この気持ちの正体
「ギルマス、アクアに行って来るわ」
「王、肉がなくなる前に戻って来いよ」
だんだんと自分が何をやってるのかわからんくなってきたな。何が王だ・・・
アクアとガイヤに行き、街道の水路工事を始める事を伝えて測量士の手配をお願いした。まずはアクア→ガイヤへの水路作成だ。明後日から工事開始なのでアーパスの宿へ泊まることに。
「ウェンディ、何食べたい?」
「うーん、お菓子?」
「飯だよ飯。ピザでも食べに行くか?」
「うん♪」
なんか機嫌の良いウェンディ。
珍しく腕なんか組んで来たのでぬーちゃんに乗らずに歩くことに。
チラチラと見られはするがアーパスがいないので特に騒ぎになることもなく見慣れたアクアの街をプラプラしてからピザを食べた。
「ちょっと飲みに行こうか」
と、例のスタンドバーに行くとサカキ達が出てきて死ぬほど飲みやがる。
「なんかいい酒あったか?」
「前に飲んだ奴の方が旨ぇな」
そういや前に先行買いしたワインはどうなったのかな?宿用以外で自分の分もあったはずなんだよな?また聞いておかないとな。
サカキは満足したのかひょうたんに帰る。こちらもほろ酔いになり寝てもいないウェンディがおぶさって来るのでそのまま宿に帰った。こいつが神様に戻ったらこういうこともなくなるのか。
元々軽かったウェンディが前よりずっと軽くなったのでそんな事がふと頭に過る。
「寂しくないの?」
テルウスに言われた言葉が心に刺さる。
ウェンディをおんぶするのもいつものことだし、どこでもすぐに寝るウェンディをベッドに運んでやるのもいつものことだ。宿の受付もウェンディをおんぶしてきても変な顔を一つしない。
部屋に入ってウェンディをベッドに寝かせると何の不安もなさそうな顔でスヤスヤと寝ている。
その顔を見ているセイ。
(こういうことも無くなるんだな)
ここに来て数年が過ぎ、ずっとそばに居たウェンディが居なくなるのか。
四六時中世話を焼かなくて済むから楽は楽になるけどな・・・
セイはウェンディの頭をクシャクシャとしてから風呂に入りに行った。
ゴボゴボゴボゴボ
「どうしたの?しんみりして」
「いや、ずっと忙しかったろ?明後日からまた工事が始まるけどちょっと気が抜けちゃってね」
「全然かまってくれなかったもんね」
「ごめんごめん、でもウンディーネがいてくれて本当に助かってるよ」
「ふふふ、どういたしまして」
「水路作ったら水が湧き出るようになるかな?」
「大丈夫よ。この辺りはどこでも水源があるから下まで掘ったら吹き出てくるわよ」
「その水が海とか他に流れても水不足にならない?」
「ぜーんぜん問題なし」
「ならいいか。出た水をどうしようかと思ってたんだよ」
「ガイヤはどこまで水路を作るつもりなの?」
「門の手前だよ。宿場町がある辺りだね」
「じゃぁ、そこから横に水を流して畑とかに使えばいいんじゃない?」
「そうだね。アクアは街中の水路に繋げると言ってたからこっちはもうそういうの出来てるしね」
問題はアクアからガイヤまで行った船をまたこっちに戻って来るようにするにはジェットコースターみたいに高台へと持っていく装置が必要になるんだよな。魔導具を作ってもらってもいいけど、方法は職人に相談してみよう。力仕事として働き口が出来るかもしれないしな。
風呂から出てベッドに行きウェンディを起こす。
「ほら、風呂入れるなら入れ。無理ならパジャマに着替えろ」
「着替えさせて」
「何寝ぼけてんだよ。着替えさせることなんか出来るか」
と言ってるのにもそもそと脱ぎだすウェンディ。着替えを渡して部屋から出て暫く待ってから部屋に入ると脱いだまま寝てやがった。
「お前なぁ・・・」
取り敢えずバスローブを着せて毛布を掛けておく。もう今日は妖力を流すのやめてセイもそのまま寝たのであった。
が、朝起きるとちゃんとくっついているウェンディ。はだけとるやないかっ
下着姿のウェンディも見慣れたというかしょっちゅうこういうことがあるので慌てる事もなくなったセイ。毛布を掛けて自分は着替えて朝ごはんの準備。サンドイッチをウェンディの為に小さく切り食べやすくしておく。
本当にお父さんの気分だ。ウェンディが神様に戻ったら娘を嫁にやるような気分になるのだろうか?
