えっ?いつの間に?
領主への挨拶はとてもスムーズというか平伏されてしまった。ボッケーノ王からセイがアネモス王になっていることと、この街道工事がボッケーノだけでなくこの領地に莫大な利益をもたらすことを事前に知らせてくれてあったようだ。
「セイ様、この領地はご自由にお使い下さいませ」
「ありがとう。ここは隣国との中継地点にもなるから隣国との街道整備をどうするか打ち合わせておいたほうがいいよ。荷馬車がもっとスムーズに通れるようになったらお互いに利益が増えるから」
「ははっ。隣国の辺境伯に会談を申し込んでおきます」
「辺境伯とは一度会った事があるんだよ。話の解る人だと思うから領主さんから伝えて隣国との不可侵条約をむこうの王に提案してもらったら?ボッケーノ王も平和を望んでいるし、隣国も大国から条約の話を持ち掛けられたらありがたいんじゃない?」
「私からでございますか?」
「そう。ボッケーノ王に提案して領主さんの発案にすれば評価も上がるでしょ?俺はここの人達が好きだからいい領主さんじゃないと許せないんだよね」
「ゆ、許せないとは・・・」
「ちゃんと領民の為に働いてくれる領主さんでいてねということ。私利私欲でなくてちゃんと皆の為になる領主を望んでるんだよ」
「そ、それはもちろんでございます」
「なら宜しくね。街道とこの領地に人が集まるようにはしておくから」
カントから悪い領主ではなく普通の領主だとは聞いている。が、念のために軽く脅しを入れておいた。利益が上がり始めると調子に乗ったりするかもしれないからだ。
隣国との不可侵条約の話はボッケーノ王も快諾するだろう。まだ人口の少ないこの世界は土地が有り余っているから隣国を攻めるより開拓する方がいいのだ。不必要に軍備を拡張する予算があるならそっちにお金を使った方がいいとセイは思っていた。
領主街の所まで街道が出来たのでセイは作業員達に賃金とは別にお金を渡して3日の休暇を与えていた。好きに飲み食いして身体と気持ちを癒やしてくれればいい。
奥さんに今日はボッケーノ王都で泊まって来ると伝えてビビデ達の所に飛んだ。
「おー、セイ。ようやく来たか」
「今隣の領地まで街道の工事が完成してね、作業員達も3日間休みにしたんだよ」
「バビデ、酒だ」
いきなり出て来てそういうサカキ。
「アンジェラ、ズルズルとほっといてごめん。アクアにはいつ帰る?」
「もうここに住むわよ」
「え?アクアの店は?」
「シーバス達に任せようかなって。別に防具屋じゃなくても他の店でも使えるだろうし」
「アンジェラはどうすんの?」
「セイ、実はな俺たちその・・・」
「え?もしかして結婚すんの?」
「いいえ、したのよ」
まじで?いつの間に・・・
「お、おめでとう」
「夜に兄貴達を呼んで宴会するか」
兄貴達?
夜になりビビデでやってきた。
「お、おお、セイ。久しぶりじゃな」
「なかなか顔出せなくてごめんね」
なんかビビデの様子がおかしいというかよそよそしいというか。なんだろうこの感じ。
そして宴会が始まる頃にティンクルがやってきた。
「終わったのか?」
「いや途中だよ。休みにしたから顔を見せに来たんだよ」
「そうか、こっちは一応万能薬が出来たぞ」
「おっ、やったね」
「しかし、お前が一番初めに持ってきた奴クラスだ。ウェンディの宝石のようなやつには程遠いのだ」
「でも製法を見つけられたのは凄いよ」
「何を白々しい。お前が持ってきた素材を組み合わせただけだ。全くじれったい事をしよってからに。まぁ、礼は言っておくがな」
ティンクルは照れくさそうに横を向きながらそういったのであった。
「兄貴、早く言えよ」
「うっ、うるさいっ」
「何?なんかあるの?」
「いや、その〜じゃな、まぁなんだ」
煮えきらないビビデ。
「セイ、私とビビデは結婚したぞ」
「え?」
「うむ、これで私の初めてはお前にやれなくなってしまった。何か欲しい物はあるか?洗ってない下着とかならあるぞ」
「そんなもんいるかっ」
「そうか、ビビデはこういうのを・・・」
「やめんかっ!」
ティンクルが何かを言いかけたのを怒鳴ってやめさせるビビデ。
「そうか。二組ともおめでとう。お祝い何にしようか」
「セイ、それなら私達を新婚旅行に連れてってくれない?」
「どこに?」
「シーバス達の村。随分と発展し始めてるんでしょ?」
「そうだね。教会は出来たしシーバス達もそこで結婚式をあげたよ。パールフは母親になったし」
「えーっ。いつの間にっ」
「ツバスも来年には母親になるよ」
アンジェラ昔から知っている冒険者達がちゃんと幸せになって行くのを嬉しそうに聞いていた。
「セイの仕事はいつ終わるのだ?」
「街道が貫通するのがあと2ヶ月くらいかな。それが終わったら戴冠式があって仕事を引き継いだら一段落っててとこ」
「戴冠式?」
「今は俺が王の代行してるけどそれを引き継いだら新生アネモスのスタートだね。ウェンディが天界に戻れるようになれば俺の役目は終わるんだ」
「誰が王になるんだ?」
「それはお楽しみ。まだ大国の王しか知らないから秘密なんだよ」
ビビデ達のお祝いに新婚旅行へ連れて行くのは戴冠式の後でとなった。
翌日から少しのんびりする暇もなくてドワーフの酒を大量に貰い、ボッケーノの蒸留酒を買い込んでいく。後はお菓子類。
セイが街道工事の横でラーラは毎日ポーションを飲みながら土魔法の特訓。少しずつ木が揺れて倒れそうになるがまだ倒れるまでにはいかない。
「おにーちゃん、今日もダメだったぁ」
そう言って腕を組んでくるのをウェンディがふぬぬする日々が続き、ケビンはもうポーションを飲みたくないと抵抗をするがサカキが無理矢理口を開けて飲ませるという拷問に近いような事をさせられていた。
「ケビン、お前身体がデカくなったんじゃないか?」
なんかムキムキになりつつあるケビン。
「にーちゃん、なんてポーションをサカキに渡してんだよっ。気絶寸前まで追い込まれてポーションを飲まされてまた気絶寸前までしごかれて・・・」
「ケビン、お前相当強くなってると思うぞ。でもなラーラはもう少ししたら無敵になるかもしれんぞ」
「えっ?」
「ラーラは泣き言一つ言わずに魔力切れで倒れてはポーションを飲んでを繰り返してやってるからな。そのうち土魔法で瞬時に壁作れるようになる。そうすれば盾役いらずで無敵だ」
「嘘だろ・・・」
「攻撃魔法はもうかなり使えるみたいだからな。ケビンが泣き言を言ってもラーラが守ってくれるようになるんじゃないか?」
「サカキっ、クラマ。もっと俺を鍛えてくれっ」
妹に守られるという屈辱はケビンの兄としての矜持に火を点けたようだ。やらされるよりもやる方が身に付くからな。頑張れケビン。
そして街道が領地を抜けるころ、ラーラはとうとう木を倒す事に成功したのだった。
「やったぁーっ!おにーちゃん見たっ?私が木を倒せたっ」
そう言って抱きついてきたラーラ。
「よくやったね。凄いぞラーラ」
「ちょっとぉぉおおっ。離れなさいよっ。わたしだったらこんな木を何本も一気に倒せるのよっ」
ゴォっ
ラーラに張り合って風を出そうとしたウェンディをセイは慌てて止める。
「バカっ、やめろっ。せっかく貯めた力を無駄遣いすんなっ」
ウェンディを後ろから羽交い締めにしてギューッとする。
「離してよっ」
「離したらお前やらかすだろうがっ」
セイとウェンディのドタバタコメディーは他の人から見たらイチャ付きにしか見えない。しかもセイの方からイチャ付に行っているように見えるのだ。
「あらぁ、やっぱりライバルはウェンディねぇ」
奥さんはほっぺに手をやりラーラがウェンディに勝てる方法を考えないとと困った顔をするのであった。