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姫様、王になる

アネモスに春がやってきた。それに伴い魔物の数も増えて来ているのでアーパスの雨を降らせておいた。魔物の進化は鈍化するが出ている魔物が減る訳でもないので冒険者や兵士、騎士達は毎日討伐で大忙しだ。強い魔物が人里近くに出た時はフェンリルとシルフィードが討伐をしている。来週には戴冠式だというのにこの状況は宜しくない。


「ウェンディ、まだ神に戻れそうにないのか?」


「わかんない」


女神ズはもう戻れるはずだと言っていた。それに信仰心が減った訳でもなさそうなのにウェンディへの妖力の流れが悪くなってきている。


「なぁ、何がお前の中で引っ掛かってんだ?」


「わかんないって言ってんでしょっ」


最近のウェンディは機嫌が悪い。あまり楽しそうにしていないし、いつ神に戻れそうだと聞くと必ず怒鳴って返してくる。自分の中でも焦りがあるのかそれとも違う原因があるのか・・・


ウェンディはあの温泉旅行の後から眠ってしまう前からギュッと抱きついて来るようになった。初めはより多くの妖力が流れるようにかと思っていたが妖力をグッと流し始めると離れていく。これの繰り返しだ。



「取り敢えず、ガイヤの王様とアクアの王様を迎えに行かないとダメだから行くぞ」


「うん・・・」



そして両国の王様と王妃を迎えに行った。ボッケーノの王様と王妃は新しく出来た街道の見学を兼ねて馬車でやってくるとの事で迎えは不要だった。


戴冠式の準備はリーゼロイとデイスラルに任せてあり、今回の戴冠式にはヒョウエも呼んでいた。鬼達は避難してきた人達と仲良くなり、王都近くで田んぼの開拓や瓦礫の撤去などの力仕事をずっと手伝ってくれていたので皆から種族として認められたのだった。



そしていよいよ明日戴冠式となり、最終打ち合わせを行っている。


「セイ殿、もう少しその王らしい威厳をですなぁ」


と、リーゼロイから何度もダメ出しを食らう。姫様の頭にティアラを乗せるぐらいしか出番はないのだがどうも動作が軽いらしい。


「しょうがないじゃん。王って言ったって土木作業と肉集めしかしてなかったんだから」


「リーゼロイ、良いではないか。その方がセイらしい。それに新生アネモスは貴族と庶民の垣根を低くしていくのであろう?」


「しかし姫様、各国の王と王妃がお越しになっておられるのですぞ」


「皆セイの事はよく知っておる。今更変に威厳のあるような振る舞いをしても滑稽じゃろ」


と、姫様がリーゼロイを窘めてくれたのでもう練習は終わりだ。


「姫様、じゃ明日の本番でな」


「セイ、少しだけ良いか?」


「ん?どうした」


姫様は少しうつむいた後に顔を上げて両手を大きく伸ばして来た。


「今日でボッケーノの姫も終わりじゃ。明日からはアネモスの王となる」


「うん、宜しくね」


そして伸ばした両手をセイの首に絡めて抱きついて来た。


「ひっ、姫様?」


「セイ。妾はずっとセイのことが好きじゃった。セイは妾を子供としてしか見ておらなんだがな。これは妾の気持ちへのお別れと最後のわがままじゃ。許せ」


と、ビスクマリーはセイの胸に顔を埋めた後にほっぺにキスをした。


「姫様・・・」


「ありがとうセイ。大好きじゃった」


そう言った後にビスクマリーは微笑んで退出していったのであった。




「マリー、そんなに泣いていたら明日酷い顔になるわよ」


「お祖母様、解っておる。解ってはおるのじゃ。でも今は・・・、今日だけは・・・」


ビスクマリーはモリーナに抱きしめられて声を上げて暫く泣いていたのであった。




「何でマリーにチューなんてされてるのよっ」


「俺がしたんじゃないだろ」


ウェンディと謁見の間を退出したセイはぶーたれるウェンディと言い合いをする。セイは姫様が慕ってくれているのは解ってはいたが男女として好いてくれているとは気付いていなかったのだ。生まれて初めて面と向かって好きだと言われてなんて返事をすれば良いか全く分からず何も声をかけられなかったのだ。