そういや俺は今いくつだっけ?26歳?27歳どっちだっけか?
もう年数感覚がなくなったので自分がいくつか分からなくなってきた。この世界に来たのが19歳だったから今25歳か?まぁ、男の歳なんざいくつでもいいわ。すぐに帰るつもりだったのに結構年数過ぎちゃったから元の世界では行方不明扱いになってるだろうし、電気ガス水道も止めて来てないからどうなってるんだろ?引き落としだから使ってないのに基本料金だけずっと引き落としされてんかな?もったいないな。
そんな事を考えながらサンドイッチを食べているとウェンディが起きてきた。
もそもそとサンドイッチを食べてジュースを飲むウェンディ。
朝ぼーっとしているのはいつもの事だ。
「今日も休みだけどなんかやりたいことあるか?」
「別にない。ここでゴロゴロしてる」
それは賛成だ。久しくそういう時間の使い方をしていないからな。
飯食った後にまた惰眠を貪ることに。
そして起きると夕方になっていた。晩ごはんを食べに出るのも億劫なので宿のレストランでア・ラ・カルトメニューを食べてまた部屋に。
「今日はちゃんと風呂に入れよ」
寝る前に風呂に入らせてから交代で入り、少し飲むことに。
「俺がこっちに来てから何年経ったっけ?」
「知らないわよそんなの」
「多分6年ぐらいだと思うけどだんだんと分からなくなってるんだよね。色々とありすぎてさ」
「だから知らないってば」
「始めて来たのが夏だったろ?」
「そうだっけ?」
「アネモスの街に着いてお金が無くてお前が信者に貢がせるとか言って小銭恵んで貰ってたじゃねーか」
「そんな事されてないわよっ」
「されてたんだよ。その後ギルドでクラマとバトって破壊して借金背負わされたりとか、ヘスティアに馬鹿にされるからボッケーノに行きたくないとかダダこねて」
「そんな事してないっ」
「してたんだよっ」
「してないっ」
ウェンディは怒ってポカポカしに来ようとした。
「わっ、バカやめろっ」
「キャッ」
勢いよく来ようとしたウェンディが躓き倒れそうになったのをセイが受け止めそのままドサッと二人で倒れ込んでしまった。
倒れ込んだセイの上に覆いかぶさるようになったウェンディ。二人の顔は目の前だ。
「酔ってんのにいきなり立ち上がるからだろ。ほら、重く・・・ないか。いいから早く避けろ」
「ねぇ、セイ」
珍しく真面目な顔をするウェンディ。
「な、なんだよ?」
眼の前でじっと見つめられてドギマギするセイ。
「わたしが神に戻ったら元の世界に帰っちゃうの?」
「一度帰らなきゃとは思ってるけどな。電気ガス水道も解約してないし、行方不明扱いで捜索願いが出てたらどうすんだよ」
「帰りたいの?」
「別に向こうの世界に未練はないけどやっておかなきゃならんこともあるんだよ」
「わたしと離れても寂しくないの?」
そんな悲しそうな顔をすんなよ。
「向こうの用事を済ませたらまた連れて来りゃいいだろ?」
「それが出来なかったらどうすんのよ?わたしのことを一生守ってやると言ったじゃない。一度戻ったらもうこっちに来れなくなるかもしれないじゃないっ」
「お前が俺をこっちに連れて来たんだろうが。おんなじことをやるだけだろうが」
「また出来るとは限らないじゃないっ。わたしがセイの所に繋げたわけじゃないんだから」
そういや大神が絡んでるかもしれなかったんだよな。
