




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