ああいう時はどう言えば良かったのだろうか。セイはずっとそんな事を考えてなかなか眠れなかったのである。



ー戴冠式当日ー


姫様と会った時になんて声をかけようか。ずっとそれを考えていたセイ。


そして謁見の間に入ると少し遅れて姫様が入って来た。綺麗なドレスにアップの髪型。それに化粧をバッチリしているので幼かった姫様の面影はなく、15歳だというのにちゃんとレディになっていた。


「姫様・・・」


「セイよ、もう姫ではないぞ」


「ああそうだね。すごく綺麗だよ」


セイはビスクマリーを見て自然とその言葉が出た。


「そうであろう?このまま結婚式にしても良いぞ」


と、ビスクマリーは笑いながら答える。


「ちょっとぉぉぉっ。何勝手にそんな事を言ってくれてんのよっ」


「ウェンディ、冗談じゃ。そんなに怒るとせっかくの神様役が台無しじゃぞ」


「神様役って何よっ。わたしはれっきとした神様なのっ」


「ならば早く神様に戻れ。そうしてくれぬとアネモスに安寧が来ぬではないか」


「うっさいわねっ」


姫様は思っていたより元気ですでに王としての風格まで纏わせていた。昨日までは姫様だったのに流石は王族だな。



そして戴冠式が行われ、風の神様ウェンディの前でセイが特製ティアラをビスクマリーの頭に乗せた。


(これは予定していたティアラと違うではないか)

(マリーへの特製だよ)


プラチナに大きな多面カットの青い宝石と黄色と青の多面カットの宝石が散りばめられたティアラ。これはウェンディとヘスティアが身に着けている宝石の両方が使われているのだ。予定ではアネモス王家に伝わる金に色々な色の宝石が付いたティアラだったけどボッケーノの王族でもあるマリーの為に特別に仕立てたのだ。断然こちらの方がよく似合っている。


(マリーはアネモスの王であると共にボッケーノの姫様でもあるからな。ウェンディとヘスティアの両方の加護があるようにと作ってもらったんだ)


頭にティアラを乗せる時に皆には聞こえないようにコソコソと二人で話すセイとビスクマリー。


(ありがとうなのじゃ)


ビスクマリーはそうお礼を言ってティアラを被り正式にアネモスの王となった。


そして王になった宣言を行う。


「私はビスクマリー・ボッケーノ改め、ビスクマリー・セイ・アネモスとなった」


え?


俺の名前を入れんの?聞いてないぞ。


「風の神ウェンディ様。粉骨砕身アネモスの為に力を尽くす所存でございます。何卒ウェンディ様のお力でアネモス安寧へとお導き下さる事を願い、心より感謝の祈りを捧げます」


ビスクマリーはウェンディに跪き、感謝の祈りを捧げた。


謁見の間にいる皆から大きな拍手が起こりビスクマリーは正式にアネモスの王となったのであった。


王城の前にたくさんの国民が集まっており、バルコニーのような所にビスクマリーとセイとウェンディが横に並びその後ろには大国の王と王妃が並んだ。


「皆の者、妾の名はビスクマリー・セイ・アネモス。風の神ウェンディ様の庇護下にあるアネモスの王となった。またこの国を窮地から救い、さらなる発展の礎を築いたセイの名に恥じぬよう皆の為に力を尽くすと約束しよう」


ウォぉぉっーーっ


「妾はこの後ガイヤ、アクア、ボッケーノと不可侵条約を結び、戦争の無い国にしていき、互いが協力しあい豊かな国を目指す。そしてアネモスは貴族制度を残すが国政を担う者に身分は問わぬ。実力のあるものが国政に携わり共に発展していこうではないか」


えっ?マジかよ?身分を問わず実力さえあれば国政に携わる事が出来るだと?


今の言葉を聞いてざわざわする国民達。


「これは前王、セイから託された事でもある。はっきり言って手探り状態ではあるがそのように国が変わっていくと心得よ。手始めに目安箱というものを設置する。国がこうなればいいな等の具体的な案があればその箱に書いて入れよ。その手紙は妾が必ず目を通し、国に役立つ物であれば採用していく」


王様が直接俺達の意見を聞いてくれるってか?


ざわざわざわ


「いずれ国政に携わりたいものは名前も記載しておくように。良い意見をたくさん出した者は直接会って話を聞こう。それが国政に携わる第一歩となるのだ」


今まで王族、貴族だけで物事を決め、庶民は命令に従うのみから自分達で意見を出せる国へと変わって行くことを知り、庶民達は一気に新王を受け入れたのだった。通常既得利益を持つ貴族は大反対をするだろうが、ガーミウルスとの戦争でそういった貴族は淘汰され、残った貴族は本来あるべき姿の貴族としての責務を果たして行くことになるのであった。




国民への挨拶も終わって各国の王族達との即位のパーティを開いて歓談を行う。


「マリー、立派になったな。ボッケーノの城にいた頃はこんなに立派になるとは思わなかったぞ」


「お父様、ビスクマリーはまだまだ未熟者でございますが今後は国を率いる者として良きお付き合いをお願い申し上げます」


「はっはっはっ。良かろう。仕事の話の時は王として接するがお前はいつまでも私の娘だ。私的な時は親子として接したいものだな」


「はい、ありがとうございます」


ビスクマリーはまず父親であるボッケーノ王と話した後にガイヤ、アクアと順番に話しをしていくのであった。



一段落付いた後にこちらに来るビスクマリー。



「おめでとう。いい挨拶だったよ」


「うむ、緊張したのじゃ」


「そうか?随分と堂々としてたぞ」


「言うべきことは決まっておったからの」


「今更なんだけどさぁ、何で俺の名前を入れたんだよ?ぜんぜん知らなかったぞ。別にビスクマリー・アネモスだけで良かったじゃん」


そう言うとビスクマリーはにこやかな顔から真剣な顔をしてウェンディを見た。


「なっ、何よ?」


「ウェンディ、妾はセイと一つになったのじゃ」


「どっ、どういうことよっ」


「妾はセイから女としての愛情はもらえなんだが信頼は貰った。セイと一つになったというのは志のことじゃ。セイの名前をもらったことにより妾は永遠にセイと一つになったのじゃ」


「なっ、なんかその言い方いやっ」


「ウェンディにはセイ本人がいるじゃろ?名前ぐらい妾に譲れ」


「何でそんな事を言われなきゃなんないのよっ。セイはわたしの下僕なのよっ」


「ウェンディ」


「なっ、何よっ」


「妾はそなたが羨ましい」


「何が羨ましいのよ?」


「セイを独り占めに出来ることがじゃ。これは王になっても手に入れる事が出来んものじゃ。ウェンディは神に感謝せよ」


「何で神のわたしが神に感謝しないといけないのよっ」


「ウェンディはまだ落ちこぼれじゃろ?ヘスティア様にでも感謝の祈りを捧げればいいではないかの?」


「キィーーーっ。何でわたしがヘスティアに感謝の祈りを捧げないといけないのよっ」


「悔しかったら早く神に戻れ。そしてアネモスに安寧をもたらすのじゃ。妾達はずっとウェンディに感謝の祈りを捧げ続けるでの」


「な、何よそれ」


「妾はセイに出会わせてくれた事をウェンディに感謝しておるのじゃ。こんな出会いは神様からの贈り物であろう。ありがとうセイに出会わせてくれて。ありがとう妾に大切な思い出をくれて」


そう言ったビスクマリーは涙を浮かべて笑顔を見せたのであった。



その後はまたちゃんと王に戻り、明日の不可侵条約の調印式の話や、ガイヤとアクアの水運がどうなっていくか、アネモスとボッケーノの街道をどう活かしていくか等を各国の宰相を混ぜて話をするビスクマリーなのであった。



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