ポタっ ポタっ
ウェンディの涙がセイの顔の上に落ちてくる。ウェンディももう自分でも神に戻れるような状態になっているのが分かっているのかもしれない。
「ウェンディ」
「なっ、何よっ」
「俺が元の世界に戻りたいと言ったらお前はどうやって帰すつもりだったんだ?」
「天界からむこうに繋げるに決まってるでしょ」
「それが出来るならもう一度繋げられるだろうが」
「それはそうかもしれないけどっ」
「それとな、俺をどうやって天界に連れて行くつもりだ?」
「え?」
「神じゃないと天界に戻れないんだろ?そっから落っこちた俺をどうやって天界に連れて行くんだよ?天界に行けるのお前だけだろうが?」
「あっ」
「な、もう俺は帰りたくても帰れないんだよ。別に帰りたいわけじゃないけどな」
「じゃあずっといるのねよねっ」
「というか帰れんと言ってるだろうが。仮に帰る術があったとしても、お前が神に戻ってまた何かやらかすかもしれんから心配でおちおち帰れんわ」
「なっ、何よっ。何をやらかすってのよ」
「また落ちこぼれるかもしれんだろうが。その時に戻してやれんの俺だけだろ?」
「落ちこぼれないわよっ」
「お前は記憶回路に欠陥があるから絶対にやらかす」
「やらかさないわよっ」
「やらかしたことを忘れるからそんな風に言えるんだっ」
「何でいつもそんな意地悪言うのよっ」
「意地悪じゃない、事実だ」
「もうっ」
ウェンディはセイが帰れないと解って少しホッとしたような感じだった。
「わかったら降りろ」
「いや」
「なんでだよっ」
「返事を聞いてない」
「何の返事だよ?」
「わっ、わたしと離れても寂しくないかどうか聞いたでしょっ」
真っ赤な顔をしてそういうウェンディ。
「あー、それか。まぁ、寂しいかもしれん。ここに来てからずっと一緒にいたからな」
「本当に?」
「まぁな」
そう言うとウェンディはすっと目を閉じた。
「なっ、何で目を閉じるんだよっ」
セイもこの状況で目を閉じられたらどういうことか理解した。
ドキドキドキドキ
バカッ、何ウェンディにドキドキしてんだ俺はっこいつは神様で俺は人間だぞ。
ウェンディのドキドキと自分のドキドキが共鳴するかのように重なり部屋の外まで聞こえてんじゃないかとすら思える。
「ウ、ウェンディ。お前は神様だ。そして俺は人間で、あの、その、こういうことはしちゃいけないじゃないかなぁって思うんだよ」
セイは力でウェンディを振り払う事は出来る。が、何故かそれが出来ない。
目を閉じたウェンディ。お酒が入っているのもあって色白の頬がピンク色に染まっている。
初めて会った時に美少女だと思ったのは間違いはない。確かにこいつは可愛いのだ。いや、可愛いいとか関係なく、自分がウェンディと離れたくないというのは本当の事だろう。もしかして俺はウェンディを好きになっているのか?
恋愛経験の無いセイはこの気持ちが何なのかよくわからない。が、もしこれが誰かを好きになるということであってもこいつは神様。人間とは理の違う存在なのだ。
「あのな、ウェンディ」
「すぴー すぴー」
・・・しばくっ
ウェンディは目を閉じたまま寝ていたのであった。
はぁ、こんなこったろうと思ったわ。
ドキドキがいっぺんに冷めたセイはそのままウェンディをベッドに寝かせにいくのであった。