心が拒否
街道はガイヤの門近くまで開通した。これで俺のやる街道作りは一段落したので一度アネモスに戻る事に。
「え?肉が全然足りない?」
「当たり前だろう。魔物が肉を落とさなねぇんだ。冒険者が狩ってくるダンジョンの肉と家畜だけじゃ賄えねえだろうが」
ギルマスのマモンがそう言った。強い魔物どころか他の魔物もアイテムを落とさなくなってきているのだ。
「今晩にでもダンジョンから肉を出してもらうよ」
取り敢えずセイはオーガ島に行き、魚類を大量に出してもらい続け、夜に肉も延々と出して貰った。配布は他の人に任せる。街道作りが終わったと思ったら今度はこれだ。
「よっ、王様。今日も宜しくな。俺達が運んでおいてやるからよ」
「お前なぁ、王様と呼ぶなら小間使いみたいに働かせるなよ」
からかってきたのはアイアン達だ。各地へ肉を運んでくれる護衛をやってくれているのだ。
ギルドの近くには沖田とヘンリーが保存コンテナを作ってくれていた。拡張機能も付けてくれているが両方を併用する回路は魔力消費が激しいらしく、拡張機能はオマケ程度だ。列車に流用出来るように作ってくれているのでたくさん作っても無駄にならんということで見るたびにコンテナが増えていく。セイは肉や魚類をせっせとそこに入れて行くとそれを荷馬車が各地へと運んでいくのだ。馬車には魔導アシスト機能が付いているので重くても馬でなんとかなる。自動車までの力を出すと魔石の充填が追いつかないのでアシストにとどめたとのこと。魔石の魔力充填の為の水力ダムへの水の補充はウンディーネがやってくれている。これまでやらされてたら手が回らないのだ。
「ウェンディ、お前そろそろ戻れそうか?」
「変わりないわよ」
しれっとそういうウェンディ。アネモスにはセイにちょっかいを掛けてくる者がいないのでご機嫌のウェンディ。
ウェンディは今の生活が楽しかった。街行く人達にフレンドリーに拝まれ、もう誰も恨んだり蔑んだりされることもない。皆がウェンディを神様だと認めてくれているのだ。
そんなウェンディを見てセイはこのままでもいいかと思ったりもするが魔物がアイテムを落としてくれないと延々と肉や魚をダンジョンから出して供給し続けねばならない。もしこれが途切れたらアネモスは立ち行かなくなるのだ。そうなればまたウェンディへの信仰心を無くしていくだろう。
マリー姫が王になって新生アネモスがスタートを切ったらちゃんと魔物がアイテムを落とす国に戻しておいてやらないとダメだ。ウェンディが神に戻る前にもし自分に何かがあったらアネモスもウェンディにも影響が出る。
このままでもと頭によぎった考えを捨てる。ウェンディはちゃんと神に戻さねばならない。
その夜もいつものように妖力を流し続けるセイ。これだけよく流れるようになっているのになぜウェンディは神に戻れないのだろうか?一番力があるといってもおかしくないだろうか?
「なぁウェンディ」
「なによ?」
「お前どっかに穴があいてないか?」
「へっ、変な事を言わないでよっ」
「いや、いくら一番力が強いっていってもおかしいと思うんだ。多少身体が軽くなったぐらいにしかなってないだろ?」
「知らないわよそんなの」
だよなぁ。こいつはなんにも知らないからな。
こんな日々が続き、漁村の宿のオープン日を迎えた。
「ようこそ水の宿へ。お待ち致しておりましたランバール様」
出迎えたのは支配人のコームだ。シーバスが話をしてこの宿の支配人になってもらったのだった。
一番初めのお客様にランバールが騎士達とその家族達引き連れてやってきてくれた。
「オープン誠におめでとうございます。これはお祝いに」
と、花をたくさん持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
セイもいるがシーバスとダーツが挨拶をする。この宿はフィッシャーズ達の宿なのだ。
そして総本部の総長とマッケンジー達も来てくれた。他にもアクアのギルマスや宝石店、アーパス御用達の宿の支配人、美術館の館長など知り合いで初日は満室となったのだった。
その夜は教会の部屋に泊まり、女神ズもやってきた。
「たくさん人が来てやがんな」
「祝ってくれてんだよ。初めの間は知り合いが多く来てくれるだろうけど勝負はその後からだろうね」
「そうかよ。それよかビビデ達も結婚したんだな」
「そうだよ。ボッケーノの教会で式をするならヘスティアがやってやれよ」
「えーっ、あの教会でかよ。新しく作ってくれんじゃねーのかよ」
「今から作っても間に合わんだろうが」
「それでも作ってくれよな。アーパスだけずりぃぞ」
「なら全部終わってからだぞ」
「あら、じゃあ私のも作ってね」
「ガイヤにはテルウスの教会がいくつもあるだろ?」
「アーパスみたいな綺麗な奴がいいのよ。今の教会は全部地味なのよね。もっと派手なのがいいわ」
確かにガイヤの教会は伝統があるというか重厚さは有るが色合いは渋い。石作で色目は茶色とか濃いグレーとかだからな。
「俺様のは派手な奴がいいぞ」
「わたしのはねーっ」
「ウェンディのはオーガ島にあるだろうが」
「宝石でわたしのステンドグラスを作ってくれるって言ったじゃないっ」
「お前が勝手に言い出したんだっ。宝石でステンドグラスって成金かお前はっ」
「作ってよおーーっ」
「うるさいっ。お前はそれより先に神に戻れっ」
「キィーーーーっ」
ポカポカとセイを殴るウェンディ。
「セイ、ウェンディに毎日エネルギー流してるのよね?」
とテルウスが聞いてくる。
「そう。流れる量もアーパス並になってるんだよね」
「もうずっと流してるんでしょ?」
「うん」
「ウェンディ、あなたどっかに穴があいてるんじゃない?」
「あいてないわよっ」
やはりテルウスも不思議に思っているようだ。
皆が寝た後にテルウスが話し掛けてくる。
「まだ起きてる?」
「ウェンディに妖力を流してるからな」
「ねぇ、それ本当に流れてるの?」
「それは間違いないよ」
「ならやっぱり問題はウェンディにあるのね」
「問題?なんか知ってるの?」
「本当はもう神に戻れてるんじゃないかしら?」
「どういうこと?」
「ウェンディが神に戻るのを拒否してるんじゃないかなって思うのよ」
「拒否している?」
「なんとなくそういうのは伝わって来るのよね。神に戻ったら他の人間にセイを盗られちゃうんじゃないかって不安なんじゃないかしら?」
「盗られるってなんだよ?」
「セイは私達を同等に見ていないというか恋愛対象として見てないでしょ?」
「そりゃあ俺は人間だしテルウス達は神だろ?姿形は似ていても理の違う存在じゃないか。というかそういうのよくわかんないから他の人も恋愛対象とか無いよ」
「ほんと?ウェンディの事を神として見てないことない?」
「まぁ、こいつが神様だとは未だに信じられない事もあるのは確かだけど、やっぱりこいつは神様だからね」
「ウェンディが天界に帰ってもいいのかしら?」
「いいのかしら?と聞かれても神は神であらねばならないんだよ。もし俺になんかあったらこいつがどうなるかわかんないだろ?」
「寂しくないの?」
「どうだろうね。テルウス達みたいに遊びには来るだろうけど、この世界に来てから四六時中ずっと一緒だったから居なくなると寂しいかもしれないね」
「ウェンディも同じなのよきっと。ヘスティアとアーパスが天界に帰った時の寂しい気持ちは皆にも伝わってるからウェンディもどんな気持ちになるか知ってるのよ」
「そうなんだね」
「後はセイが頑張らないとね」
「何を?」
「ウェンディが天界に帰っても寂しい思いをさせないと安心させてあげないと」
「どうやって?」
「さぁ?それは自分で考えて。じゃ、私は先に帰るわね」
と、テルウスは最後までキチンと教えてくれないまま帰ってしまった。どうせならこうしてみたら?とか言ってくれればいいのに。
しかし、本当はもう神に戻れるのにウェンディがそれを拒否している可能性があるのか。ならば妖力を流し続けるだけじゃ無理だな。
天界に帰っても寂しくないように安心させるか・・・。どうすればいいんだろな?
セイはウェンディがいなくなって一人で寝ることを想像してみた。
疲れて眠い時にも我慢して妖力を流し、起きない時には抱っこやおんぶで寝かせにいき、腹が減ったと言えば飯やお菓子を食べさせる。危ない時にぼーっとする癖があるから目が離せないし、なんかあったらすぐにキーキー怒る。これがすべてなくなるのだ。
「何だ、めっちゃ楽になるじゃん」
そう独り言を呟きながら、それだとこの世界にいても元の世界と同じ生活に戻るなと思ったのであった。