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セイが街作りをしていた頃

時は遡り、セイが移住者達の街作りをしている頃。


ーボッケーノ領主街のカントハウスー


「最近にーちゃん来てくんないよな」


「戦争があって相手国全員をアネモスで引き受けるって言ってただろうが。こっちに遊びに来る暇なんてないだろうよ」


「せっかく強くなってきたのを見せたいのによ」


「馬鹿野郎。短剣の扱いがちょっと出来るようになったからと自惚れんなと何回も言っただろうが」


「だってさぁ」


「お兄ちゃんより私の方が強くなったんだからねっ」


「うるさいっ。魔法使いは一人で戦えないだろうが。お前はもっと速く走れるようになれよ」


足が遅いと言われてぷくっとほっぺたを膨らませるラーラ。兄のケビンは身体も大きくなり、カントに剣術と体力アップ中心のトレーニングをさせられ、妹のラーラは母親に毎日魔力切れでぶっ倒れるまで魔法を使わされる日々が続いていた。


「ラーラはまず魔法のコントロールを中心に鍛えてるのよ。走り込みはそれが終わってからね」


ケビンもラーラも成人したら冒険者になる予定にしていて、自分たちが強くなってきているのをセイに早く見て欲しいとセイが来るのを心待ちにしていた。



カント夫妻は子供達が寝た後に飲みながら話しをする。


「ケビンの話しじゃないがセイのやつ本当に顔を出さなくなったな」


「しょうがないわよ。国の復興と街作りをしてるんでしょ。もうセイくんのやってることは冒険者の仕事じゃないわね」


「確かに元々冒険者の仕事もそんなにしてなかったからな。今度来たらケビンのデカさに驚くんじゃねーか?」


「それよりラーラが女の子らしく可愛くなったのに驚くわよ。いえ、驚くというよりトキめいちゃうんじゃないかしら」


ラーラは幼子から少女になっていた。奥さん似のラーラは親バカかもしれないがカントからみてもとても可愛らしく成長している。近所の悪ガキどもが色めき出したのが気に食わないぐらいだ。


「ラーラはまだ子供だっ」


「それもあと数年の事よ。器量良し、料理の腕良し、強さも申し分なし。セイくんのお嫁さんにピッタリだわ」


「やめろっ」


カントはニコニコとそう言う奥さんに不機嫌になり酒のピッチが速くなっていくのであった。



ービビデ、バビデの工房ー


「アンジェラ、本当にアクアに帰らなくて良かったのか?」


「まぁね、そのうち一緒にアクアの街を見に行こうか」


「そうだな。新婚旅行はフィッシャーズ達の村とかどうだ?」


「いいわねぇ。どんな風に変わっていってるのか楽しみだわ」


「兄貴達も一緒に行くか?」


「うっ、うるさいっ。ワシらはまだそんな・・・」


「なんだビビデ、まだ決心が付いておらんのか?セイが取ってきた素材をこの手で取りに行く絶好のチャンスではないか」


「お前はそれが目的じゃろうが」


「なぁに、夫婦のあり方に正解はないのだ。ビビデも虫の素材で軽くて丈夫な武器を作ると言っていたではないか」


ティンクルは万能薬の製法を見つけ出していた。しかし一番始めにセイが持ってきた物と同等クラスまで。ウェンディのアクセサリーのような宝石に似た色と効能には遥かに及ばない。さらなる効能アップを目指して燃えていたのだ。そして毎夜のようにここに来て飲み食いしているうちにビビデと結婚する事になっていた。バビデはいつの間にかアンジェラと結婚していたのであった。


「それはそうじゃが・・・。取り敢えずセイが来んことにはアクアになんて行くのは無理じゃからな」


「うむ。街作りなぞとっとと終わらせればいいのにな」




ーアクア王都ー


「ほらオルティア、狩りに行くぞ」


「えーっ、昨日も行ったじゃん」


「毎日行くんだよっ。お前はセイに魔法を教えてもらったんだからそれをちゃんと活かせっ」


チーヌに毎日毎日討伐や狩りに行くのをブーたれるオルティア。


「じゃあ、リタ。この肉採取の依頼に行ってくる」


「はい、ガッシーさん。皆さんもお気を付けて。カミュもガッシーさん達の言うことをよく聞くのよ」


「毎回毎回、口うるせぇぞ姉ちゃん。まるで母さんみたいだ。結婚前からそんなんだとうっとおしがられるぞ」


「もうっ、あんたって子はっ。余計な事を言わないでさっさと行きなさいっ」


「ほら、お前らも行くぞ。今日は肉狩りだからな。険しい山道を登らにゃならんから」


チーヌとガッシーはオルティア、リタの弟カミュ、そしてコームと組んでいた若手ホープと組み、魔物の知識や戦い方を指導していた。


自分達が後を任せられるのはこのメンバー達になるだろうと毎日鍛えていたのだった。



ー漁村ー


「だいぶ村も変わって来たわねぇ」


「そうだな。その子が大きくなる頃にはこの何もなかった村の事は知らないで育つんだな」


「何よ、昔のままの方が良かったって言いたいの?」


「まさか。この子にはひもじい思いなんてさせたくねぇからな。毎日腹いっぱい旨いものを食わせてやるぜ」


「ハイハイ。頑張って稼いでねお父さん」


ダーツは日々大きくなるパールフのお腹を見てなんとしてでもこの村を発展させないとなと心に誓っていた。




「ツバス、次はそっちの草むらだ」


「はぁー、せっかくヘスティア様の試練をクリアしてメラウスで作った杖なのに草を焼くハメになるなんてねぇ」


「グチグチ言うなよ。俺だってメラウスの剣で材木作ってんだぞっ」


宿や村の開発の建物の為に荒れ地をツバスが焼き払い、切り出して来た木をシーバスが長さを揃えて切るのにメラウスの剣を使っていた。作業員達は便利なシーバス達を重宝がって働かせていたのだ。


その夜


「パールフ、随分と腹が出て来たな」


「もう重くて仕方がないわよ。上向いて寝ることも出来ないのよねぇ」


「子供が出来るって大変なんだな」


「生まれてからの方が大変だって母さんが言ってたわ。昔は母親の事を恨んだりしたこともあったけど、私がお腹にいるときにこんな苦労をしてたのよね。母さんごめんなさいだわ。て、ツバス達はどうなのよ?」


「うーん、こればっかりは授かりものだからねぇ」


「そうよねぇ。で、結婚式どうする?」


「パールフが産んで落ち着いてからでいいんじゃない?教会もまだ出来てないし」


「そんなに大きくない教会だからすぐに出来ると思ってたのにね。毎日毎日何やってんのかしら?あ、オコゼの唐揚げおかわり」


「あんたさぁ、それ子供じゃなしに太ってるだけなんじゃないの?食べ過ぎよ」


「二人分食べないとダメだからね」


「はい、おまちどう」


「もうすっかり馴染んだよな。誘っといてなんだけど本当に向こうの店閉めてよかったのか?」


「ここの方が色々な魚が手に入るし新鮮だからいいとこに来たと思ってるわよ。パールフ、野菜も食べなよ」


「はーい」


「じゃ、ニンジンサラダね」


「えー、生のニンジン嫌いなのよねぇ。なんか馬になったみたいでさぁ、ダンナ達が風呂入らずに寝に来た時の事を思い出すのよ」


「うるせぇ、セイがいなかったときはお前らも臭かっただろうが」


「女は臭くならないのっ。あんた達と一緒にしないでっ」


「ハイハイ、他のお客さんにも迷惑なんだから店で痴話喧嘩しないの。それでさっき言ってたセイって黒豚さんだろ?いつこっちに来るんだい?」


「時々連絡は入れてるけどな、めちゃくちゃ忙しそうだから暫く無理だろ。あいつ街作ってんだぜ街」


「へぇっ、黒豚さんはいろんな事が出来るんだねぇ」


「まぁ、神様の面倒見てるぐらいだからな。街くらい作れるだろ」


「ここもやって貰えばいいのに」


「ここは俺達がやるって言ったからな。セイはアネモスをなんとかしないとダメなんだよ」


ガイヤの宿場町の猫獣人の夫婦は宿場町の店を閉めてここに新しく店を構えた。安くて旨い魚料理を出す店として商人達も街道から寄り道してここで野営をして飯を食うやつも増えて来ている。宿場町でプラプラしていた奴らも一緒にここへ移り住み、建築の仕事や元々の職人達は馬車の修理やテントや幌の修理等をやり、見知らぬ人が村に出入りするようになり活気が出て来たのであった。


漁師達もアクア王都のアーパス御用達宿に直接魚を卸す事で利益も増え、養殖の準備にも取り掛かっていたのである。唯一景気が悪くなったのは網元であった。雇っていた漁師が借金をして自分で船を買い独立していったのである。残った漁師をやめさせないために給料を上げて、なんとかやっていける程度に落ち着いたのであった。




「マリー、ダメなところばかり指摘をしていたら人はやる気を無くすものなのよ」


「お祖母様、でも何回言っても同じミスを繰り返して注意をしたら怒るのじゃ」


「ここでは身分は関係無しにやってるから向こうも小娘に小言を言われて素直にハイとは言えないのよ。じゃあお前やってみろと言われたらマリーは出来るの?」


「ち、力仕事は無理じゃ」


「でしょう?だからちゃんと出来ていることを褒めるの。言ったことと違うことをしているときにはなぜこうしているのかとか教えを請いなさい。娘ぐらいの歳の子供に偉そうに言われるより、凄いと褒められた方が男たちは頑張れるものなのよ」


「むむむ、しかし・・・」


「マリーはセイ様達を基準に考えてるでしょ?セイ様達は特別凄いの。あの方達と他の男を比べてはなりません。その人、その人の良い所を見付けて褒めなさい」


「それでもダメな奴はどうすればいいのじゃ」


「叱ってもダメ、褒めてもダメ、やる気を出さないものは切り捨てなさい。でもマリーはまだ叱るというより怒ることしかしてないからあなたの力不足。まずは人を非難する前にあなたが出来ることをなさい」


ビスクマリーは毎日のようにモリーナから人を使う為の指導を受けていた。ボッケーノであれば姫としてやれと命令するだけで良い。しかし、平民に混ざって人を使うのはそれではダメなのだ。セイがここでマリーに何を学ばせようとしているのかはモリーナには解っていた。身分以外に力の無い小娘が人を使う能力を身に付けらればそれは必ず将来の約に立つのだと。



セイの知らない所で皆の人生はきちんと進んでいく。セイがこれらのことを知るのはもう少し後の事なのであった。